冠動脈造影

【冠動脈造影とは】

冠動脈造影(Coronary angiography: CAG)とは、手首や足の付根からカテーテルと呼ばれる細い管を通して、心臓の血管、冠動脈(Coronary artery)の入り口まで挿入し、冠動脈を造影する検査です。冠動脈の狭窄の有無と程度を正確に診断し、治療の必要がある部位があればそのまま経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous coronary intervention: PCI)の治療へと進みます。

【冠動脈造影の目的】

冠動脈に有意狭窄があるとわかった場合、または強く疑われた場合に、確定診断と治療のために行います。有意狭窄とは、冠動脈カテーテル治療が必要な狭窄で、狭窄率では概ね75%狭窄以上の狭窄を有意狭窄と呼びます。有意狭窄の病変に対しては通常そのままカテーテル治療へと進みます。

【冠動脈造影の流れ】

近年は日帰りでカテーテル検査を行う病院もありますが、原則入院が必要な検査です。手首か足の付根からカテーテルを挿入します。カテーテルの挿入部位は主に三種類です。撓骨動脈(Radial artery)、鼠径動脈(Femoral artery)、上腕動脈(Brachial artery)、いずれかの血管からアプローチします。消毒をし、まず局所麻酔をします。次に、血管を穿刺し、カテーテルを通していく外筒を挿入します。カテーテルは2mmほぼの細い管です。カテーテルを血管内に挿入し、大動脈基部の冠動脈の起始部までカテーテルをアプローチします。冠動脈まで到達した後は、様々な角度から造影剤を注入し、冠動脈を造影しながら何度か撮影を行います。また、必要に応じて左室造影、大動脈造影を追加します。冠攣縮性狭心症を疑う場合は、冠攣縮誘発試験を行います。カテーテル検査終了後は、止血を行い、十分な止血が確認出来るまで安静にします。止血をより確実に行うための止血デバイスもあります。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

カテーテル治療の実際→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph44.html

【冠動脈造影の結果】

冠動脈の各部位の狭窄の有無と程度が明らかになります。具体的には、冠動脈は、右冠動脈(Right Coronary Artery: RCA)と左冠動脈(Left Coronary Artery: LCA)の2本の血管からなり、左冠動脈はさらに主幹部、前下行枝、回旋枝に分岐します。各部位には、AHA分類と言って、#の通し番号で呼ばれます。具体的には、

【冠動脈のAHA分類】

・右冠動脈(Right Coronary Artery: RCA):#1-#4

#1:右冠動脈起始部から鋭縁部までを二等分した近位部、#1から洞結節枝(sinus node branch: SN)、円錐枝(conus branch: CB)が分岐する。

#2:右冠動脈起始部から鋭縁部までを二等分した遠位部、#2から右室枝(right ventricular branch: RVB)、鋭縁部からは鋭角枝(acute marginal branch: AM)が分岐する。

#3:右冠動脈鋭縁部から後下行枝(poster descending branch: PD)まで

#4:後下行枝(poster descending branch: PD)、#4から#4AV:房室結節枝(atrioventricular node branch: AVN)が分岐する。

・左冠動脈(Left Coronary Artery: LCA):#5-#15

#5:左主幹部(Left Main Trunk: LMT)

・左前下行枝(Left Anterior Descending Coronary Artery: LAD):#6-10

#6:左主幹部から左前下行枝の第一中隔枝(first septal branch: 1st SB)まで、#6から#9:第一対角枝(first diagonal branch: D1)が分岐する。

#7:第一中隔枝から#10:第ニ対角枝(second diagonal branch: D2)まで

#8:第二対角枝から左前下行枝抹消まで

#9:第一対角枝(first diagonal branch: D1)

#10:第ニ対角枝(second diagonal branch: D2)

・左回旋枝(Left Circumflex Coronary Artery LCX):#11-#15

#11:左主幹部から左回旋枝#12:鈍角枝(obtuse marginal branch: OM)まで

#12:鈍角枝(obtuse marginal branch: OM)

#13:後側壁枝(posterolateral branch: PL)まで

#14:後下降枝(posterior descending artery: PD)

さらに、冠動脈の各部位に狭窄率を判定します。狭窄度のAHA分類、7段階で評価します。具体的には、

【狭窄度のAHA分類】

・0%:狭窄なし

・25%:25%以下の狭窄

・50%:25%超から50%以下の狭窄

・75%:50%超から75%以下の狭窄

・90%:75%超から90%以下の狭窄

・99%:90%超から99%以下の狭窄

・100%:完全閉塞

と分類します。通常、75%以上の狭窄を有意狭窄と判定し、治療対象とします。

【冠動脈造影の適応判断】

急性心筋梗塞や不安定狭心症では、緊急で冠動脈造影が必要です。まずは病歴、症状の確認後、心電図、心筋トロポニン検査を行います。急性心筋梗塞の場合は速やかに緊急のカテーテル治療が必要です。冠動脈狭窄が疑われる場合に冠動脈CTを追加します。冠動脈の狭窄の有無や程度の所見から有意狭窄が認められた場合には冠動脈造影を行います。また、経験的に症状から有意狭窄が強く疑われる場合は、総合的にカテーテル治療が必要と考えた場合もカテーテル治療可能な病院へ搬送します。詳しくは下記ページをご覧ください。

・急性冠症候群→https://循環器内科.com/acs

・急性心筋梗塞→https://循環器内科.com/ami

・不安定狭心症→https://循環器内科.com/uap

・冠攣縮性狭心症→https://循環器内科.com/vsa

・労作性狭心症→https://循環器内科.com/eap

・心電図→https://循環器内科.com/ecg

・心筋トロポニン→https://循環器内科.com/bloodtest

・冠動脈CT→https://循環器内科.com/cta

・心臓MRI→https://循環器内科.com/cmri

【冠動脈疾患の予防】

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

冠動脈疾患は動脈硬化が原因です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、心血管疾患のリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいです。逆に、動脈硬化のリスク因子が少なければ少ないほど冠動脈疾患にはなりにくいです。これが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が自覚症状がなくても治療が必要な理由です。修正可能なリスク因子をコントロールして、冠動脈疾患にならないようにしましょう。