二次性高血圧

【二次性高血圧とは】

血圧上昇の原因となる病気があって、その病気の一つの症状として血圧が上昇している場合に、二次性高血圧症と言います。高血圧症患者さん全体の10%程度と言われています。二次性高血圧については、原因を同定して治療することにより効果的に血圧を降下させることが出来るため、二次性高血圧を精査することが重要です。さらに詳しい検査や専門的な治療が必要な場合には高血圧専門医へ紹介します。

【二次性高血圧の鑑別】

二次性高血圧の原因は、ホルモンの異常、血管の異常、腎臓病など、多岐に渡ります。この中でも頻度が高いのが、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸症候群と言われています。それぞれ専門医の担当領域になりますが、簡潔に説明します。

・腎血管性高血圧

腎動脈狭窄等の腎臓へ血液を送る血管に異常があって血圧が上昇している状態です。まずは採血、腎臓エコー等にて血管を調べて行きます。

・腎実質性高血圧症

慢性糸球体腎炎や多発性嚢胞腎などの腎疾患が原因で血圧が上昇している状態です。まずは腎疾患の既往歴を確認、採血にて腎機能を評価します。

・原発性アルドステロン症

血圧を上げるアルドステロンというホルモンが過剰で血圧が上昇している状態です。血液検査でカリウム低値を示すことがありますが、正常値のこともあります。まずは採血にてレニン活性、アルドステロン、腹部CTなどで調べて行きます。

・睡眠時無呼吸症候群

睡眠中の呼吸停止が原因で血圧を上げる交感神経の緊張が過剰になって血圧が上がります。まずは睡眠時無呼吸検査で調べて行きます。

・褐色細胞腫

血圧を上げるカテコラミンというホルモンが過剰で血圧が上がる病気です。採血、血中カテコラミン、尿検査等で調べて行きます。

・クッシング症候群

血圧を上げるステロイドというホルモンが過剰で血圧が上がる病気です。まずは採血にてACTH、コルチゾールなどを調べて行きます。

・末端肥大症

血圧を上げる成長ホルモンというホルモンが過剰で血圧が上がる病気です。採血にてGH、IGF-I、頭部MRIなどで調べて行きます。

・甲状腺機能異常

血圧にも関わる甲状腺ホルモンというホルモンが異常で血圧が上がる病気です。甲状腺ホルモンは他には体温、汗、脈の調整等にも関わっています。採血にてTSH、fT3、fT4などの甲状腺機能、甲状腺特異的抗体等を調べて行きます。

・副甲状腺機能亢進症

血圧にも関わる副甲状腺ホルモンというホルモンが異常で血圧が上昇している状態です。副甲状腺ホルモンは主にカルシウムの調節に関わっています。採血にてPTH、カルシウムなどの副甲状腺機能を調べて行きます。

・血管性高血圧

高安動脈炎、結節性多発動脈炎、全身性強皮症など、血管異常が原因で血圧上昇を来している状態です。エコー等で血管を調べて行きます。

・脳幹部血管圧迫

血圧調節中枢の異常が原因で血圧上昇している状態です。

・薬剤性誘発性高血圧

血圧を上げる作用のある薬剤の影響で血圧が上がる状態です。まずは服薬歴を確認します。頻度の多いものとしては、消炎鎮痛薬、甘草、ステロイド、交感神経刺激薬、抗癌剤などがあります。処方薬だけではなく、一般薬、サプリメント、漢方、健康食品なども関係していることもあります。薬剤ではありませんが、喫煙は明らかに血圧を上げる原因になります。

他、専門的になってしまうため割愛しますが、稀な遺伝疾患など、適切な専門医へ紹介などし、血圧が上がる稀な病気をさらに詳しく調べることがあります。

【二次性高血圧を疑う場合】

・初診時

・若年性の高血圧症

・急性に増悪する高血圧症

・高度の高血圧症

・血圧変動の激しい高血圧症

・薬剤抵抗性の高血圧症

・腎機能障害を伴う場合

・電解質異常を伴う場合

・その他、二次性高血圧を疑う臨床症状を認める場合

普通の高血圧症として治療をしていて、ちゃんと治療しているのに血圧がなかなか下がらない場合、電解質異常などの二次性高血圧を疑うような検査値異常を伴う場合、他の病気を疑う所見や症状を伴う場合、二次性高血圧の可能性を考え、適宜検査を進めていきます。

二次性高血圧を一通り精査しても特に異常が見つからない場合もあります。二次性高血圧を除外出来た場合には本態性高血圧症であることが確定します。むしろ実際のところ、詳しく調べても二次性高血圧の原因が特定出来ない場合も多いです。その場合、薬をちゃんと飲んでいない、減塩を中心とした食事療法をちゃんと出来ていない、運動療法が出来ていないなど、普通の高血圧症としての治療がうまくいっていない可能性を改めて考えます。生活習慣病としての高血圧症の場合は、減塩、運動、減量、禁煙、節酒等が重要です。普通の高血圧症については、高血圧症のページをご覧ください。

高血圧症→https://循環器内科.com/ht


睡眠時無呼吸症候群

【睡眠時無呼吸症候群とは】

睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が停止したり呼吸が低下したりする病気です。夜間の正常な睡眠が障害されるため、日中の眠気、集中力低下で居眠り運転や交通事故の原因、仕事や勉強に支障を来たすだけでなく、睡眠中の低酸素状態が脳や心臓に負担を掛けるため、高血圧症、糖尿病、狭心症、心筋梗塞、様々な不整脈、脳卒中、など循環器病の悪化要因になります。いびき、日中の眠気を自覚していたら、まずは睡眠時無呼吸症候群の検査を受けましょう。詳しくは国立循環器病研究センターまたは帝人のサイトをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/general/pamph101.html

https://659naoso.com

【睡眠時無呼吸症候群の検査】

睡眠時無呼吸症候群の検査はまずは自宅で検査機器を一晩装着して調べる検査、簡易無呼吸検査にて睡眠中の呼吸状態を調べて行きます。睡眠中に呼吸が10間以上停止していることを無呼吸、呼吸停止までは至っていないけれど呼吸が弱い状態を低呼吸といい、一時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数、無呼吸低呼吸指数(Apnea Hypopnea Index:AHI)を測定します。

AHIの正常範囲は0から5未満です。AHI 5以上で睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing: SDB)、AHI 15以上で睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)と診断します。AHI 40以上で重症と診断です。睡眠時無呼吸症候群の原因として、多くは気道のどこかが閉塞して無呼吸が発生する閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome: O-SAS)と、脳からの呼吸の命令に障害がある中枢性睡眠時無呼吸症候群(Central Sleep Apnea Syndrome: C-SAS)、両者の混合型があります。簡易無呼吸検査で無呼吸ありと判断された場合、閉塞性か中枢性かの診断、睡眠時無呼吸症候群専門の医療機関にて一泊のさらに詳しい検査の「終夜睡眠ポリソムノグラフィー(Overnight Sleep Polysomnography: PSG)」を進めて行きます。

睡眠時無呼吸症候群は非常に多い疾患で、症状は睡眠中に起こるため、本人の自覚があまりないことも多く、一人暮らしや単身赴任ですと見逃されていることが少なくありません。日本人の場合はもともと顎の骨格が小さいなど気道が閉塞しやい場合が多く、肥満体型の方だけではなく、痩せ型体型の方でも睡眠時無呼吸症候群を隠れていることがあります。重症の睡眠時無呼吸症候群は、狭心症や心筋梗塞、不整脈、脳卒中なども多いことがわかっていますので、いびきや日中の眠気を自覚していたら放置せずに検査、治療を行いましょう。

【睡眠時無呼吸症候群の治療】

睡眠時無呼吸症候群の治療は主に睡眠時無呼吸症候群の専門医療機関にて行います。幸い、都内には睡眠時無呼吸症候群専門の医療機関が多数ありますので、自宅近く、職場近く、通勤路等で定期的な通院が可能なところを見付けましょう。

https://659naoso.com/tokyo

睡眠時無呼吸症候群の治療法にはいくつか選択肢があります。

・持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure: CPAP)、呼吸器治療

・口腔内装置(Oral Appliance: OA)、マウスピース治療

・体重増加が見られる場合は減量、寝る姿勢、まくらや寝具の工夫、寝る前の大量の飲酒を避ける、喫煙による気道炎症や浮腫を避ける、などの生活習慣の改善

・通常あまり適応になることは少ないですが、手術療法

・エビデンスはないものの市販品で鼻腔を開くテープなど

通常CPAPの治療が可能であればCPAPを行います。治療を行うにつれて、日中の眠気、集中力低下などの自覚症状は改善します。高血圧症、不整脈、肩こりや首のこり、など睡眠時無呼吸症候群に関連した合併症も次第に改善していくることが多いです。CPAPは最初は抵抗感がある方がほとんどですが、多くの場合は続けていると次第に慣れて来ますので、頑張って継続してみましょう。お茶の水循環器内科では治療が必要と考えられる睡眠時無呼吸症候群が見付かった場合、睡眠時無呼吸症候群専門の医療機関へ紹介して治療をしてもらっています。いびきや日中の眠気を自覚している場合、まずは検査からやって行きますので受付または主治医までご相談ください。


スタチン

【スタチンとは】

スタチン(Statin)とは、脂質異常症の治療薬で、心筋梗塞を強力に抑制する効果が確立している薬です。循環器診療においてなくてはならない薬です。三共の遠藤章先生らの研究グループを中心に、日本から発見された薬です。

【スタチンの作用機序】

スタチンは、HMG-CoA還元酵素と呼ばれ、肝細胞内におけるメバロン酸経路におけるHMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓におけるコレステロールの生合成を抑制し、血中コレステロールを低下させます。また、二次的に肝臓においてLDL受容体の発現を促し、血中のLDLコレステロールの取り込みを促進、血中LDLコレステロールを低下させます。

・クレストール(ロスバスタチン)

・リピトール(アトルバスタチン)

・リバロ(ピタバスタチン)

・リポバス(シンバスタチン)

・ローコール(フルバスタチン)

・メバロチン(プラバスタチン)

2018年5月現在、6種類のスタチンが発売されています。2017年9月、クレストールのジェネリック、ロスバスタチンが登場したことで、日本国内のスタチン製剤は全てジェネリックがあることになります。

【スタチンの効果】

上記の作用機序から、全身の血管から悪玉コレステロールを回収し、動脈硬化予防、心筋梗塞を強力に抑制します。

一つエビデンスを紹介すると、2008年に発表された「JUPITER試験」は、プラセボ対照二重盲検無作為化比較対照試験で、ロスバスタチン20mg/day投与群と、非投与群で比較した結果、心血管イベントの累積発症率はロスバスタチン20mg/day投与群で44%減少(HR 0.56、95% CI:0.46-0.69、p<0.00001)という驚くべき結果となりました。試験の途中でロスバスタチンの有益性が明らかであったため、当初の試験計画よりも早期に打ち切りとなった試験です。心血管イベントの予防効果は、NNT(Number Needed to Treat)=25人と、非常に強力な予防効果です。スタチンによる強力な心筋梗塞予防効果は、他に、4S試験、WOSCOP試験、HPS試験、ASCOT-LLA試験、LIPID試験、CARDS試験、J-LIT試験、IMPROVE-IT試験、REAL-CAD試験等で、立証されています。スタチンによる心筋梗塞予防作用は、海外、国内を問わず共通です。心筋梗塞予防のためにほぼ必須な薬の一つと言えるでしょう。スタチンのエビデンスは紹介出来ないくらいたくさんあるので、ご興味がある方は循環器トライアルデータベースをご覧ください。

循環器トライアルデータベース→https://circ.ebm-library.jp/trial/index_top.html

【スタチンの適応】

スタチンの添付文書の効能効果は「脂質異常症」です。スタチンを使う目的は「心筋梗塞を防ぐこと」です。LDLコレステロールに関して脂質異常症の診断基準はLDLコレステロール 140mg/dl以上です。実臨床では、LDLコレステロールの値によりますが、LDLコレステロールの値が高い場合、家族性高コレステロール血症または家族性高コレステロール血症の疑いが強い場合、他に高血圧症、糖尿病、喫煙など冠動脈疾患のリスク因子が多くハイリスク群である場合、スタチンの適応となります。また心筋梗塞後はスタチンを使えない理由がない限り心筋梗塞の再発予防のためほぼ必須で使います。スタチンの心筋梗塞予防効果は、LDLコレステロール値を下げれば下がるほど良いということがわかっており、「the lower the better」であると表現されます。具体的な治療目標値は140未満、心筋梗塞後は100未満、可能であれば70未満、家族性高コレステロール血症の場合も100未満、可能であれば70未満、です。

【スタチンの副作用】

肝障害、筋障害の2つが二大副作用です。投与初期に起こることが多いため、スタチン開始後最初の1ヶ月程度で、LDLコレステロール値が治療目標値を達成しているかと合わせて同時に副作用がないかを採血チェックを行います。飲み始めに問題がなければその後は季節に一度、半年に一度程度のフォローで問題ないでしょう。家族性高コレステロール血症を除いて、脂質異常症は生活習慣病ですので、食事療法、運動療法も合わせて重要です。脂質異常症、家族性高コレステロール血症について、それぞれまとめましたので、ご覧ください。

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・家族性高コレステロール血症→https://循環器内科.com/fh

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


家族性高コレステロール血症

【家族性高コレステロール血症とは】

家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)という病気があります。生まれつき悪玉コレステロールの値が高い体質の方がいます。動脈硬化の最大のリスク因子であるLDLコレステロールの値が180から400程度のヘテロ型、500以上のホモ型とあり、いずれも動脈硬化、特に心筋梗塞のハイリスクです。日本人の場合、数百人の一人前後の割合と言われており、そこまで珍しい病気ではありませんが、一方で特に自覚症状がないため、未発見、未診断、未治療の人がかなりの割合でいるだろうと推定されています。詳しくは下記ページをご覧ください。

日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症について」→https://www.j-athero.org/specialist/fh_s.html

【家族性高コレステロール血症と普通の脂質異常症との違い】

家族性高コレステロール血症はLDLコレステロールに関わる遺伝子異常が原因です。LDL受容体、アポB-100、PCSK9等、様々な遺伝子異常が報告されています。生活習慣病としての脂質異常症は、暴飲暴食、運動不足などの不適切な生活習慣病を背景に発症、中高年くらいから動脈硬化が始まるのに対し、家族性高コレステロール血症は生まれつき若年の頃から動脈硬化が始まっており、同じ脂質異常症でも動脈硬化の程度、心筋梗塞のリスクが全く異なります。家族性高コレステロール血症の場合は早期から確実な動脈硬化に対する治療、心筋梗塞の予防のための脂質低下療法が必要です。

【家族性高コレステロール血症の診断基準】

日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」に「成人(15歳以上)FHヘテロ接合体診断基準」があります。

(1)高LDL-C血症(未治療時のLDL-C 180mg/dL以上)

(2)腱黄色腫(手背、肘、膝、アキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫

(3)FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内の血族)

(※続発性高脂血症を除外した上で診断する。2項目が当てはまる場合、FHと診断する。FH疑いの際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。アキレス腱肥厚は軟線撮影により9mm以上にて診断する。LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。 FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。)

家族性高コレステロール血症かどうかはある程度原因遺伝子が特定されて来ており、遺伝子検査希望される場合は専門医療機関を紹介します。詳しくは日本動脈硬化学会のページをご覧ください。

日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症の紹介可能な施設等一覧」→https://www.j-athero.org/specialist

若い頃からコレステロール高値を指摘されていた、家族でコレステロール高値や心筋梗塞が多い家系、食事や運動には大きな問題がないのにコレステロール高いと言われている、健診で脂質が引っ掛かった、などの方は一度主治医にご相談しましょう。

【家族性高コレステロール血症の治療】

家族性高コレステロール血症の治療目標値は、LDL 100未満です。通常の生活習慣病としての脂質異常症とは異なり、冠動脈疾患の発症リスクが極めて高いため、より厳格に脂質管理が必要です。LDL 100未満に到達しない場合も、未治療時の50%未満の到達を目標とします。家族性高コレステロール血症の治療の目的は、主に心筋梗塞の予防です。何も起こらないことが治療の効果であるため、治療を継続することが大きな課題です。暴飲暴食、運動不足など不適切な生活習慣がある場合は生活習慣の改善も重要です。家族性高コレステロール血症の場合、ほとんどの例で薬物療法が必要になります。

・クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、リポバス(シンバスタチン)、ローコール(フルバスタチン)、メバロチン(プラバスタチン)、悪玉コレステロールを強力に下げるスタチンと呼ばれる基本薬で、心筋梗塞を強力に抑制する効果が確立している薬です。特に飲めない理由がない限り積極的に使います。スタチンは100人中1人くらいの頻度で肝機能障害や筋障害が出ることがありますが、残り99人は問題なく内服継続出来ます。内服後最初の4週間程度で、LDLがしっかりと下がっていること、肝機能障害や筋障害等の副作用が問題ないことを採血でチェックします。

・ゼチーア(エゼチミブ)、腸からのコレステロールの吸収を抑える薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・コレバイン(コレスチミド)、クエストラン(コレスチラミン)、陰イオン交換樹脂、レジンと呼ばれる薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・ロレルコ(プロブコール)、家族性高コレステロール血症等で黄色腫の退縮を期待して使います。

・レパーサ(エボロクマブ)、プラルエント(アリロクマブ)、PCSK9阻害薬と呼ばれる新薬です。スタチンに併用します。LDLを血中から肝細胞内に取り込むLDL受容体の分解を促進するPCSK9(Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9)を阻害することで、血中のLDLを劇的に低下させます。薬価が高価であること、二週間に一回または月に一回の皮下への注射を定期的に続けること、などいくつかの難点がありますが、LDL低下効果は70%にも達するとも言われており、LDL管理目標未達成であった方に対して治療の強化、LDLアフェレーシスからの離脱例も報告されています。必要な場合は専門施設へ紹介します。

・ベザトール(ベザフィブラート)、リピディル(フェノフィブラート)、パルモディア(ペマフィブラート)、主に中性脂肪を重点的に下げる作用です。主に中性脂肪だけ高い場合に使います。コレステロールと中性脂肪、両方とも正常値であることが勿論望ましいのですが、どちらか一方下げるのが大事かと言われたら、悪玉コレステロールを下げることが優先です。

・ユベラ(トコフェロールニコチン酸エステル)、ニコチン酸系薬です。末梢血管循環改善作用などを期待して使います。

・エパデール(イコサペンタエン酸エチル)、ロトリガ(オメガ-3脂肪酸エチル)、多価不飽和脂肪酸です。善玉コレステロールを上げる作用とともに、弱い抗血小板作用があります。

・LDLアフェレーシス、血液を体外へ循環させて、LDLを血中から直接取り除く方法です。上記の薬物療法にてLDLが十分に低下しない場合適応になります。必要な場合は専門施設へ紹介します。

難病情報センター「家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)」→https://www.nanbyou.or.jp/entry/65

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


脂質異常症

【脂質異常症とは】

第一に、脂質異常症の治療の目的は冠動脈疾患や脳卒中等の動脈硬化性疾患を予防することです。そのためには、脂質異常症だけではなく、高血圧症、糖尿病、喫煙、肥満、メタボリック症候群、慢性腎臓病等の動脈硬化性疾患の危険因子の包括的管理が重要です。脳血管疾患、心血管疾患を含む包括的なリスク評価としては、日本内科学会「脳心血管病予防のための包括的リスク管理チャート」が有用です。
https://www.naika.or.jp/info/crmcfpoccd

【脂質異常症の検査】

脂質異常症は血液検査によって診断します。採血にて、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(TG)の値を検査します。LDL 140以上、HDL 40未満、TG 150以上の場合、脂質異常症と診断します。普段の検診項目にも含まれているので検診で引っかかるのをきっかけに受診される場合も多いです。上記項目の中でも特に重要なのが、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールです。200人から500人に1人程度、家族性にコレステロールが高いという方がいますが、これは遺伝的な体質によるなので、心筋梗塞予防のためには早期から確実な脂質低下の治療が必要です。家族性高コレステロール血症かどうかはある程度原因遺伝子が特定されて来ており、遺伝子検査希望される場合は専門医療機関を紹介します。LDLが非常に高い値の場合、何年も放置している場合は既に動脈硬化を来しているリスクがありますので、必要に応じて冠動脈CTや頸動脈エコー等、動脈硬化の有無と程度を評価します。

【LDLコレステロールと冠動脈疾患の関係】

LDLコレステロール値と冠動脈イベントの発症率について、2004年の「Journal of the American College of Cardiology」にまとめた図が有名です。上図から、LDLコレステロール値と冠動脈イベント発症率はほぼ直線的に比例関係にあることがわかります。図からわかることは、一次予防、二次予防を問わず、LDLコレステロールの値が高ければ高いほど心筋梗塞のリスクは高くなり、LDLコレステロールの値が低ければ低いほど心筋梗塞を起こすリスクは低いということがわかります。検診等では便宜上、LDLコレステロールの値を120や140で基準値を設定することが多いのですが、実際はLDLコレステロールの値に適正値というのはなく、低ければ低いほど良いことがわかっています。これを「the lower the better 」と表現します。LDLは低ければ低いほど良く、これは、血圧が低過ぎれば低血圧症で倒れてしまうこと、血糖が低過ぎれば低血糖で倒れてしまうこととは対照的で、LDLは低過ぎることによる害はないことがわかっています。

【脂質異常症の治療】

脂質異常症の治療は大きく、食事療法、運動療法、脂質を下げる薬の3つに分かれます。LDLの値は低ければ低いほどいいです。どういった治療法でもよいのですが、大事なことは脂質をしっかりと下げ、それを継続することです。管理目標値としては、まず冠動脈疾患の既往の有無、冠危険因子、生活習慣、家族歴等から発症リスクを評価します。具体的には、吹田スコアという絶対リスクによって評価を行います。
https://www.j-athero.org/publications/gl2017_app.html

具体的には、LDLコレステロールの管理目標値は、低リスク群で160、中リスク群で140、高リスク群で120、二次予防群では100未満、さらにハイリスク群では70未満です。HDL、TGは管理目標値は同一です。吹田スコアは上記リンクから30秒程度で計算可能です。

脂質異常症の一番の原因は、家族性の場合を除いて、ズバリ、脂質の摂り過ぎです。脂っこいもの、揚げ物、油がいっぱいのラーメン、肉の脂身、動物脂(牛脂、ラード、バター)、乳製品など脂質摂り過ぎがないか食生活を見直してみてください。油物は食べていないと思われる方は、油っぽくない脂質に注意です。特に乳脂肪も動物性脂肪ですので、生クリーム、バター、チーズ、カスタード、菓子パン、清涼飲料水、クリーム入りのコーヒー、など、一見油ものっぽくはないですが、動物性脂肪の摂り過ぎがないか振り返って見てください。乳製品や加工食品は脂っぽい食感でないためか脂質を摂っている意識が薄いことも多いので注意です。一方で、青魚などの魚系の油、植物系の油などは善玉コレステロールを上げる作用があり、青魚を生成したEPA製剤、DHA製剤などは医薬品にもなっています。魚、大豆、野菜、海藻、きのこの摂取を増やすことも良いです。オリーブオイルは基本は良質な脂質と言われていますが、粗悪なもの、日が経ってしまったものは飽和脂肪酸や中性脂肪が多い場合もあり、注意が必要です。

運動療法としては、中程度以上の有酸素運動を一日合計30分以上、毎日続けることが望ましい、少なくとも週3日以上を目標とします。具体的には、ウォーキング、速歩、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギング、サイクリング、ベンチステップ運動などです。適度な運動であれば運動の種類にこだわり過ぎる必要はありません。大切なのは生活習慣として続けられることですので、普段の生活で続けられる運動を選びましょう。

【脂質異常症の薬】

脂質異常症の薬は、食事や運動で十分に脂質が下がらない場合に開始となります。脂質の薬は一度始めたら一生辞められなくなるのか?、いつまで飲めばいいのか?という質問に対しては、治療目標値をベースに考えます。LDLを140未満、心筋梗塞後の再発予防であればLDLを100未満といった値が目標です。具体的には、脂質の目標値をLDL 140未満とした場合、脂質の薬を飲み始めて、例えばLDLが180から140に下がったとします、すると、薬で下がっている効果の分は40前後と考えられますから、食事療法と運動療法でしっかりと脂質を下げ、例えば一年後にLDLが90くらいでしっかりと安定したとすれば、その後、薬を辞めたとしてもLDLは130前後に戻るだけですので、薬を辞めても大丈夫と判断します。下記にお茶の水循環器内科でよく出る薬をまとめました。

・クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、リポバス(シンバスタチン)、ローコール(フルバスタチン)、メバロチン(プラバスタチン)、悪玉コレステロールを強力に下げるスタチンと呼ばれる基本薬で、心筋梗塞を強力に抑制する効果が確立している薬です。特に飲めない理由がない限り積極的に使います。スタチンは100人中1人くらいの頻度で肝機能障害や筋障害が出ることがありますが、残り99人は問題なく内服継続出来ます。内服後最初の4週間程度で、LDLがしっかりと下がっていること、肝機能障害や筋障害等の副作用が問題ないことを採血でチェックします。

・ゼチーア(エゼチミブ)、腸からのコレステロールの吸収を抑える薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・ベザトール(ベザフィブラート)、リピディル(フェノフィブラート)、パルモディア(ペマフィブラート)、主に中性脂肪を重点的に下げる作用です。主に中性脂肪だけ高い場合に使います。コレステロールと中性脂肪、両方とも正常値であることが勿論望ましいのですが、どちらか一方下げるのが大事かと言われたら、悪玉コレステロールを下げることが優先です。

・レパーサ(エボロクマブ)、プラルエント(アリロクマブ)、PCSK9阻害薬と呼ばれる注射型の治療薬です。強力にLDLコレステロールを下げて、心筋梗塞を抑制します。

・コレバイン(コレスチミド)、クエストラン(コレスチラミン)、陰イオン交換樹脂、レジンと呼ばれる薬です。上記の薬で十分に下がらない場合に併用します。

・ロレルコ(プロブコール)、家族性高コレステロール血症等で黄色腫の退縮を期待して使います。

・ユベラ(トコフェロールニコチン酸エステル)、ニコチン酸系薬です。末梢血管循環改善作用などを期待して使います。

・エパデール(イコサペンタエン酸エチル)、ロトリガ(オメガ-3脂肪酸エチル)、多価不飽和脂肪酸です。善玉コレステロールを上げる作用とともに、弱い抗血小板作用があります。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


心臓MRI

【心臓MRIとは】

心臓MRI(Cardiac Magnetic Resonance Imaging: Cardiac MRI)とは、核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging:  MRI)を使って、心臓の血管、冠動脈冠動脈(Coronary Artery)に異常がないか、心臓の筋肉、心筋に異常がないかを詳しく調べる検査です。心臓CTに対して、心臓MRIは撮影や解析に高いスキルが要求される検査ですが、放射線被曝がないこと、ヨード造影剤を使わないこと、心筋、弁、心機能なども詳細に評価が可能であること、などが利点です。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph64.html

【心臓MRIの特徴】

心臓の病気には様々な病気がありますが、大きく、心臓の血管、冠動脈に異常がある病気、心筋そのものに異常がある場合、心臓の弁に異常がある場合、心臓の動き、脈に異常がある場合、その他、と大きく5つに分類されます。

(1)冠動脈疾患:狭心症、心筋梗塞、虚血性心疾患

(2)心筋症:肥大型心筋症、拡張型心筋症、拘束型心筋症、その他の心筋症

(3)弁膜症:僧帽弁狭窄症、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症、大動脈弁逆流症、他、

(4)不整脈:期外収縮、心房細動、上室性頻拍、心室頻拍、心室細動、他

(5)その他の心疾患、心サルコイドーシス、先天性心疾患、心筋炎、感染症心内膜炎、他

心臓MRI、冠動脈MRA(Coronary Magnetic Resonance Angiography: Coronary MRA)、ガドリニウム造影剤による造影MRIを組み合わせることによって、心疾患全般の詳細な評価が可能です。造影心臓MRIによる遅延造影(Late Enhanced)という所見は虚血性心疾患、陳旧性心筋梗塞の検出、虚血や梗塞の鑑別や判定に有用です。放射線を使わない検査であるため、何度も繰り返し検査可能である点も利点でしょう。採血、心電図、ホルター心電図、心エコー、心臓CT、心臓カテーテル検査、とさらに必要な検査を追加していくこともあります。

【心臓MRIの費用や時間】

保険適応の場合、3割負担で、1万2千円程度です。時間は検査自体は45分くらい、全体で120分前後あれば大丈夫でしょう。心エコー、ホルター心電図、心臓MRIなど他の検査を追加する場合はそれぞれ追加の検査代、時間が掛かります。また、特に何も症状はないけれどなんとなく心臓が心配という場合、保険適応外で心臓ドックとなり、ドックの費用が掛かります。

【心臓MRIの注意事項】

・強力な磁場を使う検査です。MRI検査室には原則として金属や磁性体が含まれているものは持ち込めません。心臓ペースメーカー、埋め込み型除細動器、脳動脈瘤クリップ、人工関節、イレズミなど、体内に金属や電子機器が埋め込まれている場合、検査が出来ないか、MRI対応可能なものか機種の確認が必要になります。メガネ、コンタクトレンズ、下着のワイヤー、指輪、ネックレス、時計、財布、携帯電話、入れ歯、カイロ、エレキバン等、金属や磁性体の含まれるものは全て身体から外す必要があります。

・詳細な心臓の評価のため造影剤を使う場合があります。造影剤アレルギーがあったり、中等度以上の腎機能障害など、造影剤を使えない理由がある場合、気管支喘息、アレルギー体質、妊娠中、妊娠の可能性がある場合も程度によっては注意です。造影剤と相性の悪い薬もありますので、必ず主治医に確認ください。

・MRI検査中は大きな音がします。閉所恐怖症の方は程度にもよりますが検査が難しい場合があります。不整脈や頻脈の場合、体動や不随意運動を制御出来ない場合、30秒間程度の息止め指示等に従えない場合は十分な精度の検査が出来ない場合があります。不整脈や頻脈に関しては抗不整脈薬等である程度コントロール可能です。

・症状、既往歴、禁忌事項、その他様々な背景因子から、心臓CT、心臓カテーテル検査、ホルター心電図検査、心エコー検査など他の検査の適応と判断される場合もあります。

【心臓MRI検査の流れ】

お茶の水循環器内科では主に「心臓画像クリニック飯田橋」さんに心臓画像検査を依頼しています。

心臓画像クリニック飯田橋→https://www.cviclinic.com

1、お茶の水循環器内科から検査の予約を取ります。営業時間外の場合はご自身でご予約の取り方をご説明します。その際に検査の注意事項、前日、当日の確認事項を説明します。

2、予約当日、飯田橋にある心臓画像クリニックに向かいます。予約時間の30分前までには到着するようにしましょう。受付後の流れをざっくり言うと、問診、検査の説明、注意事項の確認、着替え、待合室で検査を待ちます。検査の順番になったら検査室に呼ばれます。心臓MRI自体は45分間程度です。検査後はその日のうちに医師から検査結果の説明があります。もし緊急で対応が必要な状態であると判断された場合は、速やかに適切な医療機関へご紹介という体制です。詳しくは心臓画像クリニックさんのページをご覧ください。

https://www.cviclinic.com/flow.html

3、お茶の水循環器内科に検査結果の報告書が届きますので、後日説明を聞きにいらっしゃってください。異常なしであれば異常なしという説明、治療が必要であれば適宜適切な治療、追加の検査が必要であれば適宜その手配と、それぞれ診察を進めていきます。

【まとめ】

心臓MRIは外来で可能な心臓の検査のうち最も詳しい検査の代表です。心筋梗塞、狭心症といった冠動脈疾患だけでなく、心筋、弁、心機能などの詳細な評価が可能です。低リスクの場合には心疾患の除外に有用です。放射線を使わない検査ですので、定期的に繰り返し検査をすることも問題はありません。まずは主治医までご相談ください。


 

冠動脈CT

【冠動脈CTとは】

冠動脈CT(Coronary Computed Tomography Angiography)とは、心臓の血管、冠動脈(Coronary Artery)に狭窄や梗塞などの異常がないかを詳しく調べる検査です。CTと造影剤を用いて、冠動脈を造影します。心臓の血管の検査で一番詳しい検査は心臓カテーテルによる冠動脈造影(Coronary Angiography: CAG)検査ですが、侵襲的であり、原則入院が必要です。最近の心臓CT検査は心臓カテーテルに匹敵するレベルの精度で冠動脈を評価が出来るようになって来ています。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph64.html

【冠動脈とは】

心臓の血管は冠動脈(Coronary Artery)と呼ばれ、右冠動脈(Right Coronary Artery: RCA)と左冠動脈(Left Coronary Artery: LCA)の2本の血管があります。左冠動脈はさらに3つの部位に分けて呼ばれます。

・右冠動脈(Right Coronary Artery: RCA)

・左主幹部(Left Main Trunk: LMT)

・左前下行枝(Left Anterior Descending Coronary Artery: LAD)

・左回旋枝(Left Circumflex Coronary Artery LCX)

これらの血管が詰まりそうになると狭心症、完全に詰まってしまうと心筋梗塞です。心臓の血管、冠動脈に狭窄や梗塞などの異常がないかを詳しく調べる検査が心臓CTです。

【冠動脈CTの費用や時間】

保険適応の場合、3割負担で、1万円程度です。時間は検査自体は15分くらい、全体で90分前後あれば大丈夫でしょう。心エコー、ホルター心電図、心臓MRIなど他の検査を追加する場合はそれぞれ追加の検査代、時間が掛かります。また、特に何も症状はないけれどなんとなく心臓が心配という場合、保険適応外で心臓ドックとなり、ドックの費用が掛かります。

【冠動脈CTの注意事項】

・造影剤を使う検査です。造影剤アレルギーがあったり、中等度以上の腎機能障害など、造影剤を使えない理由がある場合は検査が出来ません。気管支喘息、アレルギー体質の方も程度によっては注意です。造影剤と相性の悪い薬もありますので、必ず主治医に確認ください。

・CT検査ですので、少なからず放射線被爆があります。妊娠中、妊娠が疑わしい場合は検査が出来ません。心臓ペースメーカー、埋め込み型除細動器、脳動脈瘤クリップ、人工関節など、体内に金属や電子機器が埋め込まれている場合、検査を避けるべきか、十分な精度の検査が出来ない場合があります。放射線被曝の程度としては、毎月撮るものではありませんので、年に一回くらいは大きな問題はないというイメージでよいかと思います。

・不整脈や頻脈の場合、体動や不随意運動を制御出来ない場合、30秒間程度の息止め指示等に従えない場合は十分な精度の検査が出来ない場合があります。不整脈や頻脈に関しては抗不整脈薬等である程度コントロール可能です。高度の石灰化病変がある場合、冠動脈内部の評価が難しいケースがありますが、実際に検査をしてみないとわかりません。

・症状、既往歴、禁忌事項、その他様々な背景因子から、心臓MRI、心臓カテーテル検査、ホルター心電図検査、など他の検査の適応と判断される場合もあります。

【冠動脈CT検査の流れ】

お茶の水循環器内科では主に「心臓画像クリニック飯田橋」さんに心臓画像検査を依頼しています。

心臓画像クリニック飯田橋→https://www.cviclinic.com

1、お茶の水循環器内科から検査の予約を取ります。営業時間外の場合はご自身でご予約の取り方をご説明します。その際に検査の注意事項、前日、当日の確認事項を説明します。

2、予約当日、飯田橋にある心臓画像クリニックに向かいます。予約時間の30分前までには到着するようにしましょう。受付後の流れをざっくり言うと、問診、検査の説明、注意事項の確認、着替え、待合室で検査を待ちます。検査の順番になったら検査室に呼ばれます。心臓CT自体は15分間程度です。検査後はその日のうちに医師から検査結果の説明があります。もし緊急で対応が必要な状態であると判断された場合は、速やかに適切な医療機関へご紹介という体制です。詳しくは心臓画像クリニックさんのページをご覧ください。

https://www.cviclinic.com/flow.html

3、お茶の水循環器内科に検査結果の報告書が届きますので、後日説明を聞きにいらっしゃってください。異常なしであれば異常なしという説明、治療が必要であれば適宜適切な治療、追加の検査が必要であれば適宜その手配と、それぞれ診察を進めていきます。

【まとめ】

冠動脈CTは外来で可能な心臓の検査のうち最も詳しい検査の代表です。心筋梗塞を起こす前の段階での対処が非常に大切です。冠動脈疾患のリスク因子である高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、冠動脈疾患の家族歴、脳血管疾患や末梢動脈疾患など他の動脈硬化性の疾患の既往、リスク因子のある方は早めに主治医までご相談ください。


期外収縮の診療の進め方

【期外収縮の診療の進め方】

期外収縮は健診で指摘されることの一番多い心電図所見です。期外収縮には心室期外収縮と上室期外収縮がありますが、診療の進め方に大きな差はありません。健診等によって心室期外収縮または上室期外収縮を指摘された場合、まず第一に、ホルター心電図、採血、画像検査等によって基礎心疾患の有無を評価します。次に、自覚症状の有無によって上記の3つに分類が出来ます。具体的には、

1、基礎心疾患を認める場合、自覚症状の有無に関わらず、基礎心疾患に対する治療を行います。

2、基礎心疾患を認めない場合、原則的に治療の必要はありませんが、例外的に、自覚症状によって著しい生活の質の低下を認める場合、抗不整脈薬、カテーテルアブレーション等の治療の選択肢があります。

3、基礎心疾患を認めないで、かつ、自覚症状もない場合、特に治療は必要ありません。

以上のように基礎心疾患の有無によって大きく治療方針が異なることがわかります。

【基礎心疾患とは】

基礎心疾患とは、自覚症状や心電図所見の背景にある様々な心疾患のことです。自覚症状をきっかけに受診して精査の結果見付かることもありますし、何の自覚症状ない場合でも健診をきっかけに精査の結果、何らかの基礎心疾患が見付かる場合もあります。基礎心疾患は多岐に渡ります。具体的には、

・治療が必要な不整脈(発作性心房細動、持続性心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、新規3枝ブロック、洞不全症候群、Mobitz II型II度房室ブロック、III度房室ブロック、心室頻拍、心室細動、他)

・治療が必要ない不整脈(心室期外収縮、上室期外収縮、洞性頻脈、洞性徐脈、他)

・不整脈以外の心疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、心筋症、弁膜症、心筋炎、他)

・心疾患以外の疾患(二次性高血圧症、甲状腺機能異常、副腎機能、貧血、低血圧症、自己免疫疾患、他)

・その他(カフェイン、煙草、アルコール、睡眠不足、疲労、不安神経症、過換気症候群、パニック障害、他)

【基礎心疾患の精査】

基礎心疾患の有無と一口に言っても精査の対象となる疾患は多岐に渡り、完全な意味で基礎心疾患なしを証明するのは難しい面もありますが、お茶の水循環器内科では、以下のように重点的に診療を進めて行きます。

1、ホルター心電図:期外収縮以外に治療が必要な不整脈があるかないかの精査除外

2、採血:基礎心疾患として心不全の有無の評価、甲状腺機能や貧血等の脈に影響を及ぼす採血項目の評価

3、心エコーまたは心臓MRI:必要に応じて基礎心疾患として弁膜症、心筋症の有無の評価

4、冠動脈CT:冠危険因子を複数認める場合には冠動脈の評価

1と2はほとんどの場合に必要で、3と4はリスク因子や家族歴等に応じて必要性を相談というイメージです。詳しくは日本心臓財団のページをご覧ください。

https://www.jhf.or.jp/q&adb/category/c1/

【まとめ】

以上まとめると、期外収縮の診療においては、基礎心疾患の有無の精査が大きなポイントであること、基礎心疾患を認める場合、自覚症状の有無に関わらず、基礎心疾患に対する治療を行うこと、基礎心疾患を認めない場合、原則的に治療の必要ないこと、ただし、例外的に、自覚症状によって著しい生活の質の低下を認める場合、抗不整脈薬、カテーテルアブレーション等の治療の選択肢があること、基礎心疾患を認めないで、かつ、自覚症状もない場合、特に治療は必要ないこと、が重要です。詳しくは主治医までご相談ください。


 

上室期外収縮

【上室期外収縮とは】

上室期外収縮は、健診の心電図検査で心電図異常を指摘され、要精査などと書かれるもので一番多い所見の一つです。人間の心臓は一日10万回くらい一定のリズムで脈を打っていますが、10万回のうち何回かはズレて脈を打つことがあります。このズレた脈のことを期外収縮(Premature Contraction)と言い、ズレた脈の起源が心臓の中の上室(Supraventricular)という場所の場合、上室期外収縮(Premature Supraventricular Contraction: PAC)と呼びます。上室期外収縮は、心疾患の有無に関わらず、誰でも数回から数百回程度は認めるもので、特別治療の必要性はありません。健診の時の心電図検査中にたまたま出たか出なかったかの違いだけで、基礎心疾患が何もない場合は、上室期外収縮は何回出たとしても、そのまま放置しても特に命に関わらないことが既にわかっているからです。以上の理由から、上室期外収縮の精査においては、治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的になります。

【上室期外収縮の精査の流れ】

上室期外収縮の精査は治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的です。具体的には、

1、基礎心疾患がないこと

2、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないこと

この2つを調べることが主な目的になります。まずは、採血検査で主にBNPという心疾患のマーカーによって心臓へ大きな負担が掛かっていないこと、必要に応じて脈を調整するホルモン、血圧を調整するホルモンに、動脈硬化性のリスク因子等の異常がないかをチェックします。次に、ホルター心電図検査によって、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことを調べます。上室期外収縮とは直接関係は強くありませんが、冠動脈疾患のリスク因子を多く認める場合は受診をきっかけに、冠動脈CTまたは心臓MRIなど心臓の血管に異常はないか必要に応じて検査を進めて行きます。

【基礎心疾患を何も認めない場合】

精査の結果、基礎心疾患が何もなく、上室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことがわかった場合、上室期外収縮のみの心電図異常は特に治療は必要ありません。一日10万回の脈のうち数回から数百回までの期外収縮は誰にでもある正常範囲の脈のズレですので特に心配しなくて大丈夫です。一日一万回を超える期外収縮であっても基礎心疾患を認めない場合は経過観察で問題ありません。経過観察とは、半年に一回から年に一回程度、変わりがないか、異常がないか適宜心電図やホルター心電図でチェックをするということです。精査の結果、期外収縮の他に、治療の必要な不整脈、治療の必要な心疾患が見付かればそれぞれに対し適切に治療をしていきます。

【強い自覚症状を認める場合】

上室期外収縮に一致して動悸症状を自覚する場合があります。上室期外収縮の回数によらず、どの程度自覚するかは個人差が非常に大きく、人それぞれです。心配ないものとわかれば症状もあまり気にならなくなる場合が多いのですが、症状がどうしても気になって生活に支障が出てしまうような場合は、適宜症状を和らげる治療もあります。

【上室期外収縮の治療】

まず前提として、基礎心疾患が何もない場合、上室期外収縮だけでは特に命に関わらないものではあるため治療は必須ではありません。しかしながら、上室期外収縮に一致して強い動悸症状を自覚する場合があり、次のような治療法があります。

1、生活習慣の改善

ストレス、緊張、運動、過労、睡眠不足、季節の変わり目、飲酒、喫煙、カフェイン、栄養ドリンクの摂取などの何らかの刺激が関係していることが多いので、誘因となる生活習慣を改善することで症状が軽快することが少なくありません。

2、抗不整脈薬

強い自覚症状を認める場合は、抗不整脈薬があります。脈の速さや強さを和らげる作用のβ遮断薬などが中心です。メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール)、テノーミン(アテノロール)、インデラル(プロプラノロール)、アロチノロール(アロチノロール)、などがあります。上室期外収縮がなくなる訳ではありませんが、自覚症状が和らぐ場合があります。

3、カテーテルアブレーション治療

根治療法としてカテーテルアブレーションという治療の選択肢があります。どうしても強い自覚症状を認め、強い苦痛を伴っている場合は、カテーテルアブレーション治療を考慮します。手首や足の付根からカテーテルという細いワイヤーを通して、心臓の中の電気の活動をを調べて、上室期外収縮を引き起こしている原因を特定し、熱によって上室期外収縮が起こらないように処置をします。成功率は高く、根治を望める治療法です。カテーテルアブレーション専門の病院へ紹介します。詳しくは日本不整脈心電学会のページをご覧ください。

https://new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-8

以上、健診の心電図異常で一番多い上室期外収縮について説明しました。何かわからないことがあれば主治医までご相談ください。


心室期外収縮

【心室期外収縮とは】

心室期外収縮は、健診の心電図検査で心電図異常を指摘され、要精査などと書かれるもので一番多い所見の一つです。人間の心臓は一日10万回くらい一定のリズムで脈を打っていますが、10万回のうち何回かはズレて脈を打つことがあります。このズレた脈のことを期外収縮(Premature Contraction)と言い、ズレた脈の起源が心臓の中の心室(Ventricular)という場所の場合、心室期外収縮(Premature Ventricular Contraction: PVC)と呼びます。心室期外収縮は、心疾患の有無に関わらず、誰でも数回から数百回程度は認めるもので、特別治療の必要性はありません。健診の時の心電図検査中にたまたま出たか出なかったかの違いだけで、基礎心疾患が何もない場合は、心室期外収縮は何回出たとしても、そのまま放置しても特に命に関わらないことが既にわかっているからです。以上の理由から、心室期外収縮の精査においては、治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的になります。

【心室期外収縮の精査の流れ】

心室期外収縮の精査は治療が必要な何か心疾患があるかないかを調べることが主な目的です。具体的には、

1、基礎心疾患がないこと

2、心室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないこと

この2つを調べることが主な目的になります。まずは、採血検査で主にBNPという心疾患のマーカーによって心臓へ大きな負担が掛かっていないこと、必要に応じて脈を調整するホルモン、血圧を調整するホルモンに、動脈硬化性のリスク因子等の異常がないかをチェックします。次に、ホルター心電図検査によって、心室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことを調べます。心室期外収縮とは直接関係は強くありませんが、冠動脈疾患のリスク因子を多く認める場合は受診をきっかけに、冠動脈CTまたは心臓MRIなど心臓の血管に異常はないか必要に応じて検査を進めて行きます。

【基礎心疾患を何も認めない場合】

精査の結果、基礎心疾患が何もなく、心室期外収縮以外に治療が必要な不整脈がないことがわかった場合、心室期外収縮のみの心電図異常は特に治療は必要ありません。一日10万回の脈のうち数十から数百回までの期外収縮は誰にでもある正常範囲の脈のズレですので特に心配しなくて大丈夫です。一日一万回を超える期外収縮であっても基礎心疾患を認めない場合は経過観察で問題ありません。経過観察とは、半年に一回から年に一回程度、変わりがないか、異常がないか適宜心電図やホルター心電図でチェックをするということです。精査の結果、期外収縮の他に、治療の必要な不整脈、治療の必要な心疾患が見付かればそれぞれに対し適切に治療をしていきます。

【強い自覚症状を認める場合】

心室期外収縮に一致して動悸症状を自覚する場合があります。心室期外収縮の回数によらず、どの程度自覚するかは個人差が非常に大きく、人それぞれです。心配ないものとわかれば症状もあまり気にならなくなる場合が多いのですが、症状がどうしても気になって生活に支障が出てしまうような場合は、適宜症状を和らげる治療もあります。

【心室期外収縮の治療】

まず前提として、基礎心疾患が何もない場合、心室期外収縮だけでは特に命に関わらないものではあるため治療は必須ではありません。しかしながら、心室期外収縮に一致して強い動悸症状を自覚する場合があり、次のような治療法があります。

1、生活習慣の改善

ストレス、緊張、運動、過労、睡眠不足、季節の変わり目、飲酒、喫煙、カフェイン、栄養ドリンクの摂取などの何らかの刺激が関係していることが多いので、誘因となる生活習慣を改善することで症状が軽快することが少なくありません。

2、抗不整脈薬

強い自覚症状を認める場合は、抗不整脈薬があります。脈の速さや強さを和らげる作用のβ遮断薬などが中心です。メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール)、テノーミン(アテノロール)、インデラル(プロプラノロール)、アロチノロール(アロチノロール)、などがあります。心室期外収縮がなくなる訳ではありませんが、自覚症状が和らぐ場合があります。

3、カテーテルアブレーション治療

根治療法としてカテーテルアブレーションという治療の選択肢があります。どうしても強い自覚症状を認め、強い苦痛を伴っている場合は、カテーテルアブレーション治療を考慮します。手首や足の付根からカテーテルという細いワイヤーを通して、心臓の中の電気の活動をを調べて、心室期外収縮を引き起こしている原因を特定し、熱によって心室期外収縮が起こらないように処置をします。成功率は高く、根治を望める治療法です。カテーテルアブレーション専門の病院へ紹介します。詳しくは日本不整脈心電学会のページをご覧ください。

https://new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-8

以上、健診の心電図異常で一番多い心室期外収縮について説明しました。何かわからないことがあれば主治医までご相談ください。


採血検査

【循環器内科における採血検査】

循環器内科においても採血検査は重要な情報です。検診等で行う一般的な採血検査項目と、主に循環器内科で行う採血検査項目と、両方をまとめました。「採血検査」と一口に言っても様々な検査項目があり、検査の目的に合わせて検査を選択します。特に、循環器内科で行う心機能や心筋虚血マーカー、脈を調整するホルモン、二次性高血圧のスクリーニングなどは、普段の検診では調べないところが多く、循環器内科で追加で採血検査が必要になります。

【具体的な採血検査項目】

・トロポニン

心筋梗塞のマーカーです。心筋逸脱酵素とも呼ばれ、普段は心筋の中にあり血液中には検出されませんが、心筋梗塞を起こすと心筋が障害を受けて、トロポニンが血液中に漏れて来ます。胸痛の原因として心筋梗塞の可能性を疑った場合に調べます。迅速検査キットにて10分くらいで陽性か陰性かの判定が出ます。トロポニンが陽性であれば心筋梗塞と診断し、緊急カテーテルが可能な病院へ搬送します。トロポニンが陰性であればまずは心筋梗塞は否定的であると判定出来ます。心筋梗塞を起こしていないだけで狭心症の可能性は否定出来ませんので、冠危険因子のリスクや必要に応じて冠動脈CT等にて調べて行きます。

・BNPまたはNT-proBNP

心機能のマーカーです。心臓から分泌されるホルモンで、心臓への負担が大きいほど多く分泌されます。BNPが高い数値の場合は、心臓に何らかの負担が掛かっているということがわかります。BNPの値だけで診断をすることは出来ませんが、目安としてBNPが40未満の場合は心疾患は否定的であること、BNPが400以上であれば何らかの心疾患の存在が疑われます。BNPが100から200程度に関しては心疾患が見付かることもあればそうでないこともあります。BNPの値に加えて、心電図、胸部レントゲン、心エコー、心臓MRI、冠動脈CT等、総合的に評価していきます。既に心不全と診断されている場合は、心不全のフォローのために定期的にチェックします。BNPは循環器内科にとってとても有用な検査なのですが、一般の健康診断の採血検査では取らない項目で、循環器内科で追加で採血が必要な理由の一つです。

・脂質(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)

脂質は、喫煙、高血圧症、糖尿病と並んで冠動脈疾患の危険因子です。脂質、特にLDLコレステロールが重要で、LDLコレステロールの値が高ければ高いほど心筋梗塞のリスクは高くなり、LDLコレステロールの値が低ければ低いほど心筋梗塞を起こすリスクは低いということがわかっています。動脈硬化性疾患のリスク因子として循環器内科ではほとんど場合調べます。

・血糖(HbA1c、随時血糖)

糖尿病は、喫煙、高血圧症、脂質異常症と並んで冠動脈疾患の危険因子です。HbA1cは1-2ヶ月の血糖の平均的な状態を反映します。HbA1c 6.5を超えると糖尿病、HbA1c 7.0、HbA1c 8.0、HbA1c 9.0と血糖コントロールが悪いほど、糖尿病合併症のリスクが上昇します。糖尿病合併症には、微小血管障害として糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、大血管障害として心血管疾患、脳血管障害があり、いずれも重要ですが、特に循環器内科では冠動脈疾患のリスク因子として調べます。

・腎機能(eGFR、Cr、他)

腎機能の評価は採血にてeGFRにて評価します。腎機能は年齢とともに低下して来ますが、高血圧症と糖尿病は慢性腎臓病の悪化因子であり、心血管疾患のリスク因子です。腎機能が低下してくると程度によっては使える薬剤や検査に制限が必要な場合があります。また、腎機能の採血をきっかけにして腎臓内科疾患が見付かる場合があります。

・肝機能(AST、ALT、γ-GTP、他)

腎機能と並んで肝機能の検査は重要です。肝機能障害の原因は、アルコール性、非アルコール性、ウイルス性、他、多岐に渡りますが、肝機能が悪いと程度によっては使える薬剤や検査に制限が必要な場合があります。また、薬剤の副作用として肝機能は頻度が比較的高く、併用薬が多い場合は定期的に肝機能のチェックが重要です。アルコール多飲がメインの場合は飲酒による肝機能障害の経過観察のため調べます。

・尿酸(UA)

高尿酸血症、尿酸値が高いと痛風発作のリスクです。また、尿酸脂質、血糖などと並んで栄養過多状態の評価として調べます。尿酸が高い人の食生活は、アルコール、脂質、血糖、塩分、など他の生活習慣病のリスクが高い場合が多いからです。

・甲状腺機能(TSH、fT3、fT4、TRAb、TPOAb、TgAb)

甲状腺は全身に様々な働きをしていますが、心臓に対しては脈を調整する作用として働いています。甲状腺ホルモンが多くても、甲状腺ホルモンが少なくても、甲状腺機能異常はどちらも動悸症状の原因となることがあります。甲状腺機能異常は女性に多いため、動悸症状の原因精査として必要に応じて調べます。甲状腺異常を認めた場合、甲状腺に特異的な自己免疫を適宜調べます。甲状腺機能異常は比較的頻度が高いのですが、普段の検診では取らない項目であり、追加で採血検査が必要な理由です。

・副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドパミン)

交感神経を調整しているホルモンで、心臓に対しては脈を調節する作用として働いています。交感神経が過剰だと、強い動悸症状や激しい血圧上昇を引き起こします。比較的頻度は高くはありませんが、動悸症状の原因精査、二次性高血圧症の精査として必要に応じて調べます。

・副腎皮質ホルモン(レニン、アルドステロン、他)

主に血圧を調節しているホルモンで、特に原発性アルドステロン症は二次性高血圧症の原因として最も頻度が高いことがわかっています。高血圧症の中で二次性高血圧症を疑った場合に調べます。

・血算(WBC、RBC、Hb、Plt、他)

血液の中身、白血球、赤血球、血小板の三系統を調べます。様々な疾患を反映しますが、特に循環器内科では動悸や息切れの原因として貧血がないか、抗血小板療法や抗凝固療法中に出血を起こしていないか定期的にチェックします。

・貧血(フェリチン、Fe、Ret)

貧血を認めた場合に、鉄欠乏性のよるものなのか、出血によるものなのか、それ以外の血液疾患によるものなのか、原因を探っていく場合に調べます。多くは鉄欠乏性のことが多いですが、鉄欠乏性以外に原因が考えられる場合には適宜精査を行って行きます。特に循環器内科では抗血小板療法や抗凝固療法中に出血を起こしていないかを定期的にチェックします。

・凝固能(PT-INR、APTT、Dダイマー、等)

抗凝固療法中の凝固能のモニタリングとして評価します。特に抗凝固薬のワーファリンはPT-INRによる定期的な凝固能のチェックが欠かせません。Dダイマーは血栓症のマーカーです。心房細動や弁膜症などで血栓症の評価が必要である場合に調べます。

・炎症反応(CRP)

炎症反応は原因を問わず全身のあらゆる炎症の状態を反映します。動脈硬化というものを全身の血管の慢性炎症として捉えていく見方があり、CRPは全身の血管の慢性炎症の程度を反映します。ただし、CRPは感染症でも何でも他の原因でも上昇するので注意が必要です。

・自己抗体(抗核抗体、他)

動悸や息切れの原因として自己免疫疾患の可能性を疑った場合にスクリーニング目的で調べます。必要な場合は専門の診療科へ紹介します。

・女性ホルモン(LH、FSH、E2、PRL、他)

動悸や息切れの原因として女性ホルモンの異常を疑った場合に必要があれば調べます。更年期障害と言っても女性ホルモンの値に明らかな異常を認める場合と認めない場合があり、詳しい診療については婦人科の受診をお奨めしています。

・ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ抗体)

ピロリ菌は慢性胃炎、胃癌の原因菌です。循環器内科とは関係なく一般的にピロリ菌チェックは重要であることと、また胸部圧迫感や胸部不快感の自覚症状で受診して来て、色々調べていくうちにピロリ菌感染が見付かる場合があります。必要に応じて調べます。胃カメラをやっていないと検査代が自費になるという保険のルールがあります。

【まとめ】

他にも様々な血液検査項目があります。「採血検査」と一口に言っても様々な検査項目があること、一普段の検診では調べていないところが多く、循環器内科では適宜追加で採血検査を行う必要があります。詳しくは主治医までご相談ください。


 

ホルター心電図

【ホルター心電図とは】

ホルター心電図(Holter Electrocardiography: Holter ECG)は、24時間の心電図検査です。外来で出来る最も詳しい心電図の精密検査です。私たちの心臓は一日約10万回、脈を打っています。24時間全ての脈を記録して、異常がないかどうかを詳しく調べます。動悸や胸痛の診断では症状出現時の心電図記録が重要です。来院時に症状がない場合もホルター心電図が有用です。

【ホルター心電図の目的】

ホルター心電図は24時間全ての脈を記録します。動悸や胸痛の自覚症状の場合、自覚症状の原因として脈に異常があるかどうか、治療が必要な不整脈かあるかないか、が重要です。ホルター心電図検査では、治療が必要な不整脈があるかどうかを調べます。ホルター心電図を行うことによって、

1、全体として治療が必要な不整脈があるかないか

2、自覚症状に一致して脈の異常があるかないか

3、自覚症状に一致して脈の異常がある場合、治療が必要なものかそうでないか

がわかります。脈の異常には様々なものがあり、精密検査や治療が必要な不整脈と、直接命に関わらなく経過観察で問題ないものと、多岐に渡ります。具体的には、

精密検査や治療が必要なもの:

・不整脈(発作性上室性頻拍、発作性心房細動、洞不全症候群、房室ブロック、心室頻拍、心室細動、他)

・不整脈以外の循環器疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、心筋炎、心筋症、弁膜症、他)

・呼吸器疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、他)

・内分泌疾患(甲状腺機能異常、副腎機能異常、低血糖症、他)

・その他(貧血、発熱、自己免疫疾患、他)

直接命に関わらなく経過観察で問題ないもの:

・不整脈(心室期外収縮、上室期外収縮、洞性頻脈、洞性徐脈、他)

・薬剤性(カフェイン、煙草、アルコール、他)

・ストレス性(不安神経症、過換気症候群、パニック障害、他)

・その他(低血圧症、更年期障害、呼吸性変動、他)

【ホルター心電図の流れ】

上図のように、胸に3ヶ所、電極を貼付します。上方の電極にはホルター心電図の本体があり、ここに24時間分の脈が全て記録されて行きます。以前に比べればかなり小型化が進み、洋服の下に隠れるようになりました。当院の採用しているホルター心電図は防水タイプであり、シャワーもお風呂も可能であり、検査の負担は大幅に軽減されました。ホルター心電図と一緒に、記録計または症状の記録用紙をお渡しします。動悸、胸痛、失神など症状の記録と、食事、トイレ、就寝と起床、生活を記録していただきます。その後、症状出現時と動作、ホルター心電図の脈の記録を照らし合わせて脈のデータを解析することが大事だからです。検査はホルター心電図を装着する時と、取り外す日と二日間連続して来院可能であることが必要です。当院では、検査のスケジュールを調整して、検査日を決めて、スケジュールを予約して行っています。ホルター心電図の取り外し後、解析レポートが届くのには一週間ちょっと掛かります。

【ホルター心電図の解析レポート】

ホルター心電図の取り外しから一週間ちょっとで解析レポートが届きます。解析レポートには、24時間、10万発前後の心拍が全て記録されています。症状と心電図波形を照らし合わせて、症状とホルター心電図記録の波形の異常が一致すれば診断が確定します。逆に、症状出現時にホルター心電図で正常な脈が記録されている場合は、症状と脈は関係なしであることが確定します。一方で、ホルター心電図で期外収縮などの異常波形が記録されていてもその時に何の自覚症状も伴っていなければ、その場合も症状と脈は関係なしであることが確定します。稀に致死的な不整脈が発見されることがありますが、その場合は症状の有無に関わらずに精密検査を進めていく必要があります。ホルター心電図の検査結果は多岐に渡ります。解析レポートを見ながら詳しく結果を説明します。動悸や胸痛の症状で診断が付いていない場合、ホルター心電図検査の適応について一度主治医までご相談ください。


 

禁煙外来

【煙草の有害性と依存性】

禁煙外来の説明の前にまずは煙草について説明します。煙草の人体への影響は煙草に含まれる2つの成分、依存性の原因の「ニコチン」と有害性の原因の「タール」という二つの成分に分けるとわかりやすいでしょう。ニコチンは煙草に含まれるC10H14N2という物質で、強い依存性を持ちます。タールは煙草に含まれる4000種類以上の成分のうち人体に有害なものの総称で、具体的には一酸化炭素、アセトン、ブタン、トルエンなどがあります。煙草が身体に悪い理由は人体に有害なタールが含まれているからです。煙草が有害であることは多くの方々がご存知の通り、肺癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、心筋梗塞、脳卒中、慢性気管支炎、美容への影響、妊娠や子育てへの影響など、煙草の健康への悪影響はキリがなく、文字通り、百害あって一利ありません。煙草を辞めたほうがいいとわかっていてもなかなか辞められない原因は、煙草に含まれているニコチンが強い依存性を持っているからです。日本では、ニコチンに依存した状態を「ニコチン依存症」という病気として捉えて、禁煙外来として治療の対象なっています。

【喫煙率の推移】

日本人の喫煙率は減少傾向です。2018年現在、日本人の喫煙率は17.9%です。男女別では、男性の喫煙率の低下は著しく、1965年には8割以上あった男性の喫煙率は、2018年には27.8%と3割を切りました。女性の喫煙率は以前は2割近くでしたが、2018年には8.7%と1割を切りました。いずれにせよ、ここ50年で煙草を吸わない人が増えて来ていることがわかります。日本人の喫煙率の減少の背景は、禁煙エリアの拡大、タバコ税の増税、健康に関する意識の高まり、職場の健康への取り組み、禁煙グッズの増加など様々な要因が考えられますが、いずれにせよ、禁煙による健康上のメリットのためにもぜひ禁煙しましょう。

【禁煙外来とは】

禁煙外来はニコチン依存の状態から離脱することを目指します。強い依存性を持つニコチンを自力で断つことはなかなか困難で、自力での禁煙成功率は20%未満と言われています。禁煙外来では、12週間、合計5回の通院による禁煙治療プログラムで禁煙成功を目指します。ちゃんと最後までプログラムを完了した場合、禁煙成功率は80%前後に達すると言われています。

まず、主に禁煙補助薬として「チャンピックス」という飲み薬を使います。チャンピックスは2つの作用で禁煙成功率を向上させます。具体的には、

(1)煙草を吸った時の効果:チャンピックスはニコチン受容体と結合し、煙草を吸った時にニコチンの作用をブロックして煙草が美味しいという感じを減らします。

(2)煙草を吸っていない時の効果:チャンピックスはニコチン受容体と結合し、ニコチン離脱症状を起こさない程度、かつ、依存症を起こさない程度にゆるやかに作動し、煙草を吸っていない時にニコチン離脱症状を和らげます。

以上の効果で、煙草を吸っても美味しく感じなく、吸わない状態でも吸いたいという気持ちを和らげるため、より苦痛なく禁煙を開始出来るようになります。禁煙外来では処方に加えて、ニコチン依存症の診断と重症度の評価、禁煙補助薬の効果や注意点の説明、禁煙開始時のカウンセリング、禁煙宣言書、一酸化炭素濃度の測定、禁煙中の困ったことや問題があった場合のフォローアップなど一連の禁煙治療プログラムとして禁煙成功を目指してサポートしていくことが重要です。お茶の水循環器内科では禁煙外来は初回のみ予約制としています。禁煙外来は、日本循環器学会、日本呼吸器学会、日本肺癌学会、日本癌学会の定めた「禁煙治療のための標準手順書」に従って行います。禁煙外来を途中で辞めてしまうと一年間は保険適用で禁煙外来を受けられないという決まりがありますのでご注意ください。

日本循環器学会禁煙推進委員会→https://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std

「禁煙治療のための標準手順書第6版」→https://www.j-circ.or.jp/kinen/anti_smoke_std/pdf/anti_smoke_std_rev6.pdf

【禁煙外来についてのよくあるご質問】

・禁煙外来の費用はいくらくらい掛かりますか?

保険適応で合計2万円前後になります。年間の煙草代とぜひ比べてみましょう。

・禁煙すると太りますか?

煙草によって低下していた味覚や臭覚が元の状態に戻り、食べ物の味や香りが美味しく感じられるようになります。体重増加は全くないという方もいれば、あっても平均2、3キロ程度であると言われています。適度に運動すれば大丈夫です。体重増加を心配して煙草を吸い続けるよりも、禁煙してさらに運動して痩せたほうが圧倒的に健康的です。

・禁煙以外で健康になれる方法を知りたい。

疾病負荷という統計があります。2011年に、日本人の生活習慣がいかに死因に影響しているかを調べたものです。感染症と外傷以外で、最も日本で病気を増やしているものはトップが喫煙でした。喫煙の次には高血圧、運動不足、高血糖、塩分過剰、アルコール過剰などと続きますが、他の生活習慣を改善しても喫煙の疾病負荷がダントツ一位であることがわかります。13位目に「果物・野菜の低摂取」というのがありますが、ビタミンなどを多く摂っても煙草の害をキャンセル出来るものではないことが定量的に示されています。禁煙して、その分血圧も下がって、運動をする、それが一番健康的な生活ということがわかります。

・禁煙すると健康になりますか?

上図のようにそのまま喫煙を続けた場合と比べて確実に疾病リスクは低下します。自信を持って禁煙しましょう。

・辞めたくなったらいつでも自力で禁煙するから大丈夫。

禁煙の方法は何でも構いません。

・煙草税で日本に税金をいっぱい払っているからいいんだ。

日本は煙草の税収よりも、喫煙が原因で医療費等による国の経済損失のほうが多いという統計データがあります。煙草を吸い続けることはプラスマイナスで日本に損失をもたらしています。

・電子タバコってどうなの?

ニコチンを吸っていても、有害なタールが含まれていなければ害は少ないのではないかという考えで、ニコチンガムやニコチンパッチ、電子タバコなどのニコチン代替療法があります。電子タバコは長期的な安全性は十分にわかっていないこと、タールの量が減っていると言ってもゼロではないこと、ニコチン依存という根本的な状態が解決していないことが問題点です。やはり理想は禁煙で、タールの沢山含まれた喫煙を続けるよりはマシ、禁煙へのつなぎとして電子タバコ等を使うのはありなのではないかと私個人は考えています。

・禁煙外来についてもっと詳しく知りたい。

お茶の水循環器内科では禁煙外来を行っています。主治医または受付までご相談ください。また禁煙治療については下記サイトが詳しいです。

https://sugu-kinen.jp

最後に、禁煙治療を始めようという決断は最終的にはご本人の意思です。お茶の水循環器内科では禁煙をしようという気持ちをいつでも応援して待っています。禁煙治療についてご関心があればいつでもお気軽にご相談ください。


肥大型心筋症

【肥大型心筋症とは?】

肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy: HCM)は、心筋症の一つで、「心室中隔の非対称性肥大を伴う左室ないし右室、あるいは両者の肥大」と定義され、心筋の異常な肥大する病気です。進行すると左室拡張機能低下から心不全を引き起こします。約半数で心筋に関わる遺伝子異常が特定されていますが、もう半分では原因がはっきりとはわかっていません。日本人の1000人から500人に1人程度と言われており、決して珍しい疾患ではありません。

【肥大型心筋症の症状】

初期の肥大型心筋症は無症状で、検診にて心電図異常等の指摘をきっかけに精査にて見付かります。肥大型心筋症は進行すると左室拡張機能低下から心不全を引き起こします。左室流出路閉塞を来す閉塞性肥大型心筋症では、左室流出路閉塞による虚血症状が症状となります。心筋肥大が進行すると、不整脈が症状となることもあります。

【肥大型心筋症の分類】

主に左室流出路の閉塞の有無によって分類します。また、心室中部での内腔狭窄を認める心室中部閉塞性心筋症、心尖部のみに心筋肥大を認める心尖部肥大型心筋症、肥大型心筋症の長期経過として心筋が菲薄化し、左室収縮力低下、拡張型心筋症様の病態を認める拡張相肥大型心筋症などの分類があります。

・非閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic nonobstructive cardiomyopathy: HNCM)

・閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy: HOCM)

・心室中部閉塞性心筋症(midventricular obstraction HOCM)

・心尖部肥大型心筋症(Apical hypertrophic cardiomyopathy: APH)

・拡張相肥大型心筋症(dilated phase hypertrophic cardiomyopathy: D-HCM)

【肥大型心筋症の診断】

主に心エコーや心臓MRIによって肥大型心筋症に特徴的な不均一な心筋肥大の所見によって診断します。心室中隔の非対称性肥厚、僧帽弁の収縮期前方運動(Systolic anterior motion: SAM)など、肥大型心筋症に特徴的な所見を認めることです。閉塞性肥大型心筋症では左室流出路の狭窄所見、心尖部肥大型心筋症では心尖部肥大所見が特徴です。遅延造影も含めた心臓MRIではさらに詳細な心筋の評価が可能です。また、心不全の程度の評価や他の原因精査としてBNP、甲状腺機能、自己免疫性疾患等の採血検査、肥大型心筋症の合併症として不整脈の精査としてホルター心電図検査があります。血行動態の評価として心臓カテーテル検査、組織所見の評価として心筋生検、他に専門医療機関における遺伝子検査などがあります。

【肥大型心筋症の合併症】

・致死的不整脈、突然死

無視出来ない重大な合併症として突然死があります。日本循環器学会「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン2012年改訂版」によると、「突然死に関する危険因子」として、心停止(あるいは持続性心室頻拍)の既往、ホルター心電図での非持続性心室頻拍、HCM による突然死の家族歴(特に40 歳未満)、失神ないし意識障害の既往、左室流出路圧較差が 50 mmHg を超える場合などの血行動態の高度の異常、運動に伴う血圧下降、中等度から高度の僧帽弁逆流、50 mm を超える左房拡大、電気生理学的検査での持続性心室頻拍/心室細動の誘発、発作性心房細動、心筋灌流の異常、危険度の高い遺伝子変異、著明な心筋肥大(壁厚>35 mm)、若年発症例、と14項目の危険因子がわかっています。

・左室流出路閉塞

肥大型心筋症の中の25%程度が閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy: HOCM)で、左室流出路が閉塞してしまい、心拍出量が失われ、失神や眼前暗黒感などの脳虚血症状が出現します。

・冠動脈虚血

肥大型心筋症では明らかな冠動脈狭窄を認めないにも関わらず、心筋肥大による酸素需要の増加から酸素需要供給ミスマッチを起こし、労作時胸痛や胸部圧迫感などの虚血症状が出現することがあります。

・心房細動

左心房への圧負荷、容量負荷から心房細動を伴うことがあり、血栓形成から心原性脳塞栓症を引き起こすことがあります。心房細動を認める場合は抗凝固療法による脳梗塞予防が必要になります。

他に、拡張能低下による心不全、収縮能低下による心不全、両者の混合、僧帽弁逸脱症などの合併症があります。

【肥大型心筋症の治療】

肥大型心筋症の治療については、エビデンスが確立していない部分も多いのが現状ですが、βブロッカーとカルシウム拮抗薬は、肥大型心筋症の病態を考えた場合に抑制的に作用すると考えられています。また、肥大型心筋症の合併症に対して適宜適切な治療を行って行きます。詳しくは、日本循環器学会「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン2012年改訂版」をご覧ください。

https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_doi_h.pdf

・βブロッカー

アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、心筋への過度な負担を和らげます。適度な徐脈化により拡張不全を改善します。拡張能障害、左室流出路狭窄、心筋虚血に対する効果、不整脈および突然死、それぞれに対して抑制的に作用します。肥大型心筋症の進行抑制のエビデンスはありませんが、効果を期待して使います。無症状でごく初期の肥大型心筋症に対して有効性を検討したエビデンスはありません。

・カルシウム拮抗薬

ワソラン(ベラパミル)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、肥大型心筋症では心筋においてカルシウム過負荷が起こっていると考えられており、明確なエビデンスはないものの、カルシウム拮抗薬は、拡張能障害、左室流出路狭窄、心筋虚血に対する効果、不整脈に対し、それぞれに対して抑制的に作用します。

・抗不整脈薬

リスモダン(ジソピラミド)、シベノール(シベンゾリン)、心室性不整脈および電気的リモデリング抑制を期待して使います。

・ACE阻害薬、ARB

高血圧症合併例などに、心筋リモデリング抑制効果を期待して使います。

・競技スポーツの禁止

突然死のリスクが高い場合、競技スポーツのような激しい運動は禁止する。ただし、突然死のリスクが低いと考えられる場合、軽度の運動は容認可能な場合もあります。

・禁煙

一般的に全ての心疾患において禁煙は推奨されます。

・飲酒

明確なエビデンスはないが、心筋酸素需要を増加させることから控えることが推奨されます。

・感染線心内膜炎の予防

・心房細動を認める場合は抗凝固療法による心原性脳塞栓症の予防

・非薬物療法

非薬物療法としては、経皮的中隔心筋焼灼術、中隔心筋切除術等の外科的治療、ペースメーカー埋込術、埋込型除細動器、心移植

肥大型心筋症の治療についてはほとんどエビデンスが確立していないのが現状です。必要に応じて大学病院等に紹介しています。また大学病院等による年一回程度の経過観察通院と、普段の定期通院と、医療機関で協力しながら組み合わせてフォローしていくケースも多いです。お気軽に主治医までご相談ください。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


息切れの診療の進め方

【息切れとは】

息切れとは、呼吸困難(dyspnea)とほぼ同義で、息苦しさ、呼吸がしにくい感じ、呼吸をする時に努力感、苦しさを伴う自覚症状の総称です。一方で、呼吸不全(Respiratory Failure)とは、呼吸の何らかの障害により、酸素と二酸化炭素のガス交換が障害されている状態のことで、動脈血酸素分圧(PaO2)60Torr以下の状態と医学的に定義されています。

【息切れの原因】

息切れの鑑別疾患は多岐に渡ります。まずは大きく、循環器疾患、呼吸器疾患、その他、に大きく分けることが出来ます。具体的には下記に詳しくまとめました。循環器疾患としては、致死的疾患、特に冠動脈疾患、心不全等を精査除外することが重要です。循環器疾患の次に可能性として考えなければならないのが呼吸器疾患です。代表は気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患です。

・循環器疾患(心不全、弁膜症、狭心症、心筋梗塞、心筋炎、心筋症、不整脈、他)

・呼吸器疾患(気管支喘息、咳喘息、慢性閉塞性肺疾患、気胸、肺炎、気管支炎、肺塞栓症、他)

・内科的疾患(貧血、低血圧症、糖尿病、肝機能障害、腎機能障害、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、副腎機能低下症、他)

・悪性腫瘍

・薬剤性、カフェイン、喫煙、アルコール、他

・ストレス性、心臓神経症、パニック障害、不安神経症

・その他、原因不明、上記にいずれも明らかな異常を認めないもの

また、息切れ、というより、疲れやすさ、だるさ、という漠然とした症状からは、貧血、低血圧症から、糖尿病、肝機能障害、腎機能障害、悪性腫瘍まで、幅広い疾患が鑑別に上がります。ストレス性、明らかな異常を認めない場合も多いです。その場合は、循環器疾患、呼吸器疾患、致死的な疾患を否定するということが目標になります。

【息切れの診療の進め方】

循環器内科の役割は、息苦しさの原因として致死的疾患、心不全や冠動脈疾患を精査することです。具体的には、まずは心電図、胸部レントゲンの2つにて息苦しさを引き起こす疾患を幅広く調べます。心不全の有無と程度の評価には採血にてBNPまたはNT-proBNP、心エコー検査が有用です。冠動脈疾患を強く疑った場合には冠動脈CT、心臓MRI、心臓カテーテル検査を追加します。心不全の精査としては、心エコー検査、心臓MRI検査を進めて行きます。

・心電図検査

・胸部レントゲン

・心筋逸脱酵素迅速検査(トロップT、ラピチェク、等)

・採血(心機能、凝固、甲状腺機能、貧血、炎症反応、他)

・冠動脈CT、心臓MRI、心エコー、心臓カテーテル検査、

・胸部CT、呼吸機能検査、上部消化管内視鏡検査、他

・循環器疾患が否定出来た場合、他の適切な診療科へ紹介

心不全を強く疑った場合には、心エコー、心臓MRIを追加します。呼吸器疾患、特に気管支喘息との鑑別として呼吸機能検査にて一秒率の計測を行うこともあります。貧血、糖尿病、肝機能障害、腎機能障害、甲状腺機能異常等を疑った場合は、幅広く採血検査が必要です。悪性腫瘍を疑った場合には各種画像検査、適切な診療科に紹介しています。

【検査の費用】

息切れの原因は問診と身体診察のみである程度特定出来ることもあれば、確定診断を付けることが難しい場合もあります。必要に応じて各種検査を進めて行きます。3割負担の場合、一般的な問診、心電図、レントゲン、心機能等の採血で、5000円程度、心臓エコー、心臓MRI、冠動脈CTなどは、それぞれ、4000円、8000円、8000円程度です。呼吸器疾患、特に気管支喘息との鑑別として呼吸機能検査にて一秒率の計測を行うこともあります。漠然とした全身症状で、幅広く調べていく場合にはさらに、追加で採血項目、各種画像検査が必要になる場合があります。受付または主治医までご相談ください。


胸痛の診療の進め方

【胸痛とは】

胸痛とは、胸部に感じる痛みの自覚症状です。胸全体が押されるような痛み、胸全体が締め付けられるような痛み、胸の一箇所がズキズキ、チクチクとした痛み、呼吸によって変わる痛み、息苦しさ、等幅広い自覚症状の総称です。胸痛症状を引き起こす原因は多岐に渡ります。循環器内科としては、致死的疾患、特に冠動脈疾患を除外することが重要になります。

【胸痛の鑑別疾患】

胸痛を引き起こす原因は、心筋梗塞、狭心症等の冠動脈疾患、冠動脈疾患以外の循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、整形外科疾患、神経疾患、ストレス性など、非常に多岐に渡ります。具体的には下記に詳しくまとめました。

・冠動脈疾患(心筋梗塞、労作性狭心症、冠攣縮性狭心症、他)

・冠動脈疾患以外の循環器疾患(心不全、弁膜症、心筋症、大動脈解離、心筋炎、たこつぼ心筋症、他)

・呼吸器疾患(肺塞栓症、気胸、胸膜炎、肺炎、肺癌、他)

・消化器疾患(逆流性食道炎、胃潰瘍、胃痙攣、食道痙攣、特発性食道破裂、胆石、胆嚢炎、膵炎、他)

・整形外科疾患(肋骨骨折、鎖骨骨折、胸椎椎間板ヘルニア、肩関節痛、他)

・神経疾患(肋間神経痛、帯状疱疹、他)

・薬剤性、カフェイン、喫煙、アルコール、他

・ストレス性、心臓神経症、不安神経症、非心臓性胸痛

・その他、原因不明、上記にいずれも明らかな異常を認めないもの

致死的疾患、特に冠動脈疾患かどうかの判断は極めて重要です。冠動脈疾患とは、心臓の血管、冠動脈に狭窄や閉塞を来たし、心筋梗塞や狭心症と言った急性冠症候群、緊急の治療を要するものもあります。冠動脈疾患を除外出来れば、まずは一安心です。循環器疾患以外で多いものは、気胸、肋間神経痛、帯状疱疹等が多いです。中には明らかに原因を特定出来ないものもりますが、その場合は致死的な疾患を除外することが目標になります。循環器疾患、虚血性心疾患について詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/disease/ischemic-heart-disease.html

【胸痛の診療の進め方】

循環器内科の役割は、胸痛の原因として致死的疾患、特に冠動脈疾患を精査することです。具体的には、まずは心電図、胸部レントゲンの2つにて胸痛症状を引き起こす疾患を幅広く調べます。冠動脈疾患の精査のためには、採血にて心筋逸脱酵素、心機能が必要です。特に採血検査、心筋逸脱酵素であるトロポニンT迅速検査とH-FABP迅速検査、心機能検査であるBNPは有用で、心筋梗塞や心不全の精査や除外に優れています。さらに冠動脈疾患をさらに強く疑った場合には冠動脈CT、心臓MRI、心臓カテーテル検査を追加します。

・心電図検査

・胸部レントゲン

・心筋逸脱酵素迅速検査(トロップT、ラピチェク、等)

・採血(心機能、凝固、甲状腺機能、貧血、炎症反応、他)

・冠動脈CT、心臓MRI、心エコー、心臓カテーテル検査、

・胸部CT、上部消化管内視鏡検査、他

・循環器疾患が否定出来た場合、他の適切な診療科へ紹介

症状、既往歴、心血管疾患のリスク因子によって様々ですが、まずは心電図検査、胸部レントゲン検査の2つを行います。冠動脈疾患を疑った場合、採血、冠動脈CTと、適宜検査を追加します。他には、心エコー、胸部CT、上部消化管内視鏡検査、等、胸痛の原因を探って行きます。循環器疾患が否定出来た場合、適切な診療科へ紹介します。

【冠動脈疾患のリスクの評価】

循環器内科医は、冠動脈疾患の既往歴、年齢、冠危険因子、家族歴、胸痛の症状、増悪寛解因子、随伴症状、様々な情報から総合的に冠動脈疾患の可能性とリスクの評価をしていきます。一つだけの情報で決め付けることは出来ません。総合的にリスクの評価を行いつつ、リスクに応じて適切な検査を進めて行きます。具体的には、

・冠動脈疾患の既往歴:以前に心筋梗塞、狭心症等の冠動脈疾患の既往がある場合には、真っ先に冠動脈疾患の可能性から精査して行きます。

・年齢:年齢は重要な情報です。冠動脈心疾患のリスクは加齢とともに増大します。30代後半、40代、50代、60代、70代の胸痛であれば、冠動脈心疾患の精査除外をまずは念頭に置いて診察を進めます。逆に言うと、冠動脈疾患のリスク因子がない方で、10代、20代、30代前半の方がいきなり冠動脈心疾患を起こす可能性はゼロではありませんが、可能性は高くはないと考え、精査を進めて行きます。

・冠危険因子:冠動脈疾患の危険因子、冠危険因子は非常に重要な情報です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患の既往、冠動脈疾患の家族歴、脳梗塞の既往、血栓症の既往、などが冠危険因子です。冠危険因子が当てはまれば当てはまるほど冠動脈疾患を引き起こすリスクは高いです。当院の方針としては、冠危険因子が3個以上あれば必ず冠動脈疾患を精査除外、2つの場合も基本的に同様、1つの場合は症状や他の検査の結果を診ながら冠動脈疾患の精査除外の必要性があるかどうかを検討します。逆に言うと、冠危険因子が0個、一つも該当しない場合、冠危険因子を引き起こす可能性はゼロではありませんが、リスクは非常に低いです。

・胸痛の性状:胸全体が重く押されるような感じ(重圧感)、胸全体が圧迫されるような感じ(圧迫感)、胸全体が締め付けられるような痛み(絞扼感)、という場合、まずは冠動脈疾患の精査を念頭において診察を進めます。逆に言うと、胸の一箇所が痛い、ズキズキ、チクチク痛いという場合は、冠動脈疾患っぽくはないと考えながら診療を進めます。

・増悪寛解因子:痛みがどのようば場合に変化するかも重要な情報です。労作時、運動時、階段を登ったり、坂を登ったりする時に胸部圧迫感が悪化する場合は、冠動脈心疾患を念頭において診察を進めます。逆に、深呼吸や咳が変わる場合は呼吸器疾患、食事や飲酒に関係する場合は消化器疾患、姿勢や動きで変化する場合は整形外科疾患等を考えます。安静時の場合は冠動脈疾患ではない場合が多いですが、夜間、早朝、喫煙、寒冷刺激等で発作を起こしやすい冠攣縮性狭心症というタイプの狭心症もあります。既往歴、年齢、冠危険因子、症状、増悪寛解因子とともに評価をしていきます。

・随伴症状:胸痛症状以外の症状の情報も重要な情報です。肩の痛み、顎の痛み、腕の痛み、歯の痛みが狭心症や心筋梗塞のサイン、放散痛、関連痛として自覚することは珍しくはありませんが、それだけで決め付けることは出来ません。高齢、女性、糖尿病など、明らかな胸痛症状の自覚がなく、無痛性心筋梗塞、吐気や肩の重さ、の場合がありますので注意です。既往歴、年齢、冠危険因子、症状、増悪寛解因子とともに評価をしていきます。

【検査の費用】

胸痛の診療は、上記のように冠動脈疾患のリスク評価が重要になります。冠動脈疾患のリスク因子が非常に低い場合は、問診、心電図、胸部レントゲン、心筋逸脱酵素迅速検査等、検査代は3000円程度、冠動脈疾患のリスクが高い場合は、冠動脈CT、心臓MRI、心臓エコーを追加します。心臓MRI、冠動脈CTなどは、それぞれ、8000円、8000円程度です。受付または主治医までご相談ください。


動悸の診療の進め方

【動悸とは】

動悸とは胸部に感じる様々な異常感覚の総称です。一瞬脈が飛んだように感じるもの、常にドキドキ脈が早く感じるもの、突然始まって突然終わるもの、脈がゆっくりで失神や目眩を起こすもの、突然死の原因になるものまで幅広い自覚症状の総称です。脈に特に異常はなくて、安静時の正常な心拍を知覚しているだけの場合もあります。動悸と不整脈は別物で、動悸は自覚症状の呼び方であるのに対して、不整脈は心電図検査にて脈に異常を認めるものの診断名です。動悸を引き起こす原因は多岐に渡ります。動悸の診療の進め方としては特に致死的疾患を否定することが目標になります。

【動悸の診療の進め方】

動悸の原因の鑑別疾患は多岐に渡ります。具体的には下記に詳しくまとめました。動悸を引き起こす原因は、直接命に関わらないもの、経過観察で問題ないもの、と、精密検査や治療な必要なもの、の大きく2つに分けられます。特に致死的な不整脈かどうかの判断が重要で、症状出現時の心電図記録が鍵を握ります。多くの場合は24時間心電図検査が必要になります。

直接命に関わらないもの、経過観察で問題ないもの:

・不整脈(心室期外収縮、上室期外収縮、洞性頻脈、洞性徐脈、他)

・薬剤性(カフェイン、煙草、アルコール、他)

・ストレス性(不安神経症、過換気症候群、パニック障害、他)

・その他(低血圧症、更年期障害、呼吸性変動、他)

精密検査や治療な必要なもの:

・不整脈(発作性上室性頻拍、発作性心房細動、洞不全症候群、房室ブロック、心室頻拍、心室細動、他)

・不整脈以外の循環器疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、心筋炎、心筋症、弁膜症、他)

・呼吸器疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、他)

・内分泌疾患(甲状腺機能異常、副腎機能異常、低血糖症、他)

・その他(貧血、発熱、自己免疫疾患、他)

頻度としては、正常洞調律、洞性頻脈、洞性徐脈、期外収縮、貧血、低血圧症、甲状腺機能異常、カフェイン、煙草、アルコールの影響などが多いです。検査の結果、精密検査が必要な不整脈、治療が必要な不整脈が見付かることもあります。中には明らかに原因を特定出来ないものも多いですが、動悸の原因として不整脈や内科的疾患などを否定することが重要となります。動悸の診療の進め方としては特に致死的疾患を否定することが目標になります。

【動悸の検査】

動悸の診療の進め方としては、第一に動悸の原因を確定すること、第二に動悸の原因が確定出来ない場合も致死的疾患を否定することが目標になります。具体的には、主に動悸の原因として、特に不整脈によるものかどうか、動悸を引き起こす内科的疾患がないかどうか、を調べて行きます。不整脈とは症状出現時の心電図検査にて脈の異常を認めるものの総称です。目標は、症状出現時の脈の波形を記録することです。心電図検査、ホルター心電図検査にて、症状出現時の脈の波形を記録出来れば確かな診断が可能です。逆に症状出現時の脈がわからないと、症状から脈の様子をある程度推測することは出来ますが、厳密な意味で確実な診断は困難で、推測にとどまってしまいます。胸部レントゲン、採血等にて動悸を引き起こす他の疾患の可能性を調べます。循環器疾患が否定出来た場合、適切な診療科へ紹介します。

・心電図検査

・ホルター心電図検査

・胸部レントゲン

・採血(甲状腺機能、貧血、心機能、副腎機能、他)

・心エコー、心臓MRI、冠動脈CT、他

・電気生理学的検査、不整脈誘発試験

・埋込型心電図レコーダー

・循環器疾患が否定出来た場合、他の適切な診療科へ紹介

【ホルター心電図検査とは】

来院時の心電図検査で掴まらないことも少なくありません。その場合、ホルター心電図の適応になります。ホルター心電図検査は、外来で出来る不整脈の最も詳しい検査です。私たちの心臓は一日約10万回、脈を打っています。24時間全ての脈を記録して、異常がないかどうかを詳しく調べます。動悸や失神、目眩の症状の場合、まず第一に、症状の原因として心臓に異常があるかどうか、不整脈かそうでないか、が重要です。また不整脈を疑う症状であっても、発作的に症状が出たり出なかったりする場合、発作時の心電図波形の記録が確定診断のために極めて重要です。詳しくはホルター心電図検査のページをご覧ください。

ホルター心電図→https://循環器内科.com/holter


高血圧症

【高血圧症とは】

高血圧症は脳心血管病(脳卒中および心疾患)の最大の危険因子です。日本の高血圧者数は約4300万人と推定されており、このうち適切に血圧がコントロールされているのは1200万人、残りの3100万人は、1400万人が自らの高血圧を認識しておらず、450万人が高血圧を認識しているが未治療で、1250万人が薬物治療を受けているが管理不良であると推計されています。この結果、高血圧は脳卒中、心筋梗塞、心不全などの死亡の最大の原因になっており、2007年の調査によると年間約10万人の死亡の原因となっていること、また高血圧は認知症のリスクであり、脳卒中後遺症とともに要介護の大きな原因となっていることが大きな問題です。

【高血圧症の診断】

日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」の基準では、家庭血圧で140/90mmHgを超える場合に高血圧症と診断します。家庭血圧が不明な場合はまずは家庭血圧の測定から始めます。血圧測定は、朝晩2回の家庭血圧を7日間、少なくとも5日間測定し、平均値を用います。具体的には、朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食直前、朝の服薬前で、晩は就寝前、座位1-2分の安静後に測定します。診察室血圧と家庭血圧の間に差がある場合、家庭血圧による診断を優先します。検診や病院の診察室では血圧が変動してしまう人も多いので普段の日常生活における家庭血圧が重要です。詳しくは日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」をご覧ください。

日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」→https://www.jpnsh.jp/guideline.html

【高血圧治療ガイドライン2019について】

高血圧治療ガイドライン2019では、血圧の正常値は120/80mmHg未満に改訂されました。これは、120/80mmHgを超えて血圧が高くなると脳卒中や心筋梗塞が増えるということが明らかになったからです。一番大きなエビデンスは、2017年11月、アメリカで発表されたSPRINT試験、「Systolic Blood Pressure Intervention Trial」という大規模臨床試験で、血圧をより厳格に下げたほうがいいのか(厳格群:管理目標120mmHg未満のIntensive Treatment群)、従来通りでいいのか(通常群:管理目標140mmHg未満のStandard treatment群)とで比較した結果、血圧120/80mmHg未満の厳格群に比べて、120-129/80-84mmHgの群で1.24倍、130-139/85-89mmHgの群で1.56倍、心血管死亡の有意なリスク上昇が認められたという結果になりました。アメリカではSPRINT試験の結果を受けて、120/80mmHg未満を正常血圧として新しく定義しました。SPRINT試験について以前詳しくまとめましたでのご覧ください。

https://ochanomizunaika.com/2018-0226

【二次性高血圧症】

何かの明らかな病気があって、その病気の症状の一つとして血圧が上昇している場合に、二次性高血圧症と言います。高血圧症患者さん全体の10%程度と言われています。難治性の場合、血圧高値の場合、若年者の高血圧症、二次性高血圧症の家族歴を認める場合等、二次性高血圧症の可能性を考え、二次性高血圧の評価として、レニン活性、アルドステロン、コルチゾール、ACTH、TSH、カテコラミン、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査等、適宜鑑別を行います。二次性高血圧症について詳しくまとめましたのでご覧ください。

二次性高血圧症→https://循環器内科.com/sht

【高血圧症の治療】

高血圧の治療目標として130/80mmHg未満が推奨されています。高血圧症の治療は大きく、食事療法、運動療法、禁煙、節酒、血圧を下げる薬と5つに分かれますが、方法はなんであれ血圧を正常値にしっかりと戻しそれを維持することが大切です。正常高値血圧レベル以上(120/80mmHg)以上のすべての場合に対し生活習慣の修正を行うことが推奨されています。

・喫煙は明らかに血圧を上げる原因です。喫煙者は禁煙を優先します。禁煙後は血圧が下がります。正常範囲になれば降圧薬も不要です。煙草も吸わずに、降圧薬も飲む必要がない状態、これが一番健康的です。

・塩分の摂り過ぎは血圧を上げる大きな要因です。減塩目標は一日食塩6g未満です。減塩というと薄味にしなくてはと思われる方が多いですが、血圧に関しては塩分が少なければそれで構いません。コショウ、唐辛子、わさび、カラシ、にんにく、生姜、みりん、だし、ゆず、山椒、シソ、スパイスなどで味付けを愉しむことは問題なしです。一方、塩、醤油、味噌、ソースなどには塩分がいっぱい含まれていますので摂り過ぎに注意です。減塩を続けていると人間の味覚も少ない塩分に次第に慣れて来ますので塩味に対する感受性が元に戻り、少ない塩分で美味しく食べられるようになります。

・運動は全身を使った有酸素運動が大事です。運動の目標は、軽強度の有酸素運動を毎日30分または週180分以上行うことです。適度な運動であれば運動の種類にこだわり過ぎる必要はありません。大切なのは生活習慣として続けられることですので、ウォーキングでも何でもいいので、日常生活の中で取り入れられる運動がよいでしょう。

・飲酒は適度な飲酒であれば少しだけ血圧を下げますが、過度な飲酒は血圧を上げる要因になります。適量とは、一日のエタノール摂取量として男性20-30ml以下、女性10-20ml以下です。ビールであれば400ml程度、ワインであれば200ml、日本酒や焼酎であれば1合程度です。ついつい飲み過ぎてしまうことが多いので気を付けましょう。

【よくある質問】

よくある質問として、血圧の薬を一度飲み始めると一生辞められなくなるのではないか?というご質問に対しては、第一に血圧を正常値に戻すことが目標ですので、その手段は何でもよいです。具体的には、血圧の薬を飲み始めて、例えば収縮期血圧が150から130に下がったとします。すると、薬で下がっている分の効果は20前後と考えられますから、食事と運動でしっかりと血圧を下げ、例えば半年後に収縮期血圧が110くらいでしっかりと安定したとすれば、その後、薬を辞めたとしても血圧は130前後に戻るだけですので、薬を辞めても大丈夫と判断します。

【高血圧症の薬】

高血圧症の薬、降圧薬には様々な種類があります。食事療法と運動療法を組み合わせても十分に血圧が下がらない場合、血圧の値によってはまずは薬でしっかり血圧を下げてそれから生活習慣を改善して血圧を管理していく方法もあります。自分のスタイルにあった血圧の下げ方を主治医とよく相談しましょう。下記にお茶の水循環器内科でよく使う薬をまとめました。

・レニベース(エナラプリル)、タナトリル(イミダプリル)、コバシル(ペリンドプリル)、ロンゲス(リシノプリル)、エースコール(テモカプリル)、コナン(キナプリル)、カプトリル(カプトプリル)、ACE阻害薬と言われる降圧薬です。心筋梗塞後の二次予防ではARBよりACE阻害薬のほうが好まれる傾向があります。2割くらいの患者さんで空咳が出ますが、大丈夫であればそのまま継続して問題なしです。

・アジルバ(アジルサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)、ブロプレス(カルデサルタン)、ディオバン(バルサルタン)、ミカルディス(テルミサルタン)、イルベタン(イルベサルタン)、ニューロタン(ロサルタン)、など、ARBと言われる降圧薬です。確実な降圧効果があり、腎臓や心臓を保護する作用があるというのがウリです。

・フルイトラン(トリクロルメチアジド)、ベハイド(ベンチるヒドロクロロチアジド)、ナトリックス(インダパミド)、ラシックス(フロセミド)、利尿薬です。降圧効果を上乗せしたい時、心不全や浮腫みを取りたい時に使います。頻尿に注意です。

・アムロジン(アムロジピン)、アダラート(ニフェジピン)、コニール(ベニジピン)、ペルジピン(ニカルジピン)、カルブロック(アゼルニジピン)、カルスロット(マニジピン)、アテレック(シルニジピン)、昔からあるカルシウム拮抗薬という降圧薬です。安く確実に下がります。高用量でむくみに注意です。

・アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、セロケン(メトプロロール)、ミケラン(カルテオロール)、インデラル(プロプラノロール)、アロチノロール(アロチノロール)、トランデート(ラベタロール)、ビソノテープ(ビソプロロール)、β遮断薬、αβ遮断薬、交感神経をブロックします。心筋梗塞後や頻脈で血圧も下げたい場合に使います。心筋梗塞後は心機能保護と心筋梗塞再発予防の目的でほぼ必須で使います。

・ヘルベッサー(ジルチアゼム)、ワソラン(ベラパミル)、脈をゆっくりにし、冠動脈拡張作用、冠攣縮抑制作用を期待して使います。

・ラジレス(アリスキレン)、直接レニン阻害薬という薬です。高血圧症の中で、血圧を上げるホルモン、レニンが高値のタイプによく効きます。

・アルダクトン(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)、心不全や浮腫みを取りたい時、他の利尿剤と一緒に電解質のバランスを取りたい時に併用します。心機能保護作用を期待して使うことも多いです。

・その他の降圧薬、カルデナリン(ドキサゾシン)、デタントール(ブナゾシン)、ミニプレス(プラゾシン)、アルドメット(メチルドパ)、アプレゾリン(ヒドララジン)、トリテレン(トリアムテレン)、カタプレス(クロニジン)、他にも多数の降圧薬があります。

・多数の配合剤があります。プロミネント(ロサルタン/ヒドロクロロチアジド)、エカード(カンデサルタン/ヒドロクロロチアジド)、コディオ(バルサルタン/ヒドロクロロチアジド)、ミコンビ(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド)、イルトラ(イルベサルタン/トリクロルメチアジド)、ユニシア(カンデサルタン/アムロジピン)、エックスフォージ(バルサルタン/アムロジピン)、ミカムロ(テルミサルタン/アムロジピン)、アイミクス(イルベサルタン/アムロジピン)、レザルタス(オルメサルタン/アゼルニジピン)、ザクラス(アジルサルタン/アムロジピン)、アテディオ(バルサルタン/シルニジピン)、ミカトリオ(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド)

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。