肥大型心筋症

【肥大型心筋症とは?】

肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy: HCM)は、心筋症の一つで、「心室中隔の非対称性肥大を伴う左室ないし右室、あるいは両者の肥大」と定義され、心筋の異常な肥大する病気です。進行すると左室拡張機能低下から心不全を引き起こします。約半数で心筋に関わる遺伝子異常が特定されていますが、もう半分では原因がはっきりとはわかっていません。日本人の1000人から500人に1人程度と言われており、決して珍しい疾患ではありません。

【肥大型心筋症の症状】

初期の肥大型心筋症は無症状で、検診にて心電図異常等の指摘をきっかけに精査にて見付かります。肥大型心筋症は進行すると左室拡張機能低下から心不全を引き起こします。左室流出路閉塞を来す閉塞性肥大型心筋症では、左室流出路閉塞による虚血症状が症状となります。心筋肥大が進行すると、不整脈が症状となることもあります。

【肥大型心筋症の分類】

主に左室流出路の閉塞の有無によって分類します。また、心室中部での内腔狭窄を認める心室中部閉塞性心筋症、心尖部のみに心筋肥大を認める心尖部肥大型心筋症、肥大型心筋症の長期経過として心筋が菲薄化し、左室収縮力低下、拡張型心筋症様の病態を認める拡張相肥大型心筋症などの分類があります。

・非閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic nonobstructive cardiomyopathy: HNCM)

・閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy: HOCM)

・心室中部閉塞性心筋症(midventricular obstraction HOCM)

・心尖部肥大型心筋症(Apical hypertrophic cardiomyopathy: APH)

・拡張相肥大型心筋症(dilated phase hypertrophic cardiomyopathy: D-HCM)

【肥大型心筋症の診断】

主に心エコーや心臓MRIによって肥大型心筋症に特徴的な不均一な心筋肥大の所見によって診断します。心室中隔の非対称性肥厚、僧帽弁の収縮期前方運動(Systolic anterior motion: SAM)など、肥大型心筋症に特徴的な所見を認めることです。閉塞性肥大型心筋症では左室流出路の狭窄所見、心尖部肥大型心筋症では心尖部肥大所見が特徴です。遅延造影も含めた心臓MRIではさらに詳細な心筋の評価が可能です。また、心不全の程度の評価や他の原因精査としてBNP、甲状腺機能、自己免疫性疾患等の採血検査、肥大型心筋症の合併症として不整脈の精査としてホルター心電図検査があります。血行動態の評価として心臓カテーテル検査、組織所見の評価として心筋生検、他に専門医療機関における遺伝子検査などがあります。

【肥大型心筋症の合併症】

・致死的不整脈、突然死

無視出来ない重大な合併症として突然死があります。日本循環器学会「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン2012年改訂版」によると、「突然死に関する危険因子」として、心停止(あるいは持続性心室頻拍)の既往、ホルター心電図での非持続性心室頻拍、HCM による突然死の家族歴(特に40 歳未満)、失神ないし意識障害の既往、左室流出路圧較差が 50 mmHg を超える場合などの血行動態の高度の異常、運動に伴う血圧下降、中等度から高度の僧帽弁逆流、50 mm を超える左房拡大、電気生理学的検査での持続性心室頻拍/心室細動の誘発、発作性心房細動、心筋灌流の異常、危険度の高い遺伝子変異、著明な心筋肥大(壁厚>35 mm)、若年発症例、と14項目の危険因子がわかっています。

・左室流出路閉塞

肥大型心筋症の中の25%程度が閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy: HOCM)で、左室流出路が閉塞してしまい、心拍出量が失われ、失神や眼前暗黒感などの脳虚血症状が出現します。

・冠動脈虚血

肥大型心筋症では明らかな冠動脈狭窄を認めないにも関わらず、心筋肥大による酸素需要の増加から酸素需要供給ミスマッチを起こし、労作時胸痛や胸部圧迫感などの虚血症状が出現することがあります。

・心房細動

左心房への圧負荷、容量負荷から心房細動を伴うことがあり、血栓形成から心原性脳塞栓症を引き起こすことがあります。心房細動を認める場合は抗凝固療法による脳梗塞予防が必要になります。

他に、拡張能低下による心不全、収縮能低下による心不全、両者の混合、僧帽弁逸脱症などの合併症があります。

【肥大型心筋症の治療】

肥大型心筋症の治療については、エビデンスが確立していない部分も多いのが現状ですが、βブロッカーとカルシウム拮抗薬は、肥大型心筋症の病態を考えた場合に抑制的に作用すると考えられています。また、肥大型心筋症の合併症に対して適宜適切な治療を行って行きます。詳しくは、日本循環器学会「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン2012年改訂版」をご覧ください。

http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_doi_h.pdf

・βブロッカー

アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、心筋への過度な負担を和らげます。適度な徐脈化により拡張不全を改善します。拡張能障害、左室流出路狭窄、心筋虚血に対する効果、不整脈および突然死、それぞれに対して抑制的に作用します。肥大型心筋症の進行抑制のエビデンスはありませんが、効果を期待して使います。無症状でごく初期の肥大型心筋症に対して有効性を検討したエビデンスはありません。

・カルシウム拮抗薬

ワソラン(ベラパミル)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、肥大型心筋症では心筋においてカルシウム過負荷が起こっていると考えられており、明確なエビデンスはないものの、カルシウム拮抗薬は、拡張能障害、左室流出路狭窄、心筋虚血に対する効果、不整脈に対し、それぞれに対して抑制的に作用します。

・抗不整脈薬

リスモダン(ジソピラミド)、シベノール(シベンゾリン)、心室性不整脈および電気的リモデリング抑制を期待して使います。

・ACE阻害薬、ARB

高血圧症合併例などに、心筋リモデリング抑制効果を期待して使います。

・競技スポーツの禁止

突然死のリスクが高い場合、競技スポーツのような激しい運動は禁止する。ただし、突然死のリスクが低いと考えられる場合、軽度の運動は容認可能な場合もあります。

・禁煙

一般的に全ての心疾患において禁煙は推奨されます。

・飲酒

明確なエビデンスはないが、心筋酸素需要を増加させることから控えることが推奨されます。

・感染線心内膜炎の予防

・心房細動を認める場合は抗凝固療法による心原性脳塞栓症の予防

・非薬物療法

非薬物療法としては、経皮的中隔心筋焼灼術、中隔心筋切除術等の外科的治療、ペースメーカー埋込術、埋込型除細動器、心移植

肥大型心筋症の治療についてはほとんどエビデンスが確立していないのが現状です。必要に応じて大学病院等に紹介しています。また大学病院等による年一回程度の経過観察通院と、普段の定期通院と、医療機関で協力しながら組み合わせてフォローしていくケースも多いです。お気軽に主治医までご相談ください。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

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