心房中隔欠損

【心房中隔欠損とは】
心房中隔欠損(Atrial septal defect: ASD)とは、先天性心疾患の一つです。右心房と左心房を隔てる心房中隔は、右心房の血液と左心房の血液が混ざらないようにしています。生まれつき心房中隔に孔が空いていることがあり、心房中隔欠損と言います。先天性心疾患は人口の1%程度、心房中隔欠損は先天性心疾患の5-10%を占めます。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。
https://www.ncvc.go.jp/hospital/section/ppc/cardiovascular/tr05_asd.html

【心房中隔欠損の診断】
診断は心エコーにて心房中隔の欠損を確認することによって行います。幼少期に検診等で引っかかり診断が付いている場合もあれば、無症状または症状がほとんどない場合もあり、成人後に見つかる場合もあります。10mm未満の欠損孔は自然閉鎖することもある一方で、10mm以上のサイズの心房中隔欠損はほとんど自然閉鎖しないと言われています。成人後は、息切れ、動悸、易疲労感等の心不全症状、心房細動等の不整脈をきっかけに見つかることもあります。通常は、左心房のほうが右心房よりも圧が高いので、左→右へ血液が流れています。全身へ送り出すはずの血液がもう一回肺へ循環するので、その分肺や心臓に負担が掛かります。肺の血管が固くなり、肺高血圧症を来すと、右心房と左心房の圧が同じになるか逆に右心房のほうが左心房よりも圧が高くなり、右→左へと血液が流れるようになります。アイゼンメンゲル症候群(Eisenmenger’s syndrome)といい、静脈の血液がそのまま全身へ流れるようになってしまい、チアノーゼを来します。 →https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000078.html

【心房中隔欠損の治療】
心房中隔欠損閉鎖術で、心房中隔の欠損を閉じます。手術で直接治す外科的閉鎖術と、カテーテルによる経皮的デバイス閉鎖術とがあります。アイゼンメンゲル化を来してしまうと閉鎖してしまうことで肺高血圧症を悪化させてしまうため、手術が出来なくなってしまうため、心移植が唯一の治療法になります。そのためアイゼンメンゲル化を起こす前の発見、治療が望まれます。日本循環器学会「成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂版)」に手術適応基準が以下のようなあります。
ASDに対する閉鎖術の適応
クラス I
1. 症状の有無にかかわらず,右房・右室拡大を認めるような有意な左―右短絡(目安として Qp/Qs > 1.5)があり,PVR < 5 Wood 単位(400 dynes・秒・cm-5 )の症例
2. 一次孔欠損型,静脈洞型,冠静脈洞型に対する外科的閉鎖術
3. 経皮的デバイス閉鎖術を行う場合,施設基準を満たした施設で,術者基準を満たした医師が施行する
クラスIIa
1. 欠損孔の大きさにかかわらず,ASD による奇異性塞栓症発症例または体位変換性低酸素血症(orthodeoxia-platypnea)が 証明された症例
2. デバイス閉鎖術に適した形態(38 mm 未満で前縁以外の周囲縁が 5 mm 以上)の二次孔欠損型に対するデバイス閉鎖術
3. 同時手術を要するような合併症(中等度以上の三尖弁逆流や僧帽弁逆流,部分肺静脈還流異常など)を有する症例またはデバイス閉鎖術が適さない形態を有する症例に対する外科的閉鎖術
クラス IIb
1. PVR > 5 Wood 単位 (400 dynes・秒・cm-5 )であっても,肺動脈圧 / 体動脈圧< 2/3 または PVR / 体血管抵抗< 2/3 で左―右短絡が証明された症例
クラス III
1. 非可逆的 PH で左―右短絡のない症例
詳しくは日本循環器学会「成人先天性心疾患診療ガイドライン(2017 年改訂版)」をご覧ください。
https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ichida_h.pdf

【お茶の水循環器内科の方針】
先天性心疾患の多くは子どもの頃に発見されますが、大人になってから発見されることも珍しくありません。心電図、胸部レントゲン、ホルター心電図、心エコー等で評価を行い、心不全の評価、手術が必要な場合は適切な医療機関へと紹介します。術後で安定している方は、定期的に心不全や不整脈の出現がないかをフォローしています。いずれにせよ、検診で心雑音や心電図異常を指摘された方は放置をせずに一度受診ください。