可逆性脳血管攣縮症候群

【可逆性脳血管攣縮症候群とは】
可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: RCVS) とは、一過性に脳の血管が痙攣、収縮を起こす症候群です。症状は多彩で、突然の激しい頭痛、脳の血流が一過性に障害を受けることによって脳梗塞や一過性脳虚血発作に似た症状があります。虚血を起こした血管の領域によって、一過性の視力障害、四肢の脱力、しびれ感、呂律障害など様々な症状を引き起こします。以前は、Call syndrome、Call-Fleming syndrome、分娩後血管症(postpartum angiopathy)、良性中枢神経系血管症(benign angiopathy of the central nervous system)、片頭痛性血管攣縮、偏頭痛性動脈炎(migraine angiitis)、薬剤性脳血管炎(drug-induced cerebral angiitis)、薬剤性脳血管症等、様々な呼ばれ方をしていましたが、2007年、これらを総称する疾病概念としてRCVSが提唱されました。詳しくは下記をご覧ください。
「Narrative Review: Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndromes」→https://annals.org/aim/article-abstract/477594/narrative-review-reversible-cerebral-vasoconstriction-syndromes

【可逆性脳血管攣縮症候群の診断】
可逆性脳血管攣縮症候群の確定診断は、画像検査にて間接的または直接的に痙攣を起こしている脳血管を認めることです。2012年、「Ducrosの診断基準」があります。
・急性で重度の頭痛(しばしば雷鳴性の頭痛)で、巣症状や痙攣を伴うこともあれば伴わないこともある。
・単相性の経過で、発症から一ヶ月以上の新しい症候を伴わない。
・脳血管の部分的な血管収縮がMRIやCT等の間接的、または血管造影にて直接的に証明されていること。
・くも膜下出血ではないこと。
・脳脊髄液所見は正常またはほぼ正常(蛋白100mg/dL未満、白血球15cells/μL未満)であること。
・発症から12週間以内の経過観察において、脳血管は完全に正常またはほぼ正常であることが間接的または直接的に証明されること。
詳しくは下記をご覧ください。
「Reversible cerebral vasoconstriction syndrome」→https://www.thelancet.com/article/S1474-4422(12)70135-7/abstract
実臨床としては、まずは、くも膜下出血、脳出血、脳動脈解離等の脳血管障害を除外することが大切です。頭部CT、頭部MRIにて脳梗塞や脳出血がないこと、採血検査、必要に応じて脳脊髄液検査にて出血や感染症等の所見がないことを確認します。確定診断としてはカテーテル検査の適応を判断します。片頭痛や群発頭痛との鑑別も重要で、頭痛外来を一度紹介する場合もあります。また、脳血管カテーテルがすぐに出来ない場合や禁忌がある場合には、下記の血管拡張薬にて診断的治療を試みる場合もあります。

【可逆性脳血管攣縮症候群の治療】
可逆性脳血管攣縮症候群の治療としてエビデンスが確立しているものはありませんが、原則的には脳血管の痙攣を防ぐことを目的に血管拡張薬を使います。
・カルシウム拮抗薬
アムロジン(アムロジピン)、アダラート(ニフェジピン)、コニール(ベニジピン)、カルブロック(アゼルニジピン)、ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、ワソラン(ベラパミル)、非ジヒドロピリミジン系カルシウム拮抗薬です。血管拡張作用で冠攣縮の発作を防ぎます。
・ ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、フランドル(硝酸イソソルビド)、ニトロダーム(ニトログリセリン)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)、硝酸薬です。血管拡張作用で冠攣縮の発作を防ぎます。
・禁煙、冠攣縮の悪化因子として喫煙が知られています。喫煙者には禁煙を最優先します。
・スタチン、ARB、抗血小板薬、可逆性脳血管攣縮症候群の背景因子として、動脈硬化のリスク因子があると考えられる場合には、それぞれリスク因子を治療します。
・エビデンスは不明ですが、マグネシウム製剤、ステロイド、テグレトール(カルバマゼピン)、リリカ(プレガバリン)等が使われる場合もあります。

【可逆性脳血管攣縮症候群の予防】
労作、寒冷刺激、入浴、シャワー、興奮、性交、出産などが引き金となることがあります。また、薬物としては血管収縮作用のあるものは一般的に悪化に関係があることがあります。

【冠攣縮性狭心症との関係】
可逆性脳血管攣縮症候群に、冠攣縮性狭心症を合併する場合があります。これは脳血管だけではなく、心血管も攣縮を起こす性質を持っているものとして、可逆性全身性血管攣縮症候群(Reversible Systemic Vasoconstriction Syndrome: RSVS)という概念もありますが、そこまで一般的ではありません。両者の治療は共通するところも多いです。