【急性冠症候群とは】
急性冠症候群(Acute coronary syndrome: ACS)とは、冠動脈疾患のうち緊急で対処が必要なものです。具体的には、急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction: AMI)と不安定狭心症(Unstable angina pectoris: UAP)の2つをまとめて急性冠症候群と呼びます。急性心筋梗塞とは、心臓の血管、冠動脈が完全に詰まって死に至る状態です。不安定狭心症とは、心臓の血管、冠動脈は詰まってはいないけれど今にも詰まりそうな状態で、急性心筋梗塞の一歩手間の状態です。
・急性心筋梗塞→https://循環器内科.com/ami
・不安定狭心症→https://循環器内科.com/uap
詳しくは急性心筋梗塞、不安定狭心症のページをご覧ください。
【冠動脈疾患の分類】
ここでは冠動脈疾患全般について説明して行きます。
→https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000236.html
冠動脈疾患の分類は、慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト「KOMPAS」のページの図がわかりやすいです。心臓の血管、冠動脈に何らかの狭窄が起こることを冠動脈疾患と言います。心臓の筋肉に酸素が足りない状態、虚血を引き起こすので、虚血性心疾患とも言います。虚血性心疾患には、急性心筋梗塞、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症、労作性狭心症の4つがあります。
・急性心筋梗塞→https://循環器内科.com/ami
・不安定狭心症→https://循環器内科.com/uap
・冠攣縮性狭心症→https://循環器内科.com/vsa
・労作性狭心症→https://循環器内科.com/eap
このうち、急性心筋梗塞、不安定狭心症、労作性狭心症の3つは原因は主に動脈硬化性で、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙と言った冠危険因子の積み重ねによって起こります。例外的に、冠攣縮性狭心症というタイプの狭心症があり、冠攣縮性狭心症だけは動脈硬化性の因子があまりはっきりしないで起こることもあります。急性冠症候群に対して慢性冠動脈疾患と言う呼び方が書いてありますが、重要なことは急性冠症候群か、急性冠症候群ではないか、緊急で対処が必要かそうでないかの判断です。急性心筋梗塞に至っているかどうかは、心筋が壊死に至っているかどうか、採血によって心筋逸脱酵素等を調べることで区別されます。急性心筋梗塞が緊急で対処が必要であることは言うまでもありませんが、狭心症でも急性心筋梗塞に準じて緊急で対処が必要なものとそうでないものとがあります。冠攣縮性狭心症の診断に関しては、最終的にはカテーテル検査によって冠攣縮誘発試験の所見によって診断します。冠攣縮性狭心症について詳しくは冠攣縮性狭心症のページをご覧ください。つまり、不安定狭心症と労作性狭心症の鑑別がキーとなります。
【不安定狭心症と労作性狭心症の鑑別】
不安定狭心症か労作性狭心症の鑑別において、不安定狭心症のBraunwald分類があります。新規発症、亜急性安静、急性安静の3タイプです。具体的には、
ClassⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症
・最近2カ月以内に発症した狭心症
・1日に3回以上発作が頻発するか、軽労作にても発作が起きる増悪型労作狭心症(安静狭心症は認めない)。
ClassⅡ:亜急性安静狭心症
・最近1カ月以内に1回以上の安静狭心症があるが、48時間以内に発作を認めない。
ClassⅢ:急性安静狭心症
・48時間以内に1回以上の安静時発作を認める。
詳しくは日本循環器学会「急性冠症候群の診療に関するガイドライン」をご覧ください。
→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2007_yamaguchi_h.pdf
狭心症の中で上記の基準を満たすものは不安定狭心症として取り扱います。Braunwald分類は冠動脈造影所見ともよく一致していることが知られています。大事なことは、急性心筋梗塞に移行するリスクがどれくらいあるかを評価し、緊急で治療を開始しなくてはならない狭心症を見極めることです。労作性狭心症疑いと判断して実際は不安定狭心症であったことよりも、不安定狭心症疑いと判断して冠動脈カテーテル検査をした結果、労作性狭心症でわかることのほうがベターなので、患者さんと相談のもと、冠動脈CTや冠動脈カテーテル検査を行っています。
【急性冠症候群の治療】
急性冠症候群と診断した場合は、急性心筋梗塞に準じて治療を開始します。
循環器内科の大きな病院で、カテーテル検査によって詰まった血管に対し、そのままバルーン拡張、ステント留置などカテーテル治療を行います。外科的に冠動脈バイパス術が行われることがあります。急性期治療までのつなぎとして以下の初期治療を行います。
・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、抗血小板薬という薬です。血栓が出来て、心筋梗塞が広がることを少しでも防ぎます。急性心筋梗塞と診断し次第、バイアスピリン腸溶錠100mgを3Tから4Tを噛み砕いて舌下投与します。
・硝酸薬、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。静脈拡張作用により心臓への負荷を軽減する効果もあります。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレーがあります。
・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、全身の血管から悪玉コレステロールを回収し、動脈硬化予防、心筋梗塞を強力に抑制します。背景に脂質異常症があり、カテーテルの受診までに日数がある場合使います。
・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、心筋への過度な負担を和らげます。致死的不整脈の出現を抑制することもわかっています。
・酸素投与、低酸素血症がある例に対して酸素投与、冠攣縮性狭心症の関与を疑う場合のカルシウム拮抗薬の投与など、
・心肺蘇生、心停止例や心停止からの蘇生例に対しては心停止時には速やかに心肺蘇生が開始出来るようにモニタリングを行います。
・禁煙、動脈硬化の最大の悪化因子です。喫煙者には禁煙が必要です。
・運動制限、急性心筋梗塞または不安定狭心症を疑った場合に、心筋酸素需要の増大因子、心臓への負担を掛ける動作は好ましくありません。カテーテル病院へ救急車で搬送するのはこのためです。急性心筋梗塞の治療が終わった後に好きなだけ運動しましょう。さらに詳しくは国立循環器病研究センターまたは慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト「KOMPAS」のページをご覧ください。
→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph92.html
→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph34.html
→https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000236.html
【急性冠症候群の予防】
・高血圧症→https://循環器内科.com/ht
・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl
・糖尿病→https://循環器内科.com/dm
・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld
急性冠症候群は動脈硬化が原因です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、心血管疾患のリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいです。逆に、動脈硬化のリスク因子が少なければ少ないほど急性冠症候群にはなりにくいです。これが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が自覚症状がなくても治療が必要な理由です。修正可能なリスク因子をコントロールして、急性冠症候群にならないようにしましょう。