冠動脈カテーテル治療

【冠動脈カテーテル治療とは】

冠動脈カテーテル治療とは、急性心筋梗塞の治療法です。経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous coronary intervention: PCI)、経皮的冠動脈形成術(Percutaneous transluminal coronary angioplasty)、再灌流療法などいくつかの呼び名がありますが、基本同じで、カテーテルを用いて、心臓の血管、冠動脈の閉塞や狭窄を治療する方法です。カテーテル治療の他に急性心筋梗塞の治療としては、外科的治療、冠動脈バイパス手術(Coronary artery bypass grafting: CABG)があります。詳しくは慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト「KOMPAS」のページをご覧ください。

虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)→https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000236.html

【冠動脈カテーテル治療の適応】

冠動脈カテーテル治療の適応は、急性心筋梗塞と不安定狭心症です。急性心筋梗塞、不安定狭心症、急性冠症候群を疑った際には冠動脈造影検査を行いますが、冠動脈造影検査で診断が付き次第、そのまま冠動脈カテーテル治療へと進みます。冠動脈造影では、冠血流予備比(Fractional flow reserve: FFR)など、冠動脈狭窄所見の解剖学的評価だけではなく、機能生理的評価も行う流れになっています。冠動脈CTや心臓MRIをきっかけにカテーテル治療の必要な冠動脈狭窄が見つかる場合もあります。詳しくは下記ページをご覧ください。

・急性心筋梗塞→https://循環器内科.com/ami

・不安定狭心症→https://循環器内科.com/uap

・急性冠症候群→https://循環器内科.com/acs

・冠動脈造影→https://循環器内科.com/cag

・冠動脈CT→https://循環器内科.com/cta

・心臓MRI→https://循環器内科.com/cmri

カテーテル治療が難しい病変や、冠動脈三枝に病変がある場合には、冠動脈バイパス手術が適応になる場合もあります。専門的な判断になりますので、主治医の判断にまかせましょう。

【冠動脈カテーテル治療の流れ】

急性心筋梗塞や不安定狭心症では速やかな血流の改善が必要です。手首か足の付根からカテーテルを挿入します。カテーテルの挿入部位は主に三種類です。撓骨動脈(Radial artery)、鼠径動脈(Femoral artery)、上腕動脈(Brachial artery)、いずれかの血管からアプローチします。消毒をし、まず局所麻酔をします。次に、血管を穿刺し、カテーテルを通していく外筒を挿入します。カテーテルは2mmほぼの細い管です。カテーテルを血管内に挿入し、大動脈基部の冠動脈の起始部までカテーテルをアプローチします。冠動脈まで到達した後は、様々な角度から造影剤を注入し、冠動脈を造影しながら何度か撮影を行います。また、必要に応じて左室造影、大動脈造影を追加します。冠攣縮性狭心症を疑う場合は、冠攣縮誘発試験を行います。カテーテル検査にて治療が必要な血管が見つかった場合は、そのままカテーテル治療に進みます。冠動脈の狭窄部位に対して、バルーンなどで拡張を行い、多くの場合はステント留置を行います。ステントとは金属の網状の筒で、狭窄部部位を確実に広げ、血流を改善します。他には、高度な石灰化病変に対してローラーブレーダー、レーザー、血栓吸引療法など様々な手技があります。ステント留置後には再度バルーンで拡張を行い、ガイドワイヤーやカテーテルを抜去し、終了です。カテーテル治療終了後は、止血を行い、十分な止血が確認出来るまで安静にします。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

「入院時の治療」→https://xn--ymsx5oniia519h1i2a.com/hospitalization

「カテーテル治療の実際」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph44.html

「心筋梗塞が起こったら」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph92.html

「心筋梗塞、狭心症-その予防と治療」→https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/heart/pamph34.html

【冠動脈カテーテル治療後の治療】

冠動脈カテーテル治療後は急性心筋梗塞の再発予防が重要です。冠危険因子に対して適切な治療を行うことに加えて、特にステント留置を行った場合には、ステント留置後のステント内再狭窄(ISR: Intra-Stent Restenosis)を防ぐために、抗血小板薬二剤併用療法(DAPT: Dual Anti-Platelet Therapy)が重要です。

・バイアスピリン、エフィエント(プラスグレル)

抗血小板薬二剤併用療法(Dual Anti-Platelet Therapy: DAPT)と言います。通常、バイアスピリン(アスピリン)をベースの一剤として、プラビックス(クロピドグレル)かエフィエント(プラスグレル)かもう一剤を併用します。通常、ステント留置から6ヶ月後から12ヶ月後に、再度フォローアップの冠動脈造影を行います。

・バイアスピリン

フォローアップの冠動脈造影にてステント内再狭窄を認めないことを確認後、DAPTからSAPTに切り替え可能かどうか判断します。個々の症例によってケースバイケースですが、多くの場合PCI後DAPT、9ヶ月後前後に冠動脈造影、問題なければSAPTに切り替えを行います。SAPT(Single Anti-Platelet Therapy)は原則として生涯継続が必要です。

・禁煙、喫煙は明らかに心筋梗塞、心筋梗塞の再発のリスク因子です。煙草は辞めましょう。

・硝酸薬、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、フランドルテープ(硝酸イソソルビド貼付薬)、ニトロダーム(ニトログリセリン)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレー剤、フランドルはテープ剤があります。

・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、脂質を下げて、動脈硬化を予防します。

・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、心臓の脈や収縮力を適度に落として心臓を休ませ、心筋梗塞の再発を防ぎます。

・PPI、タケプロン(ランソプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、抗血小板薬による胃潰瘍を防ぐため、制酸薬を併用します。

その他、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの危険因子があればそれぞれ治療を行います。

【急性心筋梗塞の予防】

・高血圧症→https://循環器内科.com/ht

・脂質異常症→https://循環器内科.com/dl

・糖尿病→https://循環器内科.com/dm

・喫煙→https://循環器内科.com/smoking

・大量飲酒→https://循環器内科.com/ld

急性心筋梗塞は動脈硬化が原因です。高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、心血管疾患のリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいです。逆に、急性心筋梗塞のリスク因子が少なければ少ないほど急性心筋梗塞にはなりにくいです。これが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が自覚症状がなくても治療が必要な理由です。修正可能なリスク因子をコントロールして、急性心筋梗塞にならないようにしましょう。

【冠動脈カテーテル治療の歴史】

1929年、ドイツの外科医、Werner Forssmannが自身の上腕静脈に尿道カテーテルを挿入、右心房まで造影に成功、1956年、A.F. CournandとD.W.Richardsともにノーベル生理・医学賞受賞

1958年、アメリカの放射線科医、Mason Sonesが大動脈造影検査中に冠動脈造影法を発見

1964年、アメリカの放射線科医、Charles Dotterが下肢動脈閉塞症に対してバルーン拡張術、世界初の血管内治療に成功

1977年、ドイツの循環器内科医、Andreas Gruentzig、冠動脈バルーン開発、世界初の冠動脈バルーン拡張術(Plain old balloon angioplasty: POBA)に成功

1981年、小倉記念病院の延吉正清先生が日本で初めて冠動脈カテーテル治療に成功

1992年、Palmaz-Schatzステント、ベアメタルステント(Bare metal stent: BMS)開発

2002年、日本で薬剤漏出性ステント(Drug Eluting Stent: DES)薬事承認

以降、急性心筋梗塞の治療として、経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous coronary intervention: PCI)が一般的となり現在に至る。

テルモ株式会社の「医療の挑戦者たち」というページに詳しく載っていました。 →https://challengers.terumo.co.jp/challengers/archive.html