心肺蘇生

【心肺蘇生とは】

心肺蘇生(Cardiopulmonary resuscitation: CPR)とは、心停止(Cardiac arrest)に対し、救命を目指して行う救命処置です。心肺蘇生は、脳への酸素供給の維持として良質で絶え間ない胸骨圧迫(Chest compressions)を行うこと、心停止の原因となる致死的不整脈の中で電気ショック適応なもの、心室細動(Ventricular fibrillation: VF)と心室頻拍(Ventricular tachycardia: TV)に対してAED、自動体外式除細動器(Automated external defibrillator: AED)による除細動(Defibrillation)を行うこと、この二つ重要です。心停止後4分程度で脳神経細胞の不可逆的な障害が始まると言われており、一方で日本で救急車が到着するまでには平均8分前後掛かるため、救急車が到着前、偶然その場に居合わせた人(Bystander)による心肺蘇生の開始が重要です。

【心肺蘇生の実際】

院外心停止(Out of hospital cardiac arrest: OHCA)に対してその場で行う救命処置を一次救命処置(Basic life support: BLS)と呼びます。日本蘇生協議会(Japan resuscitation council: JRC)「JRCガイドライン2015」、アメリカ心臓協会(American Heart Association: AHA)「心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン2015(Guidelines for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care 2015)」など詳しい手順が紹介されています。

https://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyu_sosei/sisin2015.pdf

https://eccguidelines.heart.org/wp-content/uploads/2015/10/2015-AHA-Guidelines-Highlights-Japanese.pdf

重要なポイントとして、良質で絶え間ない胸骨圧迫、AEDの使用、この二点が重要です。下記に一次救命処置の流れを要約します。

(1)倒れている人を見かけたら、周囲の安全を確認後近づき、肩を叩き呼び掛けてまずは意識があるかどうかを確認します。

(2)意識がなければ周囲の人を集めます。救急要請「119番要請」と、AEDを持って来くるように協力をお願いします。

(3)速やかに胸骨圧迫から心肺蘇生を開始します。呼吸の確認、脈拍の確認は、医療従事者等、自信があれば行いますが、心停止でもあえぐような呼吸、死戦期呼吸(Agonal gasping)を認めることがあることため、正常な呼吸でなければ心肺蘇生を開始します。

(4)良質な胸骨圧迫:5-6cmの深さ、一分間に100-120回のテンポ、胸骨圧迫の中断は可能な限り最小限(10秒未満)に、毎回胸骨圧迫を完全に解除すること、良質な胸骨圧迫維持のため胸骨圧迫をする人は適宜交代すること、などがポイントです。

(5)AEDが到着したらケースを開けてAEDの電源を入れます。自動で音声ガイダンスが始まりますのでAEDの指示に従います。AEDのパットを心臓を挟むように右肩と左側胸部に貼付すると、自動で心電図の解析が始まります。電気ショックが必要な場合は「ショックが必要です」とアナウンスがあります。AEDの指示に従い、身体から離れてショックを実行します。ショック実行後は速やかに胸骨圧迫を再開します。心電図解析は多くの場合2分毎に繰り返し行われます。心電図解析中も、ショック実行中も、胸骨圧迫の中断は最小限にすることが大切です。

(6)救急車または医療従事者が到着したら救命処置を引き継ぎます。それまで胸骨圧迫を中断してはいけません。詳しくは上記のガイドラインをご覧ください。その後は医療機関等に搬送し、医療従事者による二次救命処置(Advanced life support: ALS、Advanced cardiovascular life support: ACLS)へと救命の連鎖(Chain of survival)をつなぎます。

【Hands only CPRとは】

胸骨圧迫のみの心肺蘇生を「Hands only CPR」と言います。心肺蘇生において、胸骨圧迫と人工呼吸を組合せた場合、胸骨圧迫のみを続けた場合、どちらも救命率が変わらなかったという日本人のデータがあり、胸骨圧迫のみの心肺蘇生でよいということになっています。これは、人工呼吸による換気よりも胸骨圧迫の中断を最小限にすることの重要性が上回った、複雑な蘇生手順よりも胸骨圧迫のみのシンプルな蘇生手順のほうが心肺蘇生の現場では実効性が高かった、ということなどが理由として考えられています。いずれにせよ、最も蘇生成功率が低いのは心肺蘇生が行われなかった場合であり、一番いけないのは何もしないことです。胸骨圧迫のみでも、胸骨圧迫と人工呼吸の組合せでもどちらでも結構ですので、心肺蘇生を実行することが重要です。いつどこでも心肺蘇生を出来るように日頃から心肺蘇生の講習会などに参加し、心肺蘇生のやり方を身に付けておきましょう。

【心肺蘇生を学びたい時は】

心肺蘇生を学ぶためには、様々な公的団体、民間団体が心肺蘇生の講習会を企画、開催しています。自宅や職場の近くで講習会を探してみましょう。

・日本循環器学会→https://itc.j-circ.or.jp/citizen.html

・東京消防庁→https://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/kyuu-adv/life01-1.htm

・日本赤十字社→https://www.jrc.or.jp/activity/study

・日本救急医療財団→https://qqzaidan.jp

・日本AED財団→https://www.aed-zaidan.jp

・日本ACLS協会→https://acls.jp

【心停止を予防するためには】

心停止は様々な原因で起こりますが、突然の院外心停止で最も多い原因の一つが急性心筋梗塞です。心筋梗塞は動脈効果が原因で起こります。動脈硬化は、以下のリスク因子を管理することでコントロール可能です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化のリスク因子があれば、それぞれの治療をしっかりと行いましょう。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld


 

検診結果の見方

検診異常の見方についてまとめました。検診異常には様々なものがあります。今回は代表的な検診の一つである法定健診の検診項目の見方についてまとめました。具体的には、(1)既往歴及び業務歴の調査、(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査、(3)身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査、(4)胸部エックス線検査、(5)血圧の測定、(6)貧血検査 (赤血球数、血色素量)、(7)肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)、(8)血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド)、(9)血糖検査、(10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)、(11)心電図検査(安静時心電図検査)、の11項目です。それぞれ詳しく説明します。基準範囲は主に、日本人間ドック学会並びに日本臨床検査医学会等のページを参照しました。詳しくは下記ページをご覧ください。

・日本人間ドック学会→https://www.ningen-dock.jp

・日本臨床検査医学会→https://www.jslm.org


【検診結果の見方】

(1)既往歴及び業務歴の調査

既往歴とは、今までに掛かった大きな病気のことです。先天性疾患、小児疾患、結核、外傷、手術歴などを記載します。特に何もなければ特になしで構いません。業務歴では、石綿作業歴、アスベスト作業歴、血液感染症、海外滞在歴など疾病リスクの高い業務歴を中心に確認します。

(2)自覚症状及び他覚症状の有無の検査

現在、どこか痛い、苦しいなどの自覚症状、医師が問診、視診、聴診等で所見を認めた場合に記載します。心雑音、呼吸音異常、甲状腺腫脹の有無、皮膚、骨格異常などを確認します。特に何もなければ特になしです。

(3)身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査

・BMI:

基準範囲:BMI 18.5-24.9

身長、体重から、BMI(Body mass index)の値を算出します。BMI 18.5-24.9が基準範囲で、BMI 22.0が最も疾病リスクが少ないとされています。BMI 22の時の体重を標準体重、BMI 18.5未満を低体重、BMI 25.0以上を過体重(Overweight)、30.0以上を肥満(Obese)と定義します。

・腹囲:

基準範囲:男性85.0cm未満、女性90.0cm未満

男性85.0cm、女性90.0cmを超える場合、メタボリック症候群等の判定を行って行きます。

・視力

基準範囲:両眼1.0以上

両眼、メガネやコンタクトの方は裸眼と、矯正視力と両方測定します。基準範囲は1.0以上です。

・聴力:

基準範囲:両耳聴力低下なし

両耳、1000Hzの音の高さで30dBの音の大きさ、4000Hzの音の高さで30dBの音の大きさで、両耳測定します。

(4)胸部エックス線検査

基準範囲:所見なし

胸部レントゲンでは、肺、気管支、心臓、脊柱、肋骨、鎖骨、横隔膜、縦隔等を撮影します。主に肺に異常がないかどうか、特に肺結核等の感染症、肺癌を疑う所見等のがないかを調べます。検診異常を指摘された場合は胸部CT等、精密検査を追加します。

(5)血圧の測定

基準範囲:130/85未満

検診では、収縮期血圧130未満、拡張期血圧85未満を基準範囲とします。収縮期血圧130以上160未満、拡張期血圧85以上100未満を要注意、収縮期血圧160以上、拡張期血圧100以上を異常とします。まずは、食事療法、運動療法、さらに降圧薬による薬物療法が必要になる場合があります。重症な高血圧症、治療抵抗性の高血圧症の場合、二次性高血圧症の鑑別等が必要になることもあります。詳しくは高血圧症、二次性高血圧症のページをご覧ください。

高血圧症→https://循環器内科.com/ht

二次性高血圧症→https://循環器内科.com/sht

(6)貧血検査 (赤血球数、Hb)

基準範囲:男性13.0以上、女性12.0以上

Hb、ヘモグロビンにおいて、男性12.0未満、女性11.0未満を貧血と判定します。基準範囲は男性13.1-16.6、女性12.1-14.6です。この範囲から大きく外れる場合は採血にて精密検査を追加します。若い女性で一番多い貧血の原因は鉄欠乏性貧血です。詳しくは鉄欠乏性貧血のページをご覧ください。

鉄欠乏性貧血→https://循環器内科.com/anemia

(7)肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)

基準範囲:

・AST(GOT) 30U/L以下

・ALT(GPT) 30U/L以下

・γ-GTP 50以下

主に肝機能障害を調べる検査です。アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、ウイルス性急性肝炎、ウイルス性慢性肝炎、肝臓癌、薬剤性肝障害等、様々な原因の鑑別が必要です。検診異常を指摘されている場合、まずは採血にて肝炎ウイルスの有無を精査、アルコール摂取量、カロリー摂取量の把握、必要に応じて腹部エコー、腹部CT等、精査を進めて行きます。詳しくは肝機能障害のページをご覧ください。

肝機能障害→ https://循環器内科.com/ld

(8)血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)

基準範囲:

・LDLコレステロール 120mg/dL未満

・HDLコレステロール 40mg/dL以上

・TG 150 mg/dL未満

LDLコレステロール 140mg/dL以上、HDLコレステロール 40mg/dL未満、TG 150mg/dL以上を脂質異常症と診断します。特にLDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化のリスク因子です。食事療法、運動療法等で治療を開始します。必要に応じて脂質低下薬による薬物療法が必要となります。家族性高コレステロール血症では、LDLコレステロールの値が180mg/dL以上、特に300以上ではヘテロ型家族性高コレステロール血症、600以上ではホモ型家族性高コレステロール血症を強く疑います。心筋梗塞予防のために強力な脂質低下療法が必要となります。詳しくは脂質異常症、家族性高コレステロール血症のページをご覧ください。

脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

家族性高コレステロール血症→https://循環器内科.com/fh

(9)血糖検査

基準範囲:

・随時血糖 100mg/dL未満

・HbA1c 5.5%以下

空腹時血糖 126mg/dL以上、食後血糖 200mg/dL以上、またはHbA1c 6.5以上で糖尿病または糖尿病型と診断します。基本は食事療法、運動療法で血糖の改善を目指します。必要に応じて血糖降下薬による薬物療法を開始します。一型糖尿病ではインスリン療法が適応になります。いずれにせよ、血糖異常を指摘されている場合、放置せずにご相談ください。詳しくは糖尿病のページをご覧ください。

糖尿病→https://循環器内科.com/dm

(10)尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)

基準範囲:

・尿糖陰性

・尿蛋白陰性

腎疾患、泌尿器疾患を調べます。尿糖陽性は主に糖尿病等で、尿蛋白陽性は慢性腎臓病等を疑い、調べて行きます。まずは、持続する尿糖陽性か、持続する蛋白尿か、血尿はないか、白血球尿はないか、再検査にて調べていきます。原因は腎臓内科疾患、泌尿器科疾患、多岐に渡ります。詳しくは蛋白尿のページ、腎機能障害のページをご覧ください。

腎機能障害→https://循環器内科.com/rd

(11)心電図検査(安静時心電図検査)

基準範囲:正常洞調律(Normal sinus rhythm: NSR)

心電図異常の原因は多岐に渡ります。先天性心疾患、虚血性心疾患、不整脈等、鑑別して行きます。洞性頻脈、洞性徐脈、呼吸性変動、一度房室ブロック、不完全右脚ブロック、右軸偏位、左軸偏位、など、特別な治療の必要のないものも多いです。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等、循環器疾患のリスク因子を認める場合には、ホルター心電図、心エコー、採血、心臓MRI、心臓CT等で精密検査を進めて行きます。

以上、主に法定健診の検査項目について、その見方をまとめました。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、不整脈、虚血性心疾患等、早期発見、早期介入が大事です。検診にて異常を指摘されている場合、放置せずに医療機関までご相談ください。


 

法定検診

【法定健診とは】

法定健診とは、労働安全衛生法という法律で定められた健康診断です。具体的には、全ての事業主には被雇用者に対して法定健診を受けさせる義務があり、被雇用者は法定健診を受ける義務があると定められています。年齢に応じて定期的に法定の検査項目を含む健康診断を行うことが義務付けられています。詳しくは厚生労働省のページをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

退職者の方、自営業の方は、国民健康保険になりますので、各市区町村等が行う住民健診があります。詳しくは各自治体にお問合せください。

https://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kensui

【法定健診の種類】

法定健診には3種類があります。法定雇入時健診、法定定期健診A、法定定期健診Bです。3種類ある法定検診のいずれに該当するか必ずご確認ください。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g4

法定健診の具体的な検査項目と費用は下記の通りです。

・法定雇入時健診

費用:12000円(税込)

問診、現病歴、既往歴、業務歴、身長、体重、BMI、腹囲、視力、聴力、血圧、尿糖、尿蛋白、胸部エックス線、赤血球数、Hb、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、LDL、HDL、TG、血糖またはHbA1c

健康診断書一通発行

・法定定期健診A

費用:7000円(税込)

問診、現病歴、既往歴、業務歴、身長、体重、BMI、腹囲、視力、聴力、血圧、尿糖、尿蛋白、胸部エックス線

健康診断書一通発行

・法定定期健診B

費用:12000円(税込)

問診、現病歴、既往歴、業務歴、身長、体重、BMI、腹囲、視力、聴力、血圧、尿糖、尿蛋白、胸部エックス線、赤血球数、Hb、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP、LDL、HDL、TG、血糖またはHbA1c

健康診断書一通発行


【お茶の水循環器内科の健康診断】

お茶の水循環器内科はもともと健診専門の医療機関ではありませんが、夜間じゃないと健診を受けられない、土日じゃないと健診を受けられないなどのご要望をいただき、2016年6月から健診を受けられるようにしました。法定検診はお時間が掛かるため、2018年2月現在、完全予約制です。血液検査が項目にある場合、結果が出るまでに5日間程度掛かります。診断書郵送は簡易書留で翌平日診療日発送(追加手数料1000円)となります。即日の受け取り希望、団体検診等のご相談は検診専門の医療機関等へご相談ください。お茶の水循環器内科は健診専門に作っていないので、多少手際が悪かったり、検査の移動でご迷惑をお掛けしたりしてしまうことがありますが、予めご了承ください。健診スタッフがいる曜日と時間帯であることが必要なので、お時間をお問合せください。

【健診専門の医療機関】

東京都内、首都圏には多数の健診専門の医療機関があります。健診専門の医療機関のほうが健診専門に設計しているため効率的であったり、スタッフもオペレーションにも慣れていたり、費用が安かったり、団体検診にも対応していたり、自院内に検査室もあれば当日で採血結果が出たりと、有用です。まとめたサイトがありましたのでご参考ください。

https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/kenshin/list/13

また、健診以外にも様々な病気がないかのチェックは人間ドックがあります。費用は多少掛かりますが、より詳しくチェック可能です。

https://www.mrso.jp/tokyo


 

心電図

※このページは、医学生や看護学生等ある程度の基礎知識がある方向けに一歩踏み込んだ説明を意図しています。

【心電図検査とは】

心電図検査(Electrocardiogram: ECG)とは、心臓の電気的活動を体表の電極で検出して調べる検査です。心電図検査では心臓の様々な情報が得られますが、ざっくり言うと、不整脈と虚血性心疾患、この2つをチェックする検査です。以下、不整脈と冠動脈疾患の2つに重点を置いて説明します。まず不整脈を理解するためには、心臓の刺激伝導系を理解する必要があります。

【刺激伝導系とは】

刺激伝導系とは、洞房結節から始まった心臓の興奮を、心筋に規則的に伝え、正常な心収縮を起こして、有効な心拍出を実現することです。刺激伝導系が正常に機能していないと不整脈が起こります。

 

具体的には、正常洞調律(Normal sinus rhythm: NSR)の場合、洞房結節(Sinoatrial node: SA node)または洞結節(Sinus node)から始まった心筋の興奮は、右房、左房の心房を伝わり、心房が収縮を起こします。その後、房室結節(Atrioventricular node: AV node)、ヒス束(Bundle of His)を通り、心室へと興奮を伝えて行きます。心房と心室は通常、房室結節以外では電気的に絶縁されていて、房室結節で電気伝導を調節しています。ヒス束は心室中隔内で右脚と左脚に分岐、左脚は前枝と後枝に分岐し、心室内膜下のプルキンエ繊維(Purkinje’s fibre)を通り、心室心筋に一気に興奮が伝わり、心室全体が収縮します。このいずれかに異常を来して起こる病気が不整脈です。心電図検査では、上記の刺激伝導系の電気活動のうち、体表から検出可能なものを測定しています。全ての電気活動を検出出来る訳ではなく、心電図検査で検出可能なものは主に以下の通りです。

・P波:主に心房の脱分極

・PQ時間:主に房室伝導の時間

・QRS波:主に心室の脱分極(と心房の再分極)

・ST部分:主に心室の再分極

心電図の成り立ちとして詳しく説明すると、洞房結節の興奮は心電図検査では検出出来ず、心房の収縮をP波として検出します。房室結節、ヒス束、プルキンエ線維の興奮も心電図検査では検出出来ず、心室の興奮がQRS波として検出します。P波からQ波までの時間、PQ時間は房室結節の通過時間を反映します。T波については実は十分にわかっていないこともありますが、心室の再分極を反映していると考えられており、ST部分が心筋の再分極に異常がないか、臨床的には心筋の虚血の有無や程度を反映します。心房の弛緩は検出出来ないか、QRS波と重なり、判別が出来ないものと考えられています。U波というのがありますが、U波の成り立ちはよくわかっていません。以上から、心電図から刺激伝導系については以上の情報がわかります。心電図検査を行う目的の1つ目は、この刺激伝導系に異常がないか、不整脈の有無の診断です。

【ホルター心電図】

ホルター心電図は24時間の心電図検査です。心電図検査は心臓の不整脈の様子がよくわかる検査ですが、心電図記録をしていない時間帯の心電図の様子はわかりません。これが心電図検査の弱点ですが、この弱点を補うのがホルター心電図です。ホルター心電図検査は24時間、ずっと電極を胸に装着することによって持続的に心電図記録を行います。症状に一致して脈の異常が記録されれば、それが原因であることが確定します。原因の脈の異常が確定すれば、それは治療が必要な不整脈なのか、命には関わらないものなのか、診断が付きます。心電図検査で診断がつかない場合にはホルター心電図を行って行きます。

ハート先生の心電図教室→https://www.cardiac.jp

「ハート先生の心電図教室」という優れたサイトがあります。不整脈とは心臓の電気伝導系の動きそのものに異常を来している状態なので、動きをそのまま動画で理解するのが一番です。お時間のある時にぜひじっくりとご覧になってください。

不整脈の読影もまずは通常一番見やすいII誘導を中心に読影していくことが多いです。後述しますが、II誘導が心臓の電気活動の最もよく反映する誘導だからです。実は、不整脈の診断は12誘導全てを見なくても確定診断が付けれれるのであればそれで必要十分です。なぜなら、12誘導全て同じ心臓の動きを記録しているので、どれかの誘導で不整脈の診断が付けば、他の誘導では別の不整脈が起こっているということはないからです。12誘導記録する目的は、主に下記の冠動脈疾患のためです。

【冠動脈疾患とは】

次に、虚血性心疾患の心電図所見を説明します。心筋が正常に動くのは、冠動脈から血液を受け取っているからです。正常に血液が届かなくなることを虚血(Ischemia)と言い、心筋梗塞や狭心症という虚血性心疾患(Ischemic heart disease: IHD)を引き起こします。心臓の血管のことを、冠動脈と言い、冠動脈の流れの異常を来すことから、冠動脈疾患とも言います。心電図検査を行う目的のもう1つ目は、この冠動脈に異常がないか、虚血の有無の診断です。

正常冠動脈(Normal coronary)では、具体的には、大動脈起始部から、右冠動脈(Right coronary artery: RCA)と左冠動脈(Left coronary artery: LCA)の2本が出ます。左冠動脈は、さらに、左主幹部(Left main trunk: LMT)から、左前下行枝(Left anterior descending coronary artery: LAD)と、左回旋枝(Left circumflex coronary artery LCX)に分岐します。上記にようにさらに細部まで血管の分類がされています。この血管のいずれかの場所に有意狭窄を認めるものが狭心症、100%の狭窄=血管の閉塞を認めるものが心筋梗塞です。上記のように冠動脈の走行に沿って、虚血または梗塞が起こるので、心電図検査では虚血が起きている部位の特定がある程度可能です。心電図を12誘導記録する必要があるのはこのためです。

【標準12誘導心電図】

 

具体的には、標準12誘導心電図検査では、上記のように肢誘導4電極、胸部誘導6電極の電極を装着します。下記のように単純化すると、肢誘導では心臓を冠状断(Coronal section)の平面から、胸部誘導では心臓を水平断(Horizontal section)の平面から観察しています。具体的には、肢誘導は心臓を冠状断の平面で観察します。右上肢にR電極(Right)、左上肢にL電極(Light)、左下肢にF電極(Foot)、右下肢に基準電極のN電極を装着します。LからRを眺めるベクトルI誘導、FからRを眺めるベクトルII誘導、FからLを眺めるベクトルIII誘導と定義すると、冠状断の平面上でほぼ正三角形に心臓を取り囲む配置になります。せっかくなのでついでに、真下から心臓を眺めるベクトルaVF、Rから心臓を眺めるベクトルaVR、Lから心臓を眺めるベクトルaVLを定義します。以上から肢誘導は合計6つの誘導になります。心臓を左下から眺めるベクトルが多い気がしますが、心臓の刺激伝導系は大きな視点で見ると右上から左下へと流れていくので、左下から眺める誘導が多いのは納得出来ます。aVFは唯一、心臓を右上から覗き込むように眺めている誘導で、他にはない情報を与えてくれます。6つの誘導のうち、どれか一つだけと言われれば、右上から左下へ流れるII誘導が最も心臓の電気活動を代表しています。事実、モニター誘導はII誘導に近い誘導です。不整脈の読影もまずは一番見やすいII誘導を中心に読影していくことが多いです。

次に、胸部誘導は心臓を水平断の平面で観察します。前胸部から左胸壁に掛けて6つ電極を貼り付けます。具体的には、V1電極は主に右房を観察しており、V1、V2が主に心室中隔あたりを観察、V3、V4が主に左室前壁あたりを観察、V5、V6が主に左室側壁あたりを観察しています。左室を眺める電極には重なりがあったりしますが、それくらい左室は大事ということです。右室や後壁の守備は甘い気がしますが、必要があれば誘導を追加することがあります。

「心電図で見方が変わる急性冠症候群」→https://amzn.asia/5DvQI9C

心電図に興味を持ったらぜひ小菅先生の心電図の本を読んでください。私も初期臨床研修医の時に小菅先生の講義を聞く機会がなかったらここまで心電図に興味を持つこともなかったかと思います。

【責任血管】

さて、実践的には、冠動脈疾患は当たり前ですが、冠動脈の支配領域に一致してしか起こらないので、次の誘導はセットで記憶しておくと良いでしょう。急性心筋梗塞において、典型例では、責任血管を正面から眺める誘導ではST上昇、反対に責任血管を心臓の裏から眺める誘導はST低下と逆の心電図変化になることを「Reciprocal change」と言います。日本語で言うと、鏡像変化、対側変化のような意味ですが、循環器内科同士では、Reciprocal change、Reciprocal imageのままのほうが通じます。誘導の守備が甘い部位の病変では、Reciprocal changeがサインになることもあります。具体的には、

・中隔:V1、V2、責任血管:左回旋枝(LCX)

・前壁:V3、V4、責任血管:左前下行枝(LAD)

・側壁:V5、V6、I、aFL、(Reciprocal change: II、III、aVF)、責任血管:左回旋枝(LCX)

・後壁:(Reciprocal image: V1、V2、V3、V4)、責任血管:後下行枝(PDA)

・下壁:II、III、aVF、(Reciprocal change: aVL、aVR)、責任血管:右冠動脈(RCA)または左回旋枝(LCX)

・右室:V1、III、aVF、(Reciprocal change: I、aVL)、責任血管:右冠動脈(RCA)

左前下行枝の広範囲な梗塞では前壁と中隔、左主幹部の梗塞では左前下行枝と左回旋枝も両方梗塞に至り、前壁と側壁に広範囲に及ぶ誘導に心電図変化を来すこともあります。右冠動脈の広範囲な梗塞では、右室と下壁の梗塞をしばしば経験します。以上のように、急性冠症候群を疑う時には、冠動脈の責任血管を意識して心電図を読影すると良いでしょう。逆に、冠動脈の支配領域では説明出来ない広範囲のST異常を認めた場合には心筋炎やたこつぼ型心筋症等の冠動脈疾患以外の心疾患を疑うサインになったりします。また、ST上昇の場合のみ冠動脈の責任血管を推定する参考になりますが、ST低下の場合は局在の議論はあまり当てにならないということがわかっていますので、注意が必要です。いずれにせよ、急性冠症候群と診断した場合には早期の冠動脈造影を行いますので、冠動脈造影で確定診断、治療へと進めていきます。

【なぜ心筋梗塞ではST上昇し、狭心症ではST低下するのか?】

余談ですが、心筋の完全虚血でST上昇、不完全虚血でST低下等の虚血とST変化は有名ですが、実はその原理や機序はよくわかっていません。一説によると、心筋梗塞に陥ると、心筋は完全虚血、貫璧性虚血の状態になり、心筋細胞の正常な活動が障害を受け、正常な静止膜電位を維持出来なくなります。正常では-70mV程度ある静止膜電位が0mVに近くなると、梗塞部位は正常部位に比べて相対的に正に帯電するようになり、梗塞部位から正常部位へ電位差が生まれ、電流が流れるという、障害電流(injury current)という考え方があります。障害電流は非脱分極時にのみ起こり、脱分極中には流れない、梗塞部位から正常部位へ流れる障害電流は、体表から観察すると、電極から遠ざかっていくベクトルなので、心電図上の基線を一律に低下させるように記録されます。脱分極中には梗塞部位も正常部位も脱分極しており、膜電位は両方ともほぼ0mVなので、梗塞部位と正常部位の間の電位差は消失し、障害電流は流れないため、脱分極中に障害電流の影響がなく、非脱分極中には障害電流の影響で基線が低下するため、心電図において脱分極中に相当するST部分が基線に比べて相対的に上昇しているように心電図記録されます。これが、完璧性虚血では、STが上昇する機序の説明の一つです。

一方で、不完全虚血、非貫壁性虚血の場合はST低下になる説明としては、冠動脈は心外膜側を走行しており、心内膜側は最も遠位部にあるため、非貫壁性の虚血は必ず心内膜側から起こる、すると、心内膜側で虚血、心外膜側で非虚血となり、心内膜側は心外膜側と比べて静止膜電位が浅くなり、相対的に正に帯電します。障害電流は心内膜側から心外膜側へ流れ、心電図記録では基線を一律に上昇させるように記録されますが、脱分極中は障害電流が流れないため、脱分極中に障害電流の影響がなく、非脱分極中には障害電流の影響で基線が上昇するので、心電図において脱分極中に相当するST部分が基線に比べて相対的に低下しているように心電図記録されます。これが、非完璧性虚では、STが低下する機序の説明の一つです。

しかし、これはあくまで仮説です。理解出来なくても臨床上は全く問題はありません。もっと極めたい人は循環器内科医になって、さらに電気生理学的検査の専門の道に行き、心行くまで探究されると良いでしょう。実臨床では、もっと直感的に、心電図上のST部分というのは心室の再分極を反映している、心筋に血液が正常に届いていないと心筋の再分極に何らかの支障を来すのだろう、そのSOSのサインとして心電図上ST変化を通して心臓は我々に助けを求めている、と、そのような理解であっても実臨床上は困りません。むしろ、急性冠症候群の現場で、静止膜電位がー、障害電流の向きがー、と言っている前に、早く患者さんの治療を優先しましょう。

【心電図検査でわかること】

以上、心電図検査の原理と基礎について総論をまとめました。総論だけで随分と長くなってしまったので、各論については個別に説明します。


 

心エコー

【心エコー検査とは】

心エコー(Ultrasoundcardiography: UCG)とは、心臓超音波検査とも言い、超音波で心臓の動きを観察する検査です。心臓CTが主に心臓の構造を評価するのに対し、心エコーは主に心臓の動きを評価します。具体的には、心臓の弁、心臓の収縮力、心臓の壁、心臓の筋肉、血流、血栓などの心臓の動的な機能を評価します。放射線被曝がなく、身体への害がない安全な検査です。心臓の検査について詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph29.html

【心エコー検査の目的】

心臓の弁、収縮力、筋肉、血流などを評価したい場合に行います。具体的には、心臓弁膜症の診断と評価、心不全の有無と重症度の評価、心筋症の診断と評価、先天性心疾患の診断と評価、弁置換術後の人工弁または機械弁の評価、血栓の有無の評価、などに有用です。心筋梗塞や狭窄症などの冠動脈疾患を疑った場合は、冠動脈の評価に優れる冠動脈CTを優先することが多いです。症状、リスク因子等から主治医が判断します。心エコーの測り方には、経胸壁心エコー(Transthoracic echocardiography examination: TTE)と、経食道心エコー(Transesophageal echocardiography: TEE)の2つがあります。経食道心エコーは左房内血栓や大動脈起始部などより詳細に観察と評価が可能ですが、胃カメラのような検査機を喉から飲み込む必要があり、原則的に総合病院で行います。下記、主に経胸壁心エコーの説明です。

【心エコー検査でわかること】

心エコー検査でわかる病気を具体的に説明します。代表的なものとして、心臓弁膜症、心不全、心筋症、先天性心疾患についてまとめます。この他にも様々な病気があります。

・心臓弁膜症(Valvular heart disease):

心臓の弁に何らかの異常があり、心臓の弁が正常に機能していない状態です。弁が正常に開かない「狭窄症」と、正常に弁が閉まらずに血液の逆流を起こす「逆流症」または「閉鎖不全症」の2種類があります。全て心不全の原因になります。心臓には4つの弁、「僧帽弁」「大動脈弁」「三尖弁」「肺動脈弁」の4つがあるので、それぞれの弁ごとに「狭窄症」と「逆流症」があります。ですので、具体的には、

・僧帽弁狭窄症(Mitral stenosis: MS)

・僧帽弁逆流症(Mitral regurgitation: MR)

・大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis: AS)

・大動脈弁逆流症(Aortic regurgitation: AR)

・三尖弁狭窄症(Tricuspid stenosis: TS)

・三尖弁逆流症(Tricuspid regurgitation: TR)

・肺動脈弁狭窄症(Pulmonary stenosis: PS)

・肺動脈弁逆流症(Pulmonary regurgitation: PR)

以上、合計8種類の弁膜症があります。中には「狭窄症」かつ「逆流症」と両方を合併することもあります。心臓には4つの部屋、「右心房」「右心室」「左心房」「左心室」の4つがあり、正常では、体循環→右心房→三尖弁→右心室→肺動脈弁→肺循環→左心室→僧帽弁→左心室→大動脈弁→体循環の順に血液が流れていきます。勿論どの弁も大事ですが、特に全身に血液を送る「左心室」の前後にある弁、「僧帽弁」と「大動脈弁」の心臓弁膜症が臨床的には問題になることが多いです。心臓弁膜症について詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph41.html

・心不全(Heart failure):

心不全に評価にも心エコーは有用です。左室収縮能、左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction: LVEF)、または単に駆出率(Ejection Fraction: EF)と言った場合は、通常、左室駆出率のことを示すので、EFの低下の有無に着目して、

・左室収縮能が低下した心不全(Heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)

・左室収縮能が保持された心不全(Heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)

の2つに分類します。前者を収縮不全、後者を拡張不全と呼ぶこともあります。拡張不全の指標として、心エコーでは「E/E’」等の評価項目があります。心不全の評価には、急性か慢性か慢性心不全の急性増悪か、右心不全か左心不全か両心不全か、NYHA分類、Forrester分類、Nohria分類、Clinical Scenario分類等があります。心不全について詳しくは「慢性心不全治療ガイドライン」をご覧ください。

https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf

・心筋症(Cardiomyopathy):

心筋症とは心臓の筋肉に何らかの異常があり、心不全を来す疾患です。

・肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy: HCM)

・拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy: DCM)

・拘束型心筋症(Restrictive cardiomyopathy: RCM)

他に、上記に分類されない様々な心筋症、原因が特定されていない様々な心筋症があります。

・先天性心疾患(Congenital heart disease):

先天性心疾患とは、生まれつき心臓に何らかの異常を認める病気の総称です。重症で早期に手術をしないと死に至るものから、経過観察で良いものまで非常に多岐に渡ります。

・心室中隔欠損症(Ventricular septal defect: VSD)

・心房中隔欠損症(Atrial septal defect: ASD)

・動脈管開存症(Patent ductus arteriosus: PDA)

・ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot: ToF)

・左心低形成症候群(Hypoplastic left heart syndrome: HLHS)

・卵円孔開存症(Patent foramen ovale: PFO)

先天性心疾患には他にも様々な病気があります。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/child/pamph73.html

【心エコー検査の流れ】

お茶の水循環器内科では主に「心臓画像クリニック飯田橋」さんに心臓画像検査を依頼しています。

心臓画像クリニック飯田橋→https://www.cviclinic.com

(1)当院から検査の予約を取ります。営業時間外の場合はご自身でご予約の取り方をご説明します。その際に検査の注意事項、前日、当日の確認事項を説明します。

(2)予約当日、飯田橋にある心臓画像クリニックに向かいます。予約時間の30分前までには到着するようにしましょう。受付後の流れをざっくり言うと、問診、検査の説明、注意事項の確認、着替え、待合室で検査を待ちます。検査の順番になったら検査室に呼ばれます。心エコー自体は長くて45分間程度です。検査後はその日のうちに医師から検査結果の説明があります。もし緊急で対応が必要な状態であると判断された場合は、速やかに適切な医療機関へご紹介という体制です。詳しくは心臓画像クリニックさんのページをご覧ください。

https://www.cviclinic.com/flow.html

(3)当院に検査結果の報告書が届きますので、後日説明を聞きにいらっしゃってください。異常なしであれば異常なしという説明、治療が必要であれば適宜適切な治療、追加の検査が必要であれば適宜その手配と、それぞれ診察を進めていきます。

【心エコー検査の費用】

保険適応の場合、3割負担で、3000円程度です。時間は検査自体は長くて45分くらい、全体で90分前後あれば大丈夫でしょう。心エコー、ホルター心電図、心臓MRIなど他の検査を追加する場合はそれぞれ追加の検査代、時間が掛かります。また、特に何も症状はないけれどなんとなく心臓が心配という場合、保険適応外で心臓ドックとなり、ドックの費用が掛かります。


 

頸動脈エコー

【頸動脈エコーとは】

頸動脈エコー(Carotid artery ultrasonography)とは、超音波で頸部の動脈を観察する検査です。総頸動脈(Common carotid artery: CCA)、内頚動脈(Internal carotid artery: ICA)、外頸動脈(External carotid artery: ECA)、とその分岐部(Carotid bulb)、が主な観察の対象です。放射線被曝がなく、身体への害がない安全な検査です。

【頸動脈エコーの目的】

頸動脈エコーの目的は、主に動脈硬化の評価です。網膜と頸部の血管は身体の血管の中で観察しやすい部位であり、網膜が全身の比較的細い血管の動脈硬化の程度を反映すると言われているのに対し、頸動脈は全身の比較的太い血管の動脈効果の程度を反映すると言われています。プラークの有無、サイズ、性状、プラークスコア、狭窄の有無、狭窄がある場合は狭窄率、血流速度、頸動脈狭窄症の程度、などを評価します。無症候性または症候性の頸動脈狭窄症は、脳梗塞のリスク因子であり、外科的治療として頸動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA)、頸動脈ステント留置術(Carotid artery stenting: CAS)を術後評価の検査としても行われます。

【頸動脈エコーでわかること】

頸動脈エコーにおける動脈硬化の評価の指標として最もよく利用されるものとして、IMTがあります。血管は、一般に、内膜、中膜、外膜の3層からなりますが、エコー所見では、内膜と中膜は判別不能であり、内膜と中膜の合わせた厚み、中膜内膜複合体厚(Intima media thickness: IMT)と呼び、動脈硬化の程度、心血管疾患のリスク指標になることがわかっています。IMTの基準範囲は1.0mm以下、1.1mm以上を内膜中膜肥厚と診断します。最大内膜中膜厚(Maximum intima-media thickness: Max IMT)、平均内膜中膜厚(Mean intima-media thickness: mean IMT)なども動脈硬化の指標として有用です。「超音波による頸動脈病変の標準的評価法2016(案)」では、「IMTの臨床的意義」として、次のようにまとめています。引用すると、

・IMTはプラークが出現する以前の早期動脈硬化症の定量的評価として重要である。

・IMTの経年的増厚はイベント増加と関連していると考えられる。

・薬物治療や生活習慣の改善によりIMC 肥厚の進展を抑制したという報告があるが、それがイベントの抑制と関連しているかは、未だ意見の一致をみていない。

・IMT経年変化はあくまでも大規模研究で使用された指標であり、個人に対する治療効果の判定には用いるべき ではない。

詳しくは「超音波による頸動脈病変の標準的評価法2016(案)」をご覧ください。

https://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/Carotid_artery_2016.pdf

以上から、要するに、動脈硬化の早期スクリーニングの指標、心血管イベント発症リスクの指標の一つとしては参考になるが、治療効果の判定には使えない、という位置付けです。スタチンというグループの薬の中にはIMT退縮効果が認められいるものもありますが、IMTの値の変化自体で一喜一憂する必要はないということですので、注意が必要です。

また、プラーク(plaque)とは「1.1mm以上の限局した隆起性病変」と定義され、特に最大厚が1.5mmを超えるプラークを臨床的意義が高いとしています。プラークのサイズ、表面の形態、内部の性状、可動性などで総合的に評価を行い、特に可動性プラーク、低輝度プラーク(特に薄い線維性被膜で覆われた大きな脂質コアをもつ脆弱な動脈硬化巣を有する例)、潰瘍形成を認めるプラークは、注意すべきとされています。いずれにせよ、動脈硬化の危険因子、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等があれば、各リスク因子を治療するということに尽きます。

【頸動脈エコーの流れ】

お茶の水循環器内科では主に「心臓画像クリニック飯田橋」さんに心臓画像検査を依頼しています。

心臓画像クリニック飯田橋→https://www.cviclinic.com

(1)当院から検査の予約を取ります。営業時間外の場合はご自身でご予約の取り方をご説明します。その際に検査の注意事項、前日、当日の確認事項を説明します。

(2)予約当日、飯田橋にある心臓画像クリニックに向かいます。予約時間の30分前までには到着するようにしましょう。受付後の流れをざっくり言うと、問診、検査の説明、注意事項の確認、着替え、待合室で検査を待ちます。検査の順番になったら検査室に呼ばれます。心エコー自体は長くて20分間程度です。検査後はその日のうちに医師から検査結果の説明があります。もし緊急で対応が必要な状態であると判断された場合は、速やかに適切な医療機関へご紹介という体制です。詳しくは心臓画像クリニックさんのページをご覧ください。

https://www.cviclinic.com/flow.html

(3)当院に検査結果の報告書が届きますので、後日説明を聞きにいらっしゃってください。異常なしであれば異常なしという説明、治療が必要であれば適宜適切な治療、追加の検査が必要であれば適宜その手配と、それぞれ診察を進めていきます。

【心エコー検査の費用】

保険適応の場合、3割負担で、2000円程度です。時間は検査自体は長くて20分くらい、全体で70分前後あれば大丈夫でしょう。心エコー、ホルター心電図、心臓MRIなど他の検査を追加する場合はそれぞれ追加の検査代、時間が掛かります。また、特に何も症状はないけれどなんとなく心臓が心配という場合、保険適応外で心臓ドックとなり、ドックの費用が掛かります。


 

代表的な診療の流れ

循環器疾患には様々なものがあります。典型的なケースでの診療の流れはある程度パターンにまとめることが出来ます。問診票の記入後、診察、まずはほとんどの場合、心電図、胸部レントゲン、採血検査等の検査から行って行きます。理由は、心臓、肺、気管支、骨と、大きな異常がないか全体を網羅的に調べるためです。その後、心電図、胸部レントゲンの結果、症状、リスク因子等、総合的に判断し、必要に応じて追加で検査が必要かどうかを判断して行きます。以下、代表的なパターンをまとめました。あくまで典型的なケースの代表的な診察の流れであり、例外は常にありますので、ケースバイケースで循環器内科医が判断をします。循環器内科医の頭の中でどのようなことを考えているか、思考回路が少しでもわかるようにまとめました。

・パターン「心筋梗塞の場合」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、採血トロポニン検査、冠動脈カテーテル、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子がある中高年の方が、運動をした時などに急に胸全体が締め付けられるような痛み、胸全体を圧迫されるような重さを自覚、冷や汗、息苦しさ、吐気等の症状で来院した場合、まずは心筋梗塞を疑って心電図、胸部レントゲン、採血トロポニン検査を検査します。心電図所見、トロポニン陽性が出た場合は、心筋梗塞であることが確定、緊急でカテーテル治療が出来る病院へ搬送します。

・パターン「狭心症の場合」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、採血トロポニン検査、冠動脈CT、冠動脈カテーテル、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子がある中高年くらいの方が、運動をした時などに急に胸全体が締め付けられるような痛み、胸全体を圧迫されるような重さを自覚、安静で軽快、心電図異常なし、採血トロポニン検査陰性の場合、動脈硬化のリスク因子に応じて、冠動脈CT検査を追加します。心臓の血管、冠動脈に優位狭窄を認める場合は狭心症と確定、優位狭窄なしであれば狭心症なしと確定です。

・パターン「冠攣縮性狭心症の場合」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、採血トロポニン検査、冠動脈CT、冠動脈カテーテル、他

狭心症の中で、冠攣縮性狭心症というタイプの狭心症があります。心臓の血管、冠動脈が、攣縮(れんしゅく)と言って痙攣を起こし、冠動脈が過剰に収縮を起こすことによって起こる狭心症です。発作を起こる時間帯が睡眠時や明け方などの安静時、喫煙者に多いことが特徴で、厳密な確定診断には冠動脈カテーテル検査が必要です。まずは通常の狭心症の検査で冠動脈に明らかな有意狭窄がないことを確認します。

・パターン「心不全の場合」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、採血トロポニン検査、採血BNP検査、心エコー、心臓MRI、他

様々な原因によって心臓の機能が弱った状態を心不全と言います。息切れ、浮腫み、動悸、疲れやすさ等、漠然とした症状であることも少なくありません。原因は、高血圧性、虚血性心疾患、心臓弁膜症、心筋症、不整脈、先天性、薬剤性、その他の全身疾患等、多岐に渡ります。心電図、胸部レントゲンによる心胸比の評価、採血トロポニン検査、採血BNP検査から評価をしていきます。心不全の原因を調べるために、心エコー、心臓MRI、追加採血を行って行きます。

・パターン「動悸症状の場合」

行う検査:心電図、ホルター心電図、必要に応じて貧血、甲状腺機能、カテコラミン等の採血検査、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない若い方が、様々な胸の痛みや動悸を訴えて来院、来院時の心電図では異常を認めない場合、症状出現時の心電図波形を記録するためホルター心電図検査を行います。症状出現時の波形が記録出来れば何らかの診断が付きます。波形が記録出来なかった場合は、原因の特定が難しいこともあります。異常なし、経過観察でよいものから、精密検査や治療が必要なものまで多岐に渡ります。女性では動悸をきかっけに貧血や甲状腺機能等の異常が採血検査が見つかることがしばしばあります。

・パターン「大動脈解離を疑う場合」

行う検査:心電図、胸部造影CT、凝固、他

高血圧症、喫煙、大動脈疾患の家族歴等の動脈硬化リスク因子を認める方が、突然の胸背部痛、避けるような痛み、痛みが移動したりという場合は、大動脈解離を疑い、緊急で、血圧左右差、胸部レントゲン、心電図検査、採血検査を行います。確定診断のためには胸部造影CTが必要であるため、致死率は非常に高く、救急搬送しても救命が難しいこともあります。検査設備と外科的対応も可能な心臓血管外科のある総合病院へ搬送します。

・パターン「脳卒中を疑う場合」

行う検査:頭部CT、頭部MRI、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、心房細動等の動脈硬化リスク因子を認める方が、突然手足に力が入らなくなったり、呂律障害、顔が上手く動かなくなったり、眼が見えなくなった場合、脳卒中を疑い、緊急で診察を進めます。頭部MRI、頭部CTを撮影します。一過性で症状が消えてしまう、一過性脳虚血発作というものもあります。明らかに脳卒中を疑った場合、脳神経内科や脳神経外科のある総合病院に搬送します。

・パターン「気胸の場合」

行う検査:胸部レントゲン、必要に応じて胸部CT、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない若くて背が高くて痩せているが、胸の痛みを訴えて来院、特に呼吸や咳で悪化する場合、気胸を疑って胸部レントゲン検査、心電図検査を行います。レントゲンにて気胸の所見があれば気胸であることが確定、重症度や緊急度に応じて呼吸器外科に紹介します。気胸を起こしていなくても、咳が長く続くと胸の痛みの原因の一つとなります。

・パターン「上部消化管疾患」

行う検査:必要に応じて胃カメラ、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない若い方が、胸の痛みを訴えて来院、以前に胃炎や逆流性食道炎の既往を指摘されており、吐気や胸焼け、胃酸が込み上げる症状等を認める場合、逆流性食道炎や食堂痙攣、胃炎等の上部消化管疾患を疑います。必要に応じて胃カメラ、消化器内科に紹介します。

・パターン「帯状疱疹」

行う検査:主に視診のみ

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない方が、胸の痛みを訴えて来院、皮膚の視診で、神経の走行に添って水疱形成を認める場合、帯状疱疹と診断します。最初は皮疹がなく痛みだけ先行して、数日後に皮疹が出現することもあるので注意です。必要に応じて皮膚科やペインクリニックに紹介します。

・パターン「肋間神経痛」

行う検査:除外診断、主に問診、必要に応じて心電図、胸部レントゲン、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない方が、チクチク、ズキズキ、ビリビリ、ギュッとした痛み、胸の痛みを訴えて来院、皮膚の視診で異常なし、心電図異常なし、胸部レントゲン異常なし、逆流性食道炎の既往なし、特に何にも異常が見つからない場合もあります。ストレス、睡眠不足、温度変化、気圧変化、不規則な生活、等が要因として強く関係していることも多いです。肋骨に沿ってズキズキ、チクチクとした痛みの場合、肋間神経痛と診断します。通常、十分な休養で治ります。重要なことは、心臓、肺、食道、胃、骨、皮膚など、いずれも異常がないことを確認することです。

・パターン「特に異常なしの場合」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、他

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない若い方が、様々な胸の痛みを訴えて来院、心電図異常なし、レントゲン異常なしの場合、心筋梗塞も狭心症もないことがほぼ確定、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞のリスク因子が全くない若い方が急に心筋梗塞や狭心症を起こすことは通常極めて稀であるため、休養、経過観察とします。心血管疾患のリスク因子を認める場合は必要に応じて冠動脈CTや心臓MRI等を追加します。

・パターン「その他」

行う検査:心電図、胸部レントゲン、心エコー、他、必要に応じて医師が判断

また、循環器疾患には他にも、大動脈疾患、弁膜症、心筋症、心筋炎、心不全、様々なものがあります。その都度適切な検査、診療を行って行きます。精密検査や専門的な治療が必要なものは大学病院等へ紹介しています。また、動悸や胸の痛み等の症状の中には、どれだけ調べても原因を特定出来ないものも少なからずありますが、その場合は心臓や肺に大きな問題がないこと、命に関わるものではないこと、を確定していくことが目標になります。

以上、よくあるパターンをまとめました。あくまで典型的なケースの代表的な診察の流れであり、例外は常にありますが、代表的な診療の流れは知っておいて損はないと考え、まとめました。診療や検査の際にご参考ください。


 

肋間神経痛

注意:このページでは、胸痛の鑑別疾患としての肋間神経痛について記載しています。肋間神経痛の診断がすでに着いている方はペインクリニックや麻酔科等痛み専門の医療機関をご受診ください。ご来院いただいてもペインクリニックや麻酔科等痛み専門の医療機関へのご案内となってしまうことを予めご了承ください。

【肋間神経痛とは】

環境の変化や何らかのストレス性の要因で、急に胸が痛くなることは珍しくはありません。痛みの性状としては、刺さるような痛み、ズキズキ、チクチク、ピリピリとした痛み、ぎゅっと掴まれるような痛み、などと感じることが多いですが、症状は多彩です。症状が出る時ははっきりしなく、仕事中、パソコン作業中、寝る前の安静時、寝返りや姿勢を変えた時、息を大きく吸った時に、咳のし過ぎなど、など特定の特徴はありません。原因を特定出来ないことも多いですが、過労、睡眠不足、季節の変わり目、寒冷刺激、何らかのストレスが関係していることが多いです。受験勉強、資格勉強、新学期、仕事が忙しい、異動、昇進、転職、恋人との関係の変化、婚約、結婚、同居、引っ越しなど、本人は明らかなストレスだとあまり自覚していなくても何らかの生活の変化が関連していることが少なくありません。

【肋間神経痛の診断】

肋間神経痛の診断は除外診断です。つまり、胸痛の原因として、心疾患等の明らかな原因がないことを確認する必要があります。まずは、狭心症や心筋梗塞の原因となる動脈硬化のリスク因子がないこと、具体的には、高血圧症なし、脂質異常症なし、糖尿病なし、喫煙なし、などを確認し、

(1)心臓の痛みではないこと:労作によって症状が変わらないこと、必要に応じて心電図、採血

(2)肺や気管支の痛みではないこと:呼吸によって症状が変わらないこと、必要に応じて胸部レントゲン

(3)胃や食道の痛みではないこと:食事によって症状が変わらないこと

(4)筋肉や骨の痛みではないこと:姿勢によって症状が変わらないこと、外傷がないこと、必要に応じて胸部レントゲン

(5)皮膚の痛みではないこと:外傷がないこと、帯状疱疹などの痛みではないこと

上記に一つも当てはまる項目がないことを確認します。かつ、肋骨に沿って、チクチク、ズキズキ、ビリビリとした痛みである場合に臨床的に肋間神経痛などと呼びます。つまり、心臓の病気、肺や気管支の病気、胃や食道の病気、筋肉や骨の痛み、皮膚の病気、全て考えにくいことを確認することが大事です。これを除外診断と言います。似たような呼び方として、心臓に問題がないことを強調する意味で「非心臓性胸痛」、ストレス性の関与が強い場合に「心臓神経症」、特別に明らかな原因となる疾患が検査で見付からないことを「非定型胸痛」などいくつか異なる呼び方があったりしますが、いずれも大きな意味の違いはありません。重要なことは、心臓、肺、食道や胃、骨、皮膚などの疾患のいずれでもないことです。

【肋間神経痛の治療】

お茶の水循環器内科では、心疾患が否定された場合は、ペインクリニックや麻酔科等痛みの専門医療機関へ紹介しています。肋間神経痛の治療は、明らかに誘因となるストレス性の誘因があればそれを避けること、そして神経痛に対する対症療法です。参考までに治療の一例を紹介します。完全に症状が消失するまでは二週間から一ヶ月程度様子を見てください。

・ロキソニン(ロキソプロフェン)、ボルタレン(ジクロフェナク)、カロナール(アセトアミノフェン)、他

消炎鎮痛薬です。痛み止めとしての作用とともに神経の炎症を治す作用を期待して使います。内服薬の場合は胃が荒れるのを防ぐため、ムコスタ(レバミピド)などの胃の粘膜を保護する胃薬と一緒に使います。

・メチコバール(B12)

神経の調子を整えるビタミン剤です。主にビタミンB12の成分を使うことが多いです。劇的な効果がある訳ではないですが、特に副作用がなく安く安全なお薬です。

・リリカ(ピレガバリン)、サインバルタ(デュロキセチン)、他

痛みの神経の過剰な興奮を押さえる薬です。神経障害性疼痛と言って、通常の痛み止めで効かない、ピチピチ、チクチクとした痛みが特徴です。眠気やふらつきに注意しながら使います。色々な漢方薬、神経の過剰な興奮を押さえる作用を持つ抗うつ薬、抗てんかん薬、麻酔薬、医療用麻薬、トリガーポイント治療などを組み合わせて使うこともあります。

・デパス(エチゾラム)、ソラナックス(アルプラゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)、等

明らかにストレス性の要因が強い場合は、不安、緊張を和らげる作用の抗不安薬を少量適宜使うこともあります。

お茶の水循環器内科の方針としては、心疾患が否定された場合は、ペインクリニックや麻酔科等痛みの専門医療機関へ紹介しています。


急性大動脈解離

【急性大動脈解離とは】

急性大動脈解離(Acute aortic dissection)とは、心臓から出ている一番太い血管、大動脈(Aorta)が、急に裂けてしまう病気です。リスク因子としては、高血圧症、喫煙、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、加齢、マルファン症候群等の結合組織に異常を来す遺伝性疾患等が指摘されています。修正可能で最も重要な危険因子は、高血圧症と喫煙の2つです。長年の喫煙、高血圧症によって、血管へダメージが蓄積し、ある時、当然、前触れなく、血管が裂けてしまいます。突然の激痛、裂けるような激しい痛み、胸や背中、腹部や下肢に移動するような痛みが特徴です。激痛のあまりに失神、血管が破れると、出血、出血性ショック、意識障害、死に至ることもあります。他の随伴症状としては、解離を起こした血管の場所によって、冠動脈へ解離が及ぶと急性心筋梗塞、大動脈起始部へ解離が及ぶと心タンポナーデや大動脈弁の異常、腕頭動脈、左総頸動脈、脳血管へ解離が及ぶと脳卒中と同じような症状、腹部大動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、下腸間膜動脈、腎動脈、総腸骨動脈へ解離が及ぶとそれぞれの虚血症状が出ます。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/disease/aortic-aneurysm_dissection.html

【急性大動脈解離の予防】

急性大動脈解離の最大のリスク因子は、高血圧症と喫煙です。急性大動脈解離を防ぐためには、血圧を正常値に保つこと、喫煙をしないこと、この二つに尽きます。高血圧症を放置すること、喫煙を続けること、これが急性大動脈解離のリスクです。急性大動脈解離を起こしてしまうと最善の治療をしても助からないことも少なくありません。これが高血圧症を放置してはいけない理由、禁煙を医師が奨める理由です。高血圧症、喫煙の他のリスク因子として、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、加齢、マルファン症候群等の結合組織に異常を来す遺伝性疾患等が指摘されています。

【急性大動脈解離の検査】

確定診断は造影CTによる血管の解離の証明です。速やかに造影CTまたはカテーテル検査による解離の有無と程度を評価します。エコー検査は簡便ですが、深部の血管の観察は十分ではありません。胸部レントゲンでは、縦隔拡大がサインのことがありますが、判別出来ないことも多いです。腕頭動脈に解離が及んだ場合は右鎖骨下動脈、左鎖骨下動脈に解離が起こった場合には、血圧の左右差がサインのことがありますが、それだけでは確定診断出来ません。

【急性大動脈解離の治療】

速やかに救急救命病院に搬送します。血圧を十分に下げ、解離が広がらないように阻止します。上行大動脈に解離が及んでいる状態(Stanford A型)、上行大動脈に解離が及んでいない状態(Stanford B型)とあり、緊急手術、保存療法、人工血管置換術、ステントグラフト術等の様々な治療法があります。また、心筋梗塞、大動脈弁閉鎖不全症、心タンポナーデ、脳梗塞等の合併症を起こしている場合はそれに対して最善の治療を行いますが、急性大動脈解離は最善の治療を尽くしても助からないことがあります。発症しないためには予防するしかありません。詳しくは、「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」(日本循環器学会、日本医学放射線学会、日本胸部外科学会、日本血管外科学会、日本心臓血管外科学会、日本心臓病学会、日本脈管学会)をご覧ください。

https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf


 

肺気胸

【肺気胸とは】

肺気胸(Lung pneumothorax)とは、肺の一部が破れて空気が漏れて、胸腔内に空気が貯まる病気です。症状は、突然の胸の痛み、息苦しさをきっかけに受診し、胸部レントゲンで見付かることが多いです。胸の痛みは深呼吸や咳、胸郭を動かすような動作で痛むことが特徴です。特に原因となる疾患がない自然気胸(Spontaneous pneumothorax)または原発性気胸(Primary pneumothorax)と、肺気腫、肺癌、肺結核、子宮内膜症などの原因となる疾患がある続発性気胸(Secondary pneumothorax)、交通事故や肋骨骨折などに伴う外傷性気胸(Traumatic pneumothorax)などがあります。自然気胸は繰り返すことも多いです。

【肺気胸の診断】

胸部レントゲンで肺の虚脱を認めれば気胸の診断となります。胸部の聴診では呼吸音減弱が認められます。気胸の診断が確定すれば、縦隔偏位の有無、酸素飽和度、血圧などチェックし、緊急の処置が必要な状態である緊張性気胸(Tension pneumothorax)を来たしていないかをチェックします。通常、胸部レントゲンのみで診断可能ですが、気胸を引き起こす何か原因疾患もないか精査も含めて胸部CTを追加することもあります。胸の痛みで受診した場合は、心疾患の鑑別除外のため心電図検査なども追加になる場合があります。

【肺気胸の原因】

ブラ(Bulla)やブレブ(Bleb)と言って肺の一部や胸膜の一部に嚢胞状に空気が溜まっているところがあり、それが破れることが原因と言われています。背が高く痩せ型の体型は気胸を起こしやすいことがわかっており、気胸体型と呼ばれます。10代から20代の成長期で、骨格の急成長に肺の成長が間に合わずに肺が引き伸ばされてブラやブレブが出来るという説がありますが、よくわかっていません。喫煙歴、気圧の変化、大声で叫んだり、いきんだり、急激な圧が掛かる動作、重いものを持ち上げる動作、楽器の演奏、飛行機、登山、ダイビングなどが関係することもあります。

【肺気胸の重症度評価】

肺気胸と診断したら、重症度評価を行います。肺の虚脱率に応じて、I度(軽度)、II度(中程度)、III度(重度)と評価します。軽度の気胸は安静にて自然治癒することも多いので経過観察します。緊張性気胸と言って、チェックバルブ機構により換気不全を引き起こしている場合は、緊急脱気を行います。中程度の場合は原則的に経過観察のために呼吸器科病棟に経過観察入院します。

【肺気胸の治療】

肺気胸の治療は程度によりますが、中程度以上の肺気胸では胸腔ドレナージ術や手術を行います。ごく軽度の自然気胸は手術をせずに安静で自然治癒を待つ場合もあります。再発予防のため、胸腔鏡下嚢胞切除術、胸膜癒着術、メッシュ術など様々な方法があります。専門医の判断になりますので割愛します。喫煙は気胸のリスクなので再発予防のためには禁煙が基本です。気胸の治療は胸腔ドレナージ等の外科的治療がメインになりますが、対症的に鎮痛薬や鎮咳薬を使います。

・ロキソニン(ロキソプロフェン)、ボルタレン(ジクロフェナク)、消炎鎮痛薬です。気胸の痛みに対して対症的に使います。

・メジコン(デキストロメトルファン)、フスコデ(ジヒドロコデイン、メチルエフェドリン、クロルフェニラミン)、鎮咳薬です。咳のし過ぎは気胸の自然治癒遅延の要因になるので、鎮咳薬を対症的に使います。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

逆流性食道炎

【逆流性食道炎とは】

逆流性食道炎とは、胃酸の逆流が原因で食道に炎症が起こる病気です。胃食道逆流症(Gastro esophageal reflux disease: GERD)とも呼びます。今まで検診や人間ドックなどで逆流性食道炎と既に診断されて胸焼け症状の治療のため来院される場合と、胸の痛み、胸の違和感、胸の苦しさ、不快感、動悸、長引く咳などの症状で来院されて、心臓や肺などの検査をしても明らかな異常がなくて、症状や検査などから逆流性食道炎の症状であることがわかる場合とがあります。

【逆流性食道炎の症状】

胸焼け、みぞおちの痛み、胃酸の込み上がる感じ、胸の中央の焼けるような痛み、胸のつかえる感じ、などが逆流性食道炎に特徴的な症状です。食後の不快感、吐気、すぐにお腹が膨れるなどの症状のこともありますし、ゲップが出やすくなった、口臭が強くなった、声のかすれなどの一見関係がなさそうな症状のことも珍しくありません。胃酸が気管支を刺激すると咳の原因となり、長引く咳の原因の一つとして逆流性食道炎は重要です。胸が締め付けられる感じ、胸が圧迫される感じ、動悸といった一見狭心症や不整脈のような症状、なんとなく胸全体の不快感などといった漠然とした症状であることもしばしばあります。

【逆流性食道炎の検査】

逆流性食道炎の確定診断は上部消化管内視鏡検査にて食道の炎症を認めることです。検診等で逆流性食道炎の診断が付いている場合、または上記のような逆流性食道炎に典型的な症状を認める場合、臨床的に逆流性食道炎と診断し、治療して行く場合もあります。まずは逆流性食道炎の治療薬である制酸薬、胃酸を抑える薬を先に投与し、症状の改善が認められる場合に逆流性食道炎と診断するやり方もあります。治療的診断、PPIテストなどと呼ばれる診療の進め方で、その後それで症状が改善すればそれでOK、全く症状の改善が見られない場合に詳しく内視鏡検査を追加して進めていくというやり方です。どちらが正しいということはなく、年齢、症状の経過、悪性疾患のリスク因子、既往歴、まずは原因を確実にハッキリとさせたいかとにかく今の症状を早く治したいかなど患者さんの趣向、内視鏡検査の負担や検査費用なども踏まえつつ患者さんと相談しながら決めていきます。胃癌や食道癌などの疑いがあり、明らかに内視鏡検査をやったほうがいい場合は主治医のほうから強く検査を奨めますので、自己判断で放置しないようにしましょう。逆流性食道炎を無治療のまま放置すると胃酸の刺激の影響で食道の粘膜が変化してしまうバレット食道(Barrett’s esophagus)という状態になり、それをさらに相当期間放置すると慢性的な炎症から食道癌の原因になると言われていますので、ただの胸焼けだからと言って長く続く場合は放置しないようにしましょう。また逆流性食道炎の原因として食道裂孔ヘルニアを見つかった場合は食道裂孔ヘルニアに対する治療が必要になる場合もあります。

症状だけでは診断がハッキリ付かない場合は消化器系、循環器系、呼吸器系、幅広く鑑別が必要になることも珍しくありません。狭心症などの心疾患の可能性や併発を疑う場合は、心電図、胸部レントゲン、必要に応じて心臓CT、心臓MRI、心エコー、ホルター心電図などの検査を進めていきます。長引く咳の症状で来院された場合は、咳の原因として、マイコプラズマ、百日咳、結核などの慢性咳嗽を引き起こす感染症の検査、胸部レントゲン、胸部CTなど必要に応じて進めて行きます。消化器疾患でも、ピロリ菌感染症に関連する胸部症状、内視鏡をしても異常は見付からないけれど逆流性食道炎の症状を認める非びらん性胃食道逆流症(Non-erosive reflux disease: NERD)、何らかの原因で食道の蠕動運動や食道括約筋の調整に問題が起こる食道アカラシア、何らかの食物アレルギーが関係すると言われアレルギーに対する治療が有効な好酸球性食道炎、心因性など鑑別が多岐に渡ることもあります。

【逆流性食道炎の治療】

逆流性食道炎の治療はズバリ、原因である胃酸を抑える治療です。制酸薬は単に症状を改善するだけではなく、胃酸を押さえ、胃の粘膜、食道の粘膜を一度ちゃんと治したいので、粘膜が入れ替わる4週間、6週間、8週間という単位でしっかりと継続することが大切です。治療のため、再発予防のためにも後述する逆流性食道炎の悪化に関係する食事習慣、生活習慣の改善も重要です。

・ネキシウム(エソメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、オメプラール(オメプラゾール)、プロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitor: PPI)と呼ばれる制酸薬です。4種類のPPIと、PPIの強化版のP-CABと呼ばれるタケキャブ(ボノプラザン)の5種類があります。症状が収まるまでは治療用量で、症状が収まった後は維持用量で継続と使い分けます。

・ガスター(ファモチジン)、H2ブロッカーと呼ばれる制酸薬です。こちらでも十分に症状が改善する方もいます。

・ムコスタ(レバミピド)、PPIやH2ブロッカーのほど強力な作用はありませんが、胃をやさしく守ります。粘膜修復作用を期待して併用します。他にも多くの胃薬があります。

・ガスモチン(モサプリド)、六君子湯(りっくんしとう)、消化管の運動を改善します。

・ナウゼリン(ドンペリドン)、プリンペラン(メトクロプラミド)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、吐気が強い場合に症状が改善するまで併用します。

・逆流性食道炎の悪化に関係する生活習慣として、食べ過ぎ飲み過ぎ、油っぽい食事、香辛料や刺激物の多い食事、酸っぱいものの摂り過ぎ、カフェインの摂り過ぎ、アルコールの飲み過ぎ、炭酸飲料の飲み過ぎ、一度に一気に食べる量が多い、食べた後すぐに横になる、肥満などが言われています。ストレス、腹部に圧力が掛かる姿勢、骨格、作業、運動、服装なども逆流性食道炎の悪化要因であることが言われています。問題がある食生活、生活習慣がないか見直してみましょう。喫煙も逆流性食道炎の悪化要因であることは知られています。煙草も辞めるか減らしましょう。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

正しい医療情報の探し方

【正しい医療情報の見付け方】

テレビや週刊誌、インターネット上で信頼性の低い医療情報が問題となっています。正しい医療情報を見付けるにはどのようにしたらよいでしょうか。医療情報の正しさは、科学的根拠、エビデンス(Evidence)、という概念によって判断します。正しい医療情報の見付け方、具体的に参考になる情報源として、論文検索から診療ガイドライン、大学病院や研究機関サイト、一般向けサイト、医師個人運営のサイト、まで具体的にまとめました。正しい医療情報をお探しの際には、ぜひご参考ください。

【エビデンスとは】

医療情報の正しさは、科学的根拠、エビデンス(Evidence)、に基付いて判断されます。なぜなら、「友人が言っていた」「テレビで芸能人が言っていた」「うちの地域では昔からこの治療法でやっている」「近くの知り合いに独自の治療法を奨められた」などは、信頼出来る情報か信頼出来ない情報か十分に検証がされておらず、正しい医療情報である保証がありません。医療も科学であるため、科学的に正しいかどうかを判断するための指標が、エビデンス、です。「豊富なエビデンスがある」「エビデンスが十分でない」「さらなるエビデンスの蓄積が望まれる」などのように使います。少し難しくなりますが、上図のように、エビデンスレベルというものが世界共通で取り決められています。最もエビデンスレベルが高いのは、ランダム化比較対照試験(Randomized controlled trial: RCT)を複数まとめたシステマティックレビュー(Systematic review)、メタアナリシス(Meta analysis)という解析手法の結果で、最も信頼出来る医療情報とされています。専門家の意見、個人の意見はどんなに権威がある人の発言であっても実は最もエビデンスレベルが低い医療情報という扱いになります。医師にも色々な医師がいること、論文も簡単に出せる論文もあることから、医師が監修しているから、論文に基づいているから、などだけで判断してはいけません。

【論文検索】

医療情報は理想的にはエビデンスレベルの高い一次情報に当たるのがベストです。論文検索はPubMed、医中誌(医学中央雑誌)という二つのサイトが有名で、世界中、日本中の医学論文のほとんどはここで検索出来ます。

・PubMed→https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed

・医中誌Web→https://www.jamas.or.jp

ただし、検索にはある程度のコツがあること、全て医学論文の形式で書かれているため読解にある程度の慣れや医学知識が必要であること、基本的に全て英語で記述されていること、などから臨床医であっても自分の専門分野以外も含めて全部の論文に目を通すことは現実的ではありません。そこで、それぞれの分野の専門医たちが協力して、多数のエビデンスから重要なものをまとめた形で、二次情報として診療ガイドラインというものがあります。

【診療ガイドライン】

診療ガイドラインはそれぞれの分野の専門の医師たちが集まって、日本国内または国際的に標準的な診療指針をまとめたものです。まずはここに目を通しておくことで、標準的な医療情報を知ることが出来ます。日本国内では日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービス、Mindsが有用です。また、日本循環器学会は全てのガイドラインを一般公開しています。

・Minds→https://minds.jcqhc.or.jp

・日本循環器学会→https://www.j-circ.or.jp

他の学会でもガイドラインは一般公開されていることも多いので、自分が知りたい疾患名、プラス「ガイドライン」という検索キーワードを入れて検索すると、多くの疾患で診療ガイドラインを読むことが出来ます。適当に疾患名や症状名のみで検索をするよりも遥かに信頼出来る情報を探すことが出来るでしょう。

【大学病院や研究機関のサイト】

大学病院や研究機関のサイトも有用です。例えば、国立循環器病研究センターが運営する循環器病情報サービス、国立感染症研究所の感染症情報のページ、慶應義塾大学病院が運営する医療健康情報サイト、KOMPAS(Keio Hospital Information & Patient Assistance Service)などは、しっかりとしています。

・国立循環器病研究センター→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo

・国立感染症研究所→https://www.nih.go.jp/niid

・KOMPAS→https://kompas.hosp.keio.ac.jp

他にも厚生労働省や各都道府県、各地域の保健所などが公開している情報も有用です。検索時に「ac.jp」や「go.jp」などのドメイン指定で絞り込むことより、教育機関や政府機関などある程度信頼性が高いと考えられるサイト以外を非表示にすることが可能です。適当に疾患名や症状名のみでインターネット検索をするよりも遥かに信頼出来る情報を探すことが出来ると言えます。

【一般向けサイトや書籍】

製薬企業の自社の製品説明のサイト、広告主からの広告料で経営が成り立っている多くのメディア、その他企業が運営するサイトなどは、適当に検索して出て来るサイトの情報よりはおそらくよいのかも知れませが、何らかの情報バイアスが掛かっている可能性を排除出来ません。その中でも、運営方針として情報の中立的や信頼性を重要性しているサイトとして、いくつか下記ご紹介します。医学系の出版社が医療従事者向けに発行する書籍は、多くの場合、信頼出来るものが多いと思われます。一般向けの書籍ではなく、医師や薬剤師、看護師などの医療従事者向けに発行されていることが大事です。出版不況のせいか、売れればいい、全く標準的とは言えない独自の民間療法、記事広告と記事の明確な区別もない病院ラインキング本、偏った医療情報の本も増えて来てしまっていますので、書籍になっているからと言って信頼出来る情報であるとは一概には言えない時代になりましたので、注意が必要です。

・メディカルトリビューン→https://medical-tribune.co.jp

・メディカルノート→https://medicalnote.jp

・病気がみえるシリーズ→https://www.byomie.com

【医師個人運営のサイト】

医師個人でも有益な医療情報を積極的に発信している先生方は多数いらっしゃいます。手前味噌ですが、私も出来るだけわかりやすく正しい医療情報を伝えようという思いで、循環器内科.comというサイトを運営しています。私の診療スタイルや主観的な意見も入っていますので、エビデンスレベルの表で言うと個人の意見は最低ランクになってしまうのですが、普段どのような指針で診療してるか、頭の中でどのようなことを考えながら診療しているか、なるべく知っておいてほしいと思うこと、知っておくと役に立つと思うことを中心にまとめています。どうぞご覧ください。他にも同世代の医師や薬剤師を中心に有益な医療情報を発信しているものをまとめました。

・循環器内科.com→https://循環器内科.com

・腎臓内科.com→https://腎臓内科.com

・糖尿病(仮)→https://sou3.jp

・整形外科医.com→https://整形外科医.com

・画像診断.com→https://gazoushindan.com

・セルフメディケーション.com→https://セルフメディケーション.com

【かかりつけ医やかかりつけ薬剤師】

hakui

医療情報サイトも大事ですが、やはり身近に相談出来る専門家を持つことは大切です。どの情報が正しくて、どの情報が間違っているのか、情報洪水の社会だからこそ、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師を持つことの重要性が近年高まっています。症状のこと、病気のこと、検査や検査結果のこと、治療のこと、薬のこと、介護のこと、わからないことがあればお気軽に相談出来る専門家を持ちましょう。


 

一過性脳虚血発作

【一過性脳虚血発作とは】

一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)とは、脳の血管が一時的に血流が悪くなって、脳梗塞のような症状が短時間出現する症状です。脳梗塞の前触れ症状として注意が必要です。心筋梗塞(Acute myocardial infarction: AMI)の前触れ症状として不安定狭心症(Unstable angina pectoris: UAO)があり、両者をまとめて急性冠症候群(Acute coronary syndrome: ACS)と呼ぶのと同様に、脳梗塞(Cerebral infarction: CI)の前触れ症状として一過性脳虚血発作(Transient ischemic attack: TIA)があり、両者をまとめて急性脳血管症候群(Acute cerebrovascular syndrome :ACVS)として、より早期に診断、治療していくという認識に脳卒中を専門とする医師の間ではなって来ています。具体的には、「脳卒中診療ガイドライン2015」によると、TIA発症後90日以内に脳卒中を発症するリスクは15~20%で、そのうち約半数はTIA発症後48時間以内に発症していることがわかっており、TIA発症平均1日後に治療を受けた場合、90日以内の大きな脳卒中発症率が2.1%となり、平均20日後に治療を受けた場合に比べて90日以内の大きな脳卒中発症率が80%軽減されたという報告があります。脳梗塞で一度失ってしまった神経の機能を回復させることは非常に難しく、症状がすぐに消えてしまったからと言って放置せずに、早期に診断、適切な治療を開始することが重要です。

【一過性脳虚血発作の症状】

TIAを疑う症状としては、脳の血管の血流が悪くなり、虚血に陥った血管から先の血流が途絶え、脳の神経細胞に必要な酸素と栄養分が行き渡らなくなった場所の神経機能が失われる症状、神経脱落症状が発症します。症状は起こる場所や虚血の範囲や程度によって様々で、片側の上肢や下肢の痺れや麻痺、片側の顔が動かしにくくなる、呂律障害、片側の眼が見えなくなる、などが特徴的です。24時間以内とされていましたが、実際は数分間から60分以内の症状の持続のことが多いです。症状はすぐに消えてしまうこともありますが、それは重症の脳梗塞の前触れ症状の可能性があります。TIAだけで激しい頭痛や意識障害が起こることは通常稀です。TIAは早期の診断、早期の治療が必要ですので、頭痛がないからと言って気のせいなどと様子を見ずに、速やかに脳卒中専門病院を受診しましょう。症状は消失したり、変動しますので、何時何分からどういった症状が何分間くらい出現したのか、具体的に伝えられるようにしましょう。

脳卒中や一過性脳虚血発作を疑う症状をシンプルにまとめたものとして「FAST」という覚え方があります。顔の麻痺(Face: F)、腕の麻痺(Arm: A)、言葉の障害(Speach: S)のうち一つでも異常を認めたら、発症時刻(Time: T)を確認して、速やかに脳卒中専門の医療機関に向かいましょう。早期診断、早期治療が非常に重要ですので、救急車を呼ぶことをためらってはいけません。TIAについて詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph96.html

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/disease/stroke.html

【一過性脳虚血発作の診断】

一過性脳虚血発作などの神経脱落症状が突然発症している場合、一過性脳虚血発作または脳卒中の発症を疑い速やかに頭部画像検査を行います。まずは大きく、出血なのか梗塞なのか、どちらでもないのか、が重要ですので、頭部CTにて脳出血、くも膜下出血を検出します。頭部CTで出血が否定されたら、一過性脳虚血発作で脳梗塞には陥っていないか、脳梗塞を生じているか、虚血か梗塞かが重要ですので、次に頭部MRIを撮影します。頭部MRI、特に拡散強調画像(Diffusion weighted image: DWI)は発症早期の脳梗塞も検出可能です。脳卒中の病型診断、原因の精査のために、通常、MR血管画像(Magnetic resonance angiography: MRA)、頸動脈エコー、心原性脳塞栓症の鑑別のため心電図、心エコー、凝固や線溶マーカーも含めた採血検査も行います。一過性脳虚血発作と診断した場合には、次にTIAを起こす原因を特定することが重要で、特に心房細動などの不整脈が原因の心原性か、総頸動脈や内頚動脈、脳の中の太い血管の動脈硬化が原因か、心原性か非心原性かの鑑別が非常に重要です。

【一過性脳虚血発作の治療】

一過性脳虚血発作と診断した場合、TIA発症後の脳卒中の半数は、TIA発症後48時間以内に発症していることがわかっており、速やかに治療を開始することが重要です。頭部MRI、頸動脈エコー、心電図、心エコーなどの検査結果から一過性脳虚血発作の原因を特定し、原因に応じた治療を開始します。具体的には、主に抗凝固療法が必要となる心原性か、主に抗血小板薬療法が必要となる非心原性かの鑑別が重要です。また、さらに頚動脈狭窄症や頸動脈プラーク等の内頚動脈病変が認められた場合には内頚動脈病変に対する外科的治療があります。

1、心原性の一過性脳虚血発作に対して、心原性脳塞栓症の治療に準じて抗凝固療法を行います。

心原性脳塞栓症→https://循環器内科.com/cce

・エリキュース(アピキサバン)、プラザキサ(ダビガトラン)、イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct oral anticoagulant)などと呼ばれるグループの抗凝固療薬です。心原性脳塞栓症の予防、再発予防に対して使います。

・ワーファリン(ワルファリン)、昔からある抗凝固薬です。僧帽弁狭窄症や人工弁置換術後などはワーファリンによる抗凝固療法が必要です。

2、非心原性の一過性脳虚血発作に対して、主にラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞の治療に準じて抗血小板療法を行います。

ラクナ梗塞→https://循環器内科.com/li

アテローム血栓性脳梗塞→https://循環器内科.com/atbi

・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、パナルジン(チクロピジン)、プレタール(シロスタゾール)、抗血小板薬です。血液が固まるのを防ぎ、脳梗塞を予防します。

非心原性の一過性脳虚血発作を起こした患者さんは動脈硬化のリスク因子として、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙等の生活習慣病が背景にあることがほとんどですので、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化のリスク因子があれば、それぞれの治療をしっかりと行います。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

3、高度の内頚動脈狭窄症等の内頚動脈病変に対しては、頸動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy: CEA)と頸動脈ステント留置術(Carotid artery stenting: CAS)の二種類の治療法があり、リスク、適応基準などによってそれぞれ判断されますが、専門的になりますので割愛します。

【一過性脳虚血発作の予防】

一過性脳虚血発作の予防は脳梗塞の予防と同様です。脳梗塞、動脈硬化のリスク因子である高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、それから心原性脳塞栓症の原因である不整脈、心房細動です。それぞれ治療法や予防法をまとめましたのでご覧ください。同じ一過性脳虚血発作でも、動脈硬化のリスク因子が多いほど脳梗塞を発症するリスクが高いです。ABCD2スコアという一過性脳虚血発作発症後の脳梗塞発症リスクの評価ツールがあり、スコアの合計点が高いほど脳梗塞発症リスクが高いことがわかっています。一般的に3点以上では脳梗塞予防のための治療を開始します。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

一過性脳虚血発作及び脳梗塞の予防についてさらに詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph96.html

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

ラクナ梗塞

【ラクナ梗塞とは】

ラクナ梗塞(Lacunar Infarction: LI)とは、脳梗塞の中で最も多いタイプの脳梗塞で、脳の中の穿通枝(せんつうし)という200μm程度の細い血管が詰まって起こる病気です。ラクナ(Lacunar)とは小さな空洞という意味で、ラクナ梗塞の15mm未満の小さな梗塞巣を意味しています。最大の原因は高血圧症で、高い圧力が細い血管に負担が掛かると、血管が脆くなり、破れたり、詰まったりしやすくなります。穿通枝が破れると脳出血、詰まるとラクナ梗塞になります。どちらも高血圧症が最大のリスク因子ですので、高血圧症があれば高血圧症の治療、血圧を正常に保つことが最も重要です。

【ラクナ梗塞の症状】

脳の中の穿通枝と呼ばれる細い血管が詰まって起こります。具体的には、レンズ核線条体動脈、内側線条体動脈、前脈絡動脈、視床膝状体動脈、視床穿通動脈、傍正中動脈などがあります。梗塞に陥った血管から先の血流が途絶え、脳の神経細胞に酸素と栄養分が行き渡らなくなった場所の神経機能が失われる症状、神経脱落症状が突然発症します。症状は起こる場所によって様々で、軽度の呂律障害、上肢や下肢の痺れ、麻痺、などの軽微な神経脱落症状が特徴的で、ラクナ症候群(Lacunar syndrome)と呼ばれます。ラクナ梗塞のみで意識障害に陥ることは稀です。脳卒中というと突然の頭痛というイメージがあるかも知れませんが、ラクナ梗塞のみでは基本的に痛みはありません。例外的に視床梗塞では視床痛(Thalamic pain)という痛みが出ることがあります。穿通枝の場所によっては明らかな自覚症状を来さない無症候性脳梗塞、いわゆる隠れ脳梗塞の場合もしばしばあります。無症候性脳梗塞が多発すると、多発性ラクナ梗塞と言って、一個一個の梗塞の症状は明らかでなくても積み重なると脳の中の細かい神経ネットワークに障害を来して、もの忘れ、脳血管性認知症(Vascular dementia: VaD)の原因になります。症状の有無に関わらず、予防することが大事です。

【ラクナ梗塞の診断】

ラクナ症候群などの神経脱落症状が突然発症している場合、脳卒中を疑い速やかに頭部画像検査を行います。まずは大きく、出血なのか梗塞なのか、どちらでもないのか、が重要ですので、頭部CTにて脳出血、くも膜下出血を検出します。頭部CTで出血が否定されたら、頭部MRIを撮影します。頭部MRI、特に拡散強調画像(Diffusion weighted image: DWI)は発症早期の脳梗塞も検出可能です。脳卒中の病型診断、原因の精査のために、通常、MR血管画像(Magnetic resonance angiography: MRA)、頸動脈エコー、心原性脳塞栓症の鑑別のため心電図、心エコー、凝固や線溶マーカーも含めた採血検査も行います。

【ラクナ梗塞の治療】

ラクナ梗塞は小さな梗塞ですので、多くの場合ラクナ梗塞だけで死因となることはありません。ラクナ梗塞の急性期に対する治療、脳梗塞後遺症に対してのリハビリテーション治療、再発予防のための治療がメインになります。

・プレタール(シロスタゾール)、バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、パナルジン(チクロピジン)、抗血小板薬です。血液が固まるのを防ぎ、脳梗塞の再発を予防します。キサンボン(オザグレル)、静注の抗血小板薬です。日本国内では脳梗塞急性期によく使われます。

・スロンノン(アルガトロバン)、静注の抗凝固薬です。ラクナ梗塞の急性期治療には主に抗血小板療法を行いますが、心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、分枝粥腫型梗塞(Branch atheromatous disease: BAD)も疑われる場合には抗凝固療法を使います。

・グルドパ(アルテプラーゼ)、遺伝子組換組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue Plasminogen Activator: rt-PA)、血栓溶解薬です。発症4.5時間以内の脳梗塞に対して、適応基準を満たせば、合併症に注意しながら使います。日本脳卒中学会の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」に従って使用します。通常、ラクナ梗塞だけで血栓溶解療法が必要になることはほとんどありません。

・グリセオール(グリセリン)、マンニット(マンニトール)、脳浮腫治療薬です。ラクナ梗塞だけで脳浮腫治療が必要になることは通常あまりありません。

・ラジカット(エダラボン)、フリーラジカルスカベンジャー(Free redical scavenger)と呼ばれる脳保護薬です。脳保護作用を期待して日本国内の施設によってはよく使われます。

脳梗塞後の後遺症としての神経機能障害に対しては脳梗塞後リハビリテーションを行います。

【ラクナ梗塞の予防】

・各種降圧薬、ラクナ梗塞の最大の原因は高血圧症です。脂質異常症、糖尿病も動脈硬化のリスクですが、ラクナ梗塞のみに関して言えば関与はあまり大きくないと言われています。ラクナ梗塞の予防のためにも再発予防のためにも血圧を正常値に保つことが非常に大事です。高血圧症の治療については詳しく高血圧症のページをご覧ください。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

ラクナ梗塞の予防は第一に高血圧症の治療です。さらに、脂質異常症、糖尿病、心房細動、大量飲酒など、脳卒中のリスク因子があれば、脳卒中予防のために、それぞれきちっと治療しましょう。

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

アテローム血栓性脳梗塞

【アテローム血栓性脳梗塞とは】

アテローム血栓性脳梗塞とは、脳の比較的太い血管に、動脈硬化、アテローム硬化が起きて、脳の血管が詰まって起きる脳梗塞です。心臓の血管に動脈硬化が起こると、狭心症、心筋梗塞になりますが、同じことが脳の血管にも起きると、アテローム血栓性脳梗塞になります。血管が詰まる前に、一過性脳虚血発作(Transient ischemic attack: TIA)という脳梗塞の前触れ症状が起こることがあり、脳梗塞とTIAをまとめて、心血管における急性冠症候群(Acute coronary syndromes :ACS)に相当する概念として、急性脳血管症候群(Acute cerebrovascular syndrome :ACVS)として、より早期に診断、治療していこうという動きがあります。

【アテローム血栓性脳梗塞の診断】

アテローム硬化とは粥状硬化と呼ばれ、主にコレステロールがプラークと言って粥状に血管壁に塊りを作っている状態です。プラークが破綻すると、急速に血小板や凝固因子などが活性化され血栓が出来、その場で血管が詰まったり、血栓が末梢の血管を閉塞させたりします。梗塞や閉塞に陥った血管から先の血流が途絶え、脳の神経細胞に酸素と栄養分が行き渡らなくなった場所の神経機能が失われる症状、神経脱落症状が突然発症します。アテローム血栓性脳梗塞の場合は、比較的太い血管が閉塞することが多く、呂律障害、言語障害、顔面麻痺、半身麻痺、視力低下、眩暈、嘔吐、意識障害、などの明確な神経脱落症状が出現することが多いです。ラクナ梗塞が、主に高血圧症が原因で、細い血管に起こり、症状が軽微であることが多いのとは対照的です。

【アテローム血栓性脳梗塞の診断】

アテローム血栓性脳梗塞を疑う神経脱落症状が突然発症している場合、脳卒中を疑い速やかに頭部画像検査を行います。まずは大きく、出血なのか梗塞なのか、どちらでもないのか、が重要ですので、頭部CTにて脳出血、くも膜下出血を検出します。頭部CTで出血が否定されたら、頭部MRIを撮影します。頭部MRI、特に拡散強調画像(Diffusion weighted image: DWI)は発症早期の脳梗塞も検出可能です。脳卒中の病型診断、原因の精査のために、通常、MR血管画像(Magnetic resonance angiography: MRA)、頸動脈エコー、心原性脳塞栓症の鑑別のため心電図、心エコー、凝固や線溶マーカーも含めた採血検査も行います。アテローム血栓性脳梗塞の診断は、梗塞巣のサイズがラクナ梗塞の定義を満たさないこと、穿通枝と呼ばれるラクナ梗塞を起こす血管領域ではない場所の梗塞であること、かつ、心原性脳塞栓症の原因である心房細動、大動脈プラーク、奇異性塞栓症を疑うような卵円孔開存を認めないこと、脳動脈解離などの特殊な脳梗塞でもないこと、かつ、一過性脳虚血発作の持続時間を満たさないで梗塞巣が完成していること、にて診断されます。逆に言えば、アテローム血栓性脳梗塞は除外診断であり、実臨床の場では、脳梗塞であり、ラクナ梗塞でもなく、心原性脳塞栓症でもなく、特殊な型の脳梗塞でもなく、一過性脳虚血発作でもないものは、アテローム血栓性脳梗塞として診断、治療します。分枝粥腫型梗塞(Branch atheromatous disease: BAD)と言って、分岐枝血管に起こる脳梗塞は時間とともに拡大傾向を示すことが多く、当初はラクナ梗塞のように見えても、時間経過とともに梗塞巣が拡大傾向を認めるのが特徴で、アテローム血栓性脳梗塞に準じて治療します。また、アテローム血栓性脳梗塞として治療していたところ、発作性心房細動や左心房内に血栓が見付かり、心原性脳塞栓症の治療に切り替えることも少なくありません。それぞれ、治療法や予防法が異なりますので、確定診断のために何度も繰り返し検査を行うこともあります。

【アテローム血栓性脳梗塞の治療】

アテローム血栓性脳梗塞は比較的大きな梗塞ですので、症状がはっきりと出るのが特徴であり、発症早期に医療機関に受診出来た場合、血栓溶解療法が適応になることも少なくありません。アテローム血栓性脳梗塞の急性期に対する治療、脳梗塞後遺症に対してのリハビリテーション治療、再発予防のための治療がメインになります。

・グルドパ(アルテプラーゼ)、遺伝子組換組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue plasminogen activator: rt-PA)、血栓溶解薬です。発症4.5時間以内の脳梗塞に対して、適応基準を満たせば、合併症に注意しながら使います。日本脳卒中学会の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」に従って使用します。アテローム血栓性脳梗塞は比較的太い血管の梗塞ですので何もしないと何らかの神経後遺症が残ってしまいます。血栓溶解療法の禁忌や慎重投与の基準を満たさなければ、血栓溶解療法は劇的な神経予後が期待出来る治療法ですが、発症4.5時間以内に治療開始することが条件で、早ければ早いほどよく、遅ければ遅いほど治療効果は期待出来ないので、発症に気付いた時点で速やかに救急車を呼ぶ必要があります。

・スロンノン(アルガトロバン)、ヘパリン(低分子ヘパリン)、静注の抗凝固薬です。アテローム血栓性脳梗塞の急性期には凝固能亢進が認められることが多く、梗塞巣の拡大予防、再発予防を期待して急性期治療には抗凝固療法を行います。

・キサンボン(オザグレル)、静注の抗血小板薬です。アテローム血栓性脳梗塞の急性期で、血小板血栓の関与が大きいと考えられる場合、何らかの理由で抗凝固療法が行えない場合に使います。アテローム血栓性脳梗塞の急性期に抗凝固療法を行うか、抗血小板療法を行うか、両方行うか、施設による差も大きいです。

・グリセオール(グリセリン)、マンニット(マンニトール)、脳浮腫治療薬です。脳ヘルニアなど生命を脅かす脳浮腫に対して使います。

・ラジカット(エダラボン)、フリーラジカルスカベンジャー(Free redical scavenger)と呼ばれる脳保護薬です。脳保護作用を期待して使います。

・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、パナルジン(チクロピジン)、プレタール(シロスタゾール)、抗血小板薬です。血液が固まるのを防ぎ、脳梗塞の再発を予防します。心原性脳塞栓症以外の脳梗塞、非心原性脳梗塞(Non cardiogenic cerebral infarction)では、通常、抗血小板療法が適応になります。心原性脳塞栓症では抗凝固療法が適応になり、抗血小板療法は無効ですので、本当に心原性でないのか、発作性心房細動などが隠れていないか、の精査と鑑別は極めて重要です。アテローム血栓性脳梗塞では高血圧症を合併することが多く、十分な降圧療法とともに使います。

脳梗塞後の後遺症としての神経機能障害に対しては脳梗塞後リハビリテーションを行います。

【ラクナ梗塞の予防】

・アテローム血栓性脳梗塞は脳の血管の動脈硬化が原因です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化のリスク因子があれば、それぞれの治療をしっかりと行います。ラクナ梗塞のリスクが主に高血圧症のみであったのとはやや対照的です。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・心房細動→https://循環器内科.com/af

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

脳の血管に動脈硬化を認めるということは、全身の他の血管、特に心臓の血管、腎臓の血管、下肢の血管などにも同じく動脈硬化を来していることがほとんどです。虚血性心疾患(Ischemic heart disease :IHD)、慢性腎臓病(Chronic kidney disease: CKD)、末梢動脈疾患(Peripheral arterial disease: PAD)などの精査を行うなど、全身の動脈硬化を一つの疾病概念(Total vascular disease TVD)として、全身の動脈硬化を治療、予防、管理(Total vascular management :TVM)していくことが大事です。そのためには、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙といった動脈硬化のリスク因子の治療、予防が非常に重要です。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

心原性脳塞栓症

【心原性脳塞栓症とは】

心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)とは、心臓の中の血栓が原因となって、脳の血管に詰まって起こる脳梗塞です。原因は心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈が主な原因です。心原性脳塞栓症は重症な脳梗塞になることが多く予防が重要です。心房細動という不整脈があると、心臓の中の左心房という場所に、血液の滞りが続き、血液の塊、血栓が出来やすくなります。なぜかと言うと、血液は、出血に備えて流れていないと固まる、凝固する性質をもともと持っているからです。心臓に出来た血栓は、左心房、左心室、大動脈、総頚動脈、内頚動脈と、血管の中を血流に乗って飛んでいき、脳の血管まで辿り着き、最終的に脳の血管に詰まると脳梗塞に至ります。小指の爪くらいの大きさの血栓であっても脳の半分の血管が一本詰まってしまうくらい、重症な脳梗塞になってしまいます。重症な脳梗塞とは、2割は命が助からず、救急車で運ばれてすぐに最善の治療をしても、2割は寝たきりか要介護の状態に、5割の患者さんは何らかの後遺症を残ってしまい、今まで通りの社会生活に復帰出来る場合はほんとわずか、というのが心原性脳塞栓症を起こしてしまった場合の予後です。ですので、なんとしても脳梗塞が起こすのを防ぐことが重要です。これが心房細動を放置してはいけない理由です。

【心房細動とは】

心房細動とは脳梗塞の原因となる不整脈です。心房細動自体は症状はほとんどないか、あっても動悸や脈が乱れる感じを自覚する程度ですが、自覚症状があるかどうかと脳梗塞の発症リスクは関係なく、脳梗塞予防が必要です。最も多い要因は加齢と高血圧症です。今までに健診で心電図異常を指摘されていることも多いですので、健診で心電図異常を指摘されていたら、放置せずに必ず主治医に相談しましょう。また、検診を何年も受けていなければ年に一回は検診を受けましょう。

【心原性脳塞栓症の診断】

心原性脳塞栓症の診断は脳梗塞の診断と心原性脳塞栓症の原因である心房細動の検出の二つによって診断されます。心房細動の診断に関しては心房細動のページをご覧ください。

心房細動→https://循環器内科.com/af

心原性脳塞栓症を疑う神経脱落症状が突然発症している場合、脳卒中を疑い速やかに頭部画像検査を行います。まずは大きく、出血なのか梗塞なのか、どちらでもないのか、が重要ですので、頭部CTにて脳出血、くも膜下出血を検出します。心原性脳塞栓症は広大な範囲の梗塞巣を来すことが多く、大脳半球に大きな早期虚血所見(Early CT signs)を認めることもしばしばあります。心原性脳塞栓症発症後の自然再開通を起こした例では、一定時間梗塞や虚血に陥った脆弱が血管が破綻し、出血性梗塞(Hemorrhagic infarction)を来していることも珍しくなく、心原性脳塞栓症を疑うCT所見です。頭部CTの次に通常、頭部MRIを撮影します。頭部MRI、特に拡散強調画像(Diffusion weighted image: DWI)は発症早期の脳梗塞も検出可能です。T2*強調画像(T2 Star weighted image: T2 Star)では微小出血も含めた出血病変も検出可能ですので、施設によってはCTをスキップしてMRIファーストで検査をしてしまうところもあります。脳卒中の病型診断、原因の精査のために、通常、MR血管画像(Magnetic resonance angiography: MRA)、凝固や線溶マーカーも含めた採血検査も行います。心原性脳塞栓症を疑った場合、塞栓子となった血栓がどこから飛んできたのか塞栓源の検索することが重要で、頸動脈エコー、心電図、心エコー、必要があればホルター心電図や経食道心エコー(Trans esophageal echocardiography: TEE)、明らかな塞栓源が捕まらない場合はアテローム血栓性脳梗塞として治療を開始することも少なくありません。また逆に、アテローム血栓性脳梗塞として治療していたところ、発作性心房細動や左心房内に血栓が見付かり、心原性脳塞栓症の治療に切り替えることも少なくありません。それぞれ、治療法や予防法が異なりますので、確定診断のために何度も繰り返し検査を行うこともあります。以前に検診等で心房細動と指摘されたことがある、という病歴は非常に重要で、不整脈と言われたことがある、だけではなく、心房細動と言われたことがあるのか、心房細動以外の不整脈なのか、何なのか極めてが重要ですので、不整脈と指摘された場合は合わせてその診断名まで把握しておくことが大切です。

【心原性脳塞栓症の治療】

アテローム血栓性脳梗塞は非常に大きな脳梗塞ですので、救急搬送前の死亡例も少なくありません。救急搬送後はまずは救命を第一に、気道、呼吸、循環などの全身状態の安定を図ります。発症早期に医療機関に受診出来た場合、血栓溶解療法が適応になることも少なくありません。心原性脳塞栓症の急性期に対する治療、脳梗塞後遺症に対してのリハビリテーション治療、心原性脳塞栓症の再発予防のための抗凝固療法に分かれます。

・グルドパ(アルテプラーゼ)、遺伝子組換組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue plasminogen activator: rt-PA)、血栓溶解薬です。発症4.5時間以内の脳梗塞に対して、適応基準を満たせば、合併症に注意しながら使います。日本脳卒中学会の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針」に従って使用します。心原性脳塞栓症は非常に太い血管の閉塞ですので何もしないと命に関わるか助かっても多くの場合何らかの神経後遺症が残ってしまいます。心原性脳塞栓症は出血性梗塞を起こすことも多く、血栓溶解療法の適応は慎重に判断しますが、血栓溶解療法は劇的な神経予後が期待出来る治療法ですので、血栓溶解療法の禁忌を満たさなければ効果を期待して治療に踏み切ることも少なくありません。いずれも、発症4.5時間以内に治療開始することが条件で、早ければ早いほどよく、遅ければ遅いほど治療効果は期待出来ないので、発症に気付いた時点で速やかに救急車を呼ぶ必要があります。

・血栓回収療法、血栓溶解療法が無効の発症8時間以内の脳梗塞に対し、脳血管カテーテル法にて様々な血栓回収療法デバイスが登場しています。劇的な再開通を認めることも期待出来ますが、術者の熟練が必要とされています。治験段階のものもたくさんあり、今後の新しい脳梗塞治療として期待されていますが、詳しくは専門的になりますので割愛します。現状としては可能な施設が限られることが欠点です。

・スロンノン(アルガトロバン)、ヘパリン(低分子ヘパリン)、静注の抗凝固薬です。アテローム血栓性脳梗塞の急性期には凝固能亢進が認められることが多く、梗塞巣の拡大予防、再発予防を期待して急性期治療には抗凝固療法を行います。

・グリセオール(グリセリン)、マンニット(マンニトール)、脳浮腫治療薬です。脳ヘルニアなど生命を脅かす脳浮腫に対して使います。

・ラジカット(エダラボン)、フリーラジカルスカベンジャー(Free redical scavenger)と呼ばれる脳保護薬です。脳保護作用を期待して使います。

脳梗塞後の後遺症としての神経機能障害に対しては脳梗塞後リハビリテーションを行います

・エリキュース(アピキサバン)、プラザキサ(ダビガトラン)、イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、直接経口抗凝固薬(DOAC; Direct oral anticoagulant)などと呼ばれるグループの抗凝固療薬です。心原性脳塞栓症の予防、再発予防に対して使います。抗凝固作用の発現が早いので、ヘパリンやアルガトロバンから早期に切り替え、または経口摂取が可能であればDOACファーストで抗凝固療法を導入することもあります。ワルファリンと比べて出血リスクが少ない、出血しても危篤な重症出血となりにくい、などのメリットがあります。新薬なので薬価が高いのと、薬が切れるのが早いので一日でも飲み忘れてはいけない点が注意です。

・ワーファリン(ワルファリン)、昔からある抗凝固薬です。僧帽弁狭窄症や人工弁置換術後などはワーファリンによる抗凝固療法が必要です。また、今までずっとワーファリン治療にて特に合併症も何も問題が起きていない場合は無理矢理と新薬に変える必要はないと考えています。一度出血を起こすと止まりにくい、定期的に採血で凝固能をチェックする必要がある、ビタミンK依存性凝固因子というものに作用して効果を発揮するため、ビタミンKを多く含む食べ物の食事制限があること、肝臓癌の腫瘍マーカーPIVKA-IIが肝臓癌でなくても陽性となる、などが注意です。

・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、パナルジン(チクロピジン)、プレタール(シロスタゾール)、抗血小板薬です。抗血小板療法は心原性脳塞栓症の予防、再発予防に対しては無効、無益であるどころか出血性副作用でむしろ有害であることはわかっていますので、心房細動患者さんに対して抗血小板薬が処方されていたら特に理由のない限り、抗血小板療法は中止し、速やかに抗凝固療法に切り替えます。抗血小板療法と抗凝固療法の併用は無視出来ないくらい出血性合併症が増加しますので、どちらかを優先するか、または出血に注意しながら慎重に抗凝固療法を行います。まだまだ議論のあるところですが、ラクナ梗塞後に心房細動が見付かった場合は抗凝固療法を優先するケースが多いですし、心筋梗塞後ステント留置後で抗血小板薬二剤併用療法(Dual anti platelet therapy: DAPT)期間中に心房細動が見付かった場合には十分な血圧コントロールのもと慎重に抗血小板療法と抗凝固療法を併用します。出血ハイリスク例に対してはリスクとベネフィットの全体のバランスを考え、抗血栓療法を減量、中止せざるを得ないケースもあります。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。

【心原性脳塞栓症の予防】

・心原性脳塞栓症は心房細動という不整脈が原因です。高血圧症が原因のラクナ梗塞、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化が原因のアテローム血栓性脳梗塞、とはかなり性格が異なります。また抗凝固療法によって心原性脳塞栓症はリスクを低減可能である点も、他の脳梗塞と違うところです。

心房細動という不整脈に対する治療、心房細動に対するカテーテルアブレーション治療なども選択肢に入ります。心房細動自体への治療、抗不整脈治療、レートコントロール治療、心房細動に対するカテーテルアブレーション治療などは心房細動のページをご覧ください。

心房細動→https://循環器内科.com/af

高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの動脈硬化のリスク因子があれば、心房細動とは独立した脳梗塞のリスクですので、それぞれの治療をしっかりと行います。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・心房細動→https://循環器内科.com/af

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

【心房細動検出アプリ】

最近はスマートホンで脈をチェック出来るアプリがあります。医療機器ではありませんが、脈のセルフチェックに役に立ちます。お茶の水循環器内科開発の心房細動検出アプリ「ハートリズム」を紹介します。

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https://ochanomizunaika.com/heartrhythm

お茶の水循環器内科が開発した日本初の心房細動検出アプリです。無料ですので、ぜひご自由にご活用ください。心房細動の早期発見の目的の他にも、動悸症状の時に脈に異常がないかどうかのチェック、心房細動アブレーション治療後の再発チェックなどにも使えるようです。いずれにせよ、脈に何らかの異常がありそうな場合は必ず医療機関を受診し、心電図検査を受けましょう。


 

鉄欠乏性貧血

注意:このページでは、動悸や息切れの鑑別疾患としての鉄欠乏性貧血について記載しています。鉄欠乏性貧血の診断がすでに着いている方を一般内科をご受診ください。ご来院いただいても一般内科へのご案内となってしまうことを予めご了承ください。

【鉄欠乏性貧血とは】

鉄欠乏性貧血とは、文字通り、鉄分不足による貧血で、最も多い貧血の原因です。ふらつき、疲れやすさ、だるさ、立ちくらみ、朝起きるのが辛い、顔色が白い、などの貧血症状で受診し、検査で見付かることもあれば、職場や学校の検診で貧血を指摘されて受診される場合も多いです。頭痛、肩こり、目眩、吐気、動悸、息切れ、胸の苦しさ、などの症状で受診される場合もあります。貧血の程度が酷い場合、転びやすくなる、冷え性、眠気、肌がカサカサ、抜け毛、爪がもろくなる、匙状爪と言って爪がスプーンのように反り返る、不妊、味覚障害、氷食症と言って異様に氷などの硬いものを食べたくなる、などの症状のこともありますが、全ての例で認められる訳ではありません。

【鉄欠乏性貧血の診断】

採血検査にて、ヘモグロビンや貯蔵鉄フェリチンなどの値を調べます。ヘモグロビン値で男性13.0g/dL以下、女性12.0g/dL以下の場合、貧血と診断されます。明らかな出血症状がないこと、悪性腫瘍の存在を疑う随伴症状がないこと、などを確認し、フェリチン低下、血清鉄低値、小球性、低色素性などの鉄欠乏性貧血に矛盾しない検査結果を認めた場合に鉄欠乏性貧血と診断し、治療していきます。鉄欠乏性貧血意外の貧血を疑った場合は、適宜検査を追加したり、血液内科の専門医にて詳しく調べてもらったりしています。年齢にもよりますが、40代、50代以降の貧血では悪性腫瘍による消化管出血を鑑別に入れて、必要に応じて内視鏡検査を行います。鉄欠乏性貧血の要因の一つとしてピロリ菌感染が関係していることが最近報告されて来ており、慢性的な胃炎症状を認める場合はピロリ菌感染の有無をチェックします。貧血と症状は似ているものに、低血圧症があります。血液検査では異常はなく、血圧低値を認める場合、特に収縮期血圧が100や90を下回ると、多くの場合ふらつきやたちくらみ等の低血圧症の症状が出ることが多いので、その場合は低血圧症の治療をしていきます。

【鉄欠乏性貧血の治療】

鉄欠乏性貧血の治療は第一に鉄分の補充です。鉄分は食べ物から摂取しても、内服薬で基本は同じです。鉄分のサプリメントでも問題ありません。貧血の程度が酷い場合、食事療法やサプリメントで十分に改善しない場合、鉄剤にて治療を開始します。鉄剤と言っても中身はただの鉄ですので、お好きな方法で鉄分を摂取していただければそれで構いません。

・鉄分の多い食事、鉄分は食事から摂取することも重要です。レバー、ほうれん草、小松菜、菜の花、パセリ、ひじき、アサリ、しじみ、カツオ、イワシ、マグロ、穴子、サケ、カキ、煮干し、ワカメ、卵黄、大豆製品、など、鉄分の多く含まれる食物の摂取は重要です。食物中に含まれる鉄には、吸収されやすいヘム鉄と、やや吸収されにくい非ヘム鉄と二種類がありますが、必要以上に厳密に区別しなくても、第一に鉄分が多く含まれる食品を意識的に摂るということを意識しておくことが大事です。

・フェロミア(クエン酸第一鉄)、フェルム(フマル酸第一鉄)、スローフィー(硫酸鉄)、鉄剤です。鉄欠乏性貧血の治療薬です。鉄分を補給し、貧血を改善します。貧血の程度に応じて、1日1回から1日3回くらいまで調整します。飲み始め、便秘や気持ち悪くなるなどの消化器症状が出る方もいますのでその場合は適宜量を減らせば大丈夫です。鉄分は100%吸収される訳ではなく、吸収されなかった鉄分は便として排出されるため、黒っぽい便となりますが、そのまま飲み続けて心配ありません。治療は身体の中の鉄分が十分に貯蔵されるまで、指標としては貯蔵鉄フェリチンという値が正常化するまで続けます。薬を飲まなくなるとまた貧血になってしまう人も多く、その場合は本人とも相談しつつ、隔日や3日に1錠などのペースで維持療法として鉄剤を継続します。鉄剤も一錠2円くらい、一日一錠で一ヶ月続けても60円くらいの薬価自己負担ですのでコスパ的にも悪くはありません。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

低血圧症

【低血圧症とは】

低血圧症とは、十分な血圧が保てないことが原因で、立ちくらみ、ふらつき、めまい、長時間立っているのが辛い、急に起き上がるのが辛い、横になると楽になる、などの低血圧症の症状を来して、日常生活に支障を来たしている状態です。重症の低血圧症の場合、動悸、頻脈、冷汗、失神、転倒、などの症状を来すこともあります。全身のだるさ、朝起きられない、やる気が出ない、などの漠然とした症状のこともあります。

【低血圧症の診断】

厳密な定義はありませんが、一般的に収縮期血圧100mmHg未満を低血圧と呼びます。血圧が低めであっても特に日常生活に支障を来たしていない場合は特別に治療も必要ありません。低血圧で、低血圧症の症状を来しており、日常生活に支障を来している場合、低血圧症と診断し、治療して行きます。収縮期血圧が90mmHgを切ると、何らかの低血圧症の症状を来している場合が多いです。低血圧症と似た疾患として、起立性低血圧症(Orthostatic hypotension)があります。ヘッドアップティルト試験(Head up tilt test)と言い、横になった姿勢から起立し、3分間で収縮期血圧で20~30mmHg以上の低下が認められた場合、起立性低血圧症と診断し、低血圧症に準じて治療して行きます。よく混同されますが、貧血(Anemia)と低血圧症(Hypotension)は別の病気ですが、低血圧症に貧血、貧血に低血圧症を合併することもしばしばあります。心不全、肝機能障害、腎機能障害、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群など、似た症状を引き起こす他の疾患が疑われる場合は適宜検査を進めていきます。

【低血圧症の治療】

低血圧症の治療は通常まずは生活改善から行います。食事療法、運動療法、十分な睡眠、規則正しい生活リズム、ストレス管理などが大切です。血圧は低過ぎず、高過ぎず、ちょうどよい具合に、収縮期血圧100~120mmHgくらいを目標にします。なかなか改善しない場合、早く症状を改善したい場合、低血圧症治療薬があります。

・食事療法、規則正しく毎日三食しっかりと食べます。特に朝食を抜くことが多い人は、朝食をしっかりと摂ることが重要です。偏食や好き嫌いをせずに、水分、ミネラル、ビタミン、たんぱく質、炭水化物、脂質、バランスよく食べましょう。塩分は適度に、一日8gを超えない範囲で、摂り過ぎないように注意しましょう。朝食時の適度なカフェイン摂取もよいようです。

・運動療法、全身を使った有酸素運動が重要です。運動不足であれば、毎日少しづつでもいいので生活に運動を取り入れましょう。ウォーキング、軽めのジョギング、水泳、何でも構いません。定期的に継続可能な運動を選びましょう。

・十分な睡眠、規則正しい生活、ストレス管理、長期間の立位を避ける、急に立ち上がらないでゆっくりと起き上がる、等、睡眠不足、生活リズムの乱れ、ストレスなども自律神経のバランスの悪化要因です。改善出来るところがないか生活習慣を見直しましょう。

・メトリジン(ミドドリン)、リズミック(アメジニウム)、エホチ-ル(エチレフリン)、低血圧症治療薬です。血管収縮作用、交感神経刺激作用などで血圧を適度に保ちます。

・フロリネフ(フルドロコルチゾン)、重症の低血圧症に対して、鉱質コルチコイド作用の強いステロイド薬を使う場合もあります。副作用も多いので、上記のメトリジンで十分に症状改善しない場合の選択肢となります。

・補中益気湯(ほちゅうえきとう)、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、四君子湯(しくんしとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)、苓桂朮甘湯(りゅうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、気力、体力を補う漢方です。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


脳卒中

【脳卒中とは】

脳卒中(Stroke)とは、脳の血管が急に障害を来して起きる病気の総称です。医学用語としては、脳血管障害(Cerebral vascular disorder: CVD)と言われ、脳の血管が詰まるタイプ、虚血性脳血管障害(Ischemic cerebrovascular disease、Ischemic stroke)と、脳の血管が破れるタイプ、出血性脳血管障害(Hemorrhagic cerebrovascular disease、Hemorrhagic stroke)に、まずは大きく分類されます。虚血性脳血管障害は、症状の持続時間によって、一過性脳虚血性発作(Transient ischemic attack: TIA)と、脳梗塞(Cerebral infarction: CI)に分かれ、さらに原因によって、ラクナ梗塞(Lacunar infarction: LI)、アテローム血栓性脳梗塞(Atherothrombotic brain infarction: ATBI)、心原性脳塞栓症(Cardiogenic cerebral embolism: CCE)、及びその他の脳梗塞があります。特に心原性脳塞栓症と非心原性脳梗塞(Non-cardiogenic cerebral infarction)の区別が重要です。出血性脳血管障害は、脳出血(Intracerebral hemorrhage: ICH)とくも膜下出血(Subarachnoid hemorrhage: SAH)、及びその他の頭蓋内出血(Intracranial hemorrhage)があります。それぞれ、治療法や予防法が全く異なりますので、脳卒中の病型を的確に診断することは非常に重要です。

【脳卒中の診断】

脳卒中を疑ったら速やかに頭部画像検査を行います。まずは大きく、出血なのか梗塞なのか、どちらでもないのか、が重要ですので、頭部CTを撮影します。頭部CTにて脳出血、くも膜下出血を検出します。頭部CTで陰性であっても、くも膜下出血が疑われる場合にはさらに腰椎穿刺(Lumbar puncture: LP)を追加で行うこともありますが、施設によります。頭部CTで出血が否定されたら、頭部MRIを撮影します。脳梗塞の急性期では頭部CTにて早期虚血所見(Early CT Signs)が認められる場合もありますが、超急性期では明らかな異常が検出出来ないことが多いです。その場合、頭部MRI、特に拡散強調画像(Diffusion weighted image: DWI)は発症早期の脳梗塞も検出可能です。T2*強調画像(T2 star weighted image: T2 star)では微小出血も含めた出血病変も検出可能ですので、施設によってはCTをスキップしてMRIファーストで検査をしてしまうところもあります。通常、MR血管画像(Magnetic resonance angiography: MRA)、頸動脈エコー、心原性脳塞栓症の鑑別のため心電図、ホルター心電図、心エコー、凝固や線溶マーカーも含めた採血検査も行います。上記様々な検査を組みあせて、脳卒中の病型診断を速やかに行います。確定診断のためには何度も繰り返し検査をすることもあります。

【脳卒中の治療】

脳卒中の治療は脳卒中の病型によります。一番多いのはラクナ梗塞で、一番重症なのは心原性脳塞栓症とくも膜下出血です。それぞれ、詳しく記事を執筆準備中ですので、お待ちください。

・ラクナ梗塞

・アテローム血栓性脳梗塞

・心原性脳塞栓症

・一過性脳虚血発作

・脳出血

・くも膜下出血

脳卒中の症状や前触れ症状については国立循環器病研究センターのサイトが詳しくまとまっていますのでぜひご参考ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph02.html

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph96.html

【脳卒中の予防】

脳卒中は起こさないこと、第一に予防が重要です。脳卒中の予防は心血管疾患のリスク因子を治療することです。高血圧症、脂質異常症、糖尿病がある方は、それぞれきちっと治療しましょう。また、心房細動は生活習慣病とは別に独立した心原性脳塞栓症のリスク因子ですので、心房細動がある方は心原性脳塞栓症予防のため抗凝固療法を開始、継続することが大事です。くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂が原因ですので、脳ドック等で未破裂脳動脈瘤を未然に発見し、対処する必要があります。喫煙、暴飲暴食、運動不足、ストレスなどはも生活習慣病のリスク因子ですので、生活習慣の改善も重要です。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・心房細動→https://循環器内科.com/af

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

脳卒中の一次予防、再発予防については国立循環器病研究センターのサイトなどをご参考ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph36.html

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph88.html

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/brain/pamph94.html

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

腎機能障害

【腎機能障害とは】

腎機能障害とは、何らかの原因で腎機能が低下している状態です。腎機能低下の原因は多岐に渡りますが、代表的なものとして、加齢による自然な腎機能低下、糖尿病による糖尿病性腎症、高血圧症による腎硬化症、腎機能に影響を与える薬剤性、などが多いです。腎機能は一度失ってしまうと後から腎機能を元に戻す治療法が原則ないため、第一に予防が一番重要です。特に、糖尿病による糖尿病性腎症、高血圧症による腎硬化症は、それぞれ糖尿病、高血圧症に対する治療を適切に行うことで十分に予防可能です。腎機能障害は末期になるまで自覚症状がほとんどないため、検診等で腎機能障害を指摘されていたら必ず放置しないようにしましょう。

【腎機能の検査】

腎機能の評価は、CGA、原疾患(Cause: C)、腎機能(GFR: G)、蛋白尿(アルブミン尿: A)の3項目CGAにて評価します。まずは採血検査にてクレアチニンCrの値を調べ、推定糸球体濾過率(estimated Glomerular Filtration Rate: eGFR)から腎機能のステージを評価します。具体的には、eGFRが60以上あり急激な低下もなければ腎機能としてはまずは大きな心配はありません。eGFRが60や45を切って来ると腎機能低下です。eGFRが30を下回ると腎不全という状態で透析導入について検討し始める時期で、eGFRが15を切ると透析導入のステージです。腎機能障害は自覚症状がほとんどありません。腎不全で尿毒症という末期症状が出るのはeGFRで15や10を切ってからです。一度失ってしまった腎機能を元に戻る治療法は腎移植以外にないため、悪化させないことが非常に重要です。腎機能悪化の原因として、糖尿病、高血圧症、二次性高血圧症、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、などを調べます。腎機能低下リスクの指標として、微量アルブミン尿、顕性蛋白尿がありますので尿検査にて調べます。必要に応じて、腹部エコー、腹部CT、腹部造影CTなどを追加して行きます。腎機能低下の原因疾患がハッキリとわからない場合、確定診断のためのさらに詳しい検査、腎生検など専門的な検査が必要な場合、腎臓内科にて紹介で詳しく調べてもらっています。詳しくはCKDガイドラインをご覧ください。

https://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKDguide2012.pdf

https://www.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/all.pdf

【腎機能障害の治療】

腎機能障害の治療は原疾患に対する治療です。糖尿病と高血圧症は明らかな腎機能低下のリスクですので、糖尿病があれば糖尿病、高血圧症があれば高血圧症、両方あれば両方をしっかりと治療します。喫煙、脂質異常症も全身の動脈硬化の原因で腎機能低下のリスクですので、喫煙があれば禁煙、脂質異常症があれば脂質異常症の治療をします。高尿酸血症も重度の場合は痛風腎と言って腎機能低下のリスクです。喫煙も腎機能低下の進行を早めることがわかっています。

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・高尿酸血症→https://循環器内科.com/hu

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

腎機能低下を抑えるための治療として、アンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬などを使います。腎機能低下による合併症に対する治療として、高カリウム血症の治療、高リン症の治療、低カルシウム血症の治療、腎性貧血の治療、腎性副甲状腺機能亢進症の治療、腎性骨粗鬆症の治療、腎性の浮腫みに対する治療などがあります。また、腎不全のステージによっては様々な食事療法が必要になります。末期の腎不全に対しては腎代替療法として血液透析、腹膜透析があり、根治療法の選択肢として腎移植がありますが、腎臓内科専門医の領域になりますので割愛します。

慢性腎臓病→https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000408.html

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


肝機能障害

【肝機能障害とは】

肝機能障害とは、何らかの原因で肝機能に障害を来している状態です。肝機能障害の原因は多岐に渡ります。代表的なものとして、会社の検診などで指摘されるのは、アルコール飲み過ぎ、カロリー摂り過ぎ、太り過ぎ、運動不足などの生活習慣病としての肝機能障害が多いですが、中には、B型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎、肝臓癌、健康食品やサプリメントを含む薬剤性の肝機能障害などは少なくありません。肝機能障害と言われても放置せずに、必ず原因を調べることが大事です。

・アルコール性肝炎(Alcoholic hepatitis)

・非アルコール性脂肪性肝炎(Non alcoholic steatohepatitis: NASH)

・急性ウイルス性肝炎(A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎)

・慢性ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)

・自己免疫性肝炎(Autoimmune hepatitis: AIH)、原発性胆汁性肝硬変(Primary biliary cirrhosis: PBC)、原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis: PSC)

・肝硬変

・肝臓癌

・胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌、その他の癌の肝転移や肝浸潤による肝機能障害

・胆石症や胆管結石による肝機能障害

・伝染性単核球症による肝機能障害、体質性黄疸(高ビリルビン血症)

・薬剤性肝機能障害(サプリメント、健康食品含む)

【肝機能障害の検査】

まず採血検査にて肝機能を調べます。肝機能障害の検査には、大きく肝逸脱酵素と肝予備能と二種類の検査項目があります。肝逸脱酵素には、ALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP、ALP、LDH、などがあり、現在の肝障害の程度の指標になります。肝予備能の評価には、コリンエステラーゼ、総蛋白、アルブミン、血小板数、プロトロンビン、などがあり、現在の肝機能の指標です。健診では必ずしも全て検査していないことも多いので、二次検査が必要です。総ビリルビン、直接ビリルビンなどの胆汁系酵素、アミラーゼ、リパーゼなどの膵酵素、さらにB型肝炎、C型肝炎などのウイルス性肝炎の検査、自己免疫性疾患を疑う場合には、自己免疫性肝炎(抗核抗体、抗平滑筋抗体、血清IgG、等)、原発性胆汁性肝硬変(抗ミトコンドリア抗体)などの抗体検査、必要に応じて、腹部エコー、腹部CT、腹部造影CT、上部消化器内視鏡など検査を追加して行きます。確定診断のためのさらに詳しい検査、肝生検など専門的な検査が必要な場合は肝臓専門医に紹介で詳しく調べてもらっています。

【肝機能障害の治療】

肝機能障害の治療は、肝機能障害の原因に対しての治療です。特に、B型肝炎、C型肝炎の治療の進歩は目覚ましく、ウイルス性の慢性肝炎は以前は「治らない病気」という扱いだったのが、現在はいくつかの条件によっては治療可能な病気になっています。肝臓癌であれば勿論、肝臓癌に対する治療が優先です。ここでは、お酒飲み過ぎが原因のアルコール性肝炎、カロリー摂り過ぎが原因の非アルコール性脂肪性肝炎について説明します。飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足の生活習慣があれば、第一に飲み過ぎない、第二に食べ過ぎない、第三に定期的な運動習慣、この3つが基本であり、下記の薬の効果はそれを上回るものではありません。

・適量飲酒、お酒の飲み過ぎが明らかな原因と考える場合には、まずは過剰な飲酒を控えることが大事です。適量とは、肝機能障害の出ない範囲の量、かつ、家族や仕事や学業など社会的に支障を来さない範囲の飲酒、と定義します。体重や性別、お酒に強い体質、お酒に弱い体質など個人差が非常に大きいので一概には言えませんが、アルコール換算20g程度が目安と言われています。具体的には、ビール500ml、日本酒1合(180ml)、焼酎110ml、ウイスキー60ml、ワイン200mlあたりが目安です。最初は軽く一杯程度にしようと思いつつも、飲み始めるとついつい飲み過ぎてしまうのが実情です。週のうち最低2日以上、出来るだけ休肝日を設けることも大切です。

・食べ過ぎない、お酒を飲まなくてもカロリーを取り過ぎればそれだけで脂肪肝になります。脂質、炭水化物、総カロリーが多いかどうかが重要で、基礎代謝分で消費されなかったカロリーは脂肪となって貯蓄されます。一日の適正カロリーは、身長から計算される標準体重と身体活動レベルから平均基礎代謝量から計算で求めることが可能です。

・運動習慣、運動不足であれば運動、特に定期的な運動習慣が重要です。運動には有酸素運動と無酸素運動があり、有酸素運動は日々の継続可能な運動習慣として、無酸素運動は筋肉量を増やし基礎代謝を上げるのにそれぞれ重要ですが、両方を上手く取り入れて、定期的な運動習慣を確立するこが重要です。適度な運動であれば運動の種類にこだわり過ぎる必要はありません。大切なのは生活習慣として続けられることですので、ウォーキングでも何でもいいので、普段の生活で続けられる運動を選びましょう。理想の週の半分以上、天気がよい日は二駅くらいは歩く、休憩時間にオフィスの近辺を一周歩く、など日常生活の中で取り入れられる運動がよいでしょう。

・黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、五苓散(ごれいさん)、二日酔い予防、二日酔い治療の漢方です。黄連解毒湯は文字通り解毒作用、肝臓でのアルコールの分解を助け、五苓散は水分のバランスを整え二日酔い予防、二日酔いの治療にもよいです。

・ウルソ(ウルソデオキシコール酸)、プロヘパール、レナルチン、グリチロン(グリチルリチン酸)、強力ネオミノファーゲンC(グリチルリチン酸、グリシン、Lシステイン)、肝庇護薬または肝臓加水分解物と呼ばれる薬です。肝酵素の補充であったり、様々な働き肝機能を助けると言われています。昔から使われている薬で作用機序がよくわかっていない部分もありますが、安全性は高いです。

・アリナミン(ビタミンB1)、ビタメジン(ビタミンB1、B6、B12)、ビタノイリン(ビタミンB1、B2、B6、B12)、ビタミンB群です。アルコールの分解を始め、様々な代謝の補酵素として肝機能を助けます。

・B型肝炎治療薬、C型肝炎治療薬、近年ものすごい勢いで様々な肝炎治療薬の新薬が出てきています。以前は「肝炎は治らない」と言われていても、今は肝炎の治療はガラッと変わっていますので、以前に一度治らないと言われたからと言っても、再度、現在の最新の肝炎治療について一度肝臓専門医の話を聞いてみることをお奨めします。必要に応じてお茶の水内科から紹介状を発行しています。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

糖尿病

【糖尿病とは】

糖尿病とは高血糖より全身の血管に障害を来す病気です。具体的には、血糖が高い状態が何年も続くと、心臓の血管、脳の血管、腎臓の血管、眼の血管、手足の先の血管と神経など、様々な機能障害、生活障害を引き起こします。糖尿病による血管の障害、腎機能の低下、視力の低下は、一度病状が進んでしまうと後から元の状態に戻すことは極めて困難です。これが症状が全くなくても糖尿病を放置してはいけない理由です。糖尿病は早期であればあるほど、食事や運動、必要最小限の飲み薬だけで、適切に治療することで重症化を防ぐことが可能ですので、検診などで血糖の異常を指摘されていたら放置せずに必ず早めに主治医にご相談ください。

【糖尿病の合併症】

糖尿病の合併症は、まずは大きく大血管障害と微小血管障害の2つに分けられます。大血管障害とは、文字通り太い血管が動脈硬化を起こすことが原因です。具体的には、狭心症、心筋梗塞、脳卒中です。心臓の血管、脳の血管が詰まると命に関わります。微小血管障害は、細い血管の障害です。微小血管障害は主に3つあり、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、これを糖尿病の3大合併症と呼ばれます。

・糖尿病性網膜症:眼の網膜というところにある血管が障害を受けます。視力障害、進行すると失明に至ります。失明、視力障害に起こした後に元に戻す治療法がありません。予防が第一です。

・糖尿病性腎症:腎臓は細い血管の集まりです。腎臓の機能がだんだんと低下して行き、慢性腎臓病、進行すると人工透析に至ります。人工透析、慢性腎臓病が悪化してから後から元に戻す治療法がありません。予防が第一です。

・糖尿病性神経症:心臓から一番遠い下肢の血管が障害を受けます。糖尿病性足病変、慢性下肢動脈閉塞症、進行すると下肢壊疽、下肢切断に至ります。予防が第一です。

以上のように糖尿病の合併症は進行して自覚症状が出た後に元に戻す治療法がありません。これが自覚症状がなくても糖尿病を治療しなければならない理由です。自覚症状が出てからでは遅いからです。

他に糖尿病の関連疾患として、易感染性、白内障、緑内障、顔面神経麻痺、歯周病、胆石、脂肪肝、勃起障害、自律神経障害などが関連していると言われています。

【糖尿病の検査】

糖尿病の検査は血液検査です。主に血糖値と過去1~2ヶ月の血糖状態を反映するHbA1cの値によって診断します。細かい診断基準はありますが、主にHbA1cが6.5を超えて来ると糖尿病です。高血糖の症状としては、喉が渇く、飲み物が増える、おしっこが増える、全身がだるい、重症の場合は、感染症に弱くなる、傷口が治りにくくなる、意識がぼーっとする、などの症状がありますが、一方で自覚症状が全くないことも多いのが糖尿病の恐ろしいところです。検診にて血糖の異常を指摘されていることが多いですから、放置せずに主治医に相談しましょう。食べ過ぎ飲み過ぎ、運動不足などが原因の生活習慣病としての糖尿病は2型糖尿病と言います。自己免疫等が原因で膵臓が障害を受けて高血糖を起こす病態を1型糖尿病と言いますが、現代人の暴飲暴食、運動不足による糖尿病は主に2型糖尿病ですので、単に生活習慣病の糖尿病というと2型糖尿病のことを意味することが多いです。1型糖尿病は糖尿病専門医でのインスリンのきめ細やかな調整がメインになりますので、本ページでは割愛します。

【糖尿病の治療】

2型糖尿病は暴飲暴食、運動不足が原因です。そのため、食事療法、運動療法を基本として、飲み薬、インスリン注射薬、インスリン以外の注射薬、などに分かれます。

食事療法は暴飲暴食、主に炭水化物の摂り過ぎを控えることが大事です。糖尿病というと甘いものの摂り過ぎというイメージが強いようですが、実は甘い味はしないけど分解されて糖分になる炭水化物を、糖分とは関係あるとは知らずに摂り過ぎていることも多いです。具体的には、米、ラーメン、うどん、パスタ、ピザ、パン、ハンバーガー、団子、おせんべい、ケーキなどは全て炭水化物です。特にラーメン、菓子パン、ハンバーガーは炭水化物の固まりですので注意が必要です。コーラや清涼飲料水などにも驚くほど大量の糖分が含まれています。炭水化物がどういった食べ物にどれくらい含まれているか知り、摂り過ぎを控えることが大事です。炭水化物ダイエット、糖質制限に関しては糖尿病専門医の中にも色々な意見がありますが、どうも炭水化物の摂り過ぎを適度に控えることはよさそうだというデータが少しずつ出てきているようです。炭水化物は甘い糖分から、果物、麺類、穀類など、全ての食事に幅広く含まれています。

運動は、高血圧症や脂質異常症と同じく、全身を使った有酸素運動が大事です。適度な運動であれば運動の種類にこだわり過ぎる必要はありません。大切なのは生活習慣として続けられることですので、ウォーキングでも何でもいいので、普段の生活で続けられる運動を選びましょう。理想は週の半分以上、天気がよい日は二駅くらい歩く、休憩時間にオフィスの近辺を一周歩く、など日常生活の中で取り入れられる運動がよいでしょう。注意点としては、血糖が著しく高い場合は急激な血糖の変化によって糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症が悪化する場合があります。また、狭心症や心不全などの合併症をきたしている場合は水分摂取量や運動に制限が必要な場合があります。いずれにせよ、自己判断せずに主治医に指示に従いましょう。

また糖尿病患者さんは、糖尿病だけでなく、高血圧症、脂質異常症、肝機能障害などもあることが少なくないので、全身を一緒に治療していくことが大切です。糖尿病は症状がほとんどない病気ですが、一旦治療を中断してしまうと、気付いた時には眼や腎臓が悪くなってしまっていることがあります。主治医と治療方針をよく相談しましょう。

【糖尿病の薬】

食事療法、運動療法で十分に血糖が改善しない場合、血糖が非常に高い場合は、飲み薬で血糖値を下げる治療する必要があります。糖尿病治療の目標はHbA1cで7未満、理想的には糖尿病でない人と同じ6.5未満で、治療の目的は糖尿病による合併症を起こさないこと、です。HbA1cの値を参考に、例えば、HbA1c 7.5未満程度まではまずは薬を使わずに、HbA1cが7.5を超える場合は飲み薬を併用しつつ治療をしようなどと考えていますが、あくまで目安に過ぎませんので患者さんとよく一緒に相談しながら進めます。HbA1cで9や10を超えて来ると明らかに高血糖による害がありますのでしっかりと血糖を下げる治療を開始します。糖尿病の治療は血糖の具合や生活スタイルによって大きく変わりますので、糖尿病治療の主役は患者さんご本人です。糖尿病の合併症を予防するためには、血糖の具合によってきめ細やかに薬を調整することが大事ですので、自己判断で勝手に治療を中断したりせずに、主治医と二人三脚で付き合っていくことが大切です。下記にお茶の水内科でよく出る薬をまとめました。

・メトグルコ(メトホルミン)、ビグアナイドという糖尿病治療の基本薬です。特に使えない理由がない限り、ほぼ全例に使います。心不全、腎不全、造影剤を使う検査をする予定がある場合などには注意が必要です。

・ジャヌビア(シタグリプチン)、グラクティブ(シタグリプチン)、トラゼンタ(リナグリプチン)、エクア(ビルダグリプチン)、ネシーナ(アログリプチン)、テネリア(テネリグリプチン)、スイニー(アナグリプチン)、オングリザ(サキサグリプチン)、ザファテック(トレラグリプチン)、マリゼブ(オマリグリプチン)、DPP4阻害薬というグループの薬です。血糖が高い時に血糖を下げる作用を発揮し、血糖が高くない時には血糖を下げない、単独で低血糖の副作用まず起こさない、安全で優れた経口血糖降下薬です。医師によってはこちらを最初に使う場合もあります。適宜使い分けたりしています。

・ジャディアンス(エンパグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)、スーグラ(イプラグリフロジン)、フォシーガ(ダパグリフロジン)、テベルザ(トホグリフロジン)、アルプウェイ(トホグリフロジン)、ルセフィ(ルセオグリフロジン)、SGLT2阻害薬と呼ばれる新薬で、おしっこから糖分を排出して血糖を下げようという作用の薬です。わざと尿糖を起こすなんて大丈夫なのかと最初は思いましたが、血糖は確実に下がり、糖分を排出する結果体重も下がり、一緒に余分な水分も排出するおかげで血圧も少し下がり、最近は心臓にも腎臓にもよさそうだということが段々とわかって来て、実はかなりよい薬なのではないかということがわかって来ました。

・ベイスン(ボグリボース)、セイブル(ミグリトール)、グルコバイ(アカルボース)、αGIというグループの薬で、腸に作用して腸からの糖分の吸収を抑制する薬です。糖分の吸収を抑える薬というと抵抗感が少なく感じる方も多いです。糖分が腸の中で発酵し膨れてお腹が張るのとおならが増えるなどの副作用がありますが、それだけ糖分を摂っているという証拠です。ビールなどの炭酸飲料で苦しくなるくらいにお腹が張りますので要注意ですが、この副作用のおかげで暴飲暴食が減って結果的に血糖も体重も改善したという例もあります。副作用も使いようです。

・アマリール(グリメピリド)、SU薬という昔からある薬で、膵臓を刺激してインスリンを出させる薬です。血糖を強力に確実に下げますので低血糖のリスクと、長年使っていると膵臓が疲弊して効き目が弱って来てしまう二次無効という現象がありますが、確実な血糖効果作用がありますので、必要に応じて少量併用で使います。

・アクトス(ピオグリタゾン)、チアゾリジン系という薬です。こちらを併用していくこともあります。

・ランタス(インスリングラルギン)、持効型インスリン製剤と言われ、基礎インスリンを補充する注射薬です。1回打てば1日効果が続くため、血糖を全体的にしっかりと下げます。昔はインスリン注射というともう手遅れというマイナスのイメージがありましたが、最近は早期に膵臓の負担を軽減し、膵臓を休ませてあげることによって、長期的には膵臓の機能を長持ちさせる効果が期待出来て、よさそうだという考え方が少しづつわかって来ています。BOT療法(Basal supported oral therapy: BOT)などと言います。とはいえ、注射薬が始まることには抵抗感がある人は少なくないですから、患者さんと相談しながら使います。

・トルリシティ(デュラグルチド)、ビクトーザ(リラグルチド)、バイエッタ(エキセナチド)、ビデュリオン(エキセナチド)、リキスミア(リキシセナチド)、GLP-1作動薬、インクレチン関連薬などと呼ばれる注射薬です。膵臓に作用してインスリン分泌を刺激します。低血糖の危険性がほとんどなく、強力に血糖を下げます。インスリン製剤ではありませんが、注射薬であること、薬価が高いこと、便秘や悪心などの腹部症状がしばしば見られることが注意点です。

他にも多数の経口血糖降下薬、インスリン製剤などがありますが、糖尿病専門医の先生の範疇になって来ますので、このへんで割愛します。上記に挙げたメトホルミン、DPP4阻害薬、αGI、SGLT2阻害薬、SU薬、BOTを組み合わせることによってだいたいの糖尿病患者さんは正常血糖まで改善することが可能です。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

冠攣縮性狭心症

【冠攣縮性狭心症とは】

冠攣縮性狭心症(Vasospastic Angina: VSA)とは、心臓の血管、冠動脈が、攣縮(れんしゅく)と言って痙攣を起こし、冠動脈が過剰に収縮を起こすことによって起こる狭心症です。狭心症とは、心臓の血管に問題があり、心臓の筋肉が酸素が足りなくなることです。心臓の血管が動脈硬化によって狭窄を起こしている場合、労作性狭心症(Effort Angina Pectoris: EAP)と、心臓の血管が痙攣を起こす場合、冠攣縮性狭心症と二種類あります。冠攣縮性狭心症は、異型狭心症(Variant Angina)、安静時狭心症などとも呼ばれ、アジア人、日本人に有意に多いと言われています。労作性狭心症においても冠攣縮が関与していることがわかって来ています。症状は狭心症と同じですが、発作が起こる時間帯が睡眠中や安静時が多いのが特徴です。発作時の心電図検査において所見を認めれば確定診断になりますが、なかなか発作時に検査をすることが容易ではありませんし、逆に症状だけでは確定診断出来ないことが難しいところです。

【冠攣縮性狭心症の診断】

日本循環器学会「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」に従って診断します。まず第一に、発作時に一致して心電図変化が認められるかどうか、心電図検査またはホルター心電図検査を行います。発作に一致して虚血性の心電図変化を認める場合、冠攣縮性狭心症と診断します。ホルター心電図検査を行わない場合、ホルター心電図検査にて発作がつまらなかった場合、次にカテーテル検査の適応を考慮します。参考項目として、硝酸薬によりすみやかに消失する狭心症様発作で、特に夜間から早朝にかけて安静時に出現する、 運動耐容能の著明な日内変動が認められる (早朝の運動能の低下)、過換気(呼吸)により誘発される、Ca拮抗薬により発作が抑制されるがβ遮断薬では抑制されない、という4つ参考項目を確認にしながら、カテーテル検査における冠攣縮薬物誘発試験の適応を考慮します。

アセチルコリン負荷試験、エルゴノビン負荷試験などの薬物負荷試験、冠動脈造影上の冠攣縮陽性所見を「心筋虚血の徴候(狭心痛および虚血性心電図変化)を伴う冠動脈の一過性の完全または亜完全閉塞(>90% 狭窄)」と定義し、それを認める場合に、冠攣縮性狭心症と確定診断します。詳しくは、日本循環器学会「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」をご覧ください。

https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_ogawah_h.pdf

【冠攣縮性狭心症の治療】

冠攣縮性狭心症の治療、発作の予防には、冠動脈拡張作用のある薬物が中心となります。まだ、エビデンスが十分でない場合もありますが、冠動脈拡張作用の効果を期待して使います。

・禁煙、冠攣縮性狭心症の最大の悪化因子として喫煙が知られています。禁煙するだけで冠攣縮性狭心症の発作の頻度が激減し、下記の薬物療法を開始する必要なくなることもありますので、喫煙者には禁煙を最優先します。

・ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、フランドル(硝酸イソソルビド)、ニトロダーム(ニトログリセリン)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレー、フランドルはテープがあります。

・アダラート(ニフェジピン)、アムロジン(アムロジピン)、コニール(ベニジピン)、カルブロック(アゼルニジピン)、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、ワソラン(ベラパミル)、非ジヒドロピリミジン系カルシウム拮抗薬です。血管拡張作用で狭心症発作を防ぎます。

・シグマート(ニコランジル)、硝酸薬に似た作用で、特に冠動脈を選択的に拡張させ、狭心症発作を防ぎます。シグマート5mg 3T適宜増減で投与します。

・β遮断薬は、効果がないばかりか、血管収縮を来して症状を悪化させる場合があるので、必要な場合は硝酸薬やカルシウム拮抗薬と併用することとされています。

・スタチン、ARB、抗血小板薬、狭心症の背景因子として、脂質異常症、動脈硬化の要素があると考えられる場合には、それぞれリスク因子を治療します。

【冠攣縮性狭心症の予防】

喫煙、飲酒、脂質異常、糖代謝異常、ストレス、などが関係していると言われています。禁煙、血圧管理、適正体重の維持、耐糖能障害の是正、脂質異常症の是正、過労、精神ストレスの回避、節酒などの生活習慣の改善は、冠攣縮性狭心症の予防、治療としても重要です。

【微小血管狭心症とは】

冠攣縮性狭心症とはまた少し違う概念として、微小血管狭心症というものがあります。冠動脈造影検査で調べられる太い血管には異常がないのが特徴で、冠動脈造影検査では写らない、直径100μm以下程度の微小な血管の血流が障害を来しているのではないかと考えられています。閉経後や更年期の女性に多く、女性ホルモンによる冠動脈拡張作用と女性ホルモン減少による影響などが関係しているのではないかと考えられていますが、まだよくわかっていません。冠動脈造影では写らないレベルの細い血管が原因と考えられているので、定義上、確定診断の方法はなく、推測または診断的治療がメインになります。または冠危険因子の程度によっては通常の狭心症、冠動脈狭窄がないかを評価します。治療は冠攣縮性狭心症に準じて血管拡張作用のある薬などをメインに、禁煙、血圧管理、適正体重の維持、耐糖能障害の是正、脂質異常症の是正、過労、精神ストレスの回避、節酒などの生活習慣の改善も重要になります。


Brugada症候群

【Brugada症候群とは】

Brugada症候群とは、夜間に心室細動という致死的不整脈を引き起こすリスクのある心電図異常を特徴する症候群です。1992年にスペインのBrugada氏によって発見されました。日本人をはじめとするアジア人に多く、男性に多く認められることがわかっています。日本では検診の心電図にてBrugada心電図の頻度は0.1-03%と比較的稀ではない心電図異常です。働き盛りの30-50代の男性が夜間に突然なくなるポックリ病の原因の一つではないかと疑われています。原因は心臓の電気的活動に関する遺伝子が特定されて来ています。

【Brugada症候群の診断基準】

まずは心電図検査を行います。心電図検査にてV1-V3誘導にてcoved型またはsaddleback型のST上昇という特徴的な心電図所見を認めた場合、「Brugada心電図」と診断されます。「Brugada心電図」を認め、かつBrugada症候群の診断基準を満たす場合に、「Brugada症候群」と診断します。つまり、重要なポイントですが、「Brugada心電図」イコール「Brugada症候群」ではありません。検診でわかることは「Brugada心電図」かどうかだけで、「Brugada症候群」かどうかはわかりません。検診機関によっては「Brugada心電図」と「Brugada症候群」の違いを混同して結果レポートに記載されていることがありますので注意が必要です。詳しくは、Brugada心電図は心電図所見により、3つに分類します。

・V1-V3誘導でJ点から0.2mV以上のcoved型ST上昇(A型、type 1)

・V1-V3誘導でJ点から0.2mV以上のsaddleback型ST上昇(B型、type 2)

・V1-V3誘導でJ点から0.1mV以上0.2mV未満のcoved型の軽度ST上昇(C型、type 3)

最も診断的意義が高いのがtype 1です。coved型とは「ST部分が徐々に下降する(gradually descending)という表現で定義されています。Brugada症候群は心電図所見で「Brugada心電図」を認め、かつ、以下の

1、多形性心室頻拍・心室細動が記録されている

2、45歳以下の突然死の家族歴がある

3、家族に典型的type 1の心電図を認める者がいる

4、多形性心室頻拍・心室細動が心臓電気生理学的検査によって誘発される

5、失神や夜間の瀕死期呼吸を認める

5項目のうち1つ以上を満足するものと定義されています。心電図がtype 2または3の場合は、薬物負荷試験で典型的なtype 1になった症例だけを上記の診断基準に当てはまるとされています。一肋間上の心電図記録が有用な場合もあります。また、失神などの症状や多形性心室頻拍・心室細動が認められた場合を「有症候性Brugada症候群」、特徴的な心電図で発作を起こしていない場合は「無症候性Brugada症候群」と分類することもあります。Brugada症候群は研究段階であり、今後も診断基準が変わって来る可能性があります。詳しくは日本循環器学会のガイドラインをご覧ください。

「QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_aonuma_h.pdf

https://www.nanbyou.or.jp/entry/2390

【Brugada症候群の治療】

Brugada症候群の突然死予防に立証されている唯一の治療は植込型除細動器(ICD)です。結局のところ、Brugada症候群の治療は、ICDを埋め込むか埋め込まないかのいずれかで、どうするのかという議論になります。ICDの埋め込みを行えば、ほぼ確実に致死的不整脈による突然死を防ぐことが出来ますが、定期的な外来通院、数年ごとの電池交換、自動車運転の制限、職業によっては制限、電磁波の影響や誤作動のリスクなど、日常生活に制限が掛かります。ただ一度心停止をして蘇生された例や致死的不整脈の確認されている例では突然死のリスクは非常に高いので、ICD埋め込みの適応です。日本循環器学会の「不整脈非薬物治療ガイドライン」では、ICDの適応については以下のように記載されています。

クラスI(絶対適応):

・心停止蘇生例

・自然停止する多形性心室頻拍・心室細動が確認さ れている場合

クラスIIa(相対適応)

・Brugada型心電図(coved型)を有する例(薬物負荷、1肋間上の心電図記録で認めた場合も含む)で、以下の3項目のうち、2項目以上を満たす場合

1、失神の既往

2、突然死の家族歴

3、心臓電気生理学的検査で心室細動が誘発される場合

クラスIIb

・Brugada型心電図(coved型)を有する例で、上記の3項目のうち、1項目のみを満たす場合

ただ、どのような場合に突然死のリスクが高く、どのような場合に突然死のリスクが低いのか、数々の予測因子はあるのですが、完全に予測することは限界があり、専門家の中でも一定の見解は得られていないのが現状です。また、心臓電気生理学的検査や薬物負荷心電図などは原則的に入院が必要な検査であり、その必要性についても考えなくてはなりません。お茶の水循環器内科の方針としては、心電図、ホルター心電図にて致死的不整脈の出現がないか、心機能や脈を調整するホルモン等に異常がないか、採血等にて調べて行き、必要があれば電気生理学的検査等が可能な専門病院に紹介、問題がなさそうであれば経過観察という方針にしてます。詳しくは慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト「KOMPAS」をご覧ください。

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000656.html


WPW症候群

【WPW症候群とは】

WPW症候群とは、不整脈の一種です。Wolff-Parkinson-White syndromeの略で、発見者の3名の名前から名付けられました。心臓の電気の伝わり、電気伝導路には通常1本ですが、もう1本kent束と呼ばれる副伝導路という通り道があるという病気です。通常の伝導路は、洞房結節、心房、房室結節、His束、脚、プルキンエ線維、心室と伝わりますが、WPW症候群では、kent束と呼ばれる副伝導路から電気的興奮が伝わり、早期興奮波、心電図所見でδ波という波形が認められるのが特徴です。原因は生まれつき、先天性であると言われています。

【WPW症候群による頻脈発作】

WPW症候群は非発作時には何の症状もありません。WPW症候群の方の中で一定数、WPW症候群による頻脈発作、上室頻拍を引き起こします。これは、通常の伝導路とkent束の副伝導路とで、リエントリー回路という電気回路を形成してしまい、電気的興奮が心房と心室の間をクルクルとして回る回路を形成してしまうことによって起こります。WPW症候群の頻拍発作は、脈拍数が150-300回にも達し、自覚症状としては激しい動悸、頻脈を感じます。WPW症候群による頻脈発作は、突然始まり、突然停止するのが特徴です。心電図、ホルター心電図によって確定診断します。

【WPW症候群の治療】

WPW症候群の治療は、頻脈発作をどの程度起こしているかに寄ります。実は、WPW症候群であっても、一生一回も頻脈発作を起こさない人がおり、一回も頻脈発作を起こしていない場合は特別治療の必要はありません。一方で、中には頻繁にWPW症候群による頻脈発作を起こる方がいます。明確なルールはありませんが、一年に1回程度や年に1回未満であれば経過観察、一年に数回頻脈発作を起こす場合はカテーテルアブレーションという治療を行います。毎月、毎週のように頻脈発作を起こしている場合は、頻脈自体が心臓の筋肉に影響を与えてしまうことがあるため、カテーテルアブレーション治療を行います。頻脈発作の頻度が少なくても、著しい苦痛を感じている場合も、カテーテルアブレーションにって治療可能です。また、WPW症候群に心房細動という不整脈を合併すると、頻脈発作から心室細動という致死的不整脈を来してしまうリスクがあるため、カテーテルアブレーション治療を行います。カテーテルアブレーション治療とは、カテーテルという細いワイヤーを手首や足の付け根から挿入し、心臓までアプローチしていき、問題となっている副伝導路、kent束を見つけて、電気的に焼き切ることで、異常な伝導路を治療します。治療成績は非常によく、90%以上の成功率でWPW症候群は治癒します。治療成績がよい治療であるため、本人とよく相談し、希望される場合はカテーテルアブレーション専門の病院へ紹介します。経過観察の場合は、年に1回程度は心電図またはホルター心電図を取り、頻脈発作が起きていないかどうかをチェックします。動悸症状が変わった場合には、その都度受診するようにします。

【WPW症候群による頻脈発作時の治療】

WPW症候群による頻脈発作を今起こしている場合は発作時の治療を行います。サンリズム(ピルシカイニド)、ワソラン(ベラパミル)、シべノール(シベンゾリン)、アデホス(アデノシン三リン酸)、迷走神経刺激法、電気ショックなどがあります。


 

甲状腺機能亢進症

【甲状腺機能亢進症とは】

甲状腺機能亢進症とは、甲状腺ホルモンが多過ぎて、様々な症状が出る病気です。若い女性に多く、日本では珍しい病気ではありません。主に10代から30代の女性で、動悸、急激な体重減少、倦怠感、不眠などを認める場合、一度甲状腺機能をチェックします。また検診などで甲状腺腫脹を認められた場合、甲状腺ホルモンの値に異常を来していないかどうか採血にてチェックします。循環器内科を受診する症状として、動悸、息切れ、心房細動などが多いです。

【甲状腺機能亢進症の症状】

甲状腺機能亢進症の症状は多彩です。甲状腺ホルモンは全身の活発さ、気力、体温や汗の調節、脈の調整、消化管の運動など幅広くに関わっているホルモンで、甲状腺機能亢進症では、全体的に元気が出過ぎる症状になります。逆に甲状腺ホルモンが足りないと全体的に元気がない症状になります。具体的には、脈が早い、ドキドキする、暑がり、汗っかき、熱っぽい、平熱が高くなった、食べている割に太らない、痩せた、お腹が緩い、生理不順、手の震え、活発になった、イライラしやすい、不安感、焦燥感、落ち着きがない、眠れない、夜遊び、浪費、過干渉、など、漠然とした心身の不調で、採血にて甲状腺機能亢進症が原因であったとわかる場合が多いです。甲状腺機能亢進症で未治療のまま長いと、甲状腺腫脹、甲状腺眼症として眼球突出、瞬きの増加、白目の広さの異常、頻脈、骨粗鬆症、低カリウム性周期性四肢麻痺などが生じます。精神症状としては、易怒性、焦燥感、不安神経症、不眠症、双極性障害、注意欠陥多動性障害、など精神疾患とよく似た症状を来たすこともしばしばあります。甲状腺の病気は、甲状腺の病気の家系、家族性があることが知られており、よく聞いてみたらお母様やおばあちゃんも実は甲状腺の病気であったということが少なくありません。いずれにせよ、甲状腺機能の異常を疑うような症状を認める場合、一度採血検査にて甲状腺機能をチェックします。

【甲状腺機能亢進症の検査】

甲状腺機能は採血検査で調べます。甲状腺ホルモン(fT3、fT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、さらに甲状腺疾患の特異抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗TSH受容体抗体(TRAb)を調べます。橋本病やバセドウ病など一般的な甲状腺の病気以外を疑う場合、甲状腺悪性腫瘍の除外が必要だと考えられる場合には必要に応じて甲状腺の専門病院にて精密検査をお願いしています。

【甲状腺機能亢進症の治療】

甲状腺機能亢進症と診断が確定したら、次にその原因を特定します。甲状腺機能亢進症の原因として最も多いのはバセドウ病です。バセドウ病は甲状腺刺激ホルモン受容体(TSH受容体)に対する自己抗体(TSH Receptor Antibody: TRAb)が原因の自己免疫性疾患で、自己抗体による刺激で甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。治療開始時には一度甲状腺の専門医に紹介にて行っています。概要としては、内服療法、放射線療法、手術療法と大きく3つの選択肢があります。どの治療法にも一長一短があるので、専門医と相談のもと治療法を決めます。

・メルカゾール(チアマゾール)、チウラジール(プロバジール)、抗甲状腺薬です。甲状腺ホルモンの生成を抑え、甲状腺機能亢進症を治療します。治療は甲状腺刺激ホルモン受容体抗体が陰性となるまで、年単位で長期間の治療継続が必要です。0.05%の頻度で無顆粒球症という重篤な副作用が生じることがわかっているので、飲み始め、発熱時、定期的な採血にて異常がないことをチェックします。飲み薬のみで治療が可能なのがメリットです。

・ヨウ素の放射性同位体(Radio Isotope: RI)である放射性ヨードによる治療です。甲状腺機能低下症になることがしばしばあるのと、放射線を使うため妊娠中や授乳中は出来ません。手術の必要がなく、抗甲状腺薬による治療よりも治療が早期に終わるのがメリットです。

・手術療法、甲状腺を一部取り除きし、甲状腺ホルモンの値をコントールします。甲状腺機能低下症になることが多いのと、頸部に手術跡が残ります。放射線を使わなく、早く確実な治療であることがメリットです。

・インデラル(プロプラノロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、甲状腺機能亢進症による頻脈、動悸、手の震え症状の緩和に使います。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

甲状腺機能低下症

【甲状腺機能低下症とは】

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが足りないで、様々な症状が出る病気です。女性に多く、日本では珍しい病気ではありません。症状が漠然としていて、症状は年単位でゆっくりと起こる変化であるため、病気の症状だと自覚していないことも多く、潜在的に多くの患者さんがいるものと考えられます。発症の時期が中高年、更年期に重なることも多いことから、歳のせい、更年期のせい、など見逃されていることが非常に多いです。循環器内科を受診する症状として、動悸、息切れ、浮腫み、中性脂肪、コレステロール高値などが多いです。

【甲状腺機能低下症の症状】

甲状腺機能低下症の症状は多彩です。甲状腺ホルモンはざっくり言うと全身の活発さに関わるホルモンです。甲状腺ホルモンが足りないと、全体的に元気がなくなります。具体的には、むくみ、寒がり、平熱が低い、皮膚の乾燥、声のかすれ、疲れやすい、集中力が落ちた、眠気、便秘がち、太りやすくなった、などの漠然とした症状で、検査をすると甲状腺機能低下症が原因であった、ということがわかることがしばしばあります。全身の代謝が落ちるので、健診で中性脂肪やコレステロールが高いと指摘されたのをきっかけに甲状腺機能低下症が見つかる例もあります。また精神的な活発さも低下するので、気力がない、集中力がない、元気がない、もの忘れなどの漠然とした精神的な不調の症状のこともあります。甲状腺ホルモンは心臓の脈の調節にも関わっているホルモンで、循環器内科には、脈が遅くなった、動悸を感じるという症状で、調べていくうちに甲状腺機能の異常であったとわかることもあります。一方で、甲状腺機能低下症の症状はどの症状もはっきりと決め手になる症状が少なく、症状は年単位で非常にゆっくりと起こるので、本人も病気の症状であると自覚していないことは多いです。その場合、治療後に甲状腺機能低下症の症状があったことに気付くということも珍しくありません。

【甲状腺機能の検査】

甲状腺機能は採血検査で調べます。甲状腺ホルモン(fT3、fT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、さらに甲状腺疾患の特異抗体、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗TSH受容体抗体(TRAb)を調べます。橋本病やバセドウ病など一般的な甲状腺の病気以外を疑う場合、甲状腺悪性腫瘍の除外が必要だと考えられる場合には必要に応じて甲状腺の専門病院にて精密検査をお願いしています。甲状腺の病気は、甲状腺の病気の家系、家族性があることが知られており、よく聞いてみたらお母様やおばあちゃんも実は甲状腺の病気であったということが少なくありません。

【甲状腺機能低下症の治療】

甲状腺機能低下症の治療はシンプルで、足りない分の甲状腺ホルモンを補充する治療で、甲状腺ホルモン補充療法と言います。

・チラーヂン(レボチロキシン)、甲状腺ホルモン補充療法のお薬は一種類しかありません。甲状腺機能低下症の診断が付いた後は、どれくらい甲状腺ホルモンが足りていないかは個人によって違うので、甲状腺機能(TSH、fT3、fT4)の値を適宜チェックしながら、ちょうどよい甲状腺ホルモン補充量を決めていきます。チラーヂン(レボチロキシン)には、12.5μg錠から、25、50、75、100μg錠とあるので、そのうちのどれかまたはその組み合わせでちょうどよい補充量が必ず見付かります。ちょうどよい補充量が見付かった後は、その量で甲状腺ホルモンの補充を継続し、半年に一回、年に一回程度の頻度で適宜甲状腺ホルモンの補充量がちょうどよいかどうかチェックします。

基本的に体内に生理的にあるホルモンですので安全なお薬ですが、補充量が多過ぎると、甲状腺ホルモンが多くなり過ぎ、甲状腺機能亢進症と同じ症状が出ます。その場合は甲状腺ホルモンの補充量を適宜減らすなど調整すれば大丈夫です。

【潜在性甲状腺機能低下症】

甲状腺機能検査の結果、甲状腺ホルモン(fT3、fT4)低値でかつ甲状腺刺激ホルモン(TSH)高値の状態を(顕在性の)甲状腺機能低下症と呼びます。甲状腺ホルモン値(fT3、fT4)は基準範囲でかつ甲状腺刺激ホルモン(TSH)のみ高値の状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と呼びます。潜在性甲状腺機能低下症の場合は、経過観察しながら、必ず治療が必須という訳ではありませんが、甲状腺の自己抗体が陽性の場合、潜在性甲状腺機能低下症は(顕在性の)甲状腺機能低下症の前段階ということが言われており、甲状腺刺激ホルモンが高値ということは甲状腺ホルモンが基準範囲でもその人にとって甲状腺ホルモンが足りていないという場合が多く、甲状腺機能低下症の何らかの症状を伴い、その症状で日常生活に支障が出ているような場合は、甲状腺機能低下症と同じく治療することが多いです。主治医とよく相談しましょう。

【甲状腺ホルモン値に異常はなく、抗体のみ陽性の場合】

検査の結果、甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの値(fT3、fT4、TSH)は異常ないけれど、抗TSH受容体抗体(TRAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、抗サイログロブリン抗体(TgAb)の抗体のみが陽性のことがあります。この場合は、年単位で経過観察していると甲状腺機能異常を発症して来る場合と、一生甲状腺機能異常を発症しない場合があります。明確な決まりはないのですが、どちらになるか事前に判別する手段がないため、半年に1回から、2年に1回程度の期間、または明らかに甲状腺機能異常を疑う臨床症状を認めた時点で採血フォローを行います。

【甲状腺機能低下症と妊娠】

甲状腺ホルモンは正常な妊娠、胎児の成長にも関わるホルモンです。甲状腺機能低下症は不妊症や流産に関係することが最近はわかって来ています。妊娠中や妊娠を計画されている場合、妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増えるので、不妊症や胎児の正常な発育のために甲状腺ホルモンの補充のため治療します。一般的に妊娠中の薬はほとんどの場合、有害性に注意しなければならないのですが、甲状腺ホルモンに関しては例外で、むしろ妊娠中に継続するほうがメリットがあり、正常な妊娠、胎児の成長のためには継続が必要がある薬ですので、自己判断で勝手に辞めないように注意しましょう。

主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


心房細動

【心房細動とは】

心房細動は心原性脳塞栓症という脳梗塞の原因となる不整脈です。心房細動が原因の脳梗塞、心原性脳塞栓症は重症な脳梗塞になることが多く予防が重要です。以下、若干難しい説明になりますが、大事なところですのでなるべく詳しく説明していきます。

【心原性脳塞栓症とは】

心房細動という不整脈があると、心臓の中の左心房の特に左心耳という場所に、血液の滞りが続き、血液の塊、血栓が出来やすくなります。なぜかと言うと、血液は、出血に備えて、流れていないと固まる性質をもともと持っているからです。心臓に出来た血栓は、左心房、左心室、大動脈、総頚動脈、内頚動脈と、血管の中を血流に乗って飛んでいき、脳の血管まで辿り着き、最終的に脳の血管に詰まると脳梗塞に至ります。小指の爪くらいの大きさの血栓であっても脳の半分の血管が一本詰まってしまうくらい、重症な脳梗塞になってしまいます。小渕総理は心房細動による脳梗塞で命を落としました。野球の長嶋監督、サッカーのオシム監督は命は助かったものの後遺症が残ってしまいました。重症な脳梗塞とは、2割は命が助からず、救急車で運ばれてすぐに最善の治療をしても、2割は寝たきりか要介護の状態に、5割の患者さんは何らかの後遺症を残ってしまい、今まで通りの社会生活に復帰出来る場合はほんとわずか、というのが心原性脳塞栓症を起こしてしまった場合の予後です。ですので、なんとしても脳梗塞が起こすのを防ぐことが重要です。これが心房細動を放置してはいけない理由です。

【心房細動の検査】

心房細動の診断は心電図検査またはホルター心電図検査によって行います。心房細動は症状はほとんどないか、あっても動悸や脈が乱れる感じを自覚する程度ですが、自覚症状があるかどうかと脳梗塞の発症リスクとは関係なく、脳梗塞予防が必要です。加齢、高血圧症、喫煙、飲酒、ストレス、睡眠不足、甲状腺機能亢進症などが関係していることがありますが、最も多い要因は加齢と高血圧症です。今までに健診で心電図異常を指摘されていることも多いですので、健診で心電図異常を指摘されていたら、放置せずに主治医に相談しましょう。また、検診を何年も受けていなければ年に一回は検診を受けましょう。心房細動の中には発作性心房細動と言って、心房細動が出たり出なかったりするタイプもあります。通常の健診の心電図検査や来院時の心電図検査では見逃すことも多く、24時間に渡る長時間の心電図検査、ホルター心電図検査によって発作性心房細動がないかどうかをチェックします。これは発作性心房細動でも脳梗塞リスクは同じくあるということがわかっているからです。心房細動が見つかった場合、心房細動を引き起こす何らかの原因疾患がないか、心房細動によって心臓の負担が掛かっていないか、心臓の弁に異常がないか、など必要に応じてさらに詳しい検査を進めることがあります。必要に応じて、既に血栓症を起こしていないか、既に脳梗塞を来していないか、心臓エコーや頭部MRIにて調べて行きます。

【心房細動の治療】

心房細動の治療は、1、心房細動による脳梗塞、心原性脳塞栓症の予防療法と、2、心房細動自体に対する治療と、2種類あります。何よりも脳梗塞を起こさないことが大事ですので、第一に脳梗塞の予防療法を開始します。

1、心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法

心房細動による脳梗塞を防ぐには、血栓予防の抗凝固療法という治療を開始します。血栓が出来なければ脳梗塞になることはありません。左心房内で血栓が出来ないように、血液が凝固しないように、抗凝固療療法という治療を開始します。適切な抗凝固療法を続けていれば、心原性脳塞栓症が起こるのを7割以上の効果で防ぐことが出来ます。

2、心房細動に対するカテーテルアブレーション治療

心房細動自体に対する治療はカテーテルアブレーション術と言います。カテーテルという血管内の治療で、心房細動の原因となっている電気の伝わりを焼却し、心房細動自体を起こさないようにする治療です。カテーテルアブレーションは昔は合併症や再発率の問題もあり発展途上の治療という位置付けでしたが、近年は安全性と有効率がどんどん向上して来ていますので、いくつか条件や注意事項がありますが、一度検討されてよい治療法だと考えています。都内では、心臓血管研究所附属病院、慶應義塾大学病院、東京女子医科大学病院などカテーテルアブレーションに積極的に取り組んでいる病院に紹介で治療をお願いしています。

【心房細動の治療】

心房細動による脳梗塞、心原性脳塞栓症の予防は、血栓予防、血液が凝固しないようにする抗凝固薬という飲み薬による治療です。抗凝固療法は一定の出血リスクを伴いますので、血栓予防による脳梗塞予防のメリットと出血リスクによるデメリットを総合的に判断して、抗凝固療法、抗凝固薬を選択します。主にCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアを参考に抗凝固療法の適応を決めます。詳しくは日本血栓止血学会のホームページをご覧ください。
https://www.jsth.org/glossary_detail/?id=297

・プラザキサ(ダビガトラン)、1日2回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。ワルファリンと比べて出血リスクが少なく、出血しても危篤な重症出血となりにくい、などのメリットがあります。抗凝固療法の一番の副作用は出血ですが、プラザキサの特徴としては、出血時にプラザキサの薬の効果をブロックする中和薬、プリズバインド(イダルシズマブ)があることとです。

・イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、1日1回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。プラザキサと同様に、安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。新薬なので薬価が高いのと、薬が切れるのが早いので一日でも飲み忘れてはいけない点が注意です。1日1回内服です。1日2回の薬を飲み忘れなく続けるのが難しい方に向いています。

・エリキュース(アピキサバン)、1日2回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。上記の3剤と同じく、安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。1日2回内服です。

・ワーファリン(ワルファリン)、昔からある抗凝固薬です。僧帽弁狭窄症や人工弁置換術後などはワーファリンによる抗凝固療法が必要です。また、今までずっとワーファリン治療にて特に合併症も何も問題が起きていない場合は無理矢理と新薬に変える必要はないと考えています。一度出血を起こすと止まりにくい、定期的に採血で凝固能をチェックする必要がある、ビタミンK依存性凝固因子というものに作用して効果を発揮するため、ビタミンKを多く含む食べ物の食事制限があること、肝臓癌の腫瘍マーカーPIVKA-IIが肝臓癌でなくても陽性となる、などが注意です。

・アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、心房細動によって脈が速くなって、動悸や苦しさの症状が出ている、心不全を起こしている場合などに使います。高血圧症や心筋梗塞後など合併している場合にもよく使います。

・ワソラン(ベラパミル)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、サンリズム(ピルシカイニド)、心房細動による頻脈発作の予防や、頻脈発作時に頓服で使います。不整脈の薬は注意して使う必要があるので、主治医によく相談しましょう。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。

【心房細動の情報】

心房細動は説明しなければならない情報が非常に多く、一回の説明で全て完璧に理解するのは容易ではありません。わからなければ何度もでも説明しますし、以下、国立循環器病研究センター、日本不整脈心電学会のページにかなり詳しくまとまっていますのでご参考ください。

「心房細動といわれたら – その原因と最新の治療法 -」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph111.html

「心房細動と付き合うには- 心原性脳塞栓症のリスクと新しい予防薬 -」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph99.html

日本不整脈心電学会「心房細動」→https://new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-1


【心房細動検出アプリ】

https://ochanomizunaika.com/heartrhythm

最近はスマートホンで脈をチェック出来るアプリがあります。医療機器ではありませんが、脈のセルフチェックに役に立ちます。お茶の水循環器内科開発の心房細動検出アプリ「ハートリズム」を紹介します。お茶の水循環器内科が開発した日本初の心房細動検出アプリです。無料ですので、ぜひご自由にご活用ください。心房細動の早期発見の目的の他にも、動悸症状の時に脈に異常がないかどうかのチェック、心房細動アブレーション治療後の再発チェックなどにも使えるようです。いずれにせよ、脈に何らかの異常がありそうな場合は必ず医療機関を受診し、心電図検査を受けましょう。


ピロリ菌

【ピロリ菌とは】

ピロリ菌はヘリコバクターピロリ(Helicobacter Pylori)という名前の細菌で、胃炎、胃癌の原因菌です。ピロリ菌は多くは幼少時に感染し、一度感染すると除菌しない限り胃の中に住み着いて胃の粘膜の炎症を引き起こし慢性胃炎の原因になります。胃の粘膜の炎症が10年20年単位で慢性的に続くと胃癌発生の原因となります。事実、日本人の胃癌の実に90%以上がピロリ菌感染が原因であると言われており、ピロリ菌は除菌療法によって除菌が可能です。ピロリ菌の感染は幼少時の家族内感染が主な原因と言われていますので、ピロリ菌の感染源への対策として家族が全員しっかりピロリ菌を除菌すること、日本人の次世代の胃癌予防のためには社会全体でピロリ菌対策に取り組むことが大切です。

【ピロリ菌の検査】

ピロリ菌の検査は、(1)感染診断と(2)除菌判定の2種類があります。

(1)感染診断、まずピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査です。内視鏡検査、血液検査、尿検査、便検査といくつかありますが、当院では主に負担が少なく精度の高い採血検査にて感染診断を行っています。ピロリ菌に対する抗体の有無を調べる検査で、ピロリ菌に感染していれば陽性に、ピロリ菌に感染していなければ陰性という検査結果になります。ピロリ菌が陰性であればそれ以上検査を進める必要はありません。ピロリ菌が陽性である場合は除菌療法に進みます。ピロリ菌除菌成功後も抗体は残ることがあるので除菌判定は呼気検査にて行います。感染診断に関しては特に呼気検査でなくても何でも構いません。

(2)除菌判定、ピロリ菌除菌療法後、ちゃんと除菌出来たかどうかを調べる検査です。呼気判定の検査にはいくつか注意点があります。

・内服終了後、直後は正確な検査が出来ないことがあるためで、除菌療法の内服薬のセットを内服終了後、4週間以上開けて検査を行います。4週間以降であればいつでも構いません。

・食べ物が胃の中にあると検査の精度に影響を与えてしまうので、検査は空腹時、食事から4時間以上開けて行います。乳製品も避けてください。お茶やお水などは問題ありません。

・検査時間は全体で30分間程度掛かります。

保険適応のルール上、内視鏡検査にて慢性胃炎等の確定診断を受けている場合のみ保険適応になります。内視鏡検査を受けていないと自費になってしまうのですが、当院では出来るだけ多くの人に胃癌予防のためピロリ菌チェックを受けてほしいという思いから、ピロリ菌採血検査を自費で3000円(税込)にて行っています。慢性的に胃の調子が悪い、胃炎を繰り返している、家族で胃癌になった人がいる、ピロリ菌をチェックしておきたいという場合はお気軽にご相談ください。


【ピロリ菌の治療】

ピロリ菌の治療はズバリ、ピロリ菌の除菌です。ピロリ菌を除菌するのに有効な抗菌薬と胃薬のセットを7日間内服します。ピロリ菌除菌にはいくつかの除菌セットがありますが、特に理由がない限り、除菌成功率が高いものを使います。2016年夏に「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」が改訂されました。保険適応のルール上、内視鏡検査にて慢性胃炎等の確定診断を受けている場合のみ保険適応、それ以外は保険適応外ですのでご注意ください。

【一次除菌セット】

・タケキャブ系(ボノサップ:タケキャブ=ボノプラザン20mg 2T2X、アモキシシリン250mg 6C2X、クラリスロマイシン200mg 2T2Xまたは4T2X)、ピロリ菌に有効な2種類の抗菌薬、アモキシシリンとクラリスロマイシン、胃薬のタケキャブの合計3種類を7日間内服します。「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」によると、除菌成功率は92.6%と報告されています。処方箋通りに内服した場合の除菌成功率であり、飲み忘れなど、処方箋通りに内服しないと除菌成功率は下がってしまいますのでご注意ください。

・一次除菌セットには他に、タケプロン系(ランサップ:タケプロン=ランソプラゾール30mg 2T2X、他2剤共通)、オメプラゾン系(オメプラゾン=オメプラゾール20mg 2T、他2剤共通)、パリエット系(ラベキュア:パリエット=ラベプラゾール20mg 2T2X、他2剤共通)、ネキシウム系(ネキシウム=エソメプラゾール20mg 2C、他2剤共通)があります。「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版」によるとそれぞれの除菌成功率はタケプロン系83.7-91.1%、オメプラゾン系78.8%、パリエット系85.7-89.0%、ネキシウム系67.5-69.4%と報告されています。

【二次除菌、三次除菌セット】

・一次除菌除菌不成功であった場合に二次除菌を行います。一次除菌失敗の原因の一つにクラリスロマイシンへの耐性が指摘されていますので、二次除菌ではクラリスロマイシンをフラジール(メトロニダゾール)という抗真菌薬に変えます。二次除菌にもいくつかの除菌セットがありますが、それぞれの除菌成功率は、タケキャブ系(ボノピオン:タケキャブ=ボノプラザン20mg 2T2X、アモキシシリン250mg 6C2X、メトロニダゾール250mg 2T2X)98.0%、タケプロン系84.8-93.4%、オメプラゾン系92.4-92.9%、パリエット系91.6-92.9%、ネキシウム系83.9%と報告されています。二次除菌セットに含まれるフラジールという薬はお酒と併用NGで、もし間違って一口でもお酒を飲むと吐気が止まらなくなりますので二次除菌療法中は本当にお酒は飲まないでください。

・一次除菌、二次除菌で除菌不成功だった場合に、さらに、抗菌薬を変えたり増量したり、胃酸を抑える薬を増量したり、投与期間を延ばしたりなど様々な工夫をして除菌成功率を高めようとします。極論ですが、タケキャブを2倍量、アモキシシリンを2倍量、さらにメトロニダゾールを併用、投与期間を2倍の14日間にすると、ほぼ確実に除菌可能という話を聞いたことがありますが、あまりに適応外の大量の薬剤の処方になりますのでオススメはしていません。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。


 

高尿酸血症

【高尿酸血症とは】

高尿酸血症とは、尿酸値が7.0を超えた状態です。健診等にて尿酸値が引っかかって受診される場合と、痛風発作を起こして見付かる場合とがあります。尿酸値は高ければ高くなるほど痛風の発症リスクが高くなります。具体的には、尿酸値と痛風発作リスクは上記グラフのように、尿酸値7.0以上で5年間累積発症率2%、8.0以上で4%、9.0以上で20%、10.0以上で30%と、尿酸値が高ければ高いほど痛風発作リスクが上がります。尿酸値が9.0を超えたところで急に痛風発作リスクが跳ね上がるため、日本痛風・核酸代謝学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」では、尿酸値が9を超えたら痛風予防のために高尿酸血症を治療しましょうという目安になっています。

【高尿酸血症の治療方針】

日本痛風・核酸代謝学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」では、高尿酸血症・痛風の治療アルゴリズムが発表されました。尿酸値、痛風発作の既往の有無と、腎機能障害等の合併症の有無に応じて判断して行きます。具体的には、

・尿酸値9以上であれば治療開始

・尿酸値8以上で合併症がある場合は治療開始

・尿酸値7以上で痛風発作の既往があれば治療開始

・それ以外の場合は生活習慣改善を中心として経過観察

※合併症とは、腎障害、尿路結石、高血圧症、虚血性心疾患、糖尿病、メタボリックシンドロームなど

痛風発作も起こした場合「風が吹いただけでも痛い」とよく言われるくらい激痛なのですが、とにかく痛いだけで痛風発作で直接命に関わることはありません。この点が他の心血管疾患リスクとなる生活習慣病とは明確に異なる点です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は心血管疾患のリスク因子であり、今特に症状がなくてもそのまま放置すると心筋梗塞や脳卒中など命に関わるため早期から適切に治療する必要があると医師、特に循環器内科医は考えますが、痛風発作を一度も起こしていないで、かつ、合併症も認めない場合の高尿酸血症に関してはどれくらい痛風発作を予防したいか次第で治療方針を決めていただいて構いません。詳しくは日本痛風・核酸代謝学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」をご覧ください。

https://www.tukaku.jp/guideline

【高尿酸血症の食事療法】

プリン体の多い代表的な食品:うに、イクラ、タラコ、鶏レバー、イワシ干物、白子、あん肝、豚レバー、牛レバー、もつ、数の子、カツオ、イワシ、エビ、アジ干物、サンマ、他

高尿酸血症の食事療法はプリン体の過剰摂取を控えることです。実は尿酸値に対する食事の影響は2割程度で、尿酸値が上がりやすい体質のほうが影響が大きいなどとわかって来ていますが、食事の分は食事療法によって改善するので食事療法を行うメリットはあります。尿酸は食物の中のプリン体という成分が原因ですので、プリン体の過剰摂取を控えることが高尿酸血症の食事療法になります。プリン体は遺伝子のもとである核酸という言われる物質の成分で、細胞分裂や代謝が活発な肝臓や遺伝子の固まりである卵などに多く含まれます。干物や燻製などにも多く含まれています。美味しいおつまみが多くて困ってしまいます。

https://ochanai.com/wp/wp-content/uploads/2016/08/purin.jpg

お酒はビールなどプリン体の多いお酒には注意です。同じ缶ビールでもプリン体含有量は結構差があるようです。またアルコール自体にプリン体含有量に関わらず尿酸値を上げてしまう作用があると言われているのと、美味しいおつまみメニューにはどうしてもプリン体の多く含まれるメニューが多くなってしまうことが多いので、いずれにせよ飲み過ぎ食べ過ぎには注意です。また水分摂取量が少ないと尿酸排出量も減って尿酸値が上がりやすくなりますので、特に夏場で汗をたくさんかく時期などには、アルコール以外、水やお茶など糖分の多く含まれない飲み物で十分な水分摂取を心掛けましょう。

適度な運動、体重減量も尿酸値を下げる効果があるのと他の生活習慣病予防のためにも運動不足であれば運動をしましょう。

【高尿酸血症の薬】

痛風発作予防のための治療目標値は尿酸値7.0未満です。尿酸低下薬には尿酸生成抑制薬と尿酸排出促進薬の二種類があり、適宜病態に合わせて使います。また、尿酸値の急激な変動が痛風発作のリスクを上げると言われているため、痛風発作が起きている最中には尿酸値を変動させないようにし、痛風発作が落ち着いてから尿酸低下を始めていきます。

・ザイロリック(アロプリノール)、フェブリク(フェブキソスタット)、トピロリック(トピロキソスタット)、尿酸の生成をブロックし、尿酸値を下げる薬です。

・ユリノーム(ベンズブロマロン)、ベネシッド(プロベネシド)、尿への尿酸の排出を促進して尿酸値を下げる薬です。尿中の尿酸濃度が高まり、尿酸結石のリスクが増えてしまうため、尿酸結石を予防する薬、ウラリット(クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウム配合剤)と併用で使います。

・ボルタレン(ジクロフェナク)、ロキソニン(ロキソプロフェン)など、痛風発作を起こしてしまった場合、痛風発作の痛みは消炎鎮痛薬で治療します。

・プレドニン(プレドニゾロン)、痛風発作の痛みはとにかく激痛なので、激痛が収まるまで炎症を強力に押さえるステロイド薬を適宜使うこともあります。痛風発作の症状が落ち着いた段階で、一度尿酸値をチェックし、値によっては尿酸を下げる治療開始して行きます。

・コルヒチン(コルヒチン)、昔から痛風発作の予兆期に使うコルヒチンという薬もあります。痛風発作が本格的に始まってしまってからは無効です。また、痛風関節炎を繰り返す場合、コルヒチンカバーと言ってコルヒチンを長期に少量継続するやり方もあります。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。