肺血栓塞栓症

 

【肺血栓塞栓症とは】

肺血栓塞栓症(Pulmonary Thromboembolism: PTE)とは、身体の中に出来た血栓が肺の血管に詰まって塞栓症を起こすことです。血栓の由来の90%は下肢と骨盤内の深部静脈血栓症が原因と言われており、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症を一連の病態として、静脈血栓塞栓症(Venous thromboembolism: VTE)と呼びます。エコノミークラス症候群、ロングフライト症候群と呼ばれるのが飛行機に長時間乗った後に発生する深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症のことです。よくインターネット等で不安を煽るような書き方をされて心配になってしまう方が多いですが、飛行機に載った人が全員深部静脈血栓症を起こす訳ではありません。深部静脈血栓症を引き起こすリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいですが、リスク因子が少なければ少ないほど起こしにくいです。詳しく「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」をご覧ください。

「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」→https://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf

「肺塞栓症」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph78.html

【肺血栓塞栓症の危険因子】

肺血栓塞栓症は深部静脈血栓症が原因です。深部静脈血栓症の主な危険因子として、血栓形成の危険因子としては、血流停滞、血管内皮障害、血液凝固能亢進が3つが有名です。具体的には、先天性の血液凝固能異常と、下記のような後天性の因子がリスクとなります。

先天性血液凝固能亢進:アンチトロンビン欠乏症、PC欠乏症、PS欠乏症、プラスミノーゲン異常症、異常フィブリノーゲン血症、組織プラスミノーゲン活性化因子インヒビター増加、トロンボモジュリン異常、他

血流停滞:長期臥床、肥満、妊娠、心肺疾患(うっ血性心不全、慢性肺性心など) 、全身麻酔、下肢麻痺、下肢ギプス包帯固定、下肢静脈瘤、長時間座位(旅行、災害時)、他

血管内皮障害:各種手術、外傷、骨折、カテーテル検査、治療、血管炎、抗リン脂質抗体症候群、膠原病、喫煙、静脈血栓塞栓症の既往、他

血液凝固能亢進:悪性腫瘍、妊娠、産後、各種手術、外傷、骨折、熱傷、薬物(経口避妊薬,エストロゲン製剤など)、感染症、ネフローゼ症候群、炎症性腸疾患、多血症、抗リン脂質抗体症候群、脱水、他

血栓形成に至る基礎疾患が明らかでないものは、特発性静脈血栓塞栓症と呼びますが、悪性腫瘍の合併に注意です。悪性腫瘍があると凝固能異常を来すことがあり、深部静脈血栓症をきっかけに悪性腫瘍が見つかることがあります。逆に、癌患者が凝固能亢進によって脳梗塞等の血栓症を起こすことを、Trousseau症候群と言います。

【肺血栓塞栓症の診断】

肺血栓塞栓症の診断は、肺動脈の血栓の存在の証明です。臨床症状と危険因子から検査の必要性を判断します。様々な検査がありますが、胸部造影CTは感度94.5%、特異度98.2%と報告されており、検査前臨床的確率が低い群での陰性的中率96%と診断の否定も含め、胸部造影CTは有用です。胸部レントゲン、心電図検査のみで診断可能な特異的な所見がなく、診断も除外も出来ません。採血検査におけるDダイマーは、感度が高いのですが特異度が低いのが問題点で、検査前臨床的確率が低い場合の否定に有用ですが、検査前確率が高い場合Dダイマーのみでは診断が出来ずに、確定診断のために追加検査が必要になります。お茶の水循環器内科のような院内に臨床検査室設備のない多くのクリニックでは採血結果が出るまでに数日間を要してしまう点が限界です。以上から、お茶の水循環器内科では、胸部造影CT検査を行うかどうかの判断が重要になります。

胸部CT→https://循環器内科.com/cct

胸部造影CTにて肺動脈内に血栓像があれば肺血栓塞栓症の診断になりますし、胸部造影CTにて肺動脈内に血栓像がなければ肺血栓塞栓症ではないという診断になります。御茶ノ水駅前のメディカルスキャニングお茶の水という画像検査専門の施設にて検査を手配します。特に何も症状はないけれどなんとなく肺血栓塞栓症が心配という場合、保険適応外でドックとなり、ドックの費用が掛かります。詳しくは胸部CTのページをご覧ください。

【肺血栓塞栓症の治療】

重症度分類としては、循環動態と血栓の大きさによって分類します。

・心停止あるいは循環虚脱あり

・広範型(massive):血行動態不安定、 ショックあるいは低血圧(あらたに出現した不整脈、脱水、敗血症によらず、15分以上継続する収縮期血圧<90 mmHgあるいは ≧40 mmHgの血圧低下)

・亜広範型(submassive):血行動態安定、右心負荷所見あり

・非広範型(non-massive):血行動態安定、右房負荷所見なし

肺血栓塞栓症と診断した場合には原則入院後にて、抗凝固療法、血栓溶解療法を開始します。抗凝固療法には、 未分画ヘパリン、フォンダパリヌクス、ワルファリン、直接経口抗凝固療薬、などがあります。血栓溶解療法にはモンテプラーゼがあります。薬物療法に加えて、下大静脈フィルター、カテーテル的血栓摘除(catheter assisted thrombus removal: CATR)、外科的血栓摘除術を選択する場合もあります。重症例では、経皮的心肺補助(percutaneous cardiopulmonary support: PCPS)の補助も用意します。詳しくは入院後、主治医が判断します。また、急性肺血栓塞栓症の多くは下肢深部静脈血栓症を塞栓源としているため、急性肺血栓塞栓症と診断した場合には、同時に下肢深部静脈血栓症の有無も評価して行きます。

詳しく「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン」をご覧ください。

「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)」→https://j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf

【まとめ】

肺血栓塞栓症の診療においては、危険因子、臨床症状とともに、肺血栓塞栓症の診断が重要になります。お茶の水循環器内科では主に胸部造影CTの適応について評価をしています。飛行機に載った人、長距離バスに載った人全員が肺血栓塞栓症を起こす訳ではありません。胸部造影CTにて異常がなければ肺血栓塞栓症なしということがわかります。まずは主治医までご相談ください。

胸部CT→https://循環器内科.com/cct