β遮断薬

【β遮断薬とは】

β遮断薬(beta blocker)とは、交感神経のβ受容体への作用をブロックする薬です。交感神経は心臓への作用として、強心作用を発揮しますが、長期的には心臓への負担を増やし、心臓は疲れ果てて心不全という状態になってしまいます。βブロッカーは、心臓を適度に休めることで心機能を保護する作用があることがわかっています。具体的には、心筋の収縮力を落とす作用(陰性変力作用: negative inotropic effect)と心拍数を減らす作用(陰性変時作用: negative chronotropic effect)の2つの作用からなります。

【β遮断薬の適応】

心筋酸素需要(Myocardial oxygen demand)という概念があります。これは心臓の筋肉が必要とする酸素の量が多ければ多いほど、心臓への負担が大きいという考え方で、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、心不全、肥大型心筋症などでは心筋酸素需要を軽減することが治療における一つの共通したコンセプトです。頻脈性の心房細動等の頻脈性不整脈に対してはレートコントロール目的に使います。また、交感神経による血圧上昇作用をブロックすることで降圧作用、収縮期血圧と拡張期血圧の差、脈圧を軽減する作用から大動脈疾患の進行抑制効果を期待しても使われます。詳しくは下記ページをご覧ください。

労作性狭心症→https://循環器内科.com/eap

陳旧性心筋梗塞→https://循環器内科.com/omi

心不全→https://循環器内科.com/hf

肥大型心筋症→https://循環器内科.com/hcm

高血圧症→https://循環器内科.com/ht

胸部大動脈瘤→https://循環器内科.com/taa

急性大動脈解離→https://循環器内科.com/aad

【β遮断薬のエビデンス】

心臓の脈や収縮力を適度に落として心臓を休ませ、心筋梗塞の再発を防ぎます。事実、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、セロケン(メトプロロール)では大規模臨床試験によって心保護作用が立証されています。

・アーチスト(カルベジロール)

αβブロッカーという薬です。死亡のリスクが65%有意に減少することがUS Carvedilol HF試験にて立証されています。心血管死、非致死性心筋梗塞、全死亡が有意に減少することがCAPRICORN試験によって立証されています。心不全、頻脈に対して心保護作用のために使います。β1選択性なし、α:β遮断作用1:8

https://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c1999087.html

https://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2001069.html

・メインテート(ビソプロロール)、ビソノテープ(ビソプロロール)

死亡率、心血管死、入院リスクが有意に減少することがCIBIS II試験にて立証されています。心不全、頻脈に対して心保護作用のために使います。貼付薬、ビソノテープがあります。β1選択性75:1、内因性交感神経刺激作用(Intrinsic Sympathomimetic Activity: ISA)-

https://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c1999173.html

・セロケン(メトプロロール)

全死亡、突然死、心不全悪化による死亡が有意に減少することがMERIT-HF試験にて立証されています。心不全、頻脈に対して心保護作用のために使います。

https://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2000061.html

・インデラル(プロプラノロール)

静注薬があります。β1選択性あり、内因性交感神経刺激作用なし

・アロチノール(アロチノロール塩酸塩)

αβブロッカーです。本態性振戦に適応があります。

【アドレナリン受容体とは】

アドレナリン受容体とは、アドレナリンを始めとしたカテコラミン(ドパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)と呼ばれる交感神経刺激が臓器に影響に及ぼす際に作用する受容体です。α1、α2、β2、β3、β3の5種類があり、さらにドパミン受容体Dがあります。やや専門的になりますが、交感神経に関わる薬剤の作用はアドレナリン受容体の作用から理解が可能です。

α1:末梢血管収縮、心筋収縮力増加、腎血管収縮、散瞳

α2:末梢血管収縮、膵島分泌抑制

β1:心拍数増加、心筋収縮力増加、房室伝導促進

β2:気管支弛緩、冠動脈拡張、腎血管拡張、末梢血管拡張

β3:脂肪分解促進、膀胱平滑筋弛緩

D:腎血管拡張

循環器内科では、基本的に心保護作用を期待してβブロッカーを使います。心臓を休めたい、心筋酸素需要を減らしたいのが目標ですので、α1、α2、β1作用はブロックしつつ、β2、β3、D作用はブロックしたくないのが理想です。理想に一番近いのがアーチスト(カルベジロール)であり、特にβ2作用をブロックをしたくない時に向いているのがβ1選択性が高いメインテート(ビソプロロール)です。