抗血小板療法

【抗血栓療法とは】

抗血栓療法(Antithrombotic therapy)とは、血栓症の発症を予防するための治療のことです。抗血小板療法(Antiplatelet therapy)と抗凝固療法(Anticoagulant therapy)の2つがあります。さらに、血栓症の予防ではなく、すでに出来てしまった血栓に対する治療法としては、血栓溶解療法や血栓回収療法があります。「血液をサラサラにする治療」とひとまとめにして説明してしまうこともありますが、抗血小板療法、抗凝固療法、それぞれ厳密に区別する必要があります。詳しくは国立循環器病研究センターのページをご覧ください。

https://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph80.html

【抗血小板療法と抗凝固療法】

抗血小板療法と抗凝固療法は似て非なるものです。この2つの区別は重要です。なぜなら、抗凝固療法が必要なものに抗血小板療法をしても効果がないばかりか出血の副作用が増えてしまうことがわかっており、逆に、抗血小板療法が必要な場合に抗凝固療法をしても有益性はないことがわかっているからです。両者は別物なのです。「JAST試験」または「ACTIVE W試験」をご覧ください。

https://www.ebm-library.jp/att/trial/detail/61055.html

https://www.ebm-library.jp/att/trial/detail/61026.html

【抗血小板療法とは】

代表的な抗血小板薬:バイアスピリン

代表的な疾患:心筋梗塞、狭心症、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患、他

経口抗血小板薬:バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、プレタール(シロスタゾール)、パナルジン(チクロピジン)、他

血小板を主体とした血栓、血小板血栓の発症を予防するための治療です。動脈血栓と呼ばれることがあり、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒等の動脈硬化性の危険因子を背景に発症します。脳梗塞の場合は、必要な抗血栓療法が違って来ますので、非心原性なのか心原性なのかの区別が重要です。詳しくは下記ページをご覧ください。

急性心筋梗塞→https://循環器内科.com/ami

不安定狭心症→https://循環器内科.com/uap

脳卒中→https://循環器内科.com/stroke

ラクナ梗塞→https://循環器内科.com/li

アテローム血栓性脳梗塞→https://循環器内科.com/atbi

一過性脳虚血発作→https://循環器内科.com/tia

詳しくは「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」をご覧ください。

「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」→https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_hori_h.pdf

また、最善の抗血小板薬、抗凝固療法は、日進月歩で変化していますので、最新のエビデンスに関しましては抗血栓療法トライアルデータベースをご覧ください。

抗血栓療法トライアルデータベース→https://att.ebm-library.jp/content/guideline.html

【急性心筋梗塞に対してステント留置後の抗血小板療法】

抗血小板療法の中で特に重要なものが急性心筋梗塞の二次予防としての抗血小板療法です。急性心筋梗塞の治療として一番多いケースとして、冠動脈カテーテル治療を行い、ステント留置を行った場合、抗血小板薬二剤併用療法(DAPT: Dual Anti-Platelet Therapy)が必要になります。治療の目標は急性心筋梗塞の再発予防です。冠危険因子に対して適切な治療を行うことに加えて、特にステント留置を行った場合には、ステント留置後のステント内再狭窄(ISR: Intra-Stent Restenosis)を防ぐために、抗血小板薬二剤併用療法を行います。

・バイアスピリン、エフィエント(プラスグレル)

抗血小板薬二剤併用療法(Dual Anti-Platelet Therapy: DAPT)と言います。通常、バイアスピリン(アスピリン)をベースの一剤として、プラビックス(クロピドグレル)かエフィエント(プラスグレル)かもう一剤を併用します。通常、ステント留置から6ヶ月後から12ヶ月後に、再度フォローアップの冠動脈造影を行います。

・バイアスピリン

フォローアップの冠動脈造影にてステント内再狭窄を認めないことを確認後、DAPTからSAPTに切り替え可能かどうか判断します。個々の症例によってケースバイケースですが、多くの場合PCI後DAPT、9ヶ月後前後に冠動脈造影、問題なければSAPTに切り替えを行います。SAPT(Single Anti-Platelet Therapy)は原則として生涯継続が必要です。

詳しくは冠動脈カテーテル治療、陳旧性心筋梗塞のページをご覧ください。

冠動脈カテーテル治療→https://循環器内科.com/pci

陳旧性心筋梗塞→https://循環器内科.com/omi

【血栓止血学とは】

医学の中で、血小板、凝固、線溶などを詳しく扱う学問が、血栓止血学(Thrombosis and Hemostasis)です。かなりマニアックなところまで深入りせずに、ざっくり要点のみ言うと、人間の血栓止血は一次止血、二次止血、線溶の3段階からなります。

・一次止血(Primary hemostasis)

人間が出血を起こした場合、まずは出血を起こした血管内皮の障害部位に血小板が集まり、血小板が凝集し、止血を行います。これを一次止血と言います。この時の血小板が主体となって出来た血栓を血小板血栓と言います。抗血小板薬は一次止血をブロックして効果を発揮します。

・二次止血(Secondary hemostasis)

次に、血管のずり応力や組織因子の影響から凝固因子の活性化が起こります。凝固因子には12種類あり、お互いに影響し合ながら活性化第X因子(Xa)の作用でプロトロンビンがトロンビンに、トロンビンの作用でフィブリノゲンがフィブリン変化し、最終的にはフィブリン血栓を形成します。これが二次止血です。凝固因子の活性化には、異物との接触をトリガーに活性化する内因系と、組織の損傷をトリガーに活性化する外因系と、合流して活性化第X因子(Xa)からフィブリン形成まで至る共通系と3つのプロセスがあります。抗凝固薬は二次止血をブロックして効果を発揮します。

・線溶(Fibrinolysis)

最後に、人間の身体は、余分なところに出来てしまった血栓、病的血栓は自ら取り除く仕組みが備わっています。フィブリンの線維を溶かしていくことから、これを線維素溶解、線溶と呼びます。プラスミン、プラスミノーゲンアクティベータなどが関与しています。これを治療に応用したのが、血栓溶解療法です。

詳しくは日本血栓止血学会または、金沢大学第三内科のブログ、朝倉先生の本がとんでもなくわかりやすいですので、ぜひ興味がある方はご覧ください。

日本血栓止血学会→https://www.jsth.org

「血液・呼吸器内科のお役立ち情報」→https://www.3nai.jp/weblog

「臨床に直結する血栓止血学」→https://www.amazon.co.jp/dp/4498125797