【循環器内科における採血検査】
循環器内科においても採血検査は重要な情報です。検診等で行う一般的な採血検査項目と、主に循環器内科で行う採血検査項目と、両方をまとめました。「採血検査」と一口に言っても様々な検査項目があり、検査の目的に合わせて検査を選択します。特に、循環器内科で行う心機能や心筋虚血マーカー、脈を調整するホルモン、二次性高血圧のスクリーニングなどは、普段の検診では調べないところが多く、循環器内科で追加で採血検査が必要になります。
【具体的な採血検査項目】
・トロポニン
心筋梗塞のマーカーです。心筋逸脱酵素とも呼ばれ、普段は心筋の中にあり血液中には検出されませんが、心筋梗塞を起こすと心筋が障害を受けて、トロポニンが血液中に漏れて来ます。胸痛の原因として心筋梗塞の可能性を疑った場合に調べます。迅速検査キットにて10分くらいで陽性か陰性かの判定が出ます。トロポニンが陽性であれば心筋梗塞と診断し、緊急カテーテルが可能な病院へ搬送します。トロポニンが陰性であればまずは心筋梗塞は否定的であると判定出来ます。心筋梗塞を起こしていないだけで狭心症の可能性は否定出来ませんので、冠危険因子のリスクや必要に応じて冠動脈CT等にて調べて行きます。
・BNPまたはNT-proBNP
心機能のマーカーです。心臓から分泌されるホルモンで、心臓への負担が大きいほど多く分泌されます。BNPが高い数値の場合は、心臓に何らかの負担が掛かっているということがわかります。BNPの値だけで診断をすることは出来ませんが、目安としてBNPが40未満の場合は心疾患は否定的であること、BNPが400以上であれば何らかの心疾患の存在が疑われます。BNPが100から200程度に関しては心疾患が見付かることもあればそうでないこともあります。BNPの値に加えて、心電図、胸部レントゲン、心エコー、心臓MRI、冠動脈CT等、総合的に評価していきます。既に心不全と診断されている場合は、心不全のフォローのために定期的にチェックします。BNPは循環器内科にとってとても有用な検査なのですが、一般の健康診断の採血検査では取らない項目で、循環器内科で追加で採血が必要な理由の一つです。
・脂質(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)
脂質は、喫煙、高血圧症、糖尿病と並んで冠動脈疾患の危険因子です。脂質、特にLDLコレステロールが重要で、LDLコレステロールの値が高ければ高いほど心筋梗塞のリスクは高くなり、LDLコレステロールの値が低ければ低いほど心筋梗塞を起こすリスクは低いということがわかっています。動脈硬化性疾患のリスク因子として循環器内科ではほとんど場合調べます。
・血糖(HbA1c、随時血糖)
糖尿病は、喫煙、高血圧症、脂質異常症と並んで冠動脈疾患の危険因子です。HbA1cは1-2ヶ月の血糖の平均的な状態を反映します。HbA1c 6.5を超えると糖尿病、HbA1c 7.0、HbA1c 8.0、HbA1c 9.0と血糖コントロールが悪いほど、糖尿病合併症のリスクが上昇します。糖尿病合併症には、微小血管障害として糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、大血管障害として心血管疾患、脳血管障害があり、いずれも重要ですが、特に循環器内科では冠動脈疾患のリスク因子として調べます。
・腎機能(eGFR、Cr、他)
腎機能の評価は採血にてeGFRにて評価します。腎機能は年齢とともに低下して来ますが、高血圧症と糖尿病は慢性腎臓病の悪化因子であり、心血管疾患のリスク因子です。腎機能が低下してくると程度によっては使える薬剤や検査に制限が必要な場合があります。また、腎機能の採血をきっかけにして腎臓内科疾患が見付かる場合があります。
・肝機能(AST、ALT、γ-GTP、他)
腎機能と並んで肝機能の検査は重要です。肝機能障害の原因は、アルコール性、非アルコール性、ウイルス性、他、多岐に渡りますが、肝機能が悪いと程度によっては使える薬剤や検査に制限が必要な場合があります。また、薬剤の副作用として肝機能は頻度が比較的高く、併用薬が多い場合は定期的に肝機能のチェックが重要です。アルコール多飲がメインの場合は飲酒による肝機能障害の経過観察のため調べます。
・尿酸(UA)
高尿酸血症、尿酸値が高いと痛風発作のリスクです。また、尿酸脂質、血糖などと並んで栄養過多状態の評価として調べます。尿酸が高い人の食生活は、アルコール、脂質、血糖、塩分、など他の生活習慣病のリスクが高い場合が多いからです。
・甲状腺機能(TSH、fT3、fT4、TRAb、TPOAb、TgAb)
甲状腺は全身に様々な働きをしていますが、心臓に対しては脈を調整する作用として働いています。甲状腺ホルモンが多くても、甲状腺ホルモンが少なくても、甲状腺機能異常はどちらも動悸症状の原因となることがあります。甲状腺機能異常は女性に多いため、動悸症状の原因精査として必要に応じて調べます。甲状腺異常を認めた場合、甲状腺に特異的な自己免疫を適宜調べます。甲状腺機能異常は比較的頻度が高いのですが、普段の検診では取らない項目であり、追加で採血検査が必要な理由です。
・副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)
交感神経を調整しているホルモンで、心臓に対しては脈を調節する作用として働いています。交感神経が過剰だと、強い動悸症状や激しい血圧上昇を引き起こします。比較的頻度は高くはありませんが、動悸症状の原因精査、二次性高血圧症の精査として必要に応じて調べます。
・副腎皮質ホルモン(レニン、アルドステロン、他)
主に血圧を調節しているホルモンで、特に原発性アルドステロン症は二次性高血圧症の原因として最も頻度が高いことがわかっています。高血圧症の中で二次性高血圧症を疑った場合に調べます。
・血算(WBC、RBC、Hb、Plt、他)
血液の中身、白血球、赤血球、血小板の三系統を調べます。様々な疾患を反映しますが、特に循環器内科では動悸や息切れの原因として貧血がないか、抗血小板療法や抗凝固療法中に出血を起こしていないか定期的にチェックします。
・貧血(フェリチン、Fe、Ret)
貧血を認めた場合に、鉄欠乏性のよるものなのか、出血によるものなのか、それ以外の血液疾患によるものなのか、原因を探っていく場合に調べます。多くは鉄欠乏性のことが多いですが、鉄欠乏性以外に原因が考えられる場合には適宜精査を行って行きます。特に循環器内科では抗血小板療法や抗凝固療法中に出血を起こしていないかを定期的にチェックします。
・凝固能(PT-INR、APTT、Dダイマー、等)
抗凝固療法中の凝固能のモニタリングとして評価します。特に抗凝固薬のワーファリンはPT-INRによる定期的な凝固能のチェックが欠かせません。Dダイマーは血栓症のマーカーです。心房細動や弁膜症などで血栓症の評価が必要である場合に調べます。
・炎症反応(CRP)
炎症反応は原因を問わず全身のあらゆる炎症の状態を反映します。動脈硬化というものを全身の血管の慢性炎症として捉えていく見方があり、CRPは全身の血管の慢性炎症の程度を反映します。ただし、CRPは感染症でも何でも他の原因でも上昇するので注意が必要です。
・自己抗体(抗核抗体、他)
動悸や息切れの原因として自己免疫疾患の可能性を疑った場合にスクリーニング目的で調べます。必要な場合は専門の診療科へ紹介します。
・女性ホルモン(LH、FSH、E2、PRL、他)
動悸や息切れの原因として女性ホルモンの異常を疑った場合に必要があれば調べます。更年期障害と言っても女性ホルモンの値に明らかな異常を認める場合と認めない場合があり、詳しい診療については婦人科の受診をお奨めしています。
・ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ抗体)
ピロリ菌は慢性胃炎、胃癌の原因菌です。循環器内科とは関係なく一般的にピロリ菌チェックは重要であることと、また胸部圧迫感や胸部不快感の自覚症状で受診して来て、色々調べていくうちにピロリ菌感染が見付かる場合があります。必要に応じて調べます。胃カメラをやっていないと検査代が自費になるという保険のルールがあります。
【まとめ】
他にも様々な血液検査項目があります。「採血検査」と一口に言っても様々な検査項目があること、一普段の検診では調べていないところが多く、循環器内科では適宜追加で採血検査を行う必要があります。詳しくは主治医までご相談ください。