不安定狭心症

【不安定狭心症とは】

狭心症(Angina pectoris: AP)とは、心臓の血管、冠動脈(Coronary artery)が詰まってはいないけれど狭くなっている血管がある状態のことを言います。冠動脈が完全に詰まると急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction: AMI)に至りますが、狭心症は急性心筋梗塞の一歩手前の状態です。狭心症の中でも特に急性心筋梗塞に移行するリスクの高い狭心症を不安定狭心症(Unstable angina pectoris: UAP)と呼び、急性心筋梗塞と不安定狭心症をまとめて急性冠症候群(Acute coronary syndrome: ACS)と呼び、急性心筋梗塞に準じて対処していきます。

【不安定狭心症の診断】

不安定狭心症の診断にはBraunwald分類があります。新規発症、亜急性安静、急性安静の3タイプです。具体的には、

ClassⅠ:新規発症の重症または増悪型狭心症

・最近2カ月以内に発症した狭心症

・1日に3回以上発作が頻発するか、軽労作にても発作が起きる増悪型労作狭心症(安静狭心症は認めない)。

ClassⅡ:亜急性安静狭心症

・最近1カ月以内に1回以上の安静狭心症があるが、48時間以内に発作を認めない。

ClassⅢ:急性安静狭心症

・48時間以内に1回以上の安静時発作を認める。

詳しくは日本循環器学会「急性冠症候群の診療に関するガイドライン」をご覧ください。

https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2007_yamaguchi_h.pdf

狭心症の中で上記の基準を満たすものは不安定狭心症として取り扱います。Braunwald分類は冠動脈造影所見ともよく一致していることが知られています。大事なことは、急性心筋梗塞に移行するリスクがどれくらいあるかを評価し、緊急で治療を開始しなくてはならない狭心症を見極めることです。

【不安定狭心症の検査】

不安定狭心症の検査、まずは問診によって、冠危険因子の有無と程度から評価して行きます。家族歴、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙の5つの冠危険因子のうち、多ければ多いほど冠動脈疾患を引き起こしやすいですし、危険因子が少なければ少ないほど冠動脈疾患を引き起こしにくいです。確定診断は冠動脈カテーテル検査ですが、まずは冠動脈カテーテル検査が必要であるかどうかを評価して行きます。心電図、胸部レントゲン、採血にて心筋トロポニンやBNP、その後必要に応じて、冠動脈CTや心臓MRIを追加して行きます。狭心症発作か動悸かはっきりしない場合はホルター心電図にて症状出現時の心電図記録の情報が重要になります。

心電図→https://循環器内科.com/ecg

心筋トロポニン→https://循環器内科.com/bloodtest

冠動脈CT→https://循環器内科.com/cta

心臓MRI→https://循環器内科.com/cmri

BNP→https://循環器内科.com/bloodtest

ホルター心電図→https://循環器内科.com/holter

冠動脈カテーテル検査→https://循環器内科.com/ami

【不安定狭心症のリスク評価】

TIMIリスクスコアは14日間以内の急性心筋梗塞の発症リスクを算出するのに有用です。

TIMIリスクスコア:

・年齢(65歳以上)

・3つ以上の冠危険因子(家族歴、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙)

・既知の冠動脈の有意狭窄(>50%)

・心電図における0.5mm以上のST偏位

・24時間以内に2回以上の狭心症状

・7日間以内のアスピリンの服用

・心筋障害マーカーの上昇

TIMIリスクスコアが当てはまるものが多ければ多いほど急性心筋梗塞に移行しやすいことがわかっています。必要に応じて、冠動脈CT、冠動脈カテーテル検査へと進めて行きます。

【不安定狭心症の治療】

不安定狭心症と診断した場合は、急性心筋梗塞に準じて治療を開始します。

循環器内科の大きな病院で、カテーテル検査によって詰まった血管に対し、そのままバルーン拡張、ステント留置などカテーテル治療を行います。外科的に冠動脈バイパス術が行われることがあります。急性期治療までのつなぎとして以下の初期治療を行います。

・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、抗血小板薬という薬です。血栓が出来て、心筋梗塞が広がることを少しでも防ぎます。急性心筋梗塞と診断し次第、バイアスピリン腸溶錠100mgを3Tから4Tを噛み砕いて舌下投与します。

・硝酸薬、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。静脈拡張作用により心臓への負荷を軽減する効果もあります。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレーがあります。

・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、全身の血管から悪玉コレステロールを回収し、動脈硬化予防、心筋梗塞を強力に抑制します。背景に脂質異常症があり、カテーテルの受診までに日数がある場合使います。

スタチン→https://循環器内科.com/statin

・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、心筋への過度な負担を和らげます。致死的不整脈の出現を抑制することもわかっています。

・酸素投与、低酸素血症がある例に対して酸素投与、冠攣縮性狭心症の関与を疑う場合のカルシウム拮抗薬の投与など、

・心肺蘇生、心停止例や心停止からの蘇生例に対しては心停止時には速やかに心肺蘇生が開始出来るようにモニタリングを行います。

心肺蘇生→https://循環器内科.com/cpr

・禁煙、動脈硬化の最大の悪化因子です。喫煙者には禁煙が必要です。

喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・運動制限、急性心筋梗塞または不安定狭心症を疑った場合に、心筋酸素需要の増大因子、心臓への負担を掛ける動作は好ましくありません。カテーテル病院へ救急車で搬送するのはこのためです。急性心筋梗塞の治療が終わった後に好きなだけ運動しましょう。さらに詳しくは国立循環器病研究センターまたは慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト「KOMPAS」のページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph92.html

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph34.html

https://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000236.html

【不安定狭心症の予防】

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

不安定狭心症は動脈硬化が原因です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、心血管疾患のリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいです。逆に、動脈硬化のリスク因子が少なければ少ないほど不安定狭心症にはなりにくいです。これが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が自覚症状がなくても治療が必要な理由です。修正可能なリスク因子をコントロールして、不安定狭心症にならないようにしましょう。