【胸部大動脈瘤とは】
胸部大動脈瘤(Thoracic aortic aneurysm: TAA)とは、心臓から出る一番太い血管、大動脈が膨らんだ状態です。大動脈瘤破裂を起こすと致死的です。未破裂の状態では症状がほとんどないため検診等で発見される場合があります。大動脈は心臓から出て、大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下降大動脈となり、横隔膜までを胸部大動脈、横隔膜から下を腹部大動脈と呼びます。大動脈基部から冠動脈が分岐、弓部大動脈からは腕頭動脈、右総頚動脈、右鎖骨下動脈が分岐します。腹部大動脈からは腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈、腎動脈が分岐し、左右の総腸骨動脈となります。大動脈の正常径は一般的に胸部大動脈30mm、腹部大動脈20mmとされており、正常経の1.5倍以上、胸部大動脈で45mm以上、腹部大動脈で30mm以上拡大した状態を大動脈瘤(aneurysm)と呼びます。30-45mmは瘤状拡張(aneurysmal dilatation)と呼び、経過観察します。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。
→https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/cvs/vascular/vascular-tr-01.html
【胸部大動脈瘤の原因】
一番多い原因は動脈硬化性です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、加齢など様々な因子が関係しますが、最も影響するのは血圧と喫煙です。生まれつき結合組織が弱い病気、Marfan症候群やEhlers-Danlos症候群など、先天性の結合組織異常が見つかる場合もあります。その他、外傷性、炎症性、感染性など原因となります。大動脈瘤が見つかった場合は、大動脈瘤の部位、動脈壁の形態、瘤の形などから分類されます。大動脈の動脈壁は、内膜、中膜、外膜の3層からなり、大動脈瘤の動脈壁の形態により、真性大動脈瘤、仮性大動脈瘤、解離性大動脈瘤と分類します。
【胸部大動脈瘤の管理】
胸部CTによって胸部大動脈瘤のサイズを評価し、拡大スピードとともに経過観察を行います。具体的には、最大短径55mm以上の場合は手術適応を考慮します。最大短径45mm未満の場合は半年に一度、胸部CTにて大動脈経を評価、半年間で拡大がなければ年に一回の評価とする。半年で5mm未満の拡大の場合は経過観察の頻度を半年に一度とします。半年で5mm以上の拡大を認める場合は手術適応を考慮します。最大短径45mm-55mmはケースバイケースで、手術適応を選択する場合もあれば、半年ごとに経過観察を行う場合があります。Marfan症候群等の先天性疾患の場合は最大短径45mm-55mmでも手術を検討します。詳しくは「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版)」をご覧ください。
→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf
【胸部大動脈瘤の治療】
胸部大動脈瘤の治療の目的は胸部大動脈瘤破裂の予防です。大動脈瘤のサイズと拡大スピードから手術適応を判断します。手術適応となった場合、手術の方法として、人工血管置換術とステントグラフト内挿術の2つがあります。大動脈弁輪拡張症に対しては大動脈基部置換術があります。手術は胸部外科、心臓血管外科の領域になりますので、速やかに紹介します。詳しくは日本胸部外科学会のページをご覧ください。
→https://www.jpats.org/modules/general/index.php?content_id=16
手術適応を満たさない場合は、保存的に経過観察を行います。経過観察において重要なことは、血圧管理と禁煙です。国内でエビデンスは限られますが、収縮期血圧105-120mmHgを目標とした厳格な血圧管理が求められます。少なくとも130mmHg未満を目指します。降圧薬としてはβブロッカーが第一選択で、最大量のβブロッカー投与でも十分な降圧に達しない場合、他の降圧薬を追加します。
・禁煙、喫煙は明らかに大動脈瘤拡大の悪化因子であることがわかっています。禁煙しましょう。
・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、セロケン(メトプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、血圧を下げて、脈を下げて、脈圧を下げます。大動脈瘤の拡大を抑制を期待して使います。詳しくは高血圧症のページもご覧ください。
・高血圧症→https://循環器内科.com/ht
【胸部大動脈瘤の予防】
・高血圧症→https://循環器内科.com/ht
・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl
・糖尿病→https://循環器内科.com/dm
・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld
胸部大動脈瘤の予防としては、動脈硬化性の危険因子を予防が重要です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、動脈硬化のリスク因子があればそれを治療しましょう。修正可能なリスク因子をコントロールして、胸部大動脈瘤にならないようにしましょう。