検診異常の見方についてまとめました。検診異常には様々なものがあります。今回は代表的な検診の一つである法定健診の検診項目の見方についてまとめました。具体的には、(1)既往歴及び業務歴の調査、(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査、(3)身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査、(4)胸部エックス線検査、(5)血圧の測定、(6)貧血検査 (赤血球数、血色素量)、(7)肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)、(8)血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド)、(9)血糖検査、(10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)、(11)心電図検査(安静時心電図検査)、の11項目です。それぞれ詳しく説明します。基準範囲は主に、日本人間ドック学会並びに日本臨床検査医学会等のページを参照しました。詳しくは下記ページをご覧ください。
・日本人間ドック学会→https://www.ningen-dock.jp
・日本臨床検査医学会→https://www.jslm.org
【検診結果の見方】
(1)既往歴及び業務歴の調査
既往歴とは、今までに掛かった大きな病気のことです。先天性疾患、小児疾患、結核、外傷、手術歴などを記載します。特に何もなければ特になしで構いません。業務歴では、石綿作業歴、アスベスト作業歴、血液感染症、海外滞在歴など疾病リスクの高い業務歴を中心に確認します。
(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査
現在、どこか痛い、苦しいなどの自覚症状、医師が問診、視診、聴診等で所見を認めた場合に記載します。心雑音、呼吸音異常、甲状腺腫脹の有無、皮膚、骨格異常などを確認します。特に何もなければ特になしです。
(3)身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
・BMI:
基準範囲:BMI 18.5-24.9
身長、体重から、BMI(Body mass index)の値を算出します。BMI 18.5-24.9が基準範囲で、BMI 22.0が最も疾病リスクが少ないとされています。BMI 22の時の体重を標準体重、BMI 18.5未満を低体重、BMI 25.0以上を過体重(Overweight)、30.0以上を肥満(Obese)と定義します。
・腹囲:
基準範囲:男性85.0cm未満、女性90.0cm未満
男性85.0cm、女性90.0cmを超える場合、メタボリック症候群等の判定を行って行きます。
・視力
基準範囲:両眼1.0以上
両眼、メガネやコンタクトの方は裸眼と、矯正視力と両方測定します。基準範囲は1.0以上です。
・聴力:
基準範囲:両耳聴力低下なし
両耳、1000Hzの音の高さで30dBの音の大きさ、4000Hzの音の高さで30dBの音の大きさで、両耳測定します。
(4)胸部エックス線検査
基準範囲:所見なし
胸部レントゲンでは、肺、気管支、心臓、脊柱、肋骨、鎖骨、横隔膜、縦隔等を撮影します。主に肺に異常がないかどうか、特に肺結核等の感染症、肺癌を疑う所見等のがないかを調べます。検診異常を指摘された場合は胸部CT等、精密検査を追加します。
(5)血圧の測定
基準範囲:130/85未満
検診では、収縮期血圧130未満、拡張期血圧85未満を基準範囲とします。収縮期血圧130以上160未満、拡張期血圧85以上100未満を要注意、収縮期血圧160以上、拡張期血圧100以上を異常とします。まずは、食事療法、運動療法、さらに降圧薬による薬物療法が必要になる場合があります。重症な高血圧症、治療抵抗性の高血圧症の場合、二次性高血圧症の鑑別等が必要になることもあります。詳しくは高血圧症、二次性高血圧症のページをご覧ください。
高血圧症→https://循環器内科.com/ht
二次性高血圧症→https://循環器内科.com/sht
(6)貧血検査 (赤血球数、Hb)
基準範囲:男性13.0以上、女性12.0以上
Hb、ヘモグロビンにおいて、男性12.0未満、女性11.0未満を貧血と判定します。基準範囲は男性13.1-16.6、女性12.1-14.6です。この範囲から大きく外れる場合は採血にて精密検査を追加します。若い女性で一番多い貧血の原因は鉄欠乏性貧血です。詳しくは鉄欠乏性貧血のページをご覧ください。
鉄欠乏性貧血→https://循環器内科.com/anemia
(7)肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
基準範囲:
・AST(GOT) 30U/L以下
・ALT(GPT) 30U/L以下
・γ-GTP 50以下
主に肝機能障害を調べる検査です。アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、ウイルス性急性肝炎、ウイルス性慢性肝炎、肝臓癌、薬剤性肝障害等、様々な原因の鑑別が必要です。検診異常を指摘されている場合、まずは採血にて肝炎ウイルスの有無を精査、アルコール摂取量、カロリー摂取量の把握、必要に応じて腹部エコー、腹部CT等、精査を進めて行きます。詳しくは肝機能障害のページをご覧ください。
肝機能障害→ https://循環器内科.com/ld
(8)血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
基準範囲:
・LDLコレステロール 120mg/dL未満
・HDLコレステロール 40mg/dL以上
・TG 150 mg/dL未満
LDLコレステロール 140mg/dL以上、HDLコレステロール 40mg/dL未満、TG 150mg/dL以上を脂質異常症と診断します。特にLDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化のリスク因子です。食事療法、運動療法等で治療を開始します。必要に応じて脂質低下薬による薬物療法が必要となります。家族性高コレステロール血症では、LDLコレステロールの値が180mg/dL以上、特に300以上ではヘテロ型家族性高コレステロール血症、600以上ではホモ型家族性高コレステロール血症を強く疑います。心筋梗塞予防のために強力な脂質低下療法が必要となります。詳しくは脂質異常症、家族性高コレステロール血症のページをご覧ください。
脂質異常症→https://循環器内科.com/dl
家族性高コレステロール血症→https://循環器内科.com/fh
(9)血糖検査
基準範囲:
・随時血糖 100mg/dL未満
・HbA1c 5.5%以下
空腹時血糖 126mg/dL以上、食後血糖 200mg/dL以上、またはHbA1c 6.5以上で糖尿病または糖尿病型と診断します。基本は食事療法、運動療法で血糖の改善を目指します。必要に応じて血糖降下薬による薬物療法を開始します。一型糖尿病ではインスリン療法が適応になります。いずれにせよ、血糖異常を指摘されている場合、放置せずにご相談ください。詳しくは糖尿病のページをご覧ください。
(10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
基準範囲:
・尿糖陰性
・尿蛋白陰性
腎疾患、泌尿器疾患を調べます。尿糖陽性は主に糖尿病等で、尿蛋白陽性は慢性腎臓病等を疑い、調べて行きます。まずは、持続する尿糖陽性か、持続する蛋白尿か、血尿はないか、白血球尿はないか、再検査にて調べていきます。原因は腎臓内科疾患、泌尿器科疾患、多岐に渡ります。詳しくは蛋白尿のページ、腎機能障害のページをご覧ください。
腎機能障害→https://循環器内科.com/rd
(11)心電図検査(安静時心電図検査)
基準範囲:正常洞調律(Normal sinus rhythm: NSR)
心電図異常の原因は多岐に渡ります。先天性心疾患、虚血性心疾患、不整脈等、鑑別して行きます。洞性頻脈、洞性徐脈、呼吸性変動、一度房室ブロック、不完全右脚ブロック、右軸偏位、左軸偏位、など、特別な治療の必要のないものも多いです。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等、循環器疾患のリスク因子を認める場合には、ホルター心電図、心エコー、採血、心臓MRI、心臓CT等で精密検査を進めて行きます。
以上、主に法定健診の検査項目について、その見方をまとめました。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、不整脈、虚血性心疾患等、早期発見、早期介入が大事です。検診にて異常を指摘されている場合、放置せずに医療機関までご相談ください。