【消化器内視鏡検査時の抗血栓薬の取り扱いとは】
消化器内視鏡検査時の抗血栓薬の取り扱いとは、上部消化管内視鏡検査や下部消化管内視鏡検査時に、抗血小板薬や抗凝固薬という抗血栓薬を中止するか続行するかの判断、中止する場合はいつからどのように中止をするかをまとめたものです。2012年に、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本神経学会、日本脳卒中学会、日本血栓止血学会、日本糖尿病学会が合同で「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」を発表しました。詳しくはガイドラインをご覧ください。ざっくり言うと抗血栓薬を続行すると出血のリスクがあり、抗血栓薬を中止すると血栓症のリスクがあります。出血の危険度と、休薬による血栓塞栓症の危険度を両面から評価し、メリット、デメリットを総合的に判断する必要があります。 本ページでは主にガイドラインの内容をまとめました。
「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」→https://minds4.jcqhc.or.jp/minds/gee/20130528_Guideline.pdf
【抗血栓薬】
抗血栓薬は抗血小板薬と抗凝固薬の総称です。下記に一覧をまとめました。
抗血小板薬
・アスピリン:バイアスピリン(アスピリン)
・チエノピリジン誘導体:プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、パナルジン(チクロピジン)
・その他の抗血小板薬:プレタール(シロスタゾール)、エパデール(イコサペンタエン酸)、アンプラーグ(サルポグレラート)、プロサイリン(ベラプロスト)、オパルモン(リマプロスト)、ロコルナール(トラピジル)、コメリアン (ジラセプ)、ペルサンチン(ジピリダモール)、他
抗凝固薬
・ワーファリン(ワルファリン)
・ヘパリン(ヘパリン)
・プラザキサ(ダビガトラン)、エリキュース(アピキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、イグザレルト(リバーロキサバン)
・他
【出血危険度分類】
まずは内視鏡の検査や操作によって、出血危険度による分類を行います。具体的には以下の通りです。
1.通常消化器内視鏡
上部消化管内視鏡(経鼻内視鏡を含む)
下部消化管内視鏡
超音波内視鏡
カプセル内視鏡
内視鏡的逆行性膵胆管造影
2.内視鏡的粘膜生検(超音波内視鏡下穿刺吸引術を除く)
3.出血低危険度の消化器内視鏡
バルーン内視鏡
マーキング(クリップ,高周波,点墨,など)
消化管,膵管,胆管ステント留置法(事前の切開手技を伴わない)
内視鏡的乳頭バルーン拡張術
4.出血高危険度の消化器内視鏡
ポリペクトミー(ポリープ切除術)
内視鏡的粘膜切除術
内視鏡的粘膜下層剝離術
内視鏡的乳頭括約筋切開術
内視鏡的十二指腸乳頭切除術
超音波内視鏡下穿刺吸引術
経皮内視鏡的胃瘻造設術
内視鏡的食道・胃静脈瘤治療
内視鏡的消化管拡張術
内視鏡的粘膜焼灼術
その他
【休薬による血栓塞栓症の高発症群】
さらに、休薬による血栓塞栓症の高発症群として以下のように定められました。
抗血小板薬関連
冠動脈ステント留置後2カ月
冠動脈薬剤溶出性ステント留置後12カ月
脳血行再建術(頸動脈内膜剝離術,ステント留置)後2カ月
主幹動脈に50%以上の狭窄を伴う脳梗塞または一過性脳虚血発作
最近発症した虚血性脳卒中または一過性脳虚血発作
閉塞性動脈硬化症でFontaine 3度(安静時疼痛)以上
頸動脈超音波検査,頭頸部磁気共鳴血管画像で休薬の危険が高いと判断される所見を有する場合
抗凝固薬関連
心原性脳塞栓症の既往
弁膜症を合併する心房細動
弁膜症を合併していないが脳卒中高リスクの心房細動
僧帽弁の機械弁置換術後
機械弁置換術後の血栓塞栓症の既往
人工弁設置
抗リン脂質抗体症候群
深部静脈血栓症・肺塞栓症
ワルファリン等抗凝固薬療法中の休薬に伴う血栓・塞栓症のリスクは様々であるが,一度発症すると重篤であることが多 いことから,抗凝固薬療法中の症例は全例,高危険群として対応することが望ましいとされています。
【各論まとめ】
ガイドラインでは様々なケースについて具体的にステートメントがまとめられています。詳しくはガイドラインをご覧ください。
「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」→https://minds4.jcqhc.or.jp/minds/gee/20130528_Guideline.pdf
下記、日常臨床として特に重要なものをまとめました。
ステートメント1
消化器内視鏡検査・治療において,アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれかを休薬する可能性がある場合には,事前に処方医と相談し休薬の可否を検討する.原則として患者本 人に検査・治療を行うことの必要性・利益と出血などの不利益を説明し,明確な同意の下に消化器内視鏡を行うことを徹底する.
ステートメント2
通常の消化器内視鏡は,アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれも休薬なく施行可能である.
ステートメント3
内視鏡的粘膜生検は,アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれか 1 剤を服用し ている場合には休薬なく施行してもよい.ワルファリンの場合は,PT-INR が通常の治療域であることを確認して生検する. 2 剤以上を服用している場合には症例に応じて慎重に対応する.生検では,抗血栓薬服薬の有無にかかわらず一定の頻度で出血を合併する.生検を行った場合には,止血を確認 して内視鏡を抜去する.止血が得られない場合には,止血処置を行う.
ステートメント4
出血低危険度の消化器内視鏡は,アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,抗凝固薬のいずれも休薬なく施行してもよい.ワルファリンの場合は,PT-INR が通常の治療域であることを確認する.
ステートメント5
出血高危険度の消化器内視鏡において,血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行してもよい.血栓塞栓症の発症リスクが低い場合は3~5日間の休薬を考慮する.
ステートメント6
出血高危険度の消化器内視鏡において,アスピリン以外の抗血小板薬単独内服の場合には休薬を原則とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5~7日間とし,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬は1日間の休薬とする.血栓塞栓症の発症リスクが高い症例ではアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮する.
ステートメント7
出血高危険度の消化器内視鏡において,ワルファリン単独投与またはダビガトラン単独投与の場合はヘパリンと置換する.
ステートメント8
出血高危険度の消化器内視鏡において,アスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬併用の場合には,抗血小板薬の休薬が可能となるまで内視鏡の延期が好ましい.内視鏡の延期が困難な場合には,アスピリンまたはシロスタゾールの単独投与とする.休薬期間はチエノピリジン誘導体が5~7日間,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬が1日間を原則とし,個々の状態に応じて適時変更する.
ステートメント11
出血高危険度の消化器内視鏡において,アスピリン,アスピリン以外の抗血小板薬,ワルファリンまたはダビガトランの3剤併用の場合には,抗血栓薬の休薬が可能となるまで内視鏡の延期が好まし い.内視鏡の延期が困難な場合には,アスピリンまたはシロスタゾール投与にして,その他の抗血小板薬は休薬する.ワルファリンまたはダビガトランはヘパリンと置換する.
ステートメント12
抗血栓薬休薬後の服薬開始は内視鏡的に止血が確認できた時点からとする.再開は,それまでに投与 していた抗血栓薬とする.再開後に出血することもあるので,出血に対する対応は継続する.
「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」→https://minds4.jcqhc.or.jp/minds/gee/20130528_Guideline.pdf