洞性頻脈

【洞性頻脈とは】
洞性頻脈(sinus tachycardia)とは、心臓の脈が早い状態です。正常の心臓では、心臓を動かす刺激伝導系は洞結節から始まります。洞結節は、心房の中で周囲に比べて若干くぼみのようになっている結節であるため洞結節(sinus node)または洞房結節(sinoatrial node)と呼びます。正常の心臓では、洞結節からのリズムで動いており、この状態のことを洞調律(sinus rhythm)または正常洞調律(normal sinus rhythm)と呼びます。洞調律の心拍数は自律神経、交感神経、副交感神経の2つによって調整されていて、脈が早くなった状態のことを洞性頻脈(sinus tachycardia)、脈が遅くなった状態のことを洞性徐脈(sinus bradycardia)と呼びます。洞性頻脈と洞性徐脈を合わせて洞性不整脈(sinus arrhythmia)と呼ぶことがあります。
【洞性頻脈の症状】
洞性頻脈の自覚症状は、文字通り、心臓の脈が早い状態を自覚します。ドキドキ、バクバク、脈が早いという自覚症状です。洞調律の心拍数は自律神経によって調整されているので、自律神経の活動の影響を受けていることが特徴です。興奮、不安、恐怖、闘争、逃走、怒り、ストレス等の精神的影響、発熱、睡眠不足、運動等の身体的影響などが関係します。洞性頻脈の心拍数の上昇は徐々に心拍数が上がり、徐々に心拍数が下がることが特徴です。突然、心拍数が2倍や3倍に跳ね上がる場合、洞性頻脈とは異なる症状の疑いがある場合には、発作性上室性頻拍、発作性心房細動、心室頻拍等の別のタイプの不整脈を疑います。
【洞性頻脈の診断】
心電図にて洞調律で、心電図100以上の場合、洞性頻脈の診断となります。人間の安静時の正常な心拍数は60-90程度です。心拍数が100に満たない場合も、心拍数85、90程度でも同様に動悸症状を自覚することがあり、頻脈傾向(tachycardia tendency)と言います。動悸症状が発作時に起こる場合には、24時間のホルター心電図検査等にて症状出現時の心電図記録によって診断します。別のタイプの不整脈を疑う場合には別のタイプの不整脈ではないかホルター心電図検査、採血等にて検査します。運動や精神的緊張で説明のつかない洞性頻脈の場合には、原因となる基礎疾患がないか精査します。
【洞性頻脈の原因】
洞性頻脈の原因は多岐に渡ります。大きく心臓自体、心臓を動かすホルモン等に異常の疑いがあり、精密検査や治療な必要なもの、心臓には異常がなく直接命に関わらないもの、経過観察で問題ないものに分かれます。洞性頻脈だと思っていたら他のタイプの不整脈であった、洞性頻脈と他の不整脈の両方であったということも少なくはないため、他の不整脈の可能性も疑って検査をします。
直接命に関わらないもの、経過観察で問題ないもの:
・薬剤性(カフェイン、煙草、アルコール、他)
・ストレス性(不安神経症、過換気症候群、パニック障害、他)
・その他(低血圧症、更年期障害、呼吸性変動、他)
精密検査や治療な必要なもの:
・不整脈(発作性上室性頻拍、発作性心房細動、洞不全症候群、房室ブロック、心室頻拍、心室細動、他)
・不整脈以外の循環器疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞、心筋炎、心筋症、弁膜症、他)
・呼吸器疾患(気管支喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺塞栓症、他)
・内分泌疾患(甲状腺機能異常、副腎機能異常、低血糖症、他)
・その他(貧血、発熱、自己免疫疾患、他)
【洞性頻脈の原因疾患を認める場合】
治療が必要な原因疾患を認めた場合、原因疾患の治療を優先します。具体的には、貧血、甲状腺機能異常、肺塞栓症、心不全等が原因として認めた場合には、原因疾患の治療を進めます。治療が必要な原因疾患を特に認めない場合、かつ自覚症状がそれほど苦痛ではない場合、洞性頻脈自体は原則として治療の必要はありません。
【洞性頻脈で強い自覚症状を認める場合】
洞性頻脈に一致して強い動悸症状を自覚する場合があります。洞性頻脈だけであれば、心配ないものとわかれば症状もあまり気にならなくなる場合が多いのですが、症状がどうしても気になって生活に支障が出てしまうような場合は、適宜症状を和らげる治療もあります。
まず前提として、基礎心疾患が何もない場合、洞性頻脈だけでは特に命に関わらないものではあるため治療は必須ではありません。しかしながら、洞性頻脈に一致して強い動悸症状を自覚する場合があり、次のような治療法があります。
1、生活習慣の改善
ストレス、緊張、運動、過労、睡眠不足、季節の変わり目、飲酒、喫煙、カフェイン、栄養ドリンクの摂取などの何らかの刺激が関係していることが多いので、誘因となる生活習慣を改善することで症状が軽快することが少なくありません。
2、抗不整脈薬
強い自覚症状を認める場合は、抗不整脈薬があります。脈の速さや強さを和らげる作用のβ遮断薬などが中心です。メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール)、テノーミン(アテノロール)、インデラル(プロプラノロール)、アロチノロール(アロチノロール)、などがあります。洞性頻脈はある程度和らぎます。
3、心療内科、産業医
不安、緊張等の精神的影響が強い場合、恐怖感、強迫感が強い場合などには抗不安薬等を使う場合がありますが、心療内科へ紹介して精神的ストレスに対して診てもらっています。時間外労働、過重労働、職場のストレス、労働環境等が原因の場合は職場の産業医へ相談します。
以上、動悸症状の原因として多い洞性頻脈について説明しました。何かわからないことがあれば主治医までご相談ください。