虚血性心疾患

【虚血性心疾患とは】
虚血性心疾患(Ischemic Heart Disease: IHD)とは、心臓への血流が悪くなった状態です。虚血(Ischemia)とは、普段あまり聞き慣れない日本語かも知れませんが、血流が十分に行き渡っていない状態のことを言います。心臓の筋肉への血流は、冠動脈という血管によって維持されており、冠動脈が狭窄を起こしたり、閉塞を起こす冠動脈疾患とほぼ同じ意味で使われますが、冠攣縮性狭心症のように冠動脈狭窄を伴わないものも含める場合があります。また、心筋梗塞を起こした後に心臓の動きが悪くなった状態、冠動脈疾患による心不全も虚血性心疾患に含める場合もあります。虚血性心疾患とは、心臓への血流が悪くなって起こる全ての心臓病の総称です。
【虚血性心疾患の症状】
虚血性心疾患の症状は、急性心筋梗塞や狭心症などの急性冠症候群の急性期の症状と、慢性冠症候群や慢性心不全などの慢性期の症状の2つに分けることが出来ます。急性冠症候群の症状は、急な胸の痛み、胸の絞扼感、胸の圧迫感などです。詳しくは急性冠症候群、急性心筋梗塞、不安定狭心症のページをご覧ください。
急性冠症候群→http://循環器内科.com/acs
急性心筋梗塞→http://循環器内科.com/ami
不安定狭心症→http://循環器内科.com/uap
冠攣縮性狭心症→http://循環器内科.com/vsa
虚血性心疾患に、冠動脈疾患による心疾患も含める場合があります。慢性冠症候群や慢性心不全の症状は、息切れ、疲れやすさ、むくみ、動悸などです。詳しくは労作性狭心症、陳旧性心筋梗塞、心不全のページをご覧ください。
労作性狭心症→http://循環器内科.com/eap
陳旧性心筋梗塞→http://循環器内科.com/omi
心不全→http://循環器内科.com/hf
【虚血性心疾患の診断】
虚血性心疾患の診断は、心臓の血流が悪くなっているかどうかを調べます。心電図、心筋トロポニン検査、冠動脈CT、心臓MRI、冠動脈カテーテル検査などを組み合わせて行います。最も重要な検査は、心臓の血管、冠動脈の狭窄の有無や程度を調べる冠動脈CT、冠動脈カテーテル検査です。
心電図→http://循環器内科.com/ecg
心筋トロポニン→http://循環器内科.com/bloodtest
冠動脈CT→http://循環器内科.com/cta
心臓MRI→http://循環器内科.com/cmri
冠動脈カテーテル検査→http://循環器内科.com/ami
【虚血性心疾患の治療】
虚血性心疾患の治療として、特に急性期の治療、急性冠症候群の治療を説明します。急性心筋梗塞に準じて治療を開始します。
循環器内科の大きな病院で、カテーテル検査によって詰まった血管に対し、そのままバルーン拡張、ステント留置などカテーテル治療を行います。外科的に冠動脈バイパス術が行われることがあります。急性期治療までのつなぎとして以下の初期治療を行います。
・バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル)、エフィエント(プラスグレル)、抗血小板薬という薬です。血栓が出来て、心筋梗塞が広がることを少しでも防ぎます。急性心筋梗塞と診断し次第、バイアスピリン腸溶錠100mgを3Tから4Tを噛み砕いて舌下投与します。
・硝酸薬、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。静脈拡張作用により心臓への負荷を軽減する効果もあります。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレーがあります。
・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、全身の血管から悪玉コレステロールを回収し、動脈硬化予防、心筋梗塞を強力に抑制します。背景に脂質異常症があり、カテーテルの受診までに日数がある場合使います。
スタチン→http://循環器内科.com/statin
・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、インデラル(プロプラノロール)、交感神経をブロックし、心筋への過度な負担を和らげます。致死的不整脈の出現を抑制することもわかっています。
・酸素投与、低酸素血症がある例に対して酸素投与、冠攣縮性狭心症の関与を疑う場合のカルシウム拮抗薬の投与など、
・心肺蘇生、心停止例や心停止からの蘇生例に対しては心停止時には速やかに心肺蘇生が開始出来るようにモニタリングを行います。
心肺蘇生→http://循環器内科.com/cpr
・禁煙、動脈硬化の最大の悪化因子です。喫煙者には禁煙が必要です。
喫煙→http://循環器内科.com/smoking
虚血性心疾患に心筋梗塞後の心不全も含める場合があります。急性心筋梗塞後に一番の問題は急性心筋梗塞の再発です。
ここでは、急性心筋梗塞の治療として一番多いケースとして、冠動脈カテーテル治療を行い、ステント留置を行ったケースとして代表的な治療法を説明します。一番の目的は急性心筋梗塞の再発予防です。冠危険因子に対して適切な治療を行うことに加えて、特にステント留置を行った場合には、ステント留置後のステント内再狭窄(ISR: Intra-Stent Restenosis)を防ぐために、抗血小板薬二剤併用療法(DAPT: Dual Anti-Platelet Therapy)が重要です。
・バイアスピリン、エフィエント(プラスグレル)
抗血小板薬二剤併用療法(Dual Anti-Platelet Therapy: DAPT)と言います。通常、バイアスピリン(アスピリン)をベースの一剤として、プラビックス(クロピドグレル)かエフィエント(プラスグレル)かもう一剤を併用します。通常、ステント留置から6ヶ月後から12ヶ月後に、再度フォローアップの冠動脈造影を行います。
・バイアスピリン
フォローアップの冠動脈造影にてステント内再狭窄を認めないことを確認後、DAPTからSAPTに切り替え可能かどうか判断します。個々の症例によってケースバイケースですが、多くの場合PCI後DAPT、9ヶ月後前後に冠動脈造影、問題なければSAPTに切り替えを行います。SAPT(Single Anti-Platelet Therapy)は原則として生涯継続が必要です。
・禁煙、喫煙は明らかに心筋梗塞、心筋梗塞の再発のリスク因子です。煙草は辞めましょう。
・硝酸薬、ニトロペン(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)、フランドルテープ(硝酸イソソルビド貼付薬)、ニトロダーム(ニトログリセリン)、ミオコールスプレー(ニトログリセリン)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)、硝酸薬と呼ばれる狭心症治療薬です。冠動脈拡張作用で、発作を解除します。ニトロペンは舌下錠、ニトロールやミオコールはスプレー剤、フランドルはテープ剤があります。
・スタチン、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)、脂質を下げて、動脈硬化を予防します。
・βブロッカー、アーチスト(カルベジロール)、メインテート(ビソプロロール)、テノーミン(アテノロール)、心臓の脈や収縮力を適度に落として心臓を休ませ、心筋梗塞の再発を防ぎます。
・PPI、タケプロン(ランソプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、抗血小板薬による胃潰瘍を防ぐため、制酸薬を併用します。
その他、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの危険因子があればそれぞれ治療を行います。下記、典型的な例として、高血圧症、脂質異常症、糖尿病等の冠危険因子を複数認め、かつ、急性心筋梗塞後に慢性心不全を発症しているケースとして説明します。
・ACE阻害薬、レニベース(エナラプリル)、タナトリル(イミダプリル)、降圧薬であると同時に、心筋のリモデリングを抑制し、慢性心不全の悪化を防ぐ効果があります。拡張型心筋症、肥大型心筋症等の心筋症に対しては進行抑制効果を期待して使います。
・ARB、アジルバ(アジルサルタン)、オルメテック(オルメサルタン)、ブロプレス(カンデサルタン)、降圧薬であると同時に、心筋のリモデリングを抑制し、慢性心不全の悪化を防ぐ効果があります。拡張型心筋症、肥大型心筋症等の心筋症に対しては進行抑制効果を期待して使います。
・アルドステロン拮抗薬、ACE阻害薬、ARBと同様、心筋のリモデリングを抑制し、慢性心不全の悪化を防ぐ効果があります。アルダクトン(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)があります。
・利尿薬、余分な水分を体外に排出し、心臓への負担を軽減します。肺うっ血やむくみがある場合にも使います。ラシックス(フロセミド)、フルイトラン(トリクロルメチアジド)、ナトリックス(インダパミド)、サムスカ(トルバプタン)などがあります。
・カルシウム拮抗薬、アムロジン(アムロジピン)、アダラート(ニフェジピン)、ヘルベッサー(ジルチアゼム)、ワソラン(ベラパミル)、降圧薬であると同時に、冠動脈拡張作用を期待して使います。冠攣縮性狭心症を合併している場合には冠動脈拡張作用のために使います。
・ゼチーア(エゼチミブ)、エパデール(イコサペント酸エチル)、ロトリガ(オメガ‐3脂肪酸エチル)、脂質改善薬です。スタチンで十分に脂質が改善していない場合に追加します。ゼチーアは小腸のコレステロールトランスポーターに作用し、脂質の吸収を阻害します。エパデール、ロトリガは良質な脂肪酸で、主に善玉コレステロールを改善します。
・SGLT2阻害薬、ジャディアンス(エンパグリフロジン)、カナグル(カナグリフロジン)、糖尿病治療薬です。利水効果、心不全に対してよい効果があることがわかって来ています。現在、慢性心不全に対して適応はありませんが、今後慢性心不全に対して使われる可能性があります。
・ジャヌビア(シタグリプチン)、トラゼンタ(リナグリプチン)、エクア(ビルダグリプチン)、アマリール(グリメピリド)、経口血糖降下薬です。SGLT2阻害薬で十分に血糖が改善しない場合に追加します。経口血糖降下薬には多数あるので、適宜病状に合ったものを追加します。メトグルコ(メトホルミン)は経口血糖降下薬の基本薬ですが、造影剤と相性が悪いため、急性心筋梗塞後のようにまたいつ造影検査をするかわからない状態では使わないという判断をすることもあります。
・抗不整脈薬、慢性心不全の原因として不整脈、または慢性心不全の結果、不整脈がある場合、抗不整脈薬を使います。アンカロン(アミオダロン)、シベノール(シベンゾリン)、シンビット(ニフェカラント)、他多数の抗不整脈薬があります。
・抗凝固薬、心機能が高度に低下している場合、慢性心不全の結果、心房細動がある場合、脳梗塞予防のため抗凝固療法が必要になります。僧帽弁狭窄症などの弁膜症が原因の弁膜症心房細動にはワーファリン(ワルファリン)、非弁膜症心房細動(Non valvular atrial fibrillation: NVAF)には、エリキュース(アピキサバン)、プラザキサ(ダビガトラン)、リクシアナ(エドキサバン)、イグザレルト(リバロキサバン)、ワーファリン(ワルファリン)を使います。
・経口強心薬、ジゴシン(ジゴキシン)、心筋収縮力を高めます。中毒域が近いため、昔ほど使われなくなりましたが、頻脈性の心房細動で心収縮力も低下している場合などにはよい適応となることもあります。
その他の治療法として、心臓リハビリテーション、静注強心薬、弁膜症に対しての外科的治療、ペースメーカー、心拍再同期療法(Cardiac resynchronization therapy: CRT)、植込型除細動器(Implantable cardioverter defibrillator: ICD)、補助人工心臓、植込型人工心臓、心移植、などがありますが、専門的になりますので割愛します。
【虚血性心疾患の予防】
虚血性心疾患の予防とは、具体的には冠動脈疾患の予防です。
・高血圧症→http://循環器内科.com/ht
・脂質異常症→http://循環器内科.com/dl
・糖尿病→http://循環器内科.com/dm
・喫煙→http://循環器内科.com/smoking
・大量飲酒→http://循環器内科.com/ld
冠動脈疾患は、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙、大量飲酒、加齢、冠動脈疾患の家族歴など、動脈硬化のリスク因子が多ければ多いほど起こしやすいです。逆に、動脈硬化のリスク因子が少なければ少ないほど急性心筋梗塞にはなりにくいです。これが、高血圧症、脂質異常症、糖尿病が自覚症状がなくても治療が必要な理由です。修正可能なリスク因子をコントロールして、急性心筋梗塞にならないようにしましょう。


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