上室期外収縮

【上室期外収縮とは】

上室期外収縮は、健診の心電図検査で心電図異常を指摘され、要精査などと書かれるもので一番多い所見の一つです。人間の心臓は一日10万回くらい一定のリズムで脈を打っていますが、10万回のうち何回かはズレて脈を打つことがあります。このズレた脈のことを期外収縮(Premature Contraction)と言い、ズレた脈の起源が心臓の中の上室(Supraventricular)という場所の場合、上室期外収縮(Premature Supraventricular Contraction: PAC)と呼びます。上室期外収縮は、心疾患の有無に関わらず、誰でも数回から数百回程度は認めるもので、特別治療の必要性はありません。健診の時の心電図検査中にたまたま出たか出なかったかの違いだけで、基礎心疾患が何もない場合は、上室期外収縮は何回出たとしても、そのまま放置しても特に命に関わらないことが既にわかっているからです。以上の理由から、上室期外収縮の精査においては、治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的になります。

【上室期外収縮の精査の流れ】

上室期外収縮の精査は治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的です。具体的には、

1、基礎心疾患がないこと

2、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないこと

この2つを調べることが主な目的になります。まずは、採血検査で主にBNPという心疾患のマーカーによって心臓へ大きな負担が掛かっていないこと、必要に応じて脈を調整するホルモン、血圧を調整するホルモンに、動脈硬化性のリスク因子等の異常がないかをチェックします。次に、ホルター心電図検査によって、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことを調べます。上室期外収縮とは直接関係は強くありませんが、冠動脈疾患のリスク因子を多く認める場合は受診をきっかけに、冠動脈CTまたは心臓MRIなど心臓の血管に異常はないか必要に応じて検査を進めて行きます。

【基礎心疾患を何も認めない場合】

精査の結果、基礎心疾患が何もなく、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことがわかった場合、上室期外収縮のみの心電図異常は特に治療は必要ありません。一日10万回の脈のうち数回から数百回までの期外収縮は誰にでもある正常範囲の脈のズレですので特に心配しなくて大丈夫です。一日一万回を超える期外収縮であっても基礎心疾患を認めない場合は経過観察で問題ありません。経過観察とは、半年に一回から年に一回程度、変わりがないか、異常がないか適宜心電図やホルター心電図でチェックをするということです。精査の結果、期外収縮の他に、治療の必要な不整脈、治療の必要な心疾患が見付かればそれぞれに対し適切に治療をしていきます。

【強い自覚症状を認める場合】

上室期外収縮に一致して動悸症状を自覚する場合があります。上室期外収縮の回数によらず、どの程度自覚するかは個人差が非常に大きく、人それぞれです。心配ないものとわかれば症状もあまり気にならなくなる場合が多いのですが、症状がどうしても気になって生活に支障が出てしまうような場合は、適宜症状を和らげる治療もあります。

【上室期外収縮の治療】

まず前提として、基礎心疾患が何もない場合、上室期外収縮だけでは特に命に関わらないものではあるため治療は必須ではありません。しかしながら、上室期外収縮に一致して強い動悸症状を自覚する場合があり、次のような治療法があります。

1、生活習慣の改善

ストレス、緊張、運動、過労、睡眠不足、季節の変わり目、飲酒、喫煙、カフェイン、栄養ドリンクの摂取などの何らかの刺激が関係していることが多いので、誘因となる生活習慣を改善することで症状が軽快することが少なくありません。

2、抗不整脈薬

強い自覚症状を認める場合は、抗不整脈薬があります。脈の速さや強さを和らげる作用のβ遮断薬などが中心です。メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール)、テノーミン(アテノロール)、インデラル(プロプラノロール)、アロチノロール(アロチノロール)、などがあります。上室期外収縮がなくなる訳ではありませんが、自覚症状が和らぐ場合があります。

3、カテーテルアブレーション治療

根治療法としてカテーテルアブレーションという治療の選択肢があります。どうしても強い自覚症状を認め、強い苦痛を伴っている場合は、カテーテルアブレーション治療を考慮します。手首や足の付根からカテーテルという細いワイヤーを通して、心臓の中の電気の活動をを調べて、上室期外収縮を引き起こしている原因を特定し、熱によって上室期外収縮が起こらないように処置をします。成功率は高く、根治を望める治療法です。カテーテルアブレーション専門の病院へ紹介します。詳しくは日本不整脈心電学会のページをご覧ください。

https://new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-8

以上、健診の心電図異常で一番多い上室期外収縮について説明しました。何かわからないことがあれば主治医までご相談ください。