脚ブロック

【脚ブロックとは】

脚ブロック(Bundle branch block)とは、心臓における刺激伝導路の中で、心室内のヒス束以下の脚という部位に伝導遅延が起こった状態です。心室の左脚の伝導遅延である左脚ブロック(Left bundle branch block: LBBB)と、右脚の伝導遅延である右脚ブロック(Right bundle branch block: RBBB)があります。右脚ブロックでは、QRS幅が0.12秒以上の完全脚ブロック(Complete block)と、QRS幅が010秒以上0.12秒未満の不完全脚ブロック(Incomplete block)とがあります。左脚はさらに、左脚前肢と左脚後枝からなり、左脚前肢ブロック(Left anterior hemiblock: LAH)と左脚後枝ブロック(Left posterior hemiblock: LPH)があります。QRS幅が0.12以上で、右脚ブロックあるいは左脚ブロックの基準を満たさないものを非特異的心室内伝導障害(nonspecific intraventricular conduction disturbance)と呼びます。詳しい診断基準については「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン」をご覧ください。

「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン(2011年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawas_h.pdf

【脚ブロックの原因】

脚ブロックの原因は多岐に渡ります。先天性心疾患、虚血性心疾患、高血圧症、心筋症、心不全、加齢、若年性の心筋重量の増大、原因を特定出来ないもの、などです。脚ブロック自体の特異的な治療というのはありません。脚ブロックを起こした原因として基礎心疾患の存在があれば治療します。特に虚血性心疾患や心不全等の器質的心疾患の有無の評価が重要です。一般に、右脚と左脚前肢は解剖学的に繊維が細くブロックを受けやすいが、左脚後枝は繊維が太くブロックを受けにくいと言われています。右脚ブロック+左脚前枝ブロック、右脚ブロック+左脚後枝ブロックを2枝ブロックと呼びます。左脚前枝ブロック+左脚後枝ブロックは完全左脚ブロックのことで、これを2枝ブロックに含めることがあります。右脚、左脚前肢、左脚後枝、3本全てのブロックを生じると、完全房室ブロックと同じ状態になります。その一歩手前の状態、右脚ブロック+左脚前枝ブロック+I度またはII度房室ブロック、右脚ブロック+左脚後枝ブロック+I度またはII度房室ブロック、左脚ブロック+I度またはII度房室ブロックのことを、3枝ブロックと呼ぶことがあります。以上から、新規に発生した左脚ブロック、2枝ブロック、3枝ブロックは精査の対象で、それ以外はケースバイケースということになります。

【脚ブロックの管理】

脚ブロック自体の特異的な治療というのはありません。脚ブロックを起こした原因として基礎心疾患の存在があれば治療します。特に虚血性心疾患や心不全等の器質的心疾患の有無の評価が重要です。

・不完全右脚ブロック(incomplete right bundle branch block: IRBBB)

・完全右脚ブロック(complete right bundle branch block: CRBBB)

人口の0.2-2.3%程度存在、一般に右脚ブロック単独のみの場合は通常、病的意義に乏しく、加齢とともに増加することがわかっています。前壁梗塞や急性肺血栓塞栓症にて出現することもあり、基礎的心疾患の存在を疑う場合、精査の対象とします。

・左脚ブロック(Left bundle branch block: LBBB)

一般人口の0.2-1%程度存在、若年者の左脚ブロック単独のみの心電図異常は病的意義に乏しいが、中年以降に新規発症した左脚ブロックは精査の対象とします。具体的には、虚血性心疾患、高血圧性心肥大、心筋症などの背景因子に関連することがあり、ホルター心電図、心エコー、冠動脈CT、心臓MRI等へ評価を行います。また、心不全に左脚ブロックが合併すると両心室の非同期を来し、心不全を悪化させるため、ペースメーカー治療の対象となります。

・左脚前肢ブロック(Left anterior fascicular block: LAFB)

一般人口の数%に存在、左脚前肢ブロック単独のみの心電図異常は病的意義は明らかでないが、リスク因子に応じて心エコーや虚血性心疾患の有無の評価を行います。

・左脚後枝ブロック(Left posterior fascicular block: LPFB)

解剖学的に左脚後枝単独のブロックは非常に稀で、右脚ブロックを伴い、右脚ブロック+左脚後
枝ブロックの2枝ブロックとなることが多いです。

・2枝ブロック(右脚ブロック+左脚前枝ブロック、右脚ブロック+左脚後枝ブロック)

基礎的心疾患の有無の評価を必ず行います。2枝ブロックは完全房室ブロックへの移行のリスクであり、電気生理学的検査やペースメーカー植込の適応について評価を行います。

・3枝ブロック(右脚ブロック+左脚前枝ブロック+I度またはII度房室ブロック、右脚ブロック+左脚後枝ブロック+I度またはII度房室ブロック、左脚ブロック+I度またはII度房室ブロック)

右脚、左脚前肢、左脚後枝の3本とも全てブロックを生じた状態で、基礎的心疾患の有無の評価を必ず行います。ペースメーカーの適応です。

・非特異的心室内伝導障害(nonspecific intraventricular conduction disturbance)

QRS幅が0.12以上で、右脚ブロックあるいは左脚ブロックの基準を満たさないもので、病的意義は不明です。必要に応じて基礎心疾患の精査を行います。

詳しくは「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン(2011年改訂版)」「不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)」「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」をご覧ください。

「臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン(2011年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawas_h.pdf

「不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf

「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf