感染性心内膜炎

【感染性心内膜炎とは】

感染性心内膜炎(Infective endocarditis: IE)とは、全身性敗血症性疾患の一つで、特に心臓の弁への細菌感染と、細菌感染による弁の破壊、全身塞栓症などを含む疾患です。菌の塊を、疣腫(ゆうぜい、vegetation)と呼び、疣贅が心臓から飛んで、脳に詰まれば脳梗塞、腸の血管に詰まれば腸管虚血など危篤な合併症を来します。脳の血管に脳動脈瘤を来したり、細菌感染の巣、膿瘍を来すこともあります。臨床症状が多彩であり、診断まで時間が掛かることもあります。詳しくは慶應義塾大学病院のページをご覧ください。

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000197.html

【感染性心内膜炎の診断】

修正Duke診断基準という診断基準があります。様々な項目がありますが、血液培養による原因微生物の検出が最も重要で、抗菌薬投与前の血液培養を少なくとも3セット行います。原因微生物が特定出来れば、薬剤感受性試験にて有効な抗菌薬を把握することが出来、治療上も極めて有用です。そもそも感染性心内膜炎を疑わない血液培養や心エコーの検査はしないので、感染性心内膜炎を疑うことが最も重要であると言えます。

【確診】

病理学的基準

(1) 培養,または疣腫,塞栓を起こした疣腫,心内膿瘍の組織検査により病原微生物が検出されること,または

(2) 疣腫や心内膿瘍において組織学的に活動性心内膜炎が証明されること

臨床的基準a)

(1)大基準2つ,または

(2)大基準1つおよび小基準3つ,または

(3 )小基準5つ

【可能性】

(1)大基準1つおよび小基準1つ,または

(2)小基準3つ

【否定的】

(1)IE症状を説明する別の確実な診断,または

(2)IE症状が4日以内の抗菌薬投与により消退,または

(3)4日以内の抗菌薬投与後の手術時または剖検時にIEの病理学的所見を認めない,または

(4)上記「可能性」基準にあてはまらない

a)基準の定義

[大基準]

IEを裏づける血液培養陽性

2回の血液培養でIEに典型的な以下の病原微生物のいずれかが認められた場合

・Streptococcus viridans,Streptococcus bovis(Streptococcus gallolyticus),HACEK グループ,Staphylococcus aureus,または他に感染巣がない状況での市中感染型 Enterococcus

血液培養がIEに矛盾しない病原微生物で持続的に陽性

・12時間以上間隔をあけて採取した血液検体の培養が2回以上陽性,または

・3回の血液培養のすべて,または4回以上施行した血液培養の大半が陽性(最初と最後の採血間隔が1時間以上あいていること)

1回の血液培養でもCoxiella burnetiiが検出された場合,または抗I相菌IgG抗体価800倍以上

心内膜障害所見

IEの心エコー図所見(人工弁置換術後,IE可能性例,弁輪部膿瘍合併例ではTEEが推奨される.その他の例ではまずTTEを行う.)

・弁あるいはその支持組織の上,または逆流ジェット通路,または人工物の上にみられる解剖学的に説明のできない振動性の心臓内腫瘤,または

・膿瘍,または

・人工弁の新たな部分的裂開

新規の弁逆流(既存の雑音の悪化または変化のみでは十分でない)

[小基準]

・素因:素因となる心疾患または静注薬物常用

・発熱:38.0 ˚C 以上

・血管現象:主要血管塞栓,敗血症性梗塞,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,眼球結膜出血,Janeway発疹

・免疫学的現象:糸球体腎炎,Osler結節,Roth斑,リウマチ因子

・微生物学的所見:血液培養陽性であるが上記の大基準を満たさない場合b),または IE として矛盾のない活動性炎症の血清学的証拠

b)コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やIEの原因菌とならない病原微生物が1回のみ検出された場合は除く

【ESCガイドラインにおけるIEの画像診断基準】

修正Duke診断基準にて確定診断となった場合は感染性心内膜炎として治療開始します。可能性となった場合には画像診断基準に準じて検査を進めます。

IEの画像診断

a.IE の心エコー図所見

• 疣腫

• 膿瘍,仮性動脈瘤,心内瘻孔

• 弁穿孔または弁瘤

• 人工弁の新たな部分的裂開

b.置換人工弁周囲における18F-FDG PET/CT(術後 3ヵ月以上経過している場合)や白血球シンチSPECT/CT の取り込み

c.CT による弁周囲膿瘍の検出

ESC ガイドラインでは,Duke の診断基準に加えて上記の画像診断基準もIE診断の大基準の1つにあげられています。詳しくは「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」をご覧ください。

「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_nakatani_h.pdf
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02808_04

【感染性心内膜炎の治療】

原因菌に対して最適な抗菌薬治療を行います。原因微生物が特定出来れば、薬剤感受性試験にて有効な抗菌薬を把握することが出来、薬剤感受性試験の結果に基づいて抗菌薬を投与します。原因菌判明前はエンピリックに抗菌薬治療を開始することもあります。頻度の高い分離菌としては、CNS,Staphylococcus aureus,VGS,腸球菌,Streptococcus bovis、Streptococcus pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa、Candida albicansなどがガイドラインでは挙げられています。48-72時間を目安に効果判定を行い、体温、白血球数、CRP、血液培養の陰性化、心エコー、など総合的に治療期間を判断します。治療期間は4-8週間など長期に及ぶ場合が多いです。

合併症の治療として、心不全、塞栓症、中枢神経合併症として感染性動脈瘤、中枢神経系以外として脾梗塞、肺梗塞、腎障害、播種性血管内凝固症候群、それぞれに対して適切な治療を行います。

急性心不全、心原性ショック、急速に進行する弁の破壊、難治性感染症、適切な抗菌薬開始後も持続する感染、真菌や高度耐性菌による感染、適切な抗菌薬開始後も1回以上の塞栓症、10mmを超える可動性の疣腫、などの場合は外科的治療の適応を考慮します。

詳しくは「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」をご覧ください。

「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」
https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_nakatani_h.pdf

【感染性心内膜炎の危険因子】

感染性心内膜炎は、感染性心内膜炎を起こしやすい心内膜の障害となる基礎疾患に加えて、菌血症を起こした細菌の定着によって発症します。感染性心内膜炎を起こしやすい基礎疾患としては以下の危険因子が知られています。

成人における IE の基礎心疾患別リスクと,歯科口腔外科手技に際する予防的抗菌薬投与の推奨とエビデンスレベル

1.高度リスク群(感染しやすく,重症化しやすい患者)

・生体弁,機械弁による人工弁置換術患者,弁輪リング装着例

・IEの既往を有する患者

・複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)

・体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

2.中等度リスク群(必ずしも重篤とならないが,心内膜炎発症の可能性が高い患者)

・ほとんどの先天性心疾患*1単独の心房中隔欠損症(二次孔型)を除く

・後天性弁膜症*2逆流を伴わない僧帽弁狭窄症では IE のリスクは低い

・閉塞性肥大型心筋症

・弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

・人工ペースメーカ,植込み型除細動器などのデバイス植込み患者

・長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者

【感染性心内膜炎の予防】

感染性心内膜炎の予防のために、予防的抗菌薬投与を行う場合があります。予防的抗菌薬投与を行うことを強く推奨する場合から、予防的抗菌薬投与を推奨しない場合まで、ガイドラインでは以下のように記載されています。

IE高リスク患者における,各手技と予防的抗菌薬投与に関する推奨とエビデンスレベル

予防的抗菌薬投与を行うことを強く推奨する

・ 歯科口腔外科領域:出血を伴い菌血症を誘発するすべての侵襲的な歯科処置(抜歯などの口腔外科手術・歯周外科手術・インプラント手術,スケーリング,感染根管処置など)

・ 耳鼻科領域:扁桃摘出術・アデノイド摘出術

・ 心血管領域:ペースメーカや植込み型除細動器の植込み術

抗菌薬投与を行ったほうがよいと思われる

・ 局所感染巣に対する観血的手技:膿瘍ドレナージや感染巣への内視鏡検査・治療(胆道閉塞を含む)

・ 心血管領域:人工弁や心血管内に人工物を植え込む手術

・ 経尿道的前立腺切除術:とくに人工弁症例

予防的抗菌薬投与を行ってもかまわない.ただし,IEの既往がある症例には予防的抗菌薬投与を推奨する

・ 消化管領域:食道静脈瘤硬化療法,食道狭窄拡張術,大腸鏡や直腸鏡による粘膜生検やポリープ切除術,胆道手術

・ 泌尿器・生殖器領域:尿道拡張術,経膣分娩・経膣子宮摘出術,子宮内容除去術,治療的流産・人工妊娠中絶,子宮内避妊器具の挿入や除去

・ 心血管領域:心臓カテーテル検査・経皮的血管内カテーテル治療

・ 手術に伴う皮膚切開(とくにアトピー性皮膚炎症例)

予防的抗菌薬投与を推奨しない

・ 歯科口腔外科領域:非感染部位からの局所浸潤麻酔,歯科矯正処置,抜髄処置

・ 呼吸器領域:気管支鏡・喉頭鏡検査,気管内挿管(経鼻・経口)

・ 耳鼻科領域:鼓室穿孔時のチューブ挿入

・ 消化管領域:経食道心エコー図・上部内視鏡検査(生検を含む)

・ 泌尿器・生殖器領域:尿道カテーテル挿入,経尿道的内視鏡(膀胱尿道鏡,腎盂尿管鏡)

・ 心血管領域:中心静脈カテーテル挿入

詳しくは「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン」をご覧ください。

「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017 年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_nakatani_h.pdf