発作性心房細動

【発作性心房細動とは】

発作性心房細動(Paroxysmal atrial fibrillation: pAf)とは、持続性ではなく発作性に起こる心房細動です。心房細動(atrial fibrillation: Af)には、発作性心房細動、持続性心房細動、慢性心房細動、永続性心房細動などの分類があります。多くの心房細動は、最初は発作性に始まり、次第に発作の頻度が増えて、持続時間が長くなり、持続性心房細動、慢性心房細動になると言われています。薬物療法等に抵抗性になると永続性心房細動と言います。発作性心房細動は心房細動の早期の段階であると考えられるので、発作性心房細動の段階で発見することが出来れば、カテーテルアブレーションの有効性がより期待しやすいと言うことが出来ます。詳しくは「心房細動治療ガイドライン」をご覧ください。

「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2013_inoue_h.pdf

【発作性心房細動の心原性脳塞栓症の発症リスク】

国内外の研究から、発作性心房細動の心原性脳塞栓症の発症リスクは、持続性心房細動と同等であるということがわかっています。持続性心房細動のほうが脳梗塞を起こしやすいと思われがちなのですが、発作性心房細動も慢性心房細動も同様に脳梗塞のリスクとしては同等であり、両方とも予防療法が必要なのです。心房細動患者は日本で80万人程度いると言われており、潜在的に診断されていないものも含めると、100万人を超えるとも言われています。心房細動全体の約半数が発作性心房細動であると言われています。また、心房細動は自覚症状が乏しい場合があり、動悸、脈の乱れ、脈が飛ぶ感じ、息苦しさ、めまい等の何らかの自覚症状がある場合が約50%、何の自覚症状がない場合が約50%と言われており、未発見、未治療の発作性心房細動が多く存在することが課題となっています。詳しくは心房細動、心原性脳塞栓症のページ、不整脈ドットコムをご覧ください。

心房細動→https://循環器内科.com/af

心原性脳塞栓症→https://循環器内科.com/cce

不整脈ドットコム→https://fusei39.com/patient/af.shtml

【発作性心房細動の診断】

発作性心房細動の診断は、発作性の心電図を記録することです。多くの検診等の心電図検査で、非発作時の心電図記録は正常になってしまいます。発作性心房細動を見付けるためには発作時の心電図を記録する必要があり、ホルター心電図、携帯型心電計が必要になります。発作性心房細動は、発作性に出現することが特徴ですので、一回の心電図検査では見逃すことがあります。また、ホルター心電図も24時間のホルター心電図よりも、7日間の長期間のホルター心電図のほうが発作性心房細動の見逃しが少なかったという報告もあり、可能であれば長期間のホルター心電図記録が重要です。詳しくはホルター心電図のページをご覧ください。

ホルター心電図→https://循環器内科.com/holter

また、最近は、市販でいくつかの携帯型心電計が登場しています。医療機器ではありませんが、発作時の記録が取れれば、診断の参考になり、有用です。

【発作性心房細動の治療】

発作性心房細動の治療は心房細動の治療と共通です。心房細動の治療は、1、心房細動による脳梗塞、心原性脳塞栓症の予防療法と、2、心房細動自体に対する治療と、2種類あります。何よりも脳梗塞を起こさないことが大事ですので、第一に脳梗塞の予防療法を開始します。また、発作性心房細動は持続性心房細動よりも発症から早期であると考えられるため、カテーテルアブレーションの有効性がより期待しやすいと言うことが出来ます。

1、心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法

心房細動による脳梗塞を防ぐには、血栓予防の抗凝固療法という治療を開始します。血栓が出来なければ脳梗塞になることはありません。左心房内で血栓が出来ないように、血液が凝固しないように、抗凝固療療法という治療を開始します。適切な抗凝固療法を続けていれば、心原性脳塞栓症が起こるのを7割以上の効果で防ぐことが出来ます。

2、心房細動に対するカテーテルアブレーション治療

心房細動自体に対する治療はカテーテルアブレーション術と言います。カテーテルという血管内の治療で、心房細動の原因となっている電気の伝わりを焼却し、心房細動自体を起こさないようにする治療です。カテーテルアブレーションは昔は合併症や再発率の問題もあり発展途上の治療という位置付けでしたが、近年は安全性と有効率がどんどん向上して来ていますので、いくつか条件や注意事項がありますが、一度検討されてよい治療法だと考えています。都内では、心臓血管研究所附属病院、慶應義塾大学病院、東京女子医科大学病院などカテーテルアブレーションに積極的に取り組んでいる病院に紹介で治療をお願いしています。

【発作性心房細動の治療】

心房細動による脳梗塞、心原性脳塞栓症の予防は、血栓予防、血液が凝固しないようにする抗凝固薬という飲み薬による治療です。抗凝固療法は一定の出血リスクを伴いますので、血栓予防による脳梗塞予防のメリットと出血リスクによるデメリットを総合的に判断して、抗凝固療法、抗凝固薬を選択します。

・プラザキサ(ダビガトラン)、1日2回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。ワルファリンと比べて出血リスクが少なく、出血しても危篤な重症出血となりにくい、などのメリットがあります。抗凝固療法の一番の副作用は出血ですが、プラザキサの特徴としては、出血時にプラザキサの薬の効果をブロックする中和薬、プリズバインド(イダルシズマブ)があることとです。

・イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、1日1回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。プラザキサと同様に、安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。新薬なので薬価が高いのと、薬が切れるのが早いので一日でも飲み忘れてはいけない点が注意です。1日1回内服です。1日2回の薬を飲み忘れなく続けるのが難しい方に向いています。

・エリキュース(アピキサバン)、1日2回内服の直接経口抗凝固薬(DOAC: Direct Oral AntiCoagulant)です。上記の3剤と同じく、安全性高く脳梗塞の予防が出来ます。1日2回内服です。

・ワーファリン(ワルファリン)、昔からある抗凝固薬です。僧帽弁狭窄症や人工弁置換術後などはワーファリンによる抗凝固療法が必要です。また、今までずっとワーファリン治療にて特に合併症も何も問題が起きていない場合は無理矢理と新薬に変える必要はないと考えています。一度出血を起こすと止まりにくい、定期的に採血で凝固能をチェックする必要がある、ビタミンK依存性凝固因子というものに作用して効果を発揮するため、ビタミンKを多く含む食べ物の食事制限があること、肝臓癌の腫瘍マーカーPIVKA-IIが肝臓癌でなくても陽性となる、などが注意です。

・アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、心房細動によって脈が速くなって、動悸や苦しさの症状が出ている、心不全を起こしている場合などに使います。高血圧症や心筋梗塞後など合併している場合にもよく使います。

・ワソラン(ベラパミル)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、サンリズム(ピルシカイニド)、心房細動による頻脈発作の予防や、頻脈発作時に頓服で使います。不整脈の薬は注意して使う必要があるので、主治医によく相談しましょう。

全ての薬には副作用がありますが、主治医はデメリット、メリットを総合的に考えて一人ひとりに最適な薬を処方しています。心配なことがあれば何なりと主治医またはかかりつけ薬局の薬剤師さんまでご相談ください。

【発作性心房細動の情報】

心房細動は説明しなければならない情報が非常に多く、一回の説明で全て完璧に理解するのは容易ではありません。わからなければ何度もでも説明しますし、以下、国立循環器病研究センター、日本不整脈心電学会のページにかなり詳しくまとまっていますのでご参考ください。

「心房細動といわれたら – その原因と最新の治療法 -」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph111.html

「心房細動と付き合うには- 心原性脳塞栓症のリスクと新しい予防薬 -」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph99.html

日本不整脈心電学会「心房細動」→https://new.jhrs.or.jp/public/lecture/lecture-2/lecture-2-a-1