家族性高コレステロール血症

【家族性高コレステロール血症とは】

家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)という病気があります。生まれつき悪玉コレステロールの値が高い体質の方がいます。動脈硬化の最大のリスク因子であるLDLコレステロールの値が180から400程度のヘテロ型、500以上のホモ型とあり、いずれも動脈硬化、特に心筋梗塞のハイリスクです。日本人の場合、数百人の一人前後の割合と言われており、そこまで珍しい病気ではありませんが、一方で特に自覚症状がないため、未発見、未診断、未治療の人がかなりの割合でいるだろうと推定されています。詳しくは下記ページをご覧ください。

日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症について」→https://www.j-athero.org/specialist/fh_s.html

【家族性高コレステロール血症と普通の脂質異常症との違い】

家族性高コレステロール血症はLDLコレステロールに関わる遺伝子異常が原因です。LDL受容体、アポB-100、PCSK9等、様々な遺伝子異常が報告されています。生活習慣病としての脂質異常症は、暴飲暴食、運動不足などの不適切な生活習慣病を背景に発症、中高年くらいから動脈硬化が始まるのに対し、家族性高コレステロール血症は生まれつき若年の頃から動脈硬化が始まっており、同じ脂質異常症でも動脈硬化の程度、心筋梗塞のリスクが全く異なります。家族性高コレステロール血症の場合は早期から確実な動脈硬化に対する治療、心筋梗塞の予防のための脂質低下療法が必要です。

【家族性高コレステロール血症の診断基準】

日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」に「成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準」があります。

(1)高LDL-C血症(未治療時のLDL-C 180mg/dL以上)

(2)腱黄色腫(手背、肘、膝、アキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫

(3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)

(※続発性高脂血症を除外した上で診断する。2項目が当てはまる場合、FHと診断する。FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。アキレス腱肥厚は軟線撮影により9mm以上にて診断する。LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。 FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。)

家族性高コレステロール血症かどうかはある程度原因遺伝子が特定されて来ており、遺伝子検査希望される場合は専門医療機関を紹介します。詳しくは日本動脈硬化学会のページをご覧ください。

日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症の紹介可能な施設等一覧」→https://www.j-athero.org/specialist

若い頃からコレステロール高値を指摘されていた、家族でコレステロール高値や心筋梗塞が多い家系、食事や運動には大きな問題がないのにコレステロール高いと言われている、健診で脂質が引っ掛かった、などの方は一度主治医にご相談しましょう。

【家族性高コレステロール血症の治療】

家族性高コレステロール血症の治療目標値は、LDL 100未満です。通常の生活習慣病としての脂質異常症とは異なり、冠動脈疾患の発症リスクが極めて高いため、より厳格に脂質管理が必要です。LDL 100未満に到達しない場合も、未治療時の50%未満の到達を目標とします。家族性高コレステロール血症の治療の目的は、主に心筋梗塞の予防です。何も起こらないことが治療の効果であるため、治療を継続することが大きな課題です。暴飲暴食、運動不足など不適切な生活習慣がある場合は生活習慣の改善も重要です。家族性高コレステロール血症の場合、ほとんどの例で薬物療法が必要になります。

・クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、リポバス(シンバスタチン)、ローコール(フルバスタチン)、メバロチン(プラバスタチン)、悪玉コレステロールを強力に下げるスタチンと呼ばれる基本薬で、心筋梗塞を強力に抑制する効果が確立している薬です。特に飲めない理由がない限り積極的に使います。スタチンは100人中1人くらいの頻度で肝機能障害や筋障害が出ることがありますが、残り99人は問題なく内服継続出来ます。内服後最初の4週間程度で、LDLがしっかりと下がっていること、肝機能障害や筋障害等の副作用が問題ないことを採血でチェックします。

・ゼチーア(エゼチミブ)、腸からのコレステロールの吸収を抑える薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・コレバイン(コレスチミド)、クエストラン(コレスチラミン)、陰イオン交換樹脂、レジンと呼ばれる薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・ロレルコ(プロブコール)、家族性高コレステロール血症等で黄色腫の退縮を期待して使います。

・レパーサ(エボロクマブ)、プラルエント(アリロクマブ)、PCSK9阻害薬と呼ばれる新薬です。スタチンに併用します。LDLを血中から肝細胞内に取り込むLDL受容体の分解を促進するPCSK9(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9)を阻害することで、血中のLDLを劇的に低下させます。薬価が高価であること、二週間に一回または月に一回の皮下への注射を定期的に続けること、などいくつかの難点がありますが、LDL低下効果は70%にも達するとも言われており、LDL管理目標未達成であった方に対して治療の強化、LDLアフェレーシスからの離脱例も報告されています。必要な場合は専門施設へ紹介します。

・ベザトール(ベザフィブラート)、リピディル(フェノフィブラート)、パルモディア(ペマフィブラート)、主に中性脂肪を重点的に下げる作用です。主に中性脂肪だけ高い場合に使います。コレステロールと中性脂肪、両方とも正常値であることが勿論望ましいのですが、どちらか一方下げるのが大事かと言われたら、悪玉コレステロールを下げることが優先です。

・ユベラ(トコフェロールニコチン酸エステル)、ニコチン酸系薬です。末梢血管循環改善作用などを期待して使います。

・エパデール(イコサペンタエン酸エチル)、ロトリガ(オメガ-3脂肪酸エチル)、多価不飽和脂肪酸です。善玉コレステロールを上げる作用とともに、弱い抗血小板作用があります。

・LDLアフェレーシス、血液を体外へ循環させて、LDLを血中から直接取り除く方法です。上記の薬物療法にてLDLが十分に低下しない場合適応になります。必要な場合は専門施設へ紹介します。

難病情報センター「家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)」→https://www.nanbyou.or.jp/entry/65

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。